子どもらしくいつも元気いっぱいでいてほしいけど、なんだか最近やる気や意欲が低下しているように見える……。わが子の無気力な様子を見ていると心配になりますよね。
今回は、子どものやる気と意欲を取り戻すコツをたっぷりお教えします。
“負ける経験”不足が無気力を引き起こす!?
何事にも意欲的に取り組み、いつも元気いっぱいで毎日を楽しく過ごしているーー。私たちが思い描く理想的な子どものイメージとは、このようなものではないでしょうか? しかし実際に子育てをしていると、子どもなのにやる気や意欲がまったくないように見える瞬間もあります。もっとはつらつとしてほしいのに、なぜ意欲が低下したり、無気力になったりするのでしょうか。
やる気のモトは「成功体験」と「報酬」
本来子どもは、大人に比べてやる気に満ちているといいます。それは、人生の経験値の差によるものが大きいそう。大人にとっては当たり前のことも、子どもは初めて経験をすることが多く、刺激的で印象的な出来事として新たな発見や感動につながります。
たとえば、「なわとびが昨日に比べて5回多く跳べた!」「1回も間違えずに音読できた!」なども小さな出来事のようですが、立派な成功体験となります。それにより、脳の奥にある大脳基底核の一部で運動の開始・持続・コントロールなどにかかわる線条体が活性化し、子どものやる気を大きく引き出します。
また脳科学者の篠原菊紀先生は、「脳に報酬を与えることもやる気を起こさせるカギになる」といいます。人間は報酬を得ることで、腹側被蓋野から前頭葉に向かうドーパミン神経系が働き、快感を得ます。たとえば、勉強するたびに親からほめられていると、「勉強する」という行動と、「ほめられる」という“報酬”が結びつき、ドーパミン神経系が活動するようになるのです。
子どものやる気を奪う原因は……
“やる気が見られない”“無気力”の子どもは、「受け身であること」が特徴的です。進学塾VAMOS代表の富永雄輔先生によると、親の接し方次第で子どもは受け身になってしまうそう。たとえば、無意識のうちに次のようなことをしていませんか?
子どもが読む本や休日に遊びに行く場所、勉強方法や習い事など、子どもにまつわるすべてのことを親が決めるーー。日常的な身の回りのことやお手伝いをさせず、親がすべてやってしまうーー。これらの行動は、子どもが自分では何もできない子になるだけでなく、何事にも「どうでもいい」「なんでもいい」という“逃げの気持ち”が芽生える原因になります。
また富永先生は、最近の子が挑戦したがらないのは「負けることや間違えることへの恐怖心が強いため」とも指摘しています。失敗の恐怖を乗り越えるには、エラーに慣れさせるしかありません。負ける体験を積むことでエラーへの恐怖に打ち勝つことができるので、成功体験ばかりを重視するのではなく、失敗体験も同じくらい大事だと覚えておきましょう。
無気力・無関心・無意欲の子どもたち
やる気や意欲の低下は、小さいうちはそれほど気にする必要はありません。ただし小学校高学年以降になると、より深刻な状況に発展するかもしれないので注意が必要になるでしょう。
長引く無気力状態は要注意!
臨床心理学者の松原達哉先生は、不登校、ひきこもり、ニートなどの問題の一因にもなっている「無気力」「無関心」の状態に陥っている子どもたちが増えていることに警鐘を鳴らしています。その特徴として、次のような点が挙げられます。
- 日常生活が不規則
- 何事に対しても興味や関心を持たずにいる
- 自分で問題解決する能力が乏しい
- 意欲がない
- 友人との共通話題がない
- 学習意欲がない
松原先生は、その原因を次のように分析しています。
- 過保護、過干渉
親から、我慢することや努力すること、てきぱき行動することをあまりしつけられていない傾向がある。 - 虐待
親に褒められたり認められたりしないで育った子どもは、無気力、無意欲になる傾向がある。 - 厳格な親・教師
過度に厳格な親や教師は、子どもの長所をほめず、逆に短所や欠点ばかりを見て叱ったり軽蔑したりする。すると子どもは、自信をなくし、劣等感をもち、無関心、無気力になりやすい。 - 失敗
運動会の団体競技でミスをして大恥をかいたり、試験で大失敗をしたりすると、人を避けて内にこもり、無気力、無関心になりやすい。
無気力対策にはぜひ自然体験を!
