芸術にふれる/アート 2018.4.8

理科・社会・国語・算数すべてを教える、6時間レッスンの美術教室。丹内友香子先生インタビュー【後編】

編集部
理科・社会・国語・算数すべてを教える、6時間レッスンの美術教室。丹内友香子先生インタビュー【後編】

理科、算数、国語、社会につながる、あらゆることを丁寧に教えてくれる“寺子屋”美術教室の丹内友香子先生。

インタビュー前編では、五感をフルに働かせる大切さりんごを立体的に描く技術を教えていただきました。後編では、図鑑で調べることの意味や、生活に密着した「学び」について語ってもらいます。

絵を描くために花をバラバラにする

——りんごの中心を意識することで立体的な絵が描けるということでしたが、美術というより、理科に近いレッスンだと感じました。

丹内先生:
私は、幼児の美術というものは、すべてが学びのスタート点になると思っています。

たとえばチューリップを描くとき、雄しべや雌しべがどうなっているのかを観察するために、花をバラバラにしてみます。そうすると、真っ赤なチューリップであっても、芯の部分に向かって白っぽくなっていて、色の変化が見えるんです。

それに花びらや雄しべ雌しべ、すべてが真ん中に向かっているということもわかりますよね。真ん中には何があるのか……「茎」です。そこで、この茎が花の命を支えているものだってことを教えます。水を吸い上げて、雄しべ雌しべを育て、花びらまで水が行き渡るようにするのだということ。

だから、花びらも葉っぱも、全部真ん中に集中している、くっついているのよ、って。子どもたちは、それらを理解してから、チューリップを描きます。

——小学校の理科の授業のようですね。ほかにはどんな「学び」のレッスンがあるのですか?

丹内先生:
そうですね、ほかには、折り紙レッスンなどでしょうか。折り紙は正方形なので、それを斜め半分に折ったら正三角形になります。それを折り返していくと、いくつもの正三角形ができるでしょう? そしてその角は必ず90度になる。同じように、折り紙を真ん中で半分に折ったら長方形を作ることができます。そして、それをまた半分に折ったら、正方形になりますね。これは「分割」です。この分割を使えば、いろんなことができますよ。これは算数ですね。

それから、年の終わりには必ず、次の年の干支を筆で書かせます。幼児のころから、墨と筆を使ってほしいので。もちろん、干支の意味もしっかり説明してからね。これは国語でしょうね。

あとは、季節感をすごく大事にしているので、春には「都会の中の小さな春」を探しに行きます。ビニール袋を持って、教室の周りに生えている、タンポポやハコベ、ホトケノザなどを根っこごと抜いて持って帰るの。それを皆で観察して、分解して、絵に描く

——先日見学をさせていただきましたが、生徒さんたちは袋いっぱいに「小さな春」を詰めこんでいましたね。私自身も、春の七草が都会の道端に生えている! と、びっくりしました。

丹内先生:
そう、都会にも春はあるんですよ。でも、やっぱり手に入らない草花もあります。そんなときは、図鑑の出番。動物にしても、ここにライオンは連れて来れないからね(笑)。植物も動物も、何でも、図鑑で調べて、そこから自分のものにして描いていくことが大切だと思っています

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「鳥の羽はどこから生えているのか」を図鑑で調べる

——レッスンの中でも、鳥の羽はどこから生えているのか、犬の足はどこから出ているのか、「もう一度図鑑で調べて、それを絵に描いてきて」というアドバイスが印象的でした。

丹内先生:
そうすると、この動物はなぜ動けるのか、走れるのか、座ることができるのかというのを考えるきっかけになるんです。鳥の足はなぜ2本で、どうして爪がこうなっているのか、とかね。

もっとも大事な「描く対象がどうなっているのか」を幼児のときにちゃんと見ておく必要があります。そういう原理原則のようなものをわかっていれば、そこから想像の中でアレンジすることができるんです。

——これは理科……生物でしょうか?

