少子化によって子ども同士のかかわりが減ったことや、情報化社会によって自ら求めなくともさまざまなコンテンツがあふれていることなどが影響し、昨今では主体性のない子どもが増えているといわれています。しかし、変化の激しいこれからの時代を強く生きるためには、自ら考えて行動することが重要です。
今回は、主体性のある子どもとない子どもの特徴や、主体性を育てるためのコツについてご紹介します。
活躍できるのは「聞き分けの良い子」ではない
ひと昔前の子どもは、「先生や親の言うことを聞きなさい」と言われながら育ってきました。自分の考えを主張することなく、大人の指示通りに動ける子どもこそが「素直でいい子」だとされていたのです。しかし、こうした考え方は時代の変化とともに変わっていきました。
大人の指示を仰いで行動する子どもは確かに育てやすいですが、そのまま成長すると、社会に出たときに周りに流されてばかりだったり、指示待ち人間になったりする可能性が高いという側面があります。主体性は将来のリーダーシップに必要不可欠です。そのため、現在では自ら考えて行動することができる、主体性のある子どもこそが「できる子」だといわれるようになってきています。
主体性が”ある”子どもと”ない”子どもの違いとは
主体性がある子どもとない子どもには、具体的にどのような違いがあるのでしょうか。いくつか例を挙げてみましょう。
■自分の「やりたいこと」に取り組めるか
主体性のある子ども:周りに流されずに取り組める
主体性のある子どもは、周りに流されることなく、自分がやりたいと思ったことに取り組みます。周囲からの反応よりも「自分がしたいかどうか」が大切であることをきちんと理解しているためです。
主体性のない子ども:些細なことでも親の指示を仰ぐ
主体性のない子どもは、自分で何かを決めることが不得意で、自分の言動に自信が持てません。そのため、何をするにも「本当にこれでいいのだろうか?」と不安になり、心から楽しむことができなくなってしまいます。
■自ら考えて行動できるか
主体性のある子ども:想像力や思考力が高く、自ら考えて行動できる
自ら考えて行動するというプロセスでは、「行動するためにはどうしたらいいのか」「どうしたら一番スムーズに行動できるのか」「この行動の先にどんな結果が待っているのか」など、考えなければならない項目がたくさんあります。主体性がある子どもは想像力や思考力が高いので、こうしたさまざまな項目を順序立てて考えながら、行動に移すことができるのです。
主体性のない子ども:些細なことでも親の指示を仰ぐ
主体性のない子どもは、自分で何かを決めることが不得意です。そのため、自分が食べたいものや行きたい場所を決めるといった些細なことでも、その都度親に「どうしたらいい?」と聞くことが多い傾向にあります。
■チームワークがあり、きちんとコミュニケーションをとることができるか
主体性のある子ども:友だちと積極的にかかわり、あらゆる活動に取り組める
友だち同士で何かを協力し合って成し遂げたり、ケンカをして悔しい思いをしたりといった経験が多い子どもは、チームワークの大切さを知り、自らを省みることができるようになります。その結果、「次はこうしてみよう」と新たな活動にも主体的に取り組むことができるのです。
主体性のない子ども:「周りと同じ意見かどうか」ばかりを気にする
「周りと同じ意見を持っている」というのは、主体性がない子どもにとって安心感があり、楽な状況です。そのため、自分の考えを発表する際などには「自分はこう思う」ということよりも「自分の意見は周りと同じものなのかどうか」を気にしやすくなります。よって、友だちと積極的に意見を交わすなどの経験が乏しくなり、コミュニケーションが不得意になる場合が多いです。
■何事にも積極的にチャレンジできるか
主体性のある子ども:親との信頼関係が強い
心から信頼することができる存在や、どんなときでも自分をバックアップしてくれる存在がいることは、何かに挑戦する際に大きな助けとなります。主体性がある子どもは親との信頼関係が強く、「自分は愛されている」と実感できていることから、「失敗して親に怒られたり、失望されたりしたらどうしよう」と不安になることがありません。そのため、何事にも積極的にチャレンジできるのです。
主体性のない子ども:失敗を極度に恐れる
失敗を極度に恐れる主体性がない子どもにとって「失敗=悪いこと」でしかありません。そのため、少しでも失敗の可能性があることには絶対に取り組もうとしなかったり、新しい環境に強い抵抗感を覚えたりすることもあります。また、「失敗したら、ママ(パパ)に怒られる」と親からの評価を気にすることも多いです。
子どもの主体性を育てるためには?
