教育を考える 2018.8.16

グローバル社会を生き抜く「プレゼン力」は自信から生まれる――全米最優秀女子高生の母・ボーク重子さんインタビューpart2

グローバル社会を生き抜く「プレゼン力」は自信から生まれる――全米最優秀女子高生の母・ボーク重子さんインタビューpart2

我が子が成人を迎える頃には、本格的なグローバル社会がやってきます。少子高齢化がこのままのペースで進めば、現役世代の人口は減る一方。人不足を補うために外国人労働者が増え、国籍はおろか言語も文化もちがう人たちと仕事をすることがあたりまえになるはずです。そんなグローバル社会を生き抜ける人間に育てるために、親はなにをすればいいのでしょうか

2018年2月に『世界最高の子育て――「全米最優秀女子高生」を育てた教育法』(ダイヤモンド社)を出版し話題となった、ボーク重子さんにヒントをもらってきました。

構成/岩川悟 文/大住奈保子(Tokyo Edit) 写真/玉井美世子

なぜ日本人はプレゼンが苦手なのか?

「プレゼンは得意ですか?」と聞かれて、即座に「はい」と答えられる日本人は少ないように感じます。相手の顔色をうかがい、気分を害さないよう同調するのがよいことだ――。日本社会に根強く残るこのような文化が、自己表現の機会を少なからず奪ってきたのかもしれません。

コミュニケーションは本来、双方向であるべきものです。空気を読んで、それに沿った言動をするのは一方通行のコミュニケーション。お互いに影響を及ぼさないので発展や成長がありません。異なる意見を持った人どうしが意見を交換しながら「対話」してこそ、コミュニケーションの意味が出てくるというものです。これからのグローバル社会では、一人ひとりの考え方や意見がちがうことがスタンダードになります。もちろんそこには、「正しい」とか「間違いだ」とかいう基準はありません。言ってみれば、どんな意見も正解なのです。自信を持って自分の考えを表現し、他人との意見の交換から学ぶ。こうした姿勢を身につけた子どもが、将来的に優れた人材になるはずです。

わたし自身はスピーチが苦手だったので、アメリカに住みはじめた当初は「やっぱり日本人は、アメリカ人のように流暢にはプレゼンできないよね」と自分に言い聞かせていたこともありました。しかしそんなわたしでさえ、アメリカでスピーチのセミナーに参加したことで、驚くほどプレゼンが上達したのです。「ああ、伝える力は訓練で上達するのだ」と、身にしみて感じた経験でした。大人でもこうなのですから、成長途上の子どもならなおさらではありませんか? 早いうちに自己表現力の基礎をつくってあげれば、将来の選択肢が増えていくのは明確なことです。とはいえ、難しいアプローチは一切必要ありません。わたしの子育てのなかで、特に効果があったアプローチをご紹介していこうと思います。

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毎晩の夕食は子どものプレゼン力を伸ばすチャンス!

夕食のときに、「今日はどんなことがあったの?」と子どもに聞くという方は多いかと思います。じつはこれだって、立派なプレゼン練習の機会です。我が家でも夕食時に家族全員が1~2分ずつ、今日の出来事を話す時間を設けていました。ポイントは、「いつ、誰が、どこで、なにを、なぜ、どのように」という、いわゆる5W1Hがしっかりと盛り込まれていること。もし子どもがどれかを伝え忘れていたら、「誰と? どうして?」などと質問してみましょう。必要な要素を網羅しつつ1~2分に話をまとめるというのは、想像以上に頭を使うものです。

これが習慣になってきたら、月に1回の3分間スピーチもぜひ取り入れてみてください。スピーチと言っても、なにも堅苦しいテーマでなくてOK。親に買ってほしいおもちゃの交渉でもいいですし、最近友だちとの間で流行している遊びについてでもいいのです。夕食時のスピーチとちがうのは、聞く人を引きつけるよう工夫を凝らすことにあります。人間はそれほど長い間集中できるようにはできていません。「掴み」の話題のチョイスや要点・結論の伝え方、聞き手のイメージを助ける具体例といったように、わかりやすい説明にはさまざまな仕掛けが要されます。それを子どもに体得させることが、3分間スピーチの狙いです。

子どものプレゼンに対しては、ほめるばかりでなく、あえて「わたしはそうは思わないけどな」「別の考え方もあるんじゃない?」と別の意見も提案してみましょう。目的は、子どもの意見を変えさせることではありません。「そんな考え方もあるんだ」と気づかせ、自分の意見をあらためて見直させることで、深い思考力を養うのです。また、ちがう意見が出てきたときに即座に「批判された!」と喧嘩腰になったりネガティブに捉えなくなったりする習慣を身につける訓練にもなります。

対話力をつけるという点では、普段の雑談のテーマに話題のテレビ番組や本、映画などを選ぶのもオススメです。みんなで感想を言い合えば、子どもは「同じものを見ても人それぞれ意見はちがうんだ」ということを学びます。多角的にものごとを見るためのトレーニングになりますし、子どもの価値観を知るきっかけにもなります。

グローバル社会を生き抜く「プレゼン力」は自信から生まれる2

「ほめる」より「認める」で自信は育つ

自己表現力はプレゼンをはじめとした訓練で身につくとはいえ、ベースには「自分は大丈夫だ」という自信も必要です。自信がない子どもは、「失敗したくない……」という気持ちや「自分の言ったことが間違っていたり批判されたらどうしよう……」という心配が先立って、自分の気持ちをのびのびと表現できません。すると、なにごとにも臆病になり、新しい挑戦にも消極的になっていきます。

