文章を書くとき、頭の中でいったい何が行われているのか?
文章を書くときに私たちが必ずしていることがあります。それは「自問自答」です。「自問自答」とは<自分で問いを立てて、自分で答えること>です。
「えっ、私は自問自答なんてしていないけど?」という方は、頭の中で自問自答していることに気づいていないだけです。
たとえば、あなたが、この文章を書いたとします。そのとき、あなたは頭の中で「今日のお昼ごはんは、何を食べましたか?」と自分に質問をしています。その質問に答えたからこそ、この文章を書くことができたのです。
通常、自問自答は、頭の中で高速で行われています。それゆえ、私たちは自問自答している自覚がありません。逆にいえば、この自問自答を意識的に行うことによって、その人の文章力はぐんぐん伸びていきます。
話を膨らませるために必要な「自問自答の技術」
自問自答で文章作成しているという事実が腑に落ちない方に、もう少し補足説明しましょう。世の中には「今日はお昼に和風パスタを食べました」という文章を膨らませられる人と、膨らませられない人がいます。前者は自問自答が上手な人で、後者は自問自答がヘタな人です。
後者がなぜ話を膨らませられないかというと、自分に対して積極的に質問をしていないからです。質問がなければ、当然、答え(=文章の材料)も生まれません。いい文章を書きたいなら、自分に対して、積極的に質問をするしかないのです。
質問:和風パスタには、どんな具材が入っていましたか?
答え:椎茸とワカメとベーコンが入っていました。
質問:味付けはどうでしたか?
答え:和風出汁に、バターと醤油がマッチしていました。生姜のアクセントも効いていました。生姜、好きなんです。
質問:どこで食べましたか?
答え:近所にオープンしたばかりのカフェ・レストラン「BON」
質問:なぜ和風パスタを選んだのですか?
答え:店長イチオシのメニューだったからです。
質問:そのパスタは、いくらでしたか?
答え:飲み物付きで880円でした。驚くほどコストパフォーマンスが高かったです。
このように、自分に質問し、それに答えることによって、文章の素材がたくさん集まりました。これだけの素材があれば、先ほどの文章を膨らませることは難しくないはずです。
【例/SNSへの投稿を意識した砕けた文章】
今日のお昼は、近所にオープンしたばかりのカフェ・レストラン「BON」へGO! 店長イチオシの「和風パスタ」を食べました。椎茸とワカメとベーコンが入ったそれは、和風出汁に合わせたバター&醤油風味が絶妙。アクセントに加えた生姜も私好みでした。飲み物付きで880円って……コストパフォーマンス高すぎでしょう!
「インタビューごっこ」で子どもから情報を引き出そう
ここまで、大人が文章作成する例を使って説明してきましたが、文章作成において、子どもと大人の違いはありません。子どもの作文能力を伸ばしたいなら、できる限り早いうちに「自問自答」の習慣を身につけさせることが肝心です。
とはいえ、子どもはまだ自問自答がどういうものかわかっていません。「自問自答しなさい」などと言えば、頭が混乱してしまう子もいるでしょう。そこで親の出番です。子どもの自問自答を手伝ってあげてほしいのです。
おすすめしたいのが「インタビューごっこ」です。たとえば、子どもが運動会の作文を書けずにいたら、「運動会」をテーマに、子どもと「インタビューごっこ」に興じてください。親であるあなたがインタビュアーを務めます。
【インタビューの質問例(運動会について)】
- 今日の運動会でいちばん楽しかったことは?
- 今日の運動会で何が嬉しかった?
- 今日の運動会で悔しかったことはある?
- 今日の運動会で感動したことはあった?
- リレーで前の子をよく抜いたね! あのとき、どういう気持ちだった?
- リレーでは最後に抜かれちゃったね。あのときは、どういう気持ちだった?
- 赤組の優勝、おめでとう! はじめから優勝する自信があった?
