あたまを使う/教育を考える/本・絵本/英語 2019.4.4

子どものメンタルヘルス週間とは? 幼少期から家庭で「心の健康」を守るのに役立つ絵本たち。

吉野亜矢子
子どものメンタルヘルス週間とは? 幼少期から家庭で「心の健康」を守るのに役立つ絵本たち。

今年2月の頭、小学校から帰ってきた7歳の下の子供が「今日はね、ぼくは青(ブルー)だったの」と言いました。「あら、憂鬱だったの?」と尋ねると、とても嬉しそうに、「そうなの!」と宣言。言っていることと表情のちぐはぐさに、思わず笑ってしまいました。

「子供のメンタルヘルス週間」とは

実は今年、2019年2月の4日〜10日は、子供の心の健康に取り組むイギリスのチャリティ、Place2Be が主催する Children’s Mental Health Week子供のメンタルヘルス週間)だったのです。

学校で「心と体の健康」について学ぶ一環で、色々な感情について先生の指導のもと、クラスのお友達と話をしたようです。

心と体はつながっていること。ちゃんと眠ったり運動したりすることは、自分の心の健康を保つためにも重要だということ。食べ物と感情の関わり自分の中にある色々な感情を知ることの大切さ

メンタルヘルスの教育であると同時に、体と心の両方が大切なんだよ、と子供にわかる言葉で話しかけている様子が印象的でした。

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子どもの知的好奇心を育てる3つのポイント
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14歳女子の4人に1人が自傷行為? 子供の心の健康の危機

このような取り組みが小学校低学年から行われている背景には、イギリスが今、未曾有の「子供の心の健康」の危機に見舞われていることが挙げられます。

現在、14歳で自傷行為に走っている子供は、イギリス全体で10万人にのぼると言われています。

自傷行為に走ってしまうのは女の子の方が多く、14歳女子に限って言えば、その22%がなんらかの形で自傷行為に手を染めたことがあると、2018年8月に報道されました。実に4人に1人に近い割合です。

とはいえ、自傷行為に走ってしまう10万人の14歳児童のうち、男子も3万3千人。決して少ない人数ではありません。

そして、自傷行為の結果、病院へ運び込まれる女子の人数は、20年前と比べて倍増しました。それだけ深刻な自傷のケースが増えているのかもしれません。

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440億円かけて子供の心の問題に取り組むイギリス

今年は3億ポンド(日本円にして約440億円)の予算をイギリス政府が組んで、子供の心の問題に、国をあげて取り組むようになった最初の年でもあります。

子供達のメンタルヘルスが危機を迎えている理由としては、様々な原因が憶測されています。ネット環境テストに追われる学校からのプレッシャージェンダーのステレオタイプなどが大きなストレス要因であることは間違いがないようですが、まだまだ調査研究が必要な分野ではあります。

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幼少期から、体と心の健康についての知識を持とう

ただ、ひとつ言われていることは、大きな心の問題が顕在化する時期——すなわち思春期にさしかかるよりずっと前に、ストレスやプレッシャーに対処する方法を教えることの必要性です。

学校から送られてくる資料を見ていると、子供がまだ小さいうちから、体と心の健康について基本的な知識を身につけることがとても重要であると考えられていることが見受けられます。

Place2Beのサイトからは、子供のメンタルヘルス週間で使えるようなアクティビティのパックも無料でダウンロードできます(学校向けのアクティビティパックがこちらです)。

時にはこのような、小さな子供のために瞑想を教えるオンラインのビデオも交えて、子供達に自分で自分の心を落ち着かせる技術を、学校が教える時代に入っているようです。

いじめ3割増! 日本の小学生にも心のケアが必要

日本でも、心の問題を抱えている子供は多くいます。文部科学省の調査によると、全国の小中高校などで2017年に認知されたいじめは41万4378件

前年度から9万件以上増加し、過去最多を更新しています。特に小学校では、たった1年で、いじめの件数が3割以上も増えているようです。

これはもちろん、いじめが問題として取り上げられやすくなり、うやむやにされにくくなっているから、かもしれません。統計を読むときにはそれなりに注意することが必要です。それでも、実際にいじめに苦しむ子供にとっては、その辛さに変わりはありません。

日本学校保健会による子供の自傷行為についての2007年の調査では、小学校では学校数全体の9%、中学校では全体の73%、高校では全体の82%の学校で、子供の自傷行為が報告されています。

