子どものころ親に買ってもらった図鑑は大きくて重くて、ずっと本棚の一番下にズラリと並べられたままだった……という記憶はありませんか? そんな “タンスの肥やし” ならぬ “本棚の重石” になりがちだった図鑑も、今は大きく進化し、迫力満点の実物大写真やDVDやスマートフォンアプリと連携した3D映像や動画などを駆使した図鑑も登場。子どもばかりか大人にも人気を博し、「図鑑ブーム」が来ているとも言われています。
我が子を賢く育てたいと考えているなら、この「図鑑ブーム」に乗らない手はありません。脳医学者が大学生にヒアリングしたところ「成績が伸びていった子は、幼い頃から図鑑が大好きで、よく見ていた」という共通点が浮かび上がったという結果も出ています。
子どもたちにとって図鑑は「知の宝箱」。文字をスムーズに読みこなせない幼い子でも、図鑑を開いてパッと目に飛び込んでくる写真やイラストには、興味や関心を引きつける力があります。因果関係が科学的に解明されているわけではありませんが、図鑑が好きでよく読んでいる子は、学習能力を伸ばす力が養われるようです。
昔のイメージを一新! 今どきの図鑑事情
書店の児童書コーナーで図鑑が置かれていたスペースといえば、奥まった場所にある棚の最下段というイメージでしたよね。でも今や、最も目立つところに特設コーナーが作られているところも多く、図鑑のイメージはすっかり様変わりしました。
書籍や雑誌の売上が低迷している出版不況のなかでも、図鑑は売り上げを伸ばしているそうです。図鑑ブームの先駆けとして大ヒットした『くらべる図鑑』シリーズ(小学館)は累計140万部のベストセラーに。図鑑の種類もこの10年で3倍近くに増え、2018年5月に発表された “こどもの本総選挙” では、ベストセラー『ざんねんな生き物事典』シリーズがベスト10に2冊ランクインするなど、まだまだブームの勢いは続きそうです。
そもそも図鑑とは、「絵や写真を中心にしてその事物の実際の形などを示しながら解説した書物」とされていますが、現在の図鑑ブームをけん引しているのは従来の図鑑とは少し異なるタイプのようで、以下のタイプが多くみられます。
テーマ型
「動物」「昆虫」「魚」「植物」といった従来のカテゴリタイプよりも「ふしぎ」「ひみつ」「せいかつ」といったテーマ重視したタイプの図鑑が人気のようです。
たとえば、“ひみつ”というテーマをもとに編集した図鑑は、子どもが興味を持ちそうな乗り物、生物、宇宙、体、生活などの面白い秘密をいっぱい紹介する図鑑です。また、“いちばん”というテーマの図鑑は、速さの一番、高さの一番など、多種多様な一番を紹介しています。“くらべる”というテーマの図鑑は、人・動物・建造物の大きさや、人・動物・乗り物の速さなどを比べています。
(引用元:東洋経済ONLINE│ここまでやる!できる子の「図鑑のある生活」 「テーマ型図鑑」の劇的進化を知っていますか)
『くらべる図鑑』は、まさに「比較」をテーマに掲げたことが人気の一因と言えるでしょう。
大きさや動きで見せる工夫
従来の図鑑といえば、見開きページにまとまりよく並べて紹介するレイアウトが多かったのに対し、最近の図鑑は、実物大の写真を使った大胆なレイアウトやスマホアプリで見られる動画など「見せる」工夫を仕掛けているものが多いようです。
具体的には、写真やイラストが以前のものに比べてはるかに美しく迫力があるものが増えました。また、単に多くのものを羅列的に紹介するだけでなく、面白く読めるミニ知識や興味深いコラムがたくさん挿入されるようになりました。また、動画を収録したDVDがつくものも出て、これが大評判になり非常によく売れています。
(引用元:同上)
現代の図鑑は、本の中に世界観をもった「絵本」のような存在に変化してきたのかもしれません。
図鑑が好きな子が、ぐんぐん伸びる力とは?
