教育を考える/本・絵本 2018.3.31

絵本の「メタファー」効果で、見守る子育てを。最高の”しつけ”を叶える読み聞かせ

景山聖子
絵本の「メタファー」効果で、見守る子育てを。最高の”しつけ”を叶える読み聞かせ

こんにちは。life styleに「絵本の力」を取り入れ、楽に成果を出し、楽しい未来の選択ができるようになる方法をご提案している、絵本スタイリスト®景山聖子です。

この春、卒園・卒業、入学、新社会人などの門出を迎える人もいるでしょう。春は生活が大きく変わる季節でもありますね。

サラリーマンのTさんは今年の4月、転勤が決まり、引っ越すことになりました。転勤といっても、実は左遷による異動です。

妻も5歳と3歳の娘も置いての単身赴任で、さらに親の病気も判明し、ショックで無気力状態に陥ってしまったTさん。上司から「すぐに戻れるよ! なんとかなる!」と励まされても、その言葉は心に響きません。

そんな中、しぶしぶ引っ越しの準備をしていたときのこと。段ボール箱の中から、中学の卒業文集を見つけました。文集には、担任の先生からのこんな一言が。

明けない夜はない。止まない雨もない。

Tさんは「その通りだ」と納得し、気持ちの整理がつきました。そして新天地で巻き返しを図ることを決意し、晴れやかな表情で旅立ったそうです。

先生のこの言葉を「メタファー」と呼びます。辞書では「隠喩」と定義されていますが、心理学のある考え方では、人の心に抵抗なく入る「たとえ話」にまで意味を広げています。

心に響くメタファーによって、人の思考や行動が180度変わることがあります。Tさんの気持ちが変わったのも、メタファーの影響でした。

今回は、絵本そのものが「メタファー」になっているというお話です。読み聞かせで無理なく「しつけ」やおねしょ対策ができるようになります。

さらには、子どもの考えや振る舞いに変化をもたらすことで、より良い習慣づけや人格形成の手助けをすることまで可能になりますよ。

「たとえ話」で子どもの行動が変わる

4歳の男の子、R君のお話です。R君は公園でアリの行列を見つけるたびに、面白がって踏みつけていました。

新米の保育士が「アリさんだって生きているの! 大切な命なの! やめなさい!」と強く言っても、聞く耳を持ちません。それどころか、R君は面白がってさらに踏みつけるばかり。

公園から保育園に戻ると、新米の先生はベテランの先生に相談しました。

R君、アリを踏みつけることをやめないんです。もしかして、ご家庭に問題が……。

するとベテラン保育士は、笑い飛ばしました。

子どもは結構、残酷なのよ。まだ命の尊さを実感できていないから。それで普通です。R君はおかしくなんてありません。

そしてR君を呼んで、こう聞きました。「アリさん、踏んづけたの?」

すると、R君は笑顔で答えます。「うん。だって、ひっくりかえって面白いんだ。」

そっか……。ひっくりかえって動かなかったアリさんのママが、さっき来てね。うちの子が、何にもしないのに知らない子に踏まれた~って泣いていたよ。

先生にそう言われて以来、R君がアリに手を出すことは一切なくなりました。そして、アリの行列を優しく見守るようになったそうです。

ベテラン保育士のお話は、アリを人間に例える「たとえ話」。つまり、メタファーのこと。

新米保育士の教えは正論ですが、幼いR君には通じませんでした。一方、ベテラン保育士のたとえ話は子どもの心に届き、R君の行動を大きく変えたのです

これが、メタファーの偉大な力。そして絵本は全て、まさにこのメタファーなのです。

絵本よみきかせコーチング第5回2

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考えを変化させ、行動に影響を与える「メタファー」

人間コミュニケーションのコンサルタントとして活躍しているデイヴィッド・ゴードン氏は、メタファーをこう定義しています。

ある事柄を別の言葉を使って表現することで、描写中のその事柄の性格特性に新たな光が当たるようにする話し方

(引用:デイヴッド・ゴードン(2014),「NLPメタファーの技法」,実務教育出版.)

そしてメタファーは考えを変化させ、行動に影響を与えるための道具として常に存在していると話しています。

ゴードン氏によると、人は直接的に言われるより、たとえ話で話される方が、考えや行動を変化させやすいのだそうです。

「しつけ」絵本のメタファー効果

ある日、5歳の男の子K君は、植木鉢を持ち上げようと手をかけました。しかし植木鉢は予想以上に重くて落とし、割ってしまいました。

お母さんは一部始終を見ていました。でも見られていたことを知らないK君は、お母さんに「誰か知らない大人が割った」と言ったそうです。

こんなとき、つい「嘘をついてはいけません!」ときつく叱りたくなってしまうもの。でもK君のお母さんは、メタファーの力を知っていました。

そしてその日の夜、手にしたのは「こぎつねキッコ」という絵本。これを読みきかせることで、嘘をついてはいけないとK君自身に気づいてもらえたら、と思ったのです。

こぎつねキッコ

これは、他の子の家からぬいぐるみを持ってきてしまったキッコが、お母さんに「河原で拾ったの」と嘘をつくというお話。

読み聞かせ後、K君は絵本を見ながら「キッコ、ウソをつくなんて悪い子だねぇ」としみじみつぶやきました。

そして翌日。

ママごめんなさい。ダンゴムシが植木鉢の下にいないか見たくて、僕が落として割ってしまったの……。

K君は自分からお母さんに謝ったそうです。

世界で言葉による暴力を禁止する法律が広がっている

スウェーデンには体罰を禁止する「親子法」という法律があります。子どもを叩くことはもちろんのこと、「言葉で脅す」ことも体罰に含まれ、固く禁じられています。

そんなスウェーデンでも、以前は「軽い体罰はしつけのために必要」と考えられていました。

しかし、1978年のドイツ書店協会平和賞受賞式における、ある著名作家のスピーチをきっかけに変わりました。講演者は「長くつ下のピッピ」などで知られる童話作家アストリッド・リンドグレーン。