子供のメンタルヘルスは、イギリスだけの問題ではなく、日本の学校や家庭でも真剣に考えなければならない問題なのです。

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子供たちが自分の心と向き合うための絵本やワークブック

でも、幼い子供に、メンタルヘルスについてどのように伝えればいいのでしょうか。そう悩む方もいらっしゃるかもしれません。そんなときは、本の力を借りてみてはいかがでしょうか。

イギリスでのこうした子供達を取り囲む環境を反映して、子供向けの英語の本にも「感情との付き合い方」や「メンタルヘルス」を題材にしたものが目につくようになってきています。

The Great Big Book of Feelings(『いろいろいろんなきもちのほん』本邦未訳)については、前にご紹介しました。近年こうした書籍は、どんどん数を増やしている印象です。

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例えば、下の子供が様々な感情について話し合うために学校で使った本、In My Heart(『わたしのこころの中には』本邦未訳)。自分の心の中に起きる感情を取り上げ、話し合いをするための土台として用いたようです。

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そして、私が面白いと思っているのがこちら。Hello Happy(『しあわせこんにちは』本邦未訳)と名付けられた、アクティビティブックです。対象は7歳以上。

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子供が感情と向き合うためのワークブックとして、児童心理学者シャーリー・クームズ博士の監修のもと作られました。

Emotion(一時的な感情)とFeeling(もっと長く続く気持ち)の違いを説明し、どうやって感情や気持ちと向き合っていくのかを、落書きをしたり塗り絵をしたりしながら考えていく本になっています。特に、怒り悲しみの感情を取り上げています。

ページをめくると、心拍数について知ろう、であるとか、怒りの度合いについて考えよう、といったテーマが並びます。

子供自身が絵や字を書くことが前提となっている本ですから、親御さんが補助できるのであれば、日本の子供でも使うことができるかもしれませんね。

同じシリーズで、高い評価を得ている3冊も併せてご紹介しましょう。ストレスや不安に悩む子供を対象にしたNo Worries(『しんぱいしないで』本邦未訳)、

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不安を抱えている子供のためのBe Brave(『ゆうきをだして』本邦未訳)、

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いじめに悩む子供を対象にしたStay Strong(『つよくいようよ』本邦未訳)。

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これらの本の最初と最後には、イギリスの子供向けの相談ホットラインの電話番号やメールアドレスが掲載されています。

もしも、何かの拍子に子供が「お父さんやお母さんには話せない」と思い込んでしまったとしても、誰かが手を差し伸べることができるのですよ、というメッセージがここには込められています。

上記の本に載っている連絡先はイギリスの子供対象ですから、日本の子供には使えませんが、日本にも子供向けに24時間子供SOSダイヤルチャイルドラインなどの相談窓口があります。そのことをお子さんが知っているだけでも、心強く感じられることでしょう。

子供が育っていく上で、出会う様々な感情。小学校にあがり、やがて子供たち自身の生活が大きくなっていけばいくほど、親の手の届かない子供の世界がひろがっていきます親としては、もどかしい思いをすることも、ハラハラすることも増えていくでしょう。

けれども、まだまだお母さんやお父さんにぴったりくっついている幼いうちに、将来に備えてもしもの時のための知識をそっと手渡すことは、今すぐにでもできることなのかもしれません。

(参考)
The Gurdian|Calls for action over UK’s ‘intolerable’ child mental health crisis
The Gurdian|Quarter of 14-year-old girls in UK have self-harmed, report finds
産経ニュース|いじめ認知が過去最多41万件 小学校で大幅増 文科省調査
山口 豊, 窪田 辰政, 須部 宗生, 杉山 三七男, 下川 学, 横沢 民男, 松本 俊彦(2013), 「論説 自傷行為の実態について」, 『21世紀アジア学研究』(11), 73-83.
Jo Witek, In My Heart: A Book of Feelings, (New York: Abrams Appleseed, 2014)
Stephanie Clarkson, Hello Happy! Mindful Kids: An Activity Book for Young People Who Sometimes Feel Sad or Angry, (London: Studio Press, 2017)
Katie Abey, No Worries! Mindful Kids: An Activity Book for Young People Who Sometimes Feel Anxious or Stressed, (London: Studio Press, 2017)
Mary Hoffman, The Great Big Book of Feelings, (London: Frances Lincoln Children’s Books, 2017)
Sharie Coombes, Be Brave! Mindful Kids: An Activity Book for Young People Who Sometimes Feel Scared or Afraid, (London: Studio Press, 2018)
Sharie Coombes, Stay Strong! Mindful Kids: An Activity Book for Young People Who Are Experiencing Bullying, (London: Studio Press, 2018)