2021年1月、大学入試センター試験に代わる新たな入学試験、大学入学共通テストが実施されました。英語の問題形式はセンター試験と大きく変わり、単語や文法の知識の詰め込みや丸暗記といった付け焼き刃の勉強は、もはや通用しません。また、ご自身が大学受験で学んできたテクニックを、そのまま子どもの受験勉強で応用できるとも限らないのです。
将来、我が子が大学受験をする歳になったら、今後受験するであろう共通テストで、どのような入試対策をさせればよいかわからない、と不安になるかもしれませんね。
そこで今回は、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」を運営する株式会社スタディーハッカー常務取締役で、言語教育情報学修士・TOEIC990点・TESOL(英語教育の国際資格)をもつ田畑翔子さんに、大学入学共通テストで必要な対策や、効率的な練習法についてお話を伺いました。
田畑さんは、難関大・医学部専門予備校「烏丸学び舎」「学び舎東京」の教務部長として、数々の難関大合格者を輩出してきた実績があります。
共通テストに関して誰もが気になる質問にズバッと答えてくれました。インタビューの様子を全3回にわたってお届けします。
第1回のテーマは、大学入学共通テスト(英語)の変更点と、今後受験生に求められるテスト対策です。
2021年度大学入学共通テスト(英語)の変更点
まずは、2021年度大学入学共通テスト(英語)が旧センター試験とどう異なるのか見ていきましょう。
配点
旧センター試験の配点は、リーディング200点・リスニング50点。2021年度大学入学共通テストでは、リーディング100点・リスニング100点に配点が変更されました。リスニングの配点比率が高くなり、リスニング対策もおろそかにできなくなったと言えます。
リーディング
2021年度大学入学共通テストのリーディングは、すべてが読解問題。発音やアクセント、文法、語句整序問題の単独出題が廃止されました。
旧センター試験で日本語だった指示文は、すべて英語に変更。各問題で何が求められているか、英語でしっかり理解できるスキルが受験生に求められます。
リーディングの総語数は、前年のセンター試験から約1,000語以上増加(約4,200語→約5,500語)。試験時間は80分と変わらないため、英文をより速く読めるスキルが要求されます。
また、SNS、ホームページ、プレゼンテーションといった、実践的なコミュニケーションを意識した場面設定が目立ちました。さらに、文章だけでなく図表やグラフなども多く含まれ、複数の情報の整理や比較ができるスキルも必要です。
2021年度共通テスト(英語リーディング)の平均点は100点中58.80点で、前年(58.15点、100点満点換算)より微増という結果でした。
リスニング
2021年度大学入学共通テストのリスニングは、設問数が25問から37問に増加。問題ごとに2度英語の音声が流れた旧センター試験と異なり、共通テストでは1度しか音声が流れない問題が出題されました。2021年度では大問6問のうち、第3問から第6問が1度しか音声が流れない問題でしたが、試験を運営する大学入試センターによると、今後は全問が1度読みになる可能性があるとのことです。
また、アメリカ英語やイギリス英語など多様な英語の聞き取りが必要になりました。
さらに共通テストでは、複数人(2021年度は4人)の意見をまとめる問題が出題され、誰が何を述べているかを整理できるスキルが求められます。英文の聞き取りだけでなく、図表やグラフの情報と、聞き取った英文を照合して解答する問題も出題されました。
2021年度共通テスト(英語リスニング)の平均点は100点中56.16点で、前年(57.56点、100点満点換算)より微減という結果です。
このように、2021年度大学入学共通テストは旧センター試験と形式が大きく変わっています。今後は、共通テストに向けた別の対策が必要。ここからは、大学入学共通テスト(英語)の対策に関する、田畑さんとのインタビューの様子を見ていきましょう。
今後の大学入学共通テスト(英語)に向けた対策とは
リーディング
——2021年度大学入学共通テストは旧センター試験と比べて、語数が大幅に増えましたね。語数の大幅な増加には、出題者のどのような意図があると思いますか。
田畑さん:
やはり、より実用的な英語のスキルが求められているのではないでしょうか。これは今年に始まったことでなく、センター試験においても年々、語数は増加傾向にありました。
多くの情報を正確かつすばやく読み取り、必要な情報を得るという、実世界での英語運用能力がより意識されている結果なのではないかと思います。
——リーディングでは文法や発音、語句整序問題が単独で出題されることがなくなりました。はたして文法対策は不要になったのでしょうか。
田畑さん:
発音・アクセント問題はなくなりましたが、そのぶんリスニングの配点が増えていますので、音声面の知識は今後もより重要になってくると思います。
あとは文法や語法の問題が直接的に問われなくなったことで、「文法知識はもうそんなに必要ないの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そんなことはありません。
