教育を考える 2018.7.19

グローバル社会で通用する人材に必要な「話すちから」~子どもたちの将来の職業はどうなる~

編集部
グローバル社会で通用する人材に必要な「話すちから」~子どもたちの将来の職業はどうなる~

東京都・文京区をはじめとした教育現場で、子どもたちの「話すちから」を育てるために「Speak up!」プログラムを提供している、アルバ・エデュ代表 竹内明日香さん

子どもプレゼンの第一人者である竹内さんの第2回目インタビューでは、プレゼン力やスピーチ力だけでなく、1対1での対話も「話すちから」だと教えてくれました。そして、テクニックよりも話す内容を「考える」ことが大切だということも。

最終回の今回は、実際の授業の内容である「キャリア教育×プレゼン」プログラム「東京都オリンピック・パラリンピック教育」プログラム親子・家族の絆が深まる「オヤトコライブ」プログラム、そして「スポーツ×プレゼン」プログラムについて語っていただきます。

特定のテーマを学び、ロジカルシンキングを経て、最後はプレゼンテーション

――アルバ・エデュの活動について詳しく教えていただけますか?

竹内さん:
社団設立当初は月に一度、場所を借りてワークショップを企画して、子どもたちに呼びかけて来てもらう、というところから始まりました。最初は公民館からスタートして、やがて企業の工場見学+プレゼン、スウェーデン大使館を借り切って対話、日本の文化を学んでプレゼンなど、各種企画を通じて「話すちから」を学んでもらっていました。

ただ、子どもたちを募集してのワークショップだと、情報に敏感で教育熱心なご家庭のお子さましかいらっしゃらないんです。もっと幅広い層に「話すちから」の大切さを知ってほしいと考え、出前授業というかたちで、学校を訪問するようになりました。ほかにも、保護者向けのセミナーや、教員向けの研修にお呼びいただくこともありますし、親子向けのセミナーもしております。

――ワークショップと出前授業のプログラムの違いはどんなところなのでしょう?

竹内さん:
プログラムの内容は今もほぼ同じです。テーマを決めて、そのテーマを軸に考えを深め、論理的に自分の考えをまとめるというプロセスを経て、最後に発表をしてもらいます

テーマは学校や呼んでくださる団体からのご要望にあわせて様々で、「STEM(科学・技術・工学・数学)」や「音楽」のときもあれば、マララ・ユスフザイさん(人権活動家であり、最年少ノーベル平和賞受賞者)というノーベル賞受賞者を題材に宗教とは何か、多様性とは何かをテーマにしてみたり。

ここ1ヶ月で学校からご要望があったテーマだけでも、「防災」「和菓子」「自分の宝物」「スポーツ」などなど実に様々です。授業回数は1回の時もあれば数回入ることもありますが、いずれも最後に子どもたちに発表をしてもらいます。

最近は、「東京都オリンピック・パラリンピック教育」に根差した授業も増えてきました。都の教育庁の教員専用ウェブサイトには、当社団の3つのプログラムが掲載されています。「スポーツ×話すちから!〜チームコミュニケーションを学ぼう」、「日本の伝統文化をプレゼンしよう」「お手伝い会社を考案しよう」です。

3つ目のお手伝い会社プログラムを例にとってご説明します。2020年に開催されるオリンピック・パラリンピックには、外国人、障がい者、地方からの観光客など、いろいろな人たちがやってくるでしょう。そのときにどんな事態が発生するのか、何があれば役に立てるかをチームで考え、架空の会社を設立してもらいます。

ねらいはオリンピック・パラリンピックを題材にした起業家(アントレプレナーシップ)教育です。社会の状況や他者の気持ちを想像することで、多様な価値観について考えることができます。そして、誰かを助ける会社を作ることで、社会に貢献する精神や、自分に何かできることがあるかもしれない、という自己効力感を持つことができるでしょう。

このアントレプレナーシップ教育は、我々が力を入れる「キャリア教育」(※1)の一部です。
(※1「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」(引用元:文部科学省))

――アルバ・エデュは、経済産業省「第6回キャリア教育アワード」優秀賞を受賞しているんですよね!

