芸術にふれる/書道 2018.2.28

美しい文字は幼少期からの経験でこそ身につくもの。書道書育士・和田華仙先生インタビュー

編集部
美しい文字は幼少期からの経験でこそ身につくもの。書道書育士・和田華仙先生インタビュー

字は体を表す。
美しく整った文字を書ける人には、それだけで知性や教養を感じます。では、自分の子どもに「字を上手に書けるようになってほしい」と望むのならば、私たち親は何をすればいいのでしょうか?

StudyHackerこどもまなびラボ特別インタビュー。今回は、“書を育み 書にはぐくむ” をコンセプトに、書道教室『書道書育のKASEN』を主宰されている “書道書育士” 和田華仙(わだ・かせん)先生にお話を伺いました。

書道が子どもの成長において果たす役割とは?
書道を習わせ始めるべき年齢とは?
きれいな字を書ける人に育てるためには、どうやら幼少期からの経験がとても大切であるようです。

書道を通して自分自身を育んでいく

——和田先生の書道教室では「書道書育」というのを理念に掲げていらっしゃいますね。“字が上手になる” というのは想像ができるのですが、書道を通して、ほかにどんなチカラが育まれていくのでしょうか?

和田先生:
ひとつは礼儀・礼節でしょう。柔道や剣道などと同じく、書道は名前に “道” がついています。古より存在する和の文化の共通点として、やはり礼儀や礼節を非常に重んじる面がありますからね。

——たしかに、実際にお教室を取材させていただいた際も、お道具を大切に扱ったり、先生にしっかり挨拶をしたりと、子どもたちの内面の成熟にも役立つのではと感じました。

和田先生:
「字を整えていく」ということの中には、精神的な部分での成長を期すというのが当然入ってきます。何かに向かっていく姿勢が鍛えられる、集中力が養われる、なども効果として挙げることができるでしょう。

書に向かい、書を育むことによって、自分自身の “書以外の部分” に返ってきます。それが結果的に自分自身をはぐくんでいくことになり、成長につながっていくのです。

和田華仙氏のアップ

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学校の書道だけでは “本当の学び” は得られない

——小学校の授業でも書写の時間は設けられています。学校の授業と書道教室でのお稽古は、具体的にどういった部分が違うのでしょうか? また、書道教室がなぜ必要とされるのか、和田先生はどのようにお考えですか?

和田先生:
文部科学省が制定する学習指導要領では、毛筆を使用する書写の時間として、第3学年以上で年間55時間程度というのが定められています。

では実際の授業はどのように行なわれているのかというと、私たちが子どもだった時代とは異なり、“学校の先生が筆を持って教える” というのが、じつはほとんどないのです。

書写の教科書に印刷されているお手本の字があって、それを半紙の大きさに拡大コピーして生徒全員に配る。筆も持ちませんし、説明もマニュアルに沿って行なうだけ。1時間の授業で書けるのも、予算の関係でせいぜい3枚程度。そして、子どもたちが書いた字を添削することも、今の学校の先生はできないのです。

でも子どもたちは、実際に学びを得られるかどうかは別として、これを “学び” だと思って学校の書道教育を受けている。これが現状なのです。

お習字は “筆の使い” で決まります。最終的に字が上手になっていく一番の王道は、筆の使いをしっかりと教えてあげること。学校ではなかなか学べないことをしっかりと教えてあげられるというその一点だけでも、書道教室は必要だと思いますよ。

——実際にお教室を取材させていただいた際も、一緒に筆を持って書いてあげたり、生徒さんが書いた作品を1枚1枚丁寧に添削したりといった、和田先生のひたむきなお姿が非常に印象に残りました。そういう “丁寧な指導” を受けるという経験が、今の子どもたちには必要なのかもしれませんね。

和田先生:
そうですね。ただし、そこからは受け手側によって違いが出てきますね。つまり、それぞれの生徒さんが私の指導やアドバイスをどのように解釈してどのようにとらえるかは、やはり個人差によるところが大きい。

私は9歳のころからお習字が大好きでしたが、当時の先生が添削してくれた紙やお手本はいまだに持っています。もう何十年も前のものです。字が好きな人ってそういうものなんですね。

私の教室にも、小学校1年生から始めて現在は小学校6年生の子がいますが、非常に狭き門である都展に入選しました。その子も、私が書いたお手本や私が添削した紙など6年間の記録はずっと取っていてくれています。そういう子たちはやっぱりうまくなっていくんですね。

書道教室の中で “何かを得ようとしている” という本人の意欲や、現実として何をしているのかなどによって、成長の度合いには明らかに差が出てくると感じています。

生徒を指導中の和田華仙氏

“幼少期から” がキーワード

——子どもに書道を習わせるとしたら、ずばり何歳からが良いのでしょうか?

