ピアノを習っている子どもたちにとって一大イベントである発表会やコンクール。本番で普段の実力をしっかりと出し切るには、どのうような準備や心構えが必要なのでしょうか。
スポーツの試合とは違い、ピアノの発表会やコンクールでは、ステージにたったひとりで上がり、多くの観客がいっせいに見つめる緊張感の中で、最後までひとりきりで演奏しなければなりません。しかし、そのような経験を良い形で積み上げれば度胸もつき、今後、入試などの一発勝負の場で実力を発揮するためにも確実に役立つでしょう。
何よりも大事なのは、日々の練習を積み重ねることです。さらに、それだけではなく「メンタルトレーニング」を意識して練習しておくことで、本番での緊張をコントロールできるようになるでしょう。
一発勝負の舞台、緊張する子どもと緊張しない子どもの差
「メンタルトレーニング」とは、意志・意欲・決断力などの精神力を強化するトレーニングです。瞑想(イメージ)による精神統一や、故意に困難な状況を設定してのトレーニングなどによって、大事な場面であがってしまうことを防いだり、自信ややる気を高めたりするのに役立ちます。
さて、大事な一発勝負の舞台で緊張する子どもと緊張しない子どもの差とはなんでしょうか。これは本人の性格にもよりますが、本番の舞台で良い演奏をするための基礎的なメンタル・スキルはおよそ次の7つに分類されます。普段のお子さまの行動、思考習慣、そしてこれまでの「習い事の本番やスポーツの試合」での様子を振り返ってみてください。
【良い演奏をするための基礎的な7つのスキル】
- 意欲(ベストを尽くそうという決意の固さ・成功欲)
- 平常心(プレッシャーをコントロールする能力・集中力)
- 思考習慣(普段の思考と演奏前・演奏後の心の持ち方)
- 感情マネジメント(リスクと失敗に対する不安のコントロール)
- 集中力(雑念を捨て、集中力を切らさず演奏し切る能力)
- 精神統一(集中力を切らさないための「集中」の強度・それを維持する持続時間)
- 回復力(演奏中に失敗してしまったときの立ち直り・切り替え力)
これらの要素のバランスによって、本番で実力を発揮できるタイプとそうではないタイプに差が出てくるといえます。
実力を出し切るために大切なこと
ピアノの発表会などで実力を出し切るために大切なことは、まず「目標」を立てて、普段から練習を積み重ねてきちんとした良い演奏に仕上げることです。基本的なことですが、日々の積み重ねなしに成功はありません。ピアノの先生に普段から練習のポイントを聞くように心がけたり、どんな些細なことでも相談したりして、日頃から信頼関係を築いておくことが大事です。
そして目標は「具体的に」「現実に即して」組み立てることが大切。具体的な目標の立て方としては、まず「結果の目標」「プロセスの目標」「練習の目標」の3つの目標を設定するといいでしょう。
結果の目標
発表会本番でどのような演奏をするか。「間違えずに最後まで弾く」「みんなを感動させるようななめらかで素敵な演奏をする」などお子さまや先生と話し合ってみましょう。
プロセスの目標
発表会から逆算し、1カ月前・2週間前・1週間前などの目標を立てます。ピアノの先生にも具体的な期間のアドバイスをいただき、たとえば1カ月前には「暗譜を完璧にする」というふうに決めるといいでしょう。
練習の目標
プロセスの目標を達成するための毎日の目標です。「今日はここまで両手で弾けるようにする」「この難しいフレーズをリズム練習して完璧にする」「一曲を間違えずに通して弾く」など、日々の練習メニューを決めます。ポイントは「1日30分」といった時間設定よりも、「難しい部分を10回繰り返して弾けるようにする」など課題を達成する目標を設定すること。
また、練習する時間がなかなか取れない場合は、次のように工夫してみましょう。
- 学校の休み時間におひざの上で指を動かして弾いてみる
- 夜遅くてピアノが弾けない場合、楽譜を見ながらCDの演奏を聴いてイメージする
- 学童の時間に使用してよいキーボードなどがあれば、それを活用して練習する
ピアノが弾ける状況ではなくても、アイデア次第でいくらでも「ピアノを弾く自分」をイメージし、意識を高めることは可能なのです。
日頃からできる練習方法
「ピアノの発表会」とは、非日常の特殊な状況です。そこで実力を出し切るためには、練習で上手に弾けるようになっておくことはもちろん、本番に向けて精神力を強化すること(メンタルトレーニング)が重要です。
どのような気持ちで本番に挑むのか、どのような演奏をしたいというイメージを持つか、たとえミスをしてもすぐに切り替えて後の演奏に集中できるか……など、メンタル面を強化することは演奏の成果を大きく左右します。
効果的なメンタルトレーニングとしては「家族や先生の前で発表会のように弾いてみる」こと。リハーサルを繰り返して疑似本番を経験しておくことで、本番でも落ち着いた気持ちを取り戻すことができるでしょう。また、実際にピアノを弾かなくても、夜寝る前に暗譜した曲を頭の中で再生するのも有効な方法です。
人前で演奏するというのは、発表会ではなくても緊張するものです。その経験により「本番でどのような精神状態になるのか」「どこが難しくてつっかかりやすいのか」などをあらかじめ把握しておくことができます。ご家族やお友だちの前で、本番と同じようにお辞儀をして曲を通して弾いてみましょう。
お辞儀の練習をしておくこと、そしてドレスの着心地を確かめるためにも、衣装を着てリハーサルをすることは非常に重要です。演奏に支障をきたしかねるので、もしすべりやすい生地や靴であれば変えるべきでしょう。お子さまの人生の大事な晴れ舞台を、素敵なかたちで迎えられるといいですね。
(参考)
ドン・グリーン(2016),『本番に強くなる!演奏者のメンタルトレーニング』,ヤマハミュージックメディア.
辻 秀一(2000),『スラムダンク勝利学』,集英社インターナショナル.
PTNA|ピアノとコーチング|第01回「本番に緊張して実力が出し切れない」
コトバンク|メンタル‐トレーニング