竹内さん:
ありがとうございます。そうなんです。自分の将来に対する思い、キャリアデザインといったものは、子どもから大人まで情熱を持って語れる題材の一つですので、プレゼンテーションとの相性が良いんです。さらに、アルバ・エデュのスタッフは、現役のコンサルタントや金融関連の仕事をしながら携わっているメンバーが中心なので、実際のビジネスの現場での生のお話を子どもたちに伝えられるのです。

キャリア教育としては、大学生向けに就活までの間に自己のキャリアをどう考えるか、というプログラム、中高生向けに「自分×社会」のかけざんでキャリアを考えてみようというプログラム、小学生には商品・サービスを考えて「お店を作ろう」というプログラムがあります。小学生は「ワールドカップの期間中に宿題をやってくれる会社!」とか斬新なアイディアがいろいろ出てきて(笑)おもしろいです。

チームワークも考えながら、それぞれどんな役割が向いているのか、お互いの良いところを書き出してもらうと、「絵がうまいね、じゃあ広報担当」とか、「足が速いから営業!」と、どんどん決まるんです。もちろん最後はその役割についても一人ひとり発表してもらいます。

グローバル社会で必要な話すちから

子どもの知的好奇心を育てる3つのポイント
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お父さん号泣!? 親子・家族の絆が深まるプログラム

――次に、親子向けのセミナーの内容を教えてください。

竹内さん:
「オヤトコライブ」は、親と子の対話を促進する企画です。最近は、家庭内での会話の時間が減り、スマホやゲームに費やす時間が増えています。また、お祭が減るなど、地域とのつながりが薄れてきていますし、違う世代同士が会話をするということ自体が減ってきていると感じます。とはいえ、対外的に話す時に必要になる「話すちから」の土台って、やはり家庭や地域で育まれるものだと思うんです。

そこで、親と子が対話を重ねて、共同でプレゼンテーションを作り上げるというプログラムを始めました。一つの例は、お父さんやお母さんが自分の仕事(家の中の仕事も含めて)について話をするのを子どもが聞き取る。そして今度は親が、子どもに対して「将来どんなことをやりたいの?」とインタビューをして、それぞれ発表するんです。

最初は、対話がうまくいかずに言い争ったりする親子も多いのですが、徐々にファシリテーション効果が出てくると、親子がとっても楽しそうに会話するようになり、ときには泣いちゃうお父さんもいらっしゃいます。このプログラム、お父さんたちが一番うれしそうなんです。お母さんは、「お父さんと子どもがすごく話すようになった」と、喜んでくれますね。夫婦の対話も深まりますよ!

――「話すちから」プログラムは、大人も学ぶことが多そうですね。竹内さんは、今までワークショップや出前授業で、何人くらい教えてきたのでしょう。

竹内さん:
教え子は、のべ9,700人です。みんなの前で発表するのが苦手だった子が、少しでも話せるようになったり、子どもたちの目が輝いた瞬間を見てしまうと……もう、この仕事辞められないですよね(笑)。

――9,700人ですか! やはり、小学校高学年や中学生、高校生が多いのですか? 幼稚園児、小学校低学年児向けのプログラムもあるのでしょうか。

竹内さん
幼稚園児の場合は、声が出るように発声練習をしたり、自分の好きなおもちゃについて話してもらったりします。あとは、英語でスピーチをしてもらったり。幼稚園児は、英語に対する苦手意識がないので、さっくり覚えて堂々とスピーチしてくれる子が多いですね。

小学校低学年の子たちへのおすすめは、「スポーツ×プレゼン」でしょうか。意外かもしれませんが、スポーツをする上でも「話すちから」はとても大事なんです

プロの競技でも、試合が終わったあとに、「あの失敗はここがいけなかった」とか「本当はこうすべきだった」とか、言語化できるかどうかで、パフォーマンスが変わってくるということが最近の研究で明らかになっています。チームプレーであれば、チーム内でどういう言葉をかけ合うか、実際に動いているときにお互い、どんな声かけをしたらうまく動けるのか? そんなことを体得してもらうプログラムです。

子どものうちからこの関係を認識して、話したり動いたりできるようになったら、運動能力も「話すちから」も相乗効果でアップするはずです。つまり、運動能力を高めるためには、筋力にプラスして言語能力を鍛える必要があるということと、逆に勉強は座学だけではなく行動しながら理解するとより定着するという、その両面を加味しています。このプログラムは、アスリートさんたちと一緒に、体育館や校庭で授業をしています。

これからの子どもたちにとって大切な「熱中する力」

――なるほど、スポーツにも「話すちから」が必要なのですね。たしかに、声かけで全く違った結果になる可能性もありますよね。最後に、これからの時代に必要とされる人材について教えていただけますか?

