あたまを使う/英語 2018.6.5

【田浦教授インタビュー 第7回】こんな先生を探せ! 幼稚園児に最適な英語学習法と、バイリンガルの子どもの驚きの能力

編集部
【田浦教授インタビュー 第7回】こんな先生を探せ! 幼稚園児に最適な英語学習法と、バイリンガルの子どもの驚きの能力

立命館大学大学院 言語教育情報研究科教授の田浦秀幸さんに、バイリンガリズムや日本の子どもに最適な英語学習についてお話をうかがうシリーズの第7回目をお届けします。

第6回では「英語で子育て」論の是非について、お話しいただきました。英語は良い先生に任せて、親は見守るほうがいいとのことでしたが、良い先生とはどのような経験・スキルを持つ方なのでしょうか?

今回は、幼少期の英語学習において最も重要である「良い先生」の条件を探ります。併せて、バイリンガル・モノリンガルの幼稚園児の認知能力に関しても、驚きの事実が判明します。お子さんの幼少期の英語教育を成功させたい親御さんも、バイリンガリズムに興味のある方も、必見ですよ。

幼稚園児に最適な英語学習には「良い先生」が欠かせない

——これまで幼少期の英語学習について、様々な観点からお話をうかがいました。幼稚園児に最適な英語学習法があったら、教えていただけますか?——

田浦先生:
最適な英語学習法はやっぱり先生に尽きる、と思うんですよね。子どもの幼児期の心理的な発達段階を理解していて、且つ日本人英語学習者に最適な教え方もわかっている先生。

TESOL(英語教授法)の資格をお持ちのネイティブスピーカーで、幼稚園児に合った、楽しくて飽きない様々な活動を、次々に展開してくれる先生。

そんな先生に巡り会うことができたら、一番でしょう。この時期に特に大切なのは発音ですから、日本人の先生だったら、できるだけネイティブのようにしっかり発音できる先生がいいですね。

できれば英語を母語とする現役の幼稚園の先生を日本に呼んで、日本人向けの教育の経験を積んでもらい、日本の子どもにテーラーメイドした英語の授業をしてもらうのがいいと思います。

バイリンガリズムと英語学習第7回2

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幼稚園児の認知能力――バイリンガルとモノリンガルの子どもの場合――

僕はこの5年くらい、シンガポールの日英幼稚園に行っています。8〜9歳ぐらいまでは、バイリンガルの子どもはモノリンガルの子どもよりも、認知能力の発達が早いと言われているんです。それを調べるため、そこの2歳〜6歳までの、バイリンガルの子どもたちのデータを集めに行くんですね。

大きな機器は幼い子ども対象に使えないので、バンドエイドくらいの小さな血流測定装置をおでこに付けて、タスクをしてもらいます。タスクがやすやすとできるとき、またはなかなかできなくてイライラするとき、血流の違いでわかるんです。

バイリンガルの子どもとモノリンガルの子どもに同じタスクをさせると、全然違った反応が見られます。例えば、空に見えるあの「赤いもの」、普段は「太陽」と言っているものを、今日だけ「月」と言ってね、と子どもたちに頼むんです。

日本人のモノリンガルの2~3歳の幼稚園児に頼むと、子どもは「うん、わかった」と言うものの、しばらくして太陽を指差して「あれは何?」と僕が聞くと、間違いなく「太陽!」「お日様!」と答えます。

一方、バイリンガルの子どもは違います。「太陽」を今日だけ「月」と言い換えるタスクを、やすやすとできるんです。

バイリンガルの子どもは普段、日本人のお母さんの方を向いて「コップ熱い」、英語話者のお父さんの方を向いて”The cup is hot.”と言いますね。誰かから教えられたわけではないものの、小さい頃から自然とコードスイッチしています。

そのため、日本語では「コップ」、英語では”cup”とたまたま名付けられているだけで、名前はモノの本質を表しているものではないと、無意識的に知っているんです。そこまで、言葉で明示的に説明はできませんけどね(笑)。

だからバイリンガルの子どもは、「太陽を今日だけ月と言ってね」と僕が頼むと、「わかった、今日入れ替えたらいいんだね」とすぐに理解します。そして、しばらくしてから太陽を指差して「あれは何?」と僕が聞くと、”That is the moon.”(「あれは月だよ」)とちゃんと答えてくれるんです。

このタスクは、7~8歳頃になると、日本人のモノリンガルの子どもも、だんだんできるようになります。でも、バイリンガルの子どもはこれを、2~3歳頃からできてしまいます。よく考えるとかなり複雑なことを、幼いうちからできているんです。

【プロフィール】
田浦秀幸(たうら・ひでゆき)
立命館大学大学院 言語教育情報研究科教授。シドニー・マッコリー大学で博士号(言語学)取得。大阪府立高校及び千里国際学園で英語教諭を務めた後、福井医科大学や大阪府立大学を経て、現職。伝統的な手法に加えて脳イメージング手法も併用することで、バイリンガルや日本人英語学習者対象に言語習得・喪失に関する基礎研究に従事。その研究成果を英語教育現場やバイリンガル教育に還元する応用研究も行っている。

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幼少期の英語学習には「良い先生」との出会いが欠かせないのですね。そして、バイリンガルの幼稚園児の認知能力には、驚くばかりです。次回は、小学校の英語教育のあり方について、お話をうかがいます。