子どもの頃には誰もが図工の時間に絵を描いたり工作をしたりしていましたが、大人になってもそういった趣味を持っている人は少数派かもしれません。ただ、「これからの時代にはアート思考が重要」ともいわれるいま、「我が子にはアートに親しんでほしい」と考える人もいるでしょう。お話を聞いたのは、子ども向けのアート教室を運営する今泉真樹先生。まずは、「子どもにとってのアート」について語っていただきました。
インタビュー写真/石塚雅人
アート活動写真/今泉真樹
0歳児だってアートに取り組むことができる
アートは、算数などの科目とはちがって、正解がないところが大きな特徴であり魅力です。たとえば九九を覚えるといった必要もありませんので、0歳児でもアートに取り組むことができるとわたしは考えています。
幼い子どもは、まわりにあるすべてのものに興味を持ちます。そしてその興味は、アートにつながっていきます。幼い子であれば、トイレットペーパーを延々と引っ張り出して遊ぶといったこともありますよね? 親にとっては迷惑かもしれませんが、子どもはその行為によって素材の探求をしているのです。紙を丸めたりちぎったりして、手先の感覚を磨いているという面もあるでしょう。また、単純にその行為によってすっきりしますから、ぜひ止めずに続けさせてほしいのです。
一方で、「資源が無駄になる」というご意見も否定できません。でも、そのトイレットペーパーを紙粘土に変身させて、アートの材料にすることもできます。
子どもが引っ張り出したトイレットペーパーを細かくちぎってバケツに入れ、ひたひたになるまで水を入れたら、全体を溶かすように混ぜてください。そのあと、水を切って、でんぷんのりを入れてこねていくと、紙粘土のようになります。
トイレットペーパーが紙粘土に大変身
子どもは、できた粘土を手でこねる、ちぎる、匂いを嗅ぐ、とにかく好きなように素材と触れ合って、探求します。五感をフル活用して、やりたいことをやってみます。大人からすれば、意味のない行動に見えますが、子どもなりに実験し、観察しているのです。試行錯誤することで、脳の発達を促し、発想力を伸ばすことにつながります。自発的な動きを妨げないので、「自分が主体となって行動する」能動的な感覚も身についてきます。
このように、自己表現としてのアート、自分に向き合うというアートの時間を乳幼児期に持つことが大切です。自分の意志で、伸び伸びと自由に取り組んだ結果を、そのまま受け入れる経験をすれば、自己肯定感が自然と育まれていくのです。
手と頭を使うあらゆる行為がアート
「なにがアートか」という定義については、大人の側が決めないほうがいいと思います。まわりのすべてのものに興味を持つ子どもにとっては、それらを変化させていく行為――たとえば料理だってアートになる。いわば、手と頭を使うあらゆる行為がアートの入り口になるとわたしは考えています。
小さい子どもに料理をさせることについて、危ないからとためらってしまう人もいるかもしれません。でも、難しく考えなくて大丈夫。サヤエンドウの筋取りや、ゆでたジャガイモをマッシャーでつぶすといったことなら、小さい子どもにだってできますよね? それだって、子どもにとっては楽しいアート活動です。
また、2、3歳になれば、包丁を使わせてみてもいいと思います。一緒に手を添えて包丁の使い方を教えてあげれば、大ケガをするようなことはありません。最初はお豆腐やバナナなど柔らかいものから練習するとうまくいきます。わたしの息子は、2歳で包丁を握り、幼稚園年少生から自分でお弁当をつくっていました。本人が料理に興味を持ってやりたがったので、止めずにやらせてあげたところ、今ではすっかり料理が大好きになりました。
親の心配は抑えて、子どもが「やりたい」という気持ちを持ったときに、できる限り、その願望を叶えてあげてほしいですね。
料理もアートの一環。包丁づかいもお手のもの
アートを楽しんでいる子どもへの声かけ
