教育を考える 2018.8.22

誰でもベストな親になれる「SMARTゴール」とは?――全米最優秀女子高生の母・ボーク重子さんインタビューpart4

誰でもベストな親になれる「SMARTゴール」とは?――全米最優秀女子高生の母・ボーク重子さんインタビューpart4

「子どもは親の背中を見て育つ」と言われます。親は子どもの良き手本となるために、どんなことに気をつければいいのでしょうか?

2018年2月に『世界最高の子育て――「全米最優秀女子高生」を育てた教育法』(ダイヤモンド社)を出版し話題となったボーク重子さんは、子育てにおける「親の自分育て」を提唱しています。その具体的なアプローチ法を聞いてみました。

構成/岩川悟 文/大住奈保子(Tokyo Edit) 写真/玉井美世子

子どもの成功は親のタイプで決まる!?

みなさんは、子どもに対して「自分のようになってほしい」と思いますか? 娘・スカイが生まれた頃のわたしは、まったく自分に自信がありませんでした。朝起きて鏡を見ては、「スカイには自分のようにはなってほしくない……」と願う毎日だったのです。

でも、子どもは親の背中を見て育つもの。そう考えると、自信のない親に育てられる子どもが自信のある子に育つのは難しい。

そんなふうに悩んでいたわたしがある日見つけたのが、アメリカの発達心理学者であるダイアナ・ブルンベルグ・バウムリンド氏の研究でした。そこには、「親のタイプで子どもの成功が決まる」と書いてあるではありませんか。ベストなタイプの親に育てられた子どもは、主体性や責任感、そして自信を備え、幸福や満足を感じることができる。その結果、人生で成功をおさめる確率が高いというのです。

親のタイプは、民主型/寛容型/服従型/無関心型の4つに分類されます。下のようなマトリクスで見るとわかりやすいでしょう。縦軸は子どもに対するコントロールや期待の度合い、横軸は子どもの気持ちやニーズを汲み取る温かさの度合いを表しています。

誰でもベストな親になれる「SMARTゴール」とは?2

バウムリンド氏の言うベストな親のタイプは、この図にある民主型の親。コントロールや期待の度合いと、子どもの気持ちやニーズを汲み取る温かさの度合い、両方が高いのが特徴です。

「コントロールの度合いが高い」と言うと少しネガティブな印象を受けるかもしれませんが、この場合のコントロールとは、ルールが守られているかを適度に管理すること。ルールは子どもと話し合って設定しますし、ルールを破っても感情的に叱らず、子ども自身に考えさせ責任を取らせるというのが基本となります。もちろん自分自身にも厳しくして、子どもの良き手本となれるように努めます。

自分ではなく子どものニーズを満たすのも、民主型の親の特徴です。なにかを決めるときは、自分の意見を言う前に子どもの気持ちを聞くのです。こうした親に育てられた子どもは、幸福感と自信に溢れ、失敗を恐れずチャレンジする強さも備えるようになります。

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子どもをダメにする親の特徴

ベストな親である民主型とはちがい、よくない親の例として挙げられているのが、服従型、寛容型、無関心型の3つのタイプです。子どもへの期待度も温かさも低い無関心型は問題外なのですが、服従型と寛容型については「良い親であろう」と努力している人でも、陥ってしまう可能性が十分にあります。事実、わたしもそうでした。

服従型は読んで字のごとく、子どもを服従させるタイプの親。典型的な「スパルタ教育ママ」がこのタイプに該当します。次のようなことを子どもによく言っていたら、あなたは服従型の親になってしまっているかもしれません。

  • 「言うことを聞きなさい」
  • 「わたしが言ったとおりにやればいいのよ」
  • 「ダメね、がっかりよ」
  • 「どうしてできないの」
  • 「やってくれたらうれしいなあ」

 
これらは、子どものためを思っているようでいて、じつは世間体や思いどおりにしたいといった自分(親)のニーズを満たすための子育て。意外と陥りやすいタイプですよね。

一方で、一見優しく理想的なタイプに見えるのが、寛容型の親。むやみやたらと褒めたりご褒美を与えたりするのが特徴で、子どもがルールを破っても「NO」と言えません。その裏側には「子どもに嫌われたくない」という自信のなさが潜んでいます。寛容型の親に育てられた子どもは、ワガママで自分勝手な性格になる可能性が高まるとリサーチは指摘しています。規則を守れないので共同生活ができず、周囲の人たちと馴染むのにも苦労するでしょう。

