教育を考える/体験 2018.3.11

かわいい子にはキャンプをさせよ。自然体験は「生きる力」を育ててくれる。

編集部
かわいい子にはキャンプをさせよ。自然体験は「生きる力」を育ててくれる。

厚生労働省が定める『保育所保育指針』に、環境に関する教育のねらいとして以下のような記述があります。

1. 身近な環境に親しみ、自然と触れ合う中で様々な事象に興味や関心を持つ。
2. 身近な環境に自分から関わり、発見を楽しんだり、考えたりし、それを生活に取り入れようとする。
3. 身近な事物を見たり、考えたり、扱ったりする中で、物の性質や数量、文字などに対する感覚を豊かにする。

(引用元:厚生労働省|保育所保育指針(PDF)

海や川で泳ぐ。夜空に輝く星々を眺める。チョウやバッタなどの昆虫をつかまえる。野鳥の鳴き声に耳を傾ける。皆さんも、子どものころにこういった自然体験をした記憶があるのではないでしょうか?

では、最近の子どもたちはどうでしょう。じつは近年、子どもたちの自然体験の機会の減少が指摘されており、さまざまな教育機関がその現況に警鐘を鳴らしています。

なぜ自然体験がそれほどまでに重要視されているのか。じつは自然体験には、子どもたちの「生きる力」を育んでくれる大切な要素が隠されているのです。

自然体験と学力には関係がある!?

国立青少年教育振興機構が実施した調査によれば、学校以外の公的機関や民間団体が実施する自然体験活動への小学生の参加率が、2006年から2012年にかけて10%以上も低下しています。同様に、過去1年間でキャンプを行なった人の数も、1991年から2011年の20年間で減少傾向に歯止めがかかりません。

学校以外の団体などが行う自然体験活動への参加率
(画像引用元:内閣府|平成26年版 子ども・若者白書(全体版)|第2節 体験活動

じつは、自然体験の有無と学力の高低には相関関係があることが示されています。たとえば自然の中で遊んだり自然観察をしたりしたことのある子どもたちのほうが、全国の学力検査において理科の正答率が高いことがわかっているのです。そして理科以外でも、自然の中での集団宿泊活動を行なった小学校のほうが、国語・算数の「活用」に関する問題の正答率が高い傾向にあるのだそう。

自然に対する興味関心や、自然の中で他人と協力し合うという体験が、日ごろの勉強に良い影響をもたらすのですね。そして自然体験による効果として忘れてはいけないのが、「生きる力」の養成です。

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自然体験で育まれる「生きる力」

文部科学省中央教育審議会の答申では、体験活動の意義や効果のひとつとして「社会を生き抜く力の養成」を挙げており、自然体験の減少はすなわち、子どもたちの「生きる力」の減退を意味するとしています。

かつての多くの子どもたちは、仲間とともに自然の中で遊びながら、あるいは、地域において生活、成長していく過程で、様々な自然体験・社会体験を日常的に積み重ねて成長する機会に恵まれていた。しかしながら、今の子どもたちをめぐる環境は、心や体を鍛えるための負荷がかからないいわば「無重力状態」であり、青少年の健全育成にとって深刻な事態に直面している。

(引用元:文部科学省|今後の青少年の体験活動の推進について(答申)(PDF)

子どもたちが家の中ですることといえば何でしょう。テレビ? ゲーム? インターネット? YouTube? しかし、こういった “人工的な” 体験を通して得られる情報は、私たちが心地よく感じられるように計算・加工されていると、答申では指摘しています。

情報が向こうから流れてくる。つまらなければチャンネルを変えればいい。クリアできなければ電源を切ればいい。こういった “心身に負荷のかからない” 環境に甘んじていては、育つものも育たないことは明白ですよね。

自然の中で、これまで触れたことのないものにも触れながら、その存在を認める経験を積む。それにより、大人になって思い通りにならない他者や状況に直面したときにもうまく対応できる素地が、徐々に築かれていくのではないでしょうか。

自然体験で脳機能が向上する

信州大学の平野吉直教授も、自然体験活動をたくさん行なった青少年の特徴について以下のようにまとめています。

  • 課題解決能力や豊かな人間性など「生きる力」がある(※わからないことはそのままにせずに調べる、誰とでも協力し合える、相手の立場に立って物事を考えられる)
  • 体力に自信がある
  • 環境問題に関心がある(「地球の温暖化」「ゴミ問題」など、気になる環境問題の数が多い)
  • 得意な教科の数が多い(「理科」「図画工作」「体育」が得意な人が多く、得意な教科の数も多い)

 
また、大脳の自己制御機能を調べるために「赤いランプがついたらゴム球を握る(=go課題)」「黄色のランプがついたらゴム球を握らない(=no-go課題)」という『go / no-go課題実験』を同教授が実施したところ、キャンプを行なった子どもたちは間違い回数が有意に減少したのに対し、テレビやテレビゲームや室内遊びの時間が長い子どもたちは間違い回数が有意に増加することも認められたのだそう。自然体験により脳機能も向上するようですね。

自然体験が育てる「生きる力」2

おすすめの自然体験は “長期のテントキャンプ”?

では、子どもにはどんな自然体験をさせてあげるのが良いのでしょうか?

冒頭で述べたような「海や川で泳ぐ」「夜空に輝く星々を眺める」「チョウやバッタなどの昆虫をつかまえる」「野鳥の鳴き声に耳を傾ける」なども、身近な場所でできる立派な自然体験ですね。

ちなみに、前出の平野教授が行なった調査によれば、以下のような条件下で、子どもたちの生きる力の向上が顕著に確認できたようですよ。苦労やピンチが子どもたちを成長させる、とでも言えましょうか。

  • 期間は「14泊以上」だった
  • 宿泊は「テント」が多かった
  • 食事は「自炊」が多かった
  • 天候が「厳しい日」が多かった

 
***
かわいい子にはキャンプをさせよ。長期休暇などを利用して、ちょっとだけ遠い場所で、ちょっとだけ過酷な自然体験をさせてみるのもいいかもしれませんね。子どもたちの「生きる力」を育むために。

(参考)
厚生労働省|保育所保育指針(PDF)
内閣府|平成26年版 子ども・若者白書(全体版)|第2節 体験活動
文部科学省|今後の青少年の体験活動の推進について(答申)(PDF)
文部科学省|中央教育審議会ヒアリング資料 「自然体験活動」の成果と意義(PDF)