和田先生:
私の究極の結論としては、幼稚園の年長さんから始めるのが理想ですね。もちろん、小学校1年生や2年生でも上等。つまり、学習指導要領では小学校3年生から毛筆を使った書道の授業が始まることになっているので、それまでにひと通りの書道の経験は積んでいてほしいと思っています。

“ものをかく” という意味では、たとえばお絵描きなんかから始まりますよね。色鉛筆を使ったり絵の具を使ったり。そして年中さんぐらいになれば、自分の名前などもひらがなで書けるようになってくる。そこに、ひとつのツールとして “筆” を手に取り、墨を使って書く。これを幼少期から初等教育のあいだでいかに始められるか、がとても大切になってきます。

例えばピアノで音楽大学に行く子は、中学生や高校生になってからピアノを始めるでしょうか? ほとんどの人が、小学校までにピアノを習い始めているはずですよね。それと同じです。

こんなにパソコンやデジタルの時代になっても、私たちはこれからもずっと文字を書いていくんです。“手を動かして文字を書く” という動作はまさに記憶そのものであり、子どものころからの積み重ねで固まっていきます。この因果は絶対に立ち崩せないもので、大人になってからの少々の矯正では、正直どうにもなりません。

だから、将来本当に字をきれいにしたいと思ったら、幼少期のときにやっておくべきです。これは絶対的結論ですよ。親御さんには、私はいつも本気で言っています。

——やはり、小さいうちから書道を始めておくのがとても大事なのですね。

和田先生:
1本の筆には、動物の毛が3,000本も使われています。その3,000本の毛をいかに精密にコントロールして書き、いかにグラデーションをつけて表現ができるか。“何ミリ” “何度” という精度が求められるほど、書道は非常にシビアな世界なんです。文字通り、至難の業なんです。

だから、「5分でうまくなる」なんてウルトラCは起こりえない。1年でもまだ難しいでしょう。なぜならば、筆は積み重ねていくものだから。そしてその積み重ねも、大きくなりすぎてからだと間に合わない。やっぱり小さいうちから積み重ねていく必要があるんですね。

生徒の字に赤を入れる和田華仙氏

【プロフィール】
和田華仙(わだ・かせん)
書道書育士。漢字・細字・仮名書・近代詩文書・実用書・ペン字6部門の師範代の資格を持つ。
2012年4月、地域密着型の書道教室『書道書育のKASEN』を設立。以来、厚生労働省労働局指定委託機関の団体職員として勤務する傍ら、中野区鷺宮にて毎週「日曜教室」を、新宿にて毎週「土曜教室」を開講。書史・哲学を踏まえた「書学講座」、書写教育の一環としての「実習講座」に幅広く取り組み、自己表現・集中力・精神力・人間力を増し人生観を養っていく「書道書育士」として活動中。「書を育み 書にはぐくむ」をコンセプトに、地域社会に根を張った文化活動に寄与している。

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現在、幼稚園から小学校程度のお子さまをお持ちの親御さまについて、和田先生は「学校や世の中から書道というものが離れていこうとしていたその分岐点のころに、まさに子どもだった世代である」と言っています。つまり将来的には、その分岐点を越えて、子どものころに書を育んでこなかった “書道を知らない世代の” 親御さまが、もっともっと増えていくとのこと。

子どもに書道を習わせる。 それは、断絶しかけている “書を育む” という文化を後世に伝えていくことにもなるのかもしれませんね。

書道は “幼少期から” がキーワード。お子さまの習い事のひとつとして「書道」に興味を持たれた方は、お近くの教室を探してみてはいかがでしょうか?

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