芸術にふれる/アート/デザイン 2019.7.4

“呼吸する” 長崎県美術館は、公園遊びの延長で子どもがアートと出会う場所

長野真弓
“呼吸する” 長崎県美術館は、公園遊びの延長で子どもがアートと出会う場所

“港町” 長崎にふさわしく港を望む場所に、ガラス張りの開放的な建物が静かに建っています。晴れた日には海や空とともにキラキラと景色に溶け込む姿は、すっかり地域の顔。

今回は、子どもとアートの接点としての役割も担う、「長崎県美術館」をご紹介します。

コンセプトは「呼吸する美術館」

長崎県美術館は、2005年4月に開館しました。基本理念に「継承・交流・創造」とあるように、周囲と交流・影響し合いながら、未来に向けて豊かな感性と想像力を育み、成長し続ける「呼吸する美術館」を目指しています。

古きを継承し、新しいチャレンジを忘れない理念実現には、子どもたちの関わりも不可欠。そのため、子ども参加のイベントも定期的に企画されています。

所蔵美術品としては、外交官須磨弥吉郎氏から寄贈されたコレクションをベースにしたスペイン美術が充実していて秀逸です。それに加え、長崎ゆかりの作品コレクションに、「新たな長崎文化を創造する」という確かな視点を感じます。

“呼吸する” 長崎県美術館2

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自然に溶け込む開放的な建物

建物の設計は世界的建築家・隈研吾氏によるもの。設計コンセプトは、「風・光・水、そして大地に根ざす緑」

隣接する長崎水辺の森公園をはじめとする豊かな周辺環境を大きくとらえ、時間や季節などにより常に変化する周りの自然も、大切なパーツとして建築に活かされています。

【建築の特徴1:開く⇄守る】

建物は、運河を挟んで、西側の「ギャラリー棟」と東側の「美術館棟」のふたつの棟に別れています。ギャラリー棟は、県民ギャラリーやアトリエなど、訪問者が利用できる “開かれた” スペース。美術館棟は作品の収蔵場所でもあり、展覧会が開かれるなど美術館本来の役割を “守る” スペースです。その相互の共存と相乗効果を、建築で実現しようと設計されています。

【建築の特徴2:緑の連続と回遊性】

隣接する長崎水辺の森公園の一部として成り立つように、美術館周辺の植栽、屋上の緑化で公園からの緑のつながりを実現しています。特に、屋上公園には彫刻も置かれ、アートと海を望むすばらしい眺望をたくさんの人が楽しめるよう、美術館の外からのアクセスも設けられています。長崎港から上がる花火も見ることができるそう。自由な動線は、美術館というよりは、まさに “公園の一部”。中と外を気ままに行き来できる回遊性に、新しい美術館の息吹を感じます。

独自のスタイルを意識した開放的な美術館は、昔の “かたい” イメージを一掃する、気楽に足を運びたくなる明るい空間となっています。

“呼吸する” 長崎県美術館3

“呼吸する” 長崎県美術館4

“呼吸する” 長崎県美術館5

伝統を守る常設展、多彩な企画展

スペイン美術と地元長崎ゆかりのアートに独自性を追求する美術館ですが、伝統を守るコンセプトの常設展の一方、企画展のセレクションは多彩です。

たとえば、夏は夏休み中の子どもを意識した展覧会が組まれることが多く、2018年には「魔法の美術館:リミックス」と題して、デジタルとアートを融合したイリュージョンのような、体験できる参加型展覧会として人気でした。

2019年は「名探偵コナン 科学捜査展〜真実への推理〜」を開催。こちらも、来場者が “探偵手帳” に沿って、コナンの推理や科学捜査をなぞりながら真相解明をしていくという、ワクワク体験型の特別展です。(※会期2019年6月29日〜9月1日)

そのほかにも、『ジョジョの奇妙な冒険』が幅広い年代に人気の漫画家・荒木飛呂彦氏による「荒木飛呂彦原画展 JOJO 冒険の波紋」(※会期2020年1月25日〜3月29日)、永遠の妖精と呼ばれた奇跡の女優・オードリー・ヘプバーンの写真展(※会期2019年10月4日〜10月27日)など、ジャンルにとらわれない自由な構成は、さまざまな人の興味を惹きつけています。

“呼吸する” 長崎県美術館6

「こどもアートクラブ」「ウィークエンドミュージアム」

また、“未来に開かれた美術館” として、子ども向けの楽しいイベントも定期的に行われています。

こどもアートクラブ

毎年6回の活動の中で、所蔵美術品や企画展の作品を活用して、アートのさまざまな鑑賞体験や表現方法を楽しめます小学1〜6年生が対象です。本物を身近に感じながら、さまざまなアート体験ができるのは、とても貴重な機会になりそうですね。参加してみたい方は、年一度の締切を忘れないよう要チェックです。

定員:30名
参加料:3,000円(全6回材料費込)
申込締切:毎年5月20日前後

■2019年度の内容例
「企画展のバックヤードツアー」
「素材と向き合う コラージュ遊び」
「カメラ オブスキュラをつくろう」
「画家の気分で書いてみよう」
「影絵インスタレーション」
「やってみよう銅版画」

 

ウィークエンドミュージアム

月に一度の週末にアトリエで行なわれるワークショップで、事前申込なしで大人も子ども参加できる気軽なイベントです。グリーティングカードやお手軽プチ版画、ハロウィンマスクなど、作品づくりを楽しめるイベント、親子で参加するのにぴったりですね。スケジュールは美術館のホームページをご覧ください。

開催時間:
前期(6~10月) 土曜日|16:30~19:00 日曜日|10:00~12:00 13:30~16:00
後期(1~3月) 土曜日|16:00~18:30 日曜日|10:00~12:00 13:30~16:00
参加費:ひとり100円

そのほかにも、学校向けのプログラムとして、対話型鑑賞法を実践する「おしゃべり鑑賞」「表現プログラム」では作品制作を指導するなど、子どもたちの表現力やコミュニケーション力を高める機会も積極的に提供されています。

“呼吸する” 長崎県美術館7

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ご紹介したもの以外にも、さまざまなワークショップやコンサートなどが繰り広げられる季節ごとの魅力的なイベントや、地元大学によるライブ演奏も行なわれています。天井が高く総ガラス張りの開放感あるエントランスは本当に気持ちがよく、中と外が一体化したような空間は、公園遊びの延長で自然と幅広いアートと戯れられる最高の環境です。日常に溶け込む美術館は、子どもとアートの距離を確実に縮めてくれそうですね。

『長崎県美術館』
長崎県長崎市出島町2-1
開館時間:10:00~20:00
休館日:第2・第4月曜日(休日、祝日の場合は火曜日が休館) 年末年始
※事業により変更になる場合があります
入館料:無料
※企画展・コレクション展は別途料金が必要です

(参考)
長崎県美術館