子どもがお絵描きや工作などをしているときに、注意していただきたいことがあります。たとえば、子どもが描いた絵を見て、「お母さんだけでなく、お父さんも描いてみて」「犬の足は4本だよ」といった声かけをすることです。子どもはただ楽しくて絵を描いていただけなのに、そんなことが続けば、うっとうしく感じてしまい、お絵描き自体を嫌うようになってしまいます。ですから、正解やテクニックを教えようとするアドバイスは控えて、できるだけ自由にやらせてあげることが大切です。
「これは、なあに?」と質問しすぎるのも、あまりおすすめしません。子どもは、なにを描こうとも思わず、お絵描きをしていることも多いものです。意味もなく、ただぐるぐると丸を描いたりします。「絵を描くからには対象があるべきだ」という考えは大人の思い込みです。
また、その丸がリンゴだということもあれば、次の日には雪だるまだということもある。そこで、「昨日はリンゴっていったじゃない」なんていう必要もありません。子どもは自由な発想で楽しんでいるのですから、その発想を親も楽しんであげてほしいですね。
普段は抑えられがちな好奇心を存分に発揮させる
最後に、未就学児から楽しめる子ども向けのアート活動をいくつか紹介しましょう。
【1】ダンボールの秘密基地
いくつかのダンボールをガムテープでつなげ、外側に色紙を貼ったり絵を描いたりするだけでも子どもはとてもよろこびます。そのダンボールハウスのなかに入って、隠れたり遊んだりすることもできます。ただ、密閉すると危険ですから、空気が入るように大人が窓をくり抜いてあげることだけは忘れないようにしてください。
作ったダンボール基地で遊び、はしゃぐ子どもたち
【2】歯ブラシを使ったスプラッシュアート
歯ブラシに絵の具をつけて、画用紙に指でしごいて飛ばす遊びです。好きなかたちに切り抜いた型を画用紙に乗せ、そのうえからスプラッシュアートをして型を取り除くと、型のかたちが浮かび上がります。絵の具が飛び散りますので、屋外に広げた新聞紙やブルーシートのうえで楽しむことをおすすめします。
道具を変えるだけで一気に表現が豊かになる
【3】タンポでスタンプ遊び
ワインやシャンパンのコルクの先に布やガーゼをゴムで巻きつけてつくったタンポに、絵の具をつけて手でポンポンと押して絵を描きます。簡単ですから、乳幼児でも楽しむことができますよ。また、綿棒に絵の具をつけて点描画を描いてみると、またちがった表現を楽しめます。
点と点が重なり合えばさらに奥深い色に
子どもたちはつねに好奇心でいっぱいです。でも、「汚しては駄目」というふうに、好奇心を発揮することを制約されていることも多いものです。ですから、たまには屋外でブルーシートを広げて、「今日は汚してもいいよ」と、好奇心が赴くままにアート活動を楽しめるようにしてあげるといいと思います。
■ アトリエ・ピウ 知育こどもアート教室 主宰 今泉真樹先生 インタビュー一覧
第1回:「汚してもいいよ」で子どもの好奇心を発揮させる! 未就学児から楽しめるアート活動
第2回:つい言ってしまう「上手だね」。もっとお絵かきが純粋に楽しくなる大人の言葉
第3回:子どもの表現力には限界がある。だからこそ「本物」のアートに触れてほしい
第4回:自己肯定感はアートで高める! 「自ら考え、かたちにする」を繰り返し、自信を持てるようになる
【プロフィール】
今泉真樹(いまいずみ・まき)
東京都出身。アトリエ・ピウ 知育こどもアート教室 主宰。桑沢デザイン研究所を卒業後、英ローズ・ブルフォード大学を主席で卒業。国内外の有名ブランドや宝塚歌劇団のジュエリーデザインなどを手がける。2012年、アトリエ・ピウ 知育こどもアート教室を設立。子どもの自由な発想力や思考力を育てることに焦点をあてた絵画・工作・野外アート活動の指導を行う。保育 絵画指導スペシャリスト ライセンス保有。新宿区子ども未来基金助成活動【アートミック】アート講師も務める。