わが子に無気力になってほしい親などいません。しかし、どの子にも無気力になるきっかけは潜んでいるのです。その対策として、松原先生は自然体験が有効だと説いています。
筆者らは、かつて不登校の中学生を八泊九日間、山の中のキャンプ場でテントを張り、飯盒炊さん生活をし、自然の中で苦難を体験する生活をさせたことがある。無気力、無意欲な不登校中学生たちもいかに食事を炊き、雨風を凌ぎ、生きていくことが大変であるかを体験学習させた結果、生活意欲も旺盛になり、生きる力もつき、人間関係も改善されて、キャンプ後には7割近くが登校生活をするようになっている。
(引用元:立正大学学術機関リポジトリ|無気力の原因と指導)
自然体験は子どもたちをたくましくします。生きていくためには、生活力、体力、知力がいかに大切であるかを実体験させることで、意欲的に生きる力を育てることができるのです。
もちろん自然体験以外にも、子どもを無気力にさせないための対策法はたくさんありますよ。
子どものやる気を復活させるテクニック
「最近子どもが無気力になってきた」「何をするにも意欲が見られない」「投げやりなことばかり言う」そう感じてきたのなら、次の方法を試してみましょう。
通称“ビリギャル”の生みの親であり、心理学を駆使した学習法で多くの子どもたちを指導してきた坪田信貴先生は、「やる気のある子に育てたいのなら、上手にコミュニケーションをとることが大事」と述べています。
たとえば、子どもの好きなものや興味のあるものを頭から否定していませんか? たしかに大人にとっては価値のないもののように見えるかもしれませんが、「それのどこがいいの?」「そんなくだらないことばかりして」などと言ってしまったら、子どもは自分自身も否定されたように感じてしまいます。「○◯ちゃんの好きな△△のこと、お母さんにも教えて」「どうしてそんなに集められたの?」と、子どもが好きなものに歩み寄るように心がけましょう。
また、前出の松原先生は「人間は短所や欠点を指摘され、注意を受けたり批判ばかりされていると無気力になってしまう。大人は子どもの長所を認め、伸ばすべき」と述べています。子どもたちの中には、「自分にはひとつも長所がない」「短所ばかりで取り柄のない人間だ」と思っている子も多いといいます。そのような子には、短所を長所に変換して自信を持たせる必要があるのです。
簡単な方法として、まず一枚の紙を子どもに渡し、その紙の半分に、「私の短所」を5~6個以上書かせましょう。親はその紙を預かり、もう半分に短所を長所に変換して列記するのです。
例)
「わたしの短所」 ※子どもに書かせる
- あきっぽい
- ぼんやりしている
- すぐに忘れる
- がんこなところがある
- 先のことを考えずに動く
「わたしの長所」 ※親が短所を長所に変換
- あきっぽい→好奇心が旺盛
- ぼんやりしている→マイペースで人に流されない
- すぐに忘れる→気持ちの切り替えが早い
- がんこなところがある→信念がある
- 先のことを考えずに動く→行動力がある
紙は本人に渡します。そして短所を考えすぎないで、長所だけを机の上に貼り、自己理解を深めるのに役立てるといいそうです。ぜひ試してみてくださいね。
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子どものやる気や意欲は、ちょっとしたきっかけがあればすぐに取り戻せます。そのためにも、日頃の親子のかかわりかたや声かけなどに注意して、良い関係を築くことが大切です。
(参考)
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|子どもの「やる気」と「地頭」が育つ親の言葉とは?
洋泉社MOOK(2017),『子どもの脳を伸ばす 最高の勉強法』,洋泉社.
洋泉社MOOK(2018),『これからの未来を生き抜く できる子の育て方』,洋泉社.
立正大学学術機関リポジトリ|無気力の原因と指導
AERA with Kids 19秋号,『今、親が知っておきたい!やる気の正体/小4算数の壁』,朝日新聞出版.