丹内先生:
どうでしょうね(笑)。「学び」って、学校で習うとき、国語算数理科社会って分かれてますよね。でも、私たち人間の生活って、そのすべてが毎日あると思いませんか? ケーキの材料を量るときに、数字を読めなかったら困るし、レシピの文字が読めなくても困ってしまいます。

この教室では、「生活そのものを自分たちで使いこなす」ということの入り口に、子どもたちを立たせるお手伝いをしているんです。生きていくことを楽しむためにね!

丹内友香子先生インタビュー後編2
<写真中央:小学校1年生が取り組んでいる作品>

たとえば、「水に浮く野菜と沈む野菜」という実験を実際にここでするのですが、水に浮く野菜は地面よりも上でできる野菜なんです。逆に、沈む野菜は土の中で育つ野菜。これを全部スケッチします。

それから、パネルシアターという幼児表現のレッスン(音楽の先生が担当)で、「人参、玉ねぎ、豚肉、じゃがいも、カレールウ~、ぐつぐつ煮たら、さあできあがり♪」というカレーの歌を歌う日もあります。そしたら、「よし、皆でカレーを作ろう!」ってなっちゃう(笑)。

まずは材料を全部絵に描いて、作り方、野菜の刻み方をレシピに書く。で、食べる!(笑)。そうすると、今度はこの豚肉を鶏肉にしてみようとか、ベースを知っていれば、自分なりにどんどんアレンジすることができますよ。それが「生きていくうえで、人生を豊かにする種」みたいなものだと思ってるんです。

丹内友香子先生インタビュー後編3

図鑑で調べたことは、必ず役に立つ!

——まさに「寺子屋」、科目の垣根を越えたレッスンですね!

丹内先生:
それから、私が子どもたちに「わからないことは、図鑑や何かで調べよう」って言うのは、いつか、小説であれ教科書であれ、書物の中でもう一度出会うことがあるだろうと考えているからです。それを読んだときに、実感として「あ、そういえば!」って、調べて自分の中に落とし込んだものを、思い出してくれたら嬉しいです。

——それを皆、ここで学んでいるんですね。

丹内先生:
いえいえ、「学ぶ」ではなくて、「遊ぶ」です。遊んでいるんです。「遊」の世界です!

子どもって、小さな人間なんです。私だって、ちょっとだけ長く生きてるだけの人間。先生って呼ばれるのはあまり好きじゃないんだけれども、先生っていう字は「先」に「生まれる」って書きますよね?

だから、あなたが生まれる前の“ナマ”の時代を私は知っているのよ。それを教えることができるから「先生」。ただ先に生まれただけ。ということを伝えたいですね。それに、これからは子どもたちと同じ時代を生きることになるわけですし。

子どもって、いつか親元から離れて行ってしまいます。もちろん、この教室からも……。だから、そのときまでは、子どもたちが知らないことを一緒に“楽しみたい”と思っています。

【丹内友香子先生インタビュー前編】はこちら→

【後編】に続く→

【プロフィール】
丹内友香子(たんない・ゆかこ)
美術教室代表。新聞社出版局、企業PR誌、女性誌の編集をへて、フリーランスの編集&ライターに。現在は東京都内の自宅を開放し美術教室を主宰。子どもたちに絵を教えたり、国語や算数などの勉強を教えたりと、科目の垣根を超えた指導をしている。専門は油絵。料理は玄人はだしで、得意のレバーペーストにはファンが多い。

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今の子どもたちは、実体験を得にくくなっていると思います。だからこそ、見て、触って、感じる教育は大切ですよね。そうすることで、記憶も定着しますし、なにより、心が豊かになるはずです。

お休みの日に、春や夏、秋や冬を見つけながら、親子で散歩をしてみてはいかがでしょう? もしわからない草花があれば、親子で一緒に図鑑で調べてみてもいいかもしれませんね。

■ 丹内友香子先生 インタビュー一覧
第1回:“寺子屋”美術教室、科目の垣根をこえた究極の6時間レッスン!
第2回:理科・社会・国語・算数すべてを教える、6時間レッスンの美術教室。