- 赤組の優勝、おめでとう! 赤組はどうしてあんなに強かったのかな?
- 赤組、優勝できなくて残念だったね。優勝した青組との差は何だったのかな?
- 応援合戦、楽しそうだったね。応援しているときは、どんな気持ちだった?
- 運動会までに頑張ってきた練習の成果は出せた?
- 今回の運動会で、もし自分で自分に点数をつけるとしたら何点?
親が好奇心をもって質問すれば、子どもも一生懸命に答えてくれるはずです。とくに、子どもが目を輝かせて答えた内容は、作文の背骨になる可能性が大です。その内容を掘り下げる形で、どんどん質問をしていきましょう。
「インタビューごっこ」のふたつの注意点。
「インタビューごっこ」には注意点があります。それは、「誘導尋問しないこと」と「子どの答えを否定しないこと」の2点です。
たとえば「リレーで負けて悔しかったね?」と質問するのは、あまりいい質問ではありません。本人は“悔しいと思っていない”かもしれないからです。また、「リレーでは最後に抜かれちゃったね。あのときは、どういう気持ちだった?」と質問したときに、子どもが「ムカついた」と答えたとします。親としては「悔しかった」という言葉がほしいのかもしれませんが、そこはグっと耐えなければいけません。「ムカついた」というのは、子どもにとって素直な感想です。むしろ、大切にすべきキーワードです。
子どもが「別にない」「とくにない」「よくわからない」といった答え方をしたときも、「ちゃんと答えなさい!」などと怒ってはいけません。本人にとって「リレーで抜かれたこと」は、たいして意味のないことなのかもしれません。さまざまな方向から質問をして、子どもが興味・感心をもつエピソードを引き出してあげることもインタビュアーの役割です。
「運動会はつまらない! 運動も大嫌い!」。なかには、そんな答え方をする子もいるかもしれません。いいじゃないですか。すばらしい個性です。運動会が嫌いな理由を聞いてみてください(尋問にならないよう気をつけながら)。きっとユニークな作文ができるはずです。
くり返しになりますが、子どもの答えに対して、親が善し悪しをジャッジしてはいけません。どんな答えも正解です。親がいらぬジャッジをした時点で、それは「インタビューごっこ」ではなく詰問や尋問になってしまいます。すると、子どもは、素直に答えなくなってしまいます(親の顔色をうかがうようになります)。どんな答えであっても、それが“その子らしい作文”を書くために必要な材料と心得ておきましょう。
攻守交代してインタビュアーも経験させよう
頭の中にある情報は曖昧模糊とした“幻”のようなものです。話すという行為は、その“幻”を形にする重要なプロセスです。質問に答えることによって、子どもは自分の気持ちや意見に気づくことができます。質問に答えることは、子どもの言語能力と思考能力を高めるうえで極めて有効なのです。
なお、子どもの自問自答力を高めるためには、子どもに「質問をする経験」を積ませることも大事です。ですので、子どもへのインタビューが終わったら、こんどは親が、子どもからのインタビューを受けてください。テーマは「お母さんの好きな趣味について」「お母さんの子ども時代について」「お父さんの仕事について」「お母さんとお父さんの出会いについて」など、どんなことでも構いません。
「いつ?」「どこで?」「誰と?」「なぜ?」「そうして?」「どうやって?」「どれくらい?」など、さまざまなパターンで質問することによって、子どもの質問力が鍛えられていきます。もちろん、インタビューされる側である親は「そんなこと聞いちゃダメ!」などと言わないように。これは子どもの能力を育てるための大事なエクササイズなのですから。
くどいようですが、文章を書くためには「自問自答」をくり返すほかありません。10歳に満たない子どもであれば、「インタビューごっこ」が有効です。もちろん、理想は、ふだんから子どもとの会話量を増やして、質問をしたり、答えたりする環境を整えておくことです。そういう環境で過ごす子は、自然な形で自問自答力、ひいては作文力を伸ばしていくことでしょう。