必要な情報を正しく理解するためには、文法知識は重要です。たとえば、今回の共通テストでは過去完了が用いられた英文を正しく理解できないと、時系列が正しく把握できず、正答できないというような問題も出題されていました。過去完了などの時制の区別が苦手な受験生は結構多いですよね。
あとは、「事実と主観的な意見を区別する」というような問題もいくつか出されていましたが、これを見分けるためには、助動詞の意味や使い方を正しく理解しておく必要があります。
共通テストでも、文法の知識は求められていると言えると思います。
——共通テストはすべてが読解問題になり、英文をより速く読むためのスキルが求められるようになりました。おおよそどれくらいのリーディングスピードが必要になるでしょうか。
田畑さん:
参考までに、ネイティブの黙読は平均300wpm(※1)程度と言われています。また、GTEC(※2)によりますと、日本人の高校生の読解スピードは平均で75wpmだそうです。
まだ新たな共通テストを対象にした研究は多く見当たらないのですが、2001年から2007年のセンター試験を解答するために必要なwpmが、131wpmから188wpmという研究結果や、余裕をもってセンター試験を解き終わるための読解スピードとして120wpmが必要、という意見もあります。センター試験より語数が増えている共通テストの場合は、なおさらスピードが求められそうですね。
また、共通テストのリスニングの読み上げスピードは、150wpm以上になっている部分もあるので、150wpmくらいを目指したいところでしょう。
日本人の高校生の平均読解スピードから考えると、スピードアップがかなり必要です。
英語を日本語に訳すことができる、といったようなスキルではなく、なるべく英語のまま情報をすばやく理解する、というスキルが求められます。
※1 wpm:1分間に読める単語数のこと。words per minuteの略。
※2 GTEC:株式会社ベネッセコーポレーションが実施している中高生対象の英語4技能検定。
——分野としては、SNSやプレゼンテーションなど実践的なコミュニケーションを意識した問題が目立ちました。どういった対策が求められるでしょうか。
田畑さん:
多少問題の形式に変化はありますが、扱われるトピックや英語の表現については、センター試験と大きく変わるものではないので、これまでと同じく、基本的な語彙を増やし、文法を身につけること、そしてそういった知識をすばやく運用できるレベルにまでトレーニングをしておくことが重要だと思います。
リスニング
——センター試験では、すべて2度英文が読まれたリスニング。共通テストでは、半数以上の問題の英文が1度しか読まれなくなりました。1度読みの問題が出題されるようになったのは、なぜだと思いますか。
田畑さん:
もともと、共通テストの英語試験は大学入試改革における英語入試の4技能化の流れのなかで、完全に民間試験に置き換わるまでの移行措置でつくられたという経緯があると思います(結局民間試験の導入は立ち消えになりましたが)。英検も準2級からはすべて1回読みですし、TOEICもそうですし、民間試験のより実用的な運用に近づけたのではないか、と推測しています。
——共通テストではアメリカ英語やイギリス英語など、さまざまな英語が登場しました。多様な英語のアクセントを聞き取るためには、どのような対策が必要でしょうか。
田畑さん:
まずは、アメリカ英語の発音を聞き取れるようにするところからスタートするのがよいでしょう。これまで、日本の学校教育で取り入れられてきた英語の多くはアメリカ英語ですし、英検などもそうですよね。ですので、聞き馴染みがある人が多いでしょうし、教材も学校の教科書(音声つきのもの)含め豊富にアクセスできるのではないでしょうか。
実際の共通テストでも、イギリス英語や日本人英語などの英語が混ざってはいたものの、大半はアメリカ英語の発音でした。
学習方法としては、音声つきの教材を使って、正しい発音でリピートしたり、シャドーイングをしたりすることです。
あとは、ディクテーションという聞き取った英語を書き取るトレーニングも有効です。書き出すことで、自分がどういったところが聞き取れないのかをあぶり出すことができ、学習が効率化できます。もちろん、どこが聞き取れていないか、答え合わせをするだけで終えてしまっては意味がありません。聞こえなかった部分をスクリプトで確認したら、音声を聞き直し、正しい発音をインプットしましょう。自分でも正しく言えるようになるまで発音練習を繰り返すことで、聞き取れる音が増えていきます。
このようにしてまずはリスニング力の素地をつくったうえで、イギリス英語など他の英語へ慣れる練習も行なっていけばよいと思います。
——共通テストでは発話内容がそのまま答えに直結する問題が減りましたね。内容を聞き取るだけでなく、話者の意図や状況までを読み取る力も必要になりましたが、こうした力はどのように対策すると身につくでしょうか。
田畑さん:
もちろん、意図や状況を読み取るためには細かい英語の表現やニュアンスを理解できないといけませんし、そのための語彙や文法知識は必須です。
ただ、そういった知識があるだけでは、実際のリスニングテストにおいて余裕をもって解答できないということが、往々にして起こります。
これは、リスニングスキルをいかに自動化(※3)するか、ということに尽きるかと思います。