竹内さん:
まず、いい大学を出て、大手企業に入れば安心、というキャリアパスが“安心”ではなくなると思っています。

昔は最新の情報や技術を大企業が独占して持っていたことで、企業間、企業対個人の力関係が決まっていました。でも、今は誰もがアクセスできる情報が増え、研究もオープンイノベーション、すなわち広く公開することで発展を促したりする。3Dプリンターによって開発工程が短縮できたり、AIが解析したデータをベンチャーが活用したりと、研究開発や生産の仕方が変わってきていますよね。もう大きいことが強いことではなくなっているんです。

ではどう変わるのかというと、散在する様々な要素の「かけざん」による新しい機会の創造が増えるのではないかと思うのです。具体的には、異業種であっても協力し合ったり、どれだけ多種多様な人を巻き込んで、同じベクトルに向かって一緒に手を携えてやっていけるか、というようになるのではないでしょうか。

そうすると、やはり「話すちから」は大事なんです。プレゼン力は巻き込み力ですから。「その話おもしろそうだから、乗る!」と言わせるスキルが必要になってきますよね。

そして今までの優等生のような、物をいっぱい知っていることって重要ではなくなってくる……。だってそんなのGoogle先生に任せておけばいいんですもん。それよりも、共感力」とか「何かに熱中する力」とか、そういう力が大切になってくるはずですよ

より自分の「好き!」とか「やりたい!」という気持ちで動ける時代、人がもっと心身ともに自由な時代になるのではないでしょうか。

――明るいですね!

竹内さん:
これからは、今までの「いい大学に入って、いい会社に」ということが、必ずしも幸せにはつながらないかもしれない。だったら、その子の好きなものを伸ばしてあげられるように、受け入れてあげたいですよね。私も3人の子どもの母として肝に銘じています(笑)。

そして子どもたちに言いたいです。「大丈夫! 未来は明るい! あなたたちの力で変えるのよ!」と。

【プロフィール】
竹内明日香(たけうち・あすか)
東京大学法学部卒業。日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)にて国際営業や審査等に従事したのち独立、2009年に海外事業支援と情報発信支援を行うアルバ・パートナーズを設立。さらに子どもたちや若者たちの話す力を伸ばすべくアルバ・エデュを設立。プレゼン研修や学校向け授業、女性活躍や働き方改革に関するセミナーを行っている。音羽の森オーケストラ「ポコアポコ」主宰、公立小元PTA会長で3児の母。

『スポーツとプレゼンで学ぶ リーダーシップ』
この夏、「スポーツゲーム×話すちから」で子どもがみるみる変わる!

今、スポーツ界ではコミュニケーションの重要性に注目が集まっています。集団の中でのスムーズなコミュニケーションにより、個々の信頼関係が生まれ、本来持っている個々の力が発揮されるからです。結果として集団の結束力が高まり、競技力の向上に繋がっていきます。

今回は身体を動かしながら、目標を達成するためにどのように協力をしなければならないか? そして、言葉の重要性を感じられるプログラムになっています。前半部分は、サッカーコーチの視点から小学生に必要な神経系統のトレーニングを行い、身体を動かす基礎を身に付けます。後半部分には、いよいよコミュニケーションの重要性に気が付くプログラムを実践していきます。

スポーツの場面だけでなく、仲間に対する声の掛け方、タイミング、言葉の選び方、他者への思いやりなど、日常生活でも新しい気付きを感じられるプログラムです。
(大槻邦雄)

日時:2018年7月27日(金)
【1・2年生】 9:00~10:00(30人)
【2年生以上】10:15~12:00(30人)

会場:文化シャッター体育館(2階BXホール)
東京都文京区西片1-17-3

【今後のアルバ・エデュの養成講座 開設日時】
●ご自身でプレゼン講座を開催してみたい方向け☛
Speak up! 認定アソシエイトインストラクター資格(I-Aコース)養成講座
・2018年9月27日(木)10:00-12:00、13:00-16:00
 2018年9月29日(土)10:00-12:00、13:00-16:00 計2日10時間
詳しくはこちらまで→
お申し込みはこちらから→
お問合せはこちらまで info@alba-edu.org
『アルバ・エデュ』ホームページはこちら→

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話していると、なんだかこちらまで元気が出てくるような、明るくパワフルなオーラをまとった竹内さんでしたが、自身のお子さんたちのお話には、「もう……合宿しないと語りつくせないくらいの苦労がありますよ!(涙)」と豪快に笑う。会ったばかりの筆者に、そんな母としての一面をチラリと見せてくれる竹内さんは、まさに「話すちから」を持った方。

今回のインタビューをとおして、様々なメディアで話題に上っている「話すちから」は今後生きていく上で必須スキルになるのだと確信しました。

■ 『アルバ・エデュ』竹内明日香さん インタビュー一覧
第1回:世界で通用する「話すちから」を鍛えよう!
第2回:子どもたちが国際社会で活躍するために必要な「話すちから」
第3回:グローバル社会で通用する人材に必要な「話すちから」~子どもたちの将来の職業はどうなる~