こんにちは。日本知育玩具協会認定講師の中村桃子です。連載第7回となる今回は、「自分に “いいね” が押せる子になる遊び」についてお話ししましょう。
突然ですが、皆さんは自分のことが好きですか? 「好きなときもあれば嫌いなときもある」とか「ダメなところもあるけれど、こんな自分が案外好き」とか、さまざまな声が聞こえてきそうですね。では、子どもたちに同じ質問をしてみたらどうなるでしょう?
平成27年度に調査された「高校生の生活と意識に関する調査 -日本・米国・中国・韓国の比較-」によると、「自分はダメな人間だと思うことがある」と回答した高校生の割合は、アメリカが45.1%、中国が56.4%、韓国が35.2%だったのに対し、なんと日本は72.5%。4カ国中、最も高い結果になっています。つまり、日本の子どもたちは「自分が好き」「自分には価値がある」と思うことのできる心の力が弱いのです。
じつは、この「自尊感情」「自己肯定感」を大切に育ててあげたい時期というのが、幼児期の後半にあたります。さらに、その後の学童期にかけて、この「人を信じ、自分を信じる力」こそが、人と関わりながら自分の価値を確かなものにしていくために必要な力になってくるのです。
では、幼児期・学童期のお子さまを子育て中の親として、いったいどうしたらよいのでしょうか? 今回は皆さんに、この時期の子どもたちの自己肯定感を育てる遊びのひとつとしておすすめの『構成遊び』をご紹介しましょう。
『構成遊び』とはどんな遊び?
構成遊びとは、色板やチップといった “形あるもの” を並べたりつなげたりして、別の形を作り出す遊びのことをいいます。今回は特に、平面での構成遊びについてご紹介しますね。
ここで、ちょっと歴史をさかのぼってみましょう。構成遊びを考えたのは誰なのでしょうか?
じつは、世界で初めて幼稚園を作り、のちの幼児教育の祖とも呼ばれるようになった、ドイツの教育学者フレーベルなのです。幼児期の遊びとして、フレーベルはこの構成遊びをとても大切にしていました。それゆえ、さまざまな種類の構成玩具が、現在も多数存在しています。
では、そもそもフレーベルが構成遊びに求めたこととは、いったい何だったのでしょうか? それは、構成玩具を用いて「作る→飾る→壊す→作る→飾る→壊す……」を繰り返すこと、つまり「遊びを循環させる」ことでした。
ある構成玩具で今は汽車が作られていたとしても、じつは1週間前は飛行機だった。こんな具合に、同じ構成玩具であっても、子どもがイメージするものへ常に姿を変えていきます。これが構成玩具の役割であり、大切なところ。つまり、構成遊びとは、一方的な遊びではなく、循環していく遊びなのです。これが、フレーベルが言うところの、構成遊びのすばらしさなのですね。
できあがった作品を「うまい」「下手」で評価していませんか?
構成遊びにおいて、子どもたちの遊びの方向性は、大きく分けて2つあります。
1つめは、「形で遊ぶ」という幾何学的な方向です。数学的であったり、形の美しさを楽しんだりということですね。
そしてもう1つは「見立てる」という方向です。生活と遊びを行ったり来たりしながら、生活の中で材料を得て遊びの中で作っていくという方向ですね。この場合、子どもたちは、生活の中で見たものや絵本の中の “視覚的なもの” を自分の中に取り入れて、置き換える作業を右脳でします。つまり、構成玩具を使って置き換え、さまざまなものに「見立てる」という行為によって、構造化する力が育っていくのです。
このように、私たち大人は、子どもたちの遊びには2つの方向性があることを知っておくとよいですね。
ではなぜ、構成遊びが自己肯定感を高めてくれるのでしょうか? それは、“循環して遊んでいく” という過程に理由があります。
ある子は構成玩具を使って模様など抽象的な作品を作り、ある子は見立てることによって具体的なものをテーマとして作品を作ります。当然、できあがった作品に正解・不正解はありません。「自由に表現していいんだよ」という環境が保障されるのですね。そして子どもたちは、作った作品を飾ってもらうことで、「僕(私)が認められているんだ」「ここには僕(私)が安心できる居場所があるんだ」ということを確かめていけるのです。
自己肯定感は、決してひとりでは育ちません。大人との関係から始まって、やがてお友だちどうしで認め合うようになり育っていくものです。ぜひ、この環境のなかで、自分の作品を繰り返し飾ってもらう経験をたくさん積ませてあげましょう。
『構成遊び』の玩具にはどんなものがあるの?
ここでひとつ、構成遊びの知育玩具をご紹介しましょう。こちらの画像に写っているのは、Dusyma社(ドイツ)の「小さな大工さん」です。
コルクに、いろいろな色や形の色板を釘で打ちつけて作品を作っていく、フレーベルの理論に基づいて開発された知育玩具です。じつは、この色板には秘密があります。それは、色板に “基尺” があるということ。
基尺とは、パーツの基本となる1辺の寸法。四角であろうと三角であろうと丸であろうと、すべての形において、基準とする基尺の整数倍の大きさになっているため、「どう作っても必ず美しい作品ができあがる」というゴールが用意されているのです。
私たち大人はつい、自分の子どもが作ったものをほかの子のものと比べてしまいがちです。でも、子どもたちにとって大切なのは、「できた!」という達成感を味わわせたり、できあがった作品を周囲に認めてもらうことで自分の自信へとつなげていったりすること。これを繰り返していくなかで、スキルは自然と伸びていきます。このような体験を積み重ね、自信を持って「自分にいいね!」が押せる子に導いてあげたいですね。
さて、次回は「流行りに左右されない遊びって?」についてお話ししたいと思います。お楽しみに!
(参考)
国立青少年教育振興機構
監修:(社)日本知育玩具協会