子どもの主体性を育てるために、以下の取り組みを実践しましょう。
「失敗は成功のもと」であることを伝える
主体性を育てるためには「失敗してもいいから取り組むことが大切」「失敗は成功のもと」という考え方を伝えることが大切です。
『東大生を育てる親は家の中で何をしているのか?』(文響社)の著者で、進学塾VAMOSの代表である富永雄輔氏は、失敗と成功の比率の理想を「成功が51・失敗が49」と述べています。49の失敗があるから51の成功が生まれることを意識し、「失敗が成功のもとになるんだよ」「できなくてもいいからチャレンジすることが大切なんだよ」と子どもに伝えてあげましょう。失敗しても決して怒らず、まずは取り組みそのものを褒め、子どもと一緒に「うまくいくためにはどうしたらいいと思う?」と解決策を考えることが重要です。
選択肢を与える
脳科学者の茂木健一郎氏は、「日本の子どもは”自分で決める力”が絶対的に欠けている」と警鐘を鳴らしています。自分の意見を言えるようにすることは、自ら考えて行動することにつながるため、主体性を育てるのに不可欠です。
とはいえ、はじめはなかなか難しいので、まずは選択肢を与えて子ども自身に「どっちがいい?」と決めさせることから始めましょう。食事のメニューやその日に着る洋服などの簡単な選択を積み重ねていくことで、子どもはやがて自分の意見を言うことに慣れ、自分で考えて決断し、行動することができるようになっていきます。
年上の友達とのかかわりを持たせる
学芸大学客員教授 藤原和博氏は、現代の子どもたちには「斜めの関係」が必要だと述べています。核家族化や地域社会の希薄化が進み、「近所のお兄ちゃん」や「親戚のお姉ちゃん」のような「上下の関係ではない斜めの関係」とかかわる機会が減ってきているのです。斜めの関係は、「親と子」「先生と生徒」のような上下の関係で代替することはできません。
神奈川県の私立宮前幼稚園 亀ヶ谷忠宏園長いわく、誰かに対して「自分もあんなふうになりたい」と憧れる経験は、主体性を育てることにつながるのだそう。「ああなりたい」と強く思った瞬間にスイッチが入り、主体的に歩み始めるのだと亀ヶ谷氏は言います。子どもは年上のお友だちに対してそうした感情を抱きやすいもの。「斜めの関係」が不足している今だからこそ、年上の友だちや親戚とのかかわりを積極的に持たせるように心がけ、子どもにとって憧れの存在と出会える場を作ってあげることが大切なのです。
愛情をめいっぱい伝える
動物学者デズモンド・モリスは著書『デズモンド・モリス 子どもの心と体の図鑑』の中で次のように述べています。
子どもをほめ、たくさん抱きしめて安心させ大げさなほど愛情表現をする母親は、それより感情表現の乏しい母親に比べて、我が子が世界を探検する準備ができていることに気づくでしょう。そっけなく、ぶっきらぼうな母親は、子どもを心細くさせます。
(引用元:デズモンド・モリス(2010) ,『デズモンド・モリス 子どもの心と体の図鑑』,株式会社 柊風舎.)
子どもが主体性を持って何かに挑戦するためには「どんなときでも自分を受け入れてくれる存在」が必要です。そのために、親は子どもへの愛情を言葉やスキンシップでめいっぱい伝えましょう。
また、言葉やスキンシップ以外にもおすすめしたい愛情表現方法が「ほめ写プロジェクト」という取り組みです。ほめ写とは、子どもの写真を自宅に飾り、それを見ながら子どもを褒めてあげるというもの。その際には「生まれてきてくれてありがとう」「見ているだけで幸せな気持ちになるよ」など、子どもの存在そのものを全肯定するような言葉をかけることがポイントです。愛されている自信につながり、自己肯定感を高めるのに有効だといわれています。
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子どもの主体性は、環境次第でぐんぐん伸びていきます。子どもを「指示待ち人間」にしないためにも、親ができることから始めてみましょう。
文/田口るい
(参考)
ベネッセ教育総合研究所|集団の中で「主体性」を育むために園ができること
ダイヤモンドオンライン|子どもの主体性を引き出すには、どうすればいいか?
東洋経済オンライン|こうすれば子どもは「自発的」に学び始める!
PHPファミリー|信じて任せて、自発性を引き出す~子どもの「やる気」のコーチング
All About|自発的に行動する子供を育てるコツは?指示待ち人間にさせないように
こどもまなび☆ラボ|“49” の失敗体験が子どもの挑戦力につながる! 過干渉にならない会話のコツ
『これからの未来を生き抜く できる子の育て方』(2018),洋泉社MOOK.
内閣府|コミュニケーションを高めるために
ほめ写プロジェクト|「ほめ写」とは?
デズモンド・モリス(2010) ,『デズモンド・モリス 子どもの心と体の図鑑』,株式会社 柊風舎.