ではどうすれば、自信のある子に育つのでしょうか? たくさん褒める? それももちろんいいのですが、わたしは、「褒める」より「認める」ことを心がけました。子どもを親の従属物ではなく、ひとりのちがった個性をもつ人間として認めるということです。「ママはそのままのあなたが大好き」という感じに常日頃からお子さんをありのままに受け入れることは、お子さんが自分をありのままに受け入れ、そんな自分を好きになり、自分を信じる力をつける源だと思います。愛されている、大事にされていると感じることは確実に子どもの自信につながります。これは大人だってそうですよね? ですから、我が家では娘に愛していることを毎日伝えていました。これは特に、失敗したり思ったような結果が出なかったときに効力を発揮しました。

自信がつけば、強さも同時に育っていきます。ここでいう強さとは、失敗しても立ち上がることのできる「回復力」や「やり遂げる力(グリット)」のこと。長い人生を考えれば、失敗と無縁で過ごすことなどできません。失敗しないことよりも、何度失敗しても再起できることのほうがよほど大事なのです。回復力やグリットをつける一番のチャンスは、やはり子どもが失敗したとき。落ち込む子どもに、失敗のなかに隠れている「よかったこと」に気づかせることがポイントです。ただし、こちらから「ここがよかった」「あそこがよかった」と先回りして教えるのではなく「でも、いいこともあったじゃない?」と問いかけ、ポジティブな思考を促してあげると良いかと思います。

「選択肢は他にもたくさんある」と思えることも、回復力につながります。子どもは、選択肢がないから八方塞がりになり「もうどうしようもない……」と思ってしまいます。柔軟性と想像力は回復力を伸ばしますから、それを鍛えるためにも「他の方法もあるんじゃない? 試してみようか」と、お子さんに聞いてみましょう。そこで、親が一緒になって方法を考えるのもいいと思います。そのとき「こうしなさい」と親の意見を押しつけるのは逆効果。「わたしはそんなケースでこうしたけど、もっといいやり方はあるかな?」などと問いかけ、あくまでも子ども主体で進めるようにすると大きな効果が期待できると思います。慣れないうちはちょっと面倒と思われるかもしれませんが、それも最初のうちだけ。この新しい習慣が身につけばそれが普通のこととなります。そしてそれは、お子さんにきっと良い効果をもたらすでしょう。

***
自信に裏打ちされた豊かな自己表現力、そして、失敗にもめげない強い心は、子どもの大きな財産になります。子どもが将来、襲いくる荒波を乗り越えて自分らしく生きられるかは、いまの接し方次第。ボーク重子さんのアドバイスを参考に、お互いをひとりの人間として尊重し合えるような、成熟した親子関係を目指してください。

世界最強の子育てツール SMARTゴール 「全米最優秀女子高生」と母親が実践した目標達成の方法
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ボーク重子 著/祥伝社(2018)

■ ボーク重子さん インタビュー一覧
第1回:叱らなくても、子どもの「自主性」はどんどん育っていく
第2回:グローバル社会を生き抜く「プレゼン力」は自信から生まれる
第3回:子どもの才能はその子の「パッション」に隠されている
第4回:誰でもベストな親になれる「SMARTゴール」とは?

【プロフィール】
ボーク重子(ぼーく・しげこ)
ライフコーチ、アートコンサルティング。福島県出身。30歳の誕生日1週間前に「わたしの一番したいことをしよう」と渡英し、ロンドンにある美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学。現代美術史の修士号を取得後、留学中にフランス語の勉強に訪れた南仏の語学学校でのちに夫となるアメリカ人と出会い1998年に渡米、出産。「我が子には、自分で人生を切り開き、どんなときも自分らしく強く生きてほしい」との願いを胸に、全米一研究機関の集中するワシントンDCで、最高の子育て法を模索。科学的データ、最新の教育法、心理学セミナー、大学での研究や名門大学の教育に対する考え方を詳細にリサーチし、アメリカのエリート教育にたどりつく。最高の子育てには親自身の自分育てが必要だという研究データをもとに、目標達成メソッド「SMARTゴール」を子育てに応用、娘・スカイさんは「全米最優秀女子高生 The Distinguished Young Women of America」に選ばれた。同時に、子育てのための自分育てで自身のキャリアも着実に積み上げ、2004年、念願のアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年アートを通じての社会貢献を評価されワシントニアン誌によってオバマ大統領(当時上院議員)やワシントンポスト紙副社長らとともに「ワシントンの美しい25人」に選ばれた。2009年、ギャラリー業務に加えアートコンサルティング業を開始。現在はアート業界でのキャリアに加え、ライフコーチとして全米並びに日本各地で、子育て、キャリア構築、ワークライフバランスについて講演会やワークショップを展開している。

【ライタープロフィール】
大住 奈保子(おおすみ・なほこ)
編集者・ライター。金融・経済系を中心に、Webサイト・書籍・パンフレットなどのコンテンツ制作を手がける株式会社Tokyo Editの代表を務める。プライベートでは、お菓子づくりと着物散策、猫が好きな30代。
これまでの経歴は、http://www.lancers.jp/magazine/29298から。
Twitterアカウント(@tokyo_edit
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