冒頭に紹介した、大学生で成績が伸びていった子の共通点が「幼い頃から図鑑が大好きだった」ことを見出した脳医学者の瀧靖之先生によると、成績がぐんぐん伸びる子は、図鑑が好きだったうえに「好奇心が高い」ことが共通していたそうです。
また、社会人になってからも好奇心の影響はあるとのこと。
優秀な企業のトップや仕事のできる人は、たいてい好奇心旺盛で、多趣味という点で共通しています。
反対に何事にも無関心な人は、たとえ学力が高く、地位のある役職についていたとしても、自分で考えたり創造したりする力に欠け、おもしろみが感じられません。好奇心は、知的能力を引き出し、思考力を伸ばすパワーなのです。
(引用元:瀧靖之 著(2017),『子どもの脳を伸ばす最高の勉強法』,洋泉社.)
そして好奇心旺盛な大人に共通することは……? それがまさに「小さいころから図鑑を読んでいた」という点なのだそう。
学ぶ意欲を持ち続けるうえで「好奇心」は大きな役割をもちます。図鑑は、子どもが普段の生活や遊びを通して「これは何だろう」「なぜこうなるのだろう」といった疑問に対して答えを出してくれるとともに、何気なくパラパラとめくっているうちに「もっと知りたい」という気持ちを膨らませてくれます。
新しいことを知るのがおもしろいと感じるようになると、子どもはますます図鑑を深く読むようになり、次第に読めなかった文字も読めるようになり、新しい言葉も覚えて文章を理解できるようになります。これが繰り返されることで、読解力、思考力、表現力の能力アップへとつながります。
また、ダンゴムシのオスとメスの見分け方について実際にダンゴムシをつかまえて確かめたり星座の形を夜空に探してみるなど、図鑑から知り得た情報を、実際に五感を使って体験する、つまりバーチャルとリアルを行き来しやすい教材であることも、子どもの好奇心を高め、学習を深めるためのカギとなります。
子どもを図鑑好きな子にするには?
知的好奇心を高めるために図鑑が大きな学習効果をもたらすといっても、やみくもに図鑑を買い与えれば良いというわけではありません。親から「やりなさい」と言われたことほど子どもが積極的に取り組もうとしないのは、自らの経験でご存知の方も多いでしょう。
はじめての図鑑を選ぶときは、子どもが手に取って楽しめる内容のものを選びます。「ふしぎ」「ひみつ」「くらべる」といったテーマ型の図鑑は子どもたちの生活に身近でリアルに追体験しやすい話題が多いのでおすすめです。虫が好きなら昆虫図鑑、恐竜の名前をたくさん知っている子なら恐竜図鑑、どんぐり拾いが好きな子には植物図鑑など、子どもが関心を寄せる図鑑から入るのも良いでしょう。
注意したいのは、最初からシリーズ全巻を買いそろえないことです。大人は買いそろえることで満足するかもしれませんが、手に取ることもなく並べるだけの図鑑を買う代わりに、たとえ同じテーマやカテゴリの内容でも子どもから「これも読みたい」とリクエストがきた類似の図鑑を買ってあげたほうが、子どもの好奇心を育むうえでは効果的です。
また、子どもが好きな図鑑を買ったからあとは勝手に読み始めるだろうと安心するもの禁物です。家族みんながくつろぐリビングに置いて、団らんのときやテレビを見ているときなどいつでも手に取って読めるようにしておきます。できれば、親も一緒に読んで楽しめると、子どもが図鑑を好きになる環境を作りやすくなります。
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迫力ある美しい写真で構成された図鑑の中には、大人向けに出版されたものもあります。子どもと一緒に読んだり、それぞれが好きな図鑑を広げたりすることで、大人の知的好奇心も高めてくれそうです。
(参考)
瀧 靖之著(2016),『16万人の脳画像を見てきた脳医学者が教える 「賢い子」に育てる究極のコツ』, 文響社
瀧靖之 著(2017),『子どもの脳を伸ばす最高の勉強法』,洋泉社.
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