芸術にふれる/アート 2018.3.25

イタリアの革新的なアート教育「100人には100通りの考え方がある」個性を大切にするレッジョ・エミリア・アプローチ

長野真弓
イタリアの革新的なアート教育「100人には100通りの考え方がある」個性を大切にするレッジョ・エミリア・アプローチ

レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ボッティチェリからモディリアーニに至るまで、時代を経て数えきれないほどの芸術家を生み出してきたイタリア。豊富な人材を生み出し続けるこの国でこども達はアートとどう向き合っているのか気になりますよね。

今回は奥の深い芸術の歴史を持つイタリアで生まれた素晴らしいアート教育法、子どもの個性を尊重する「レッジョ・エミリア・アプローチ」をご紹介します。

子どもの個性を尊重する「レッジョ・エミリア・アプローチ」

この幼児教育法は、パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズで有名なロマーニャ州にある都市、レッジョ・エミリア市で生まれました。1991年にニューズウィーク誌で「最も革新的な幼児教育」と紹介されて以来、世界的評価を得て今では様々な国の教育の現場で採用されています。

このアプローチの基本理念は「子ども一人一人の個性を尊重しながら、創造力とコミュニケーション力を育む」ことです。一定のカリキュラムに沿って知識や技能を教えるのではなく、おとなは子どもに寄り添い、コミュニケーションを取り合いながら自由に学ぶスタイルを取っています。

アートを主軸に「自分で感じて考えて表現する」美的感受性を大切にしていて、子ども達の能力を可能な限り発揮させる環境づくりをめざしています。

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レッジョ・エミリアの特徴的なアクティビティとは?

“アトリエリスタ(美術専門家)と“ペタゴジスタ(教育専門家)”が共同で、計算や読み書きよりもアートを重視した教育が行われています。レッジョ・エミリアの特徴とも言えるアプローチは大きく4つあります。

生命のアトリエ

レッジョ・エミリアの学校には「アトリエ」と呼ばれる部屋があります。様々な素材が標本のように並べられていたり(葉っぱ、枝、貝殻、石など自然のものから金属片やボルト、プラスチックの破片など)、顕微鏡やパソコンもあるので研究や制作活動ができ、こども達は興味のあるもので自由に学ぶことができます。

象徴的な例をご紹介します。オレンジ(果物)は何色でしょうか?すぐに思い浮かぶのはオレンジ色ですよね。でもこの教育法で学んでいる子ども達の答えは「黄色」「茶色」「深緑色」など様々だそうです。なぜなのでしょう?

あるアトリエにはオレンジの標本みたいなものが置いてあります。輪切りにしたオレンジが時間経過とともに変化した様々な状態のものや剥いた皮、腐ったオレンジなどが一緒に置いてあり、子ども達は自由に触れたり匂いを嗅いだりすることができます。

そして、「朽ちていくさまに生命を感じる→生物学」「フレッシュさが失われるにつれ実が縮むサイズ(長さや重さ)の変化に注目する→数学・生物物理学」「色の変化に注視して言葉で表現する→ボキャブラリーを増やすなど、それぞれの発見で自ら学んでいきます。ひとつのオレンジから広がる発想と学びの幅は驚くばかりです。

プロジェクト学習

プロジェクト学習では、2~5人のグループで、一つのテーマを長期間にわたって探求し表現に変えていきます。長いものは数ヶ月にも及ぶこともあるとか。大事なのは子ども主導で進めることです。

(例1)「小鳥の公園プロジェクト」
校庭にくる小鳥に興味を持ったこども達自身が“鳥の遊園地”を作ることを決め、さらに小さな湖や観測所などを作るまで発展させました。小さな興味を実際の形にしてしまうこども達の能力は素晴らしいですね。

(例2)「“街と雨”プロジェクト」
水たまりに反射する光や跳ね上がる水しぶき、雨だれの音などの雨の様々な側面に注目し、それがどんな風に道路や屋根や木々などに変化を与えるかを観察し表現するプロジェクト。

身近なものはなんでも題材、素材になります。その過程で豊富な語彙や協調性なども身につけていきます

空間は第3の教育者

レッジョ・エミリアでは空間をとても大切にしています。学校の中心には「ピアッツァ(広場)」があり、こども達は自由に行き交うことができます。イタリアの街と同じですね。OHPを利用した影絵を楽しめるエリアや3枚の合わせ鏡で万華鏡の中にいるような感覚が味わえる空間など、光と影が生み出す変化を体感できる演出もなされています。

様々な空間が子ども達の感受性をくすぐります。壁に飾られた子どもの作品達は「語る空間」として来訪者にアピールします。

まなびの記録

様々なアクティビティは保育者によって録音、録画、撮影、文章などで記録されます。それをパネルにして皆が見られるように掲示するのですが、これは業務記録ではなくフィードバックとして次のまなびに生かすため。加えて来訪者との交流にもつながります。

レッジョ・エミリア・アプローチ2

「親や地域との関わりで教育が成り立つ」という理念

この教育法には「人は社会という集団の中で生きている」と考えるベースがあります。そのため保護者や地域との関わりを大切にしていて、双方が学校に参加する機会も多く設けられているそうです

子ども達と共同作業するほか、先生達とミーティングを持つことで活動への理解を深めることができ、保護者の意見を教育に反映させることもできます。「子ども+保育者+保護者」の関わりで教育が成り立つという創設者の理念はここでも守られています。

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「100人には100通りの考え方がある」

これがレッジョ・エミリアの出発点です。皆違って当たり前。いじめ問題、国際紛争など国内外で問題が山積している今こそこの考え方は一番必要とされているものではないでしょうか。美的感性も豊かな人間性も同時に育むこのアプローチには、たくさんのまなびのヒントがありそうですね。

(参考)
保育のお仕事|今話題!レッジョ・エミリア・アプローチの“個”を活かす幼児教育法
MISAWA&コビープレスクール&東京大学 第4回勉強会|レッジョ・エミリア幼児教育の紹介—Reggio nell’Emilia— 東京大学情報学環 助教 佐藤朝美
毎日新聞 経済プレミア||世界が注目「幼児教育レッジョエミリア・アプローチ」
せいあい 子供の園 学校法人 認定こども園 聖愛幼稚園|レッジョ・エミリア探訪 聖愛幼稚園 鈴木信行