あたまを使う/国語 2018.4.1

ついに子どもたちにも「語彙力」ブーム到来! 語彙力格差に負けないためにできること

編集部
ついに子どもたちにも「語彙力」ブーム到来! 語彙力格差に負けないためにできること

今にわかに「語彙力」がブームとなっています。豊富な語彙力は、仕事やプライベートなどあらゆる場面で私たちを助けてくれますよね。書店には「語彙力」に関する書籍が並び、軒並みヒットしていることからも、大人たちはボキャブラリーを増やすことにメリットを感じているようです。

そして最近では大人だけでなく、子どもが語彙力を身につけるための指南書も増えてきています。このことからも、語彙力は「自然に身につくもの」ではなく、「努力して手に入れるべきもの」という認識に変わりつつあるのかもしれません。

語彙力不足は確実に読解力低下に比例する

では実際に、子どもたちの語彙力は低下しているのでしょうか?
それを知るにはまず、子どもたちの読解力の低下について紐解いていかなければなりません。

2016年に発表されたPISA(学習到達度調査)の結果を受けて、日本の15歳の読解力が下がったことが指摘されました。そのため、国立教育政策研究所では「読解力向上に向けて、それを支える語彙力を強化していくこと」を目標に掲げたのです。

また、東大入試に挑戦する人工知能(AI)として一躍有名になった「東ロボくん」開発者である国立情報学研究所の新井紀子教授は、日本の子どもたちの読解力低下につながる語彙力不足に警鐘を鳴らしています。

そのきっかけとなったのは、東ロボ開発の過程において、全国2万5,000人の中高生を対象に実施した「基礎的読解力調査」でした。驚くことに、簡単な文章の主語を読み違えたり、「てにをは」などの助詞を正しく理解できていなかったりと、読解力の低下が著しかったのです。

その要因となるのが、ずばり「語彙量の不足」。家庭内で大人同士の会話が減ったり、活字離れで長文を読む機会が減ったりといった環境の変化が背景にあるものの、やはり子ども自身が「言葉に興味をもつ」きっかけを与える重要性が指摘されます。

そんななか大人顔負け、いえ大人以上の語彙力を身につけている子どももいます。その代表とも言えるのが、将棋の藤井聡太棋士です。

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じわじわと忍び寄る「語彙力格差」

藤井聡太棋士の優れた語彙力が話題になったのは、対局後のインタビューで口にした言葉の数々が注目されるようになってからです。

実力からすると、望外(ぼうがい=望んでいる以上によい)の結果
僥倖(ぎょうこう=思いがけない幸運)としか言いようがない

これらの言葉、日常で使っている人はあまりいないのではないでしょうか。それどころか、言葉自体も初めて耳にしたという人も多いはず。たとえプロ棋士であっても、当時14歳の子どもの口からこのような言葉が出てきたことに、たくさんの人が驚かされましたよね。

一方で、自分の気持ちを言葉で言い表せない子や、「」「やばい」「うざい」といった表現ばかりを使って会話を進める子が多いのもまた事実。豊富な語彙力を活かして人生を切り開く子どももいれば、語彙力の乏しさゆえに可能性の幅を狭めてしまう子どももいる……。現在の子どもたちの語彙力を取り巻く環境は、まさに「ふたこぶラクダ現象」であると言えるでしょう。

NHKラジオ「基礎英語」の講師を務め、Eテレ「えいごであそぼ」では総合指導に携わった玉川大学大学院教授・佐藤久美子先生は、子どもたちの間に「語彙力格差」が広がっていると指摘します。

佐藤先生によると、小学校入学直前の6歳児200人を対象に語彙力調査を実施したところ、子どもたちの語彙力レベルに大きな差が生じていることがわかったとのこと。

なかには「礼儀」「銀河」「選挙」「蔵書」といった11歳レベルの語彙力を習得している子どももいれば、一方で2歳児レベルの語彙力しか身についていない子もいたそうです。その差はなんと9歳分

2歳児レベルとは「湯気はどれ?」と聞いてもヤカンから湯気が出ている絵を選べない。「封筒はどれ?」「切手はどれ?」と聞いても答えられない。これは単純に言葉を知らないだけなのでしょうか? それとも日常の中で言葉を覚える機会が失われているのでしょうか?

語彙力格差に負けないためにできること2

語彙力アップの鍵は「親子の会話」

子どもたちの間で語彙力の格差が生まれてしまった背景に、母親との会話の影響が色濃く出ていると佐藤先生は指摘します。この場合、就学前の子どもと最も多くの時間を過ごし、一対一のコミュニケーションを取る機会が多い大人、という点から「母親」としています。

つまり、子どもの周りにいる保護者の話し方の特徴が強い影響を及ぼしているというのです。そこで調査した結果、子どもの語彙力を高めるためには3つの大事なポイントがあることに気づきました。

応答のタイミングを早く

子どもに何かを聞かれたとき、スマートフォンを見ていたり、鏡に向かってお化粧をしていたりして、すぐに反応できないことはありませんか? 応答タイミングが早いお母さんの子どもたちは語彙力も高く、発話量も多い傾向にあります。オウム返しでも構いません。できるだけ素早く応答してあげましょう。

発話時間は短く

会話の中で、子どもにたくさん話す時間を与えましょう。一から十まで子どもの気持ちを汲み取って説明してあげるのではなく、あくまでも親は聞き役に回ることが大事。良かれと思って長い返答をすると逆効果です。回数は多めで短い返事をしてあげるのが理想的なのです。

発音はゆっくりと明瞭に

子どもはお母さんの発音を聞いて真似をしながら音に気づき、音を覚えていきます。母親が明瞭に話すことで聞き取りやすくなり、子どもの言語獲得が進むのです。その結果、語彙力も高くなるというわけです。

以上3つの点に注意しながら子どもと会話するうちに、語彙力向上に役立つだけでなく、親子のコミュニケーションもさらに充実したものとなるでしょう。

***
語彙力とは、自分の気持ちを的確に言葉で表現したり、自分が置かれている状況を他者にわかりやすく説明するときにこそ役立つものです。ただ言葉を詰め込むだけではなく、「生きた言葉」を使いこなせるように日頃から意識しておくことが大切なのかもしれませんね。

(参考)
文部科学省 国立教育政策研究所|OECD 生徒の学習到達度調査~2015年調査国際結果の要約~
毎日新聞デジタル|国際学力テスト 語彙不足に警鐘 読解力低下で専門家
朝日新聞デジタル|「望外」「僥倖」「醍醐味」…藤井四段のすごい語彙力
PRESIDENT Online|子どもの「語彙力格差」は母親との会話に原因がある