「オキシトシン」という言葉を聞いたことがありますか? これは、家族やパートナーとのスキンシップや信頼関係に深く関わるホルモンです。本来は母乳の分泌を促すために働くものですが、じつは嬉しい、楽しい、気持ちいいと感じた時に脳の視床下部で作られます。
その働きから「愛情ホルモン」「幸せホルモン」「絆ホルモン」とも呼ばれ、私たちの心と体に様々なよい影響を与えてくれるのです。じつは、親子の触れ合いでも分泌されるこの「オキシトシン」、子どもの心や体、学力にも科学的な効果があることがわかっています。
この記事では、子育てに役立つオキシトシンの効果と、日常生活に取り入れやすいスキンシップの方法をご紹介します。短い時間の触れ合いでも、子どもの心の安定や成長に良い影響を与えることができますよ。
目次
オキシトシンって何?脳で作られる幸せホルモン
■ホルモンのひとつ「オキシトシン」とは?
ホルモンとは、体の働きを常に一定の状態に保つための化学物質です。体の内外の環境変化に応じ、内分泌腺でつくられ、血液に入って全身を巡ります。そうして、脳から各器官への指令を伝える、いわゆるメッセンジャーのような存在です。ホルモンには複数の種類があり、つくられる内分泌腺も役割も異なります。
では、「オキシトシン」とはどんなホルモンなのでしょうか。オキシトシンがつくられるのは「脳下垂体」という内分泌腺で、役割は「分娩を促すために子宮を収縮させたり、母乳を出させるために乳腺の筋肉を収縮させたりすること」。ギリシャ語で、「早く生まれる」を意味する言葉が語源となっています。
しかし、オキシトシンが分泌されるのは、分娩や授乳のときだけではありません。じつは、親子がスキンシップを図ると、親と子の双方にオキシトシンが分泌されるのです。なんと、それが子どもの成長によい影響を与えてくれることがわかっています。
オキシトシンがもたらす3つの大きな効果
では、オキシトシンが分泌されると、親子関係や、子どもの心や体どんなよい影響があるのでしょうか。研究によって明らかになった主な効果を見ていきましょう。
1. 親子の愛着関係が強まる
オキシトシンは、別名「幸せホルモン」「絆ホルモン」と呼ばれることもあるように、幸せを感じたり、人との絆を深めたりする作用があることで知られています。オキシトシンの最も重要な働きは、親子の絆を深め、強い愛着関係を形成すること。研究によれば、触れ合いによって子どもだけでなく親側のオキシトシンも増加することがわかっています。これにより、お互いに優しい気持ちで関わり合えるようになります。
また、他者に対してもやさしい気持ちになったり、共感したりすることができるので、良好な人間関係を築けるようになれます。
2. 学習能力と記憶力が高まる
オキシトシンが出ると、記憶・集中力が向上し、学力アップにも期待できます。家族でのスキンシップが多い子どもは、知能検査のスコアや自尊心のスコアが高いという研究結果もあります。これは、脳がリラックスした状態になり、目の前のことに集中できるようになるためです。
3. ストレスに強くなる
オキシトシンには、ストレスホルモンの血中濃度を下げる効果があります。心拍数や上昇した血圧を低下させ、不安や恐怖をやわらげて安らぎの感情を高める働きもあるため、ストレスがあっても落ち着いた状態でいられるようになります。その他にも、自律神経を整える効果があるので、睡眠の質が良くなります。こうして子どもの健康な生活や体の健全な成長にも大きく作用します。
親子のスキンシップでオキシトシンを分泌しよう
オキシトシンは親子の触れ合いを通じて自然に分泌されます。日常生活の中で簡単に取り入れられる効果的なスキンシップ方法をご紹介します。
「ちょい抱き」でオキシトシンUP
子どもが大きくなるにつれ、赤ちゃんの頃のように長時間抱っこすることは難しくなりますが、たった5分間の「ちょい抱き」でもオキシトシンは分泌されます。短い時間でも効果的な抱っこの例を紹介します。
「ちょい抱き」
・朝の忙しい時間に30秒だけギュッと抱きしめる
・帰宅時に「ただいま」と言いながら軽く抱きしめる
・寝る前に短い時間でも抱っこする
「じゃれあい」「タッチ」「見つめ合い」でオキシトシンUP
抱っこ以外にも、様々な方法でオキシトシンを分泌させることができます。体を使った遊びやタッチも効果的です。
「じゃれあい」
・くすぐり遊びやこちょこちょ遊び
・肩車や背中に乗せる遊び
「タッチ」
・頭や背中を優しく撫でる
・手をつなぐ
・髪を梳かしたり、髪を結んであげる
・耳かきをしてあげる
スキンシップが何らかの理由で難しい場合でも、親子で見つめ合ったり、優しい言葉をかけたりするだけでもオキシトシンは分泌されます。食事中に目を合わせて会話を楽しんだり、「おはよう」「おやすみ」の挨拶で意識して目を合わせたりするだけでも効果があります。
「絵本の読み聞かせ」でオキシトンUP
自然と体が触れ合える読み聞かせなどの方法もおすすめです。肩が触れ合ったり、寄り添ったりしながら絵本を楽しむ時間は、特別なスキンシップとして意識しなくても自然にオキシトシンを分泌させます。
「絵本の読み聞かせ」
・膝の上に座らせて読み聞かせる
・横に並んで一緒に絵本を見る
・寝る前の10分間の読み聞かせを習慣にする
触れ合いの多い子ほど自立は早くなる
意外に思われるかもしれませんが、スキンシップは甘やかしではありません。触れ合いは「心の栄養」なのです。乳児期や幼児期に笑顔の触れ合いを増やすと心が安定し、自尊心や人への信頼感も育ちます。
また、優しく温かな触れ合いが多い子どもほど、自立が早くなることもわかっています。愛情をしっかり感じた子どもは、安心して世界に踏み出す勇気をもてるからです。スキンシップを通じて育まれる信頼関係が、子どもの安全基地として機能し、そこから外の世界に踏み出していけるようになり、子どもに「挑戦してもいい」という安心感を与えるのです。
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「愛情ホルモン」オキシトシンは、子どもに安心感や信頼感を育み、心も体も健やかに成長する土台となります。学習能力を高め、ストレスに強い心を育て、将来の人間関係の基礎をつくる――この小さなホルモンの働きが、子どものの未来に大きな影響を与えるのです。
特別な時間を作らなくても、日常のなかの小さな瞬間を大切にすることで、子どもの脳内では確かに「愛情ホルモン」が作られているのです。ぜひ毎日の生活のなかで、ほんの少しの時間でも子どもと触れ合う時間を意識してみてください。その小さな積み重ねが、子どもの心と体の健やかな成長を支える大きな力になります。
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(参考)
花王|愛情ホルモン「オキシトシン」
BANGKOK HOSPITAL|LOVE HORMONE 愛情ホルモンについて知っていますか
たまひよ|5分の「ちょい抱き」で愛情は伝わる!幸せになれるスキンシップの秘密
nobico|親子のスキンシップは愛情ホルモン”オキシトシン”をつくる!