現時点で戦争が起こっていなくても、世界には理解できないほど残忍なことや、暴力、圧制があふれていて、(略)子どもたちは、日常的に見たり、聞いたり、読んだりして、ついには暴力は、当たり前に起こるのだと思うことでしょう。ですから、物事を解決するには暴力以外の別の方法があることを、わたくしたちは自分の家庭で、お手本として示さなくてはならないのです。

(引用:アストリッド・リンドグレーン(2015),「暴力は絶対だめ!」,岩波書店.)

そして現在、世界50ヶ国以上において、子どもを怒鳴ったり叩いたりすることが法で禁じられるようになりました。そしてこの動きはさらに広がっています。

いくら「しつけ」のためとは言え、子どもを大声で叱る・怒鳴ることは、言葉の暴力になってしまう恐れもあります。

しつけをしたいときは、心に届く「メタファー」である絵本の力を借りましょう。子どもに絵本を読み聞かせることは、最も平和で、最も効果的なしつけ方法だといえるかもしれません。

絵本のメタファー効果でおねしょも解消

未だにおねしょが続く小2の女の子の母親Sさん。義母から「あなたが働いているから、愛情不足が原因じゃないの?」と言われて傷つきました。

「他の子と同じようにできるよう、ちゃんと育てなくては」と厳しくトイレトレーニングもしましたが、ダメでした。

ある朝Sさんは、濡れたお布団を見て、つい娘に怒鳴ってしまいました。ただでさえ忙しい出勤前に、おねしょの後始末という仕事が加わったストレスで、我慢の限界だったのです。

濡れたパジャマくらい自分で洗濯籠に入れなさい!

するとその夜、娘が大好きな味噌汁を残しました。さらにお風呂上がり、いつも美味しそうに水を飲む娘が、何も口にせず、そのまま床に入りました。

そして、こんな事を言うのです。

すごくよく寝ちゃうの。おしっこしたいのがわからないくらい。お水飲まなかったら大丈夫かなと思って……ごめんね、ママ。

そんなSさんの娘さんは、ある絵本のメタファー効果によって、おねしょを卒業できました。読み聞かせた絵本は「もう、おねしょ しないもん」。

もう、おねしょしないもん

さらに、絵本に描かれている「我が子を優しく見守り続ける親の姿」がメタファーになり、Sさん自身も穏やかな気持ちになれたのだそうです。

お医者さんに相談する前に、絵本の読み聞かせによって、おねしょを卒業できることもよくあります。メタファーの力は、これほどまでに大きなものなのです。

読み聞かせで「怒鳴る」から「見守る」子育てに

絵本というメタファーを使うと、物語が与えるメッセージが、抵抗なく子どもの心にも大人の心にも浸透します。

子育て中、ついイライラしてしまう自分に嫌悪感を抱くこともあるかもしれません。そんなときは「怒鳴る」から「見守る」子育てに変える努力をしてみてはいかがでしょうか。

絵本の読み聞かせが、それを後押ししてくれるはず。昨今、しつけ絵本もたくさん出版されています。

世界で広がりつつある「見守る子育て」で、自分も子どもも幸せになれることでしょう。

しつけに役立つ参考絵本

ななちゃんのおかたづけ

【4歳位~】つがねちかこ 作, 鈴木尚子 監修(2014),「ななちゃんのおかたづけ」,赤ちゃんとママ社.

次々に物を欲しがるとき

ふるびたくま

【6歳位~】クレイ・カーミッシェル(1999),「ふるびたくま」,BL出版.

入園・入学に戸惑っているとき

えらいこっちゃのようちえん

【3歳~】かさいまり 作, ゆーちみえこ 絵(2017),「えらいこっちゃのようちえん」,アリス館.

モモンガくんとおともだち

【4歳位~】くすのきしげのり 作, 狩野富貴子 絵(2015),「モモンガくんとおともだち」,廣済堂あかつき.

おばけのソッチ1年生のまき

【6歳位~】角野栄子 作, 佐々木洋子 絵(1983),「おばけのソッチ1年生のまき」,ポプラ社.

(参考)
デイヴッド・ゴードン(2014),「NLPメタファーの技法」,実務教育出版.
本間正樹 作, みやもとただお 絵(2004),「こぎつねキッコ」,佼成出版社.
アストリッド・リンドグレーン(2015),「暴力は絶対だめ!」,岩波書店.
マリベス・ボルツ 作, キャシー・パーキンソン 絵(1998)「もう、おねしょしないもん」,評論社.
つがねちかこ 作, 鈴木尚子 監修(2014),「ななちゃんのおかたづけ」,赤ちゃんとママ社.
クレイ・カーミッシェル(1999),「ふるびたくま」,BL出版.
かさいまり 作, ゆーちみえこ 絵(2017),「えらいこっちゃのようちえん」,アリス館.
くすのきしげのり 作, 狩野富貴子 絵(2015),「モモンガくんとおともだち」,廣済堂あかつき.
角野栄子 作, 佐々木洋子 絵(1983),「おばけのソッチ1年生のまき」,ポプラ社.