リスニングをする際の脳内の処理プロセスを考えてみましょう。
まず、耳から音声情報が入ってきますね。その後、脳内では「音声知覚」という処理が行なわれます。簡単に言うと音声を認識して、そこから単語を割り出せるということです。このあと、「理解」の処理に移ります。ここでは文法の知識や、語彙の意味の知識、背景知識など、自分がもっている知識と照らし合わせて内容を理解したり、文脈を把握したりします。
この「音声知覚」→「理解」の処理がスムーズにいかないとリスニングがうまくいきません。
英語が母語ではない私たちは、最初の「音声知覚」の部分でつまづいたり、かろうじて聞き取れたとしてもそこで脳のワーキングメモリの多くを消費したりしてしまう、ということが起こります。そうなると、その後ろの「理解」の処理に回す余力がなくなり、内容の把握が追いつかなくなる、ということが起こるのですね。
瞬時に話者の意図や状況までを読み取るためには、いかに最初の音声知覚の負荷を下げ、自動化していくかということが鍵になってきます。
※3 自動化:頭のなかで考えなくてもすぐにできる状態のこと。
大学入学共通テスト(英語)の点数を効率よく上げるには
出題形式が大きく変わった大学入学共通テスト(英語)。これからは、共通テストに向けた早めの対策が必要になっていきます。
点数を上げる最も効率的な手段は、受験生が英語のどの部分に課題を抱えているかを知ること。なおかつ、課題解決のための「正しいトレーニング」を継続することが重要です。
英語教育の専門家による「課題発見」と、受験生の課題に応じた「正しいトレーニング」を提供する場所が、英語パーソナルジム「StudyHacker ENGLISH COMPANY」より誕生します。その名も「ENGLISH COMPANY大学受験部」! 大学受験マーケット初の「短期集中×コーチング」スクールとして、効率のよい共通テスト(英語)のスコアアップに貢献します。
——「ENGLISH COMPANY大学受験部」を新設することになった背景を教えてください。
田畑さん:
スタディーハッカーはもともと大学受験予備校として創業しています。2010年の創業当初から、大学入試はより実用的なスキルをはかるものになっていくと考え、指導法やカリキュラムを構築し、実際にたくさんの生徒の英語力を短期間で大幅に上げ、受験での実績も上げてきました。
ですので、そもそも大学受験予備校で培ってきたノウハウがあります。
また、2015年には「ENGLISH COMPANY」という社会人向けの英語のパーソナルトレーニングサービスを立ち上げ、これまでにおよそ14,000名の方にご受講いただいています。ここでメソッドをさらにブラッシュアップさせ、さらに個々の受講生の弱点を把握するためのアセスメントの精度やコーチングのスキルを高めてきました。
この経験を活かし、さらに多くの受講生に、ぜひ私たちの科学的なトレーニングの効果を実感してもらいたい、という思いで、「ENGLISH COMPANY大学受験部」を新設しました。
また、英語教育や第二言語習得研究を大学・大学院で研究してきた者や、高校などで大学受験指導の経験がある者など、専門性が高い人材が格段に増えていることも大きな強みであると考えています。
コンテンツ開発や実際の指導にも、そういった人材が活躍してくれています。
——「ENGLISH COMPANY大学受験部」が目指すゴールはなんでしょうか。
田畑さん:
私たちスタディーハッカーの理念はStudy Smart.「合理的にスマートに学ぶ」ということです。英語学習を、より科学的・合理的に行なうことで、時短になり、そのぶん他の教科の学習に割く時間を増やすことができます。
みなさんの努力を無駄にしないために、受験までの貴重な時間を有効に使うために、Study Smartの考え方を実践してもらいたい。そしてそれが、その先の学びの助けになればと思っています。
「ENGLISH COMPANY大学受験部」で、大学入学共通テストに必要な英語のスキルを効率よく上げるヒントが見つかるはずです。
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今後の大学入学共通テスト(英語)では、リーディングスピードとリスニングスキルの向上が必要だとわかりました。次の第2回では、共通テストに向けたリーディングの効率的な練習法についてご紹介します。
■ 大学入学共通テスト(英語)対策について インタビュー一覧
第1回:大学入学共通テスト(英語)で新たに必要な対策とは
第2回:共通テスト(英語)に必要なリーディング対策と効果的な練習法
第3回:共通テスト(英語)に必要なリスニング対策と効果的な練習法
【プロフィール】
田畑翔子(たばた・しょうこ)
京都府出身。米国留学を経て、立命館大学言語教育情報研究科にて英語教育を専門に研究。言語教育情報学修士・TESOL(英語教育の国際資格)を保持。株式会社スタディーハッカー常務取締役、コンテンツ戦略企画部 部長
(参考)
高校生新聞オンライン|【早わかりQ&A】大学入学共通テストはセンター試験から何が変わる?
独立行政法人大学入試センター|令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト問題作成方針