服従型、寛容型といったタイプの親に共通するのは、自分に甘く、親自身が自分の人生に自信が持てず、目標もないということ。または、自分の考えが絶対という狭い視野や思い込みで生きているということです。

誰でもベストな親になれる「SMARTゴール」とは?3

「SMARTゴール」でベストな親になる

自信も目標もなかったわたしは、まさにこのふたつの親のタイプに陥りがちでした。そんなときに出会ったのが、「SMARTゴール」というビジネスツールだったのです。ビジネスの世界で一般的に使われているゴール設定と達成のためのツールですが、わたしはこれを子育てに活用しようと思い立ちます。というのも、親自身が夢を持ち、失敗と成功を重ねながら前進する姿を子どもに見せる。「これに勝る教育法はない」と感じたからです。

もちろんそこには、自分からやること、やり遂げる力、パッションのお手本という意味もありますが、もうひとつとても大切な要素があります。それは、親も目的に向かって自分を律し、自分に対して深い理解と愛情を持つようになることで、自分自身に対する態度が民主的になるということなのです。

つまり、自分自身に対する態度が民主型の親(人間)になることが、第一歩だと思ったのです。自分自身に対して民主型の態度を持ち子どもに接するから、きちんとした民主型の親になれる。だって、自分自身に対してできないことは、子どもに対してすることも無理ですし、子どもに強制してやらせるのも変ではありませんか?

わたしが子育てに応用したツールの「SMART」とは、ゴール設定と達成の5要素の頭文字を取ったもので、具体的には次のような要素になります。

  • Specific(具体的)
  • Measurable(計測可能)
  • Actionable(自力で達成可能)
  • Realistic(現実的)
  • Time limited(時間制限付き)

 
我が家では、これをまずわたし自身に使い、次に娘の夏休みの課題や学校での役割をまっとうすることなどに使いはじめました。なにしろ親は手本を見せなければなりませんから、まずわたし自身が実践したのです。

子どもの場合であれば、なにかをしたら必ず結果が出るということを教えるために、それこそ今日1日でできることといった小さなことからはじめると主体性と実行力を養うための良い訓練になると思います。そこから今日1日ではなく、1週間、1カ月といったように期限を延ばしていくのが良いでしょう。

子どもは、自分が結果を出すごとに自信を身につけ、主体性と実行力を発揮し、ときに自制心を発揮しながら責任を持ってやり遂げることで幸福感と人生に対する満足度を上げていきます。そうやって、民主型の子育てが育む子どもの特性を得ることができるのです。わたしがSMARTゴールを世界最高の子育てツールと呼ぶゆえんです。

親の幸福度は子に遺伝する

ここで、見本を見せる立場の親のSMARTゴールの実践例をご紹介したいと思います。

まず最初に、自分の思いを書きます。たとえば、「人脈を増やしたい」だとしましょう。ではこれを、実際にSMART化していきます。最初に期限を決めます。というのも、これが思いを夢や憧れから現実の目標に変える鍵だからです。「いつまでに」と決めた瞬間から、漠然とした思いは確固たる目標へと変わります。

SMARTゴールの時間制限(Time limited)は3週間。どうして3週間かというと、それが人が新しい習慣に慣れる最小単位だからです。夢を叶えるとはいまの自分の行動を変えたりなにかをプラスすること、つまり新しい習慣を取り入れることです。

ちなみに大体の場合、新しい習慣に慣れるために3週間かかるから、コーチングの世界ではなにかをするときに3週間を結果が出る最小単位としているコーチが多いとされています。

次に、現実的にできそうな目標を考えます。そして、この期限内にできる行動(Actionable)を書き出します。ひと通り書き終えたら、それぞれをさらに具体的な行動に落としこんでみましょう。目標が「人脈づくり」なら「人に会えるイベントに参加する」というようにです。

次は、行動を数値化(Measurable)する作業です。先の、「人に会えるイベントに参加する」という行動目標を、3週間で何回できそうか考えるのです。それができたら、1日ではどうか、1週間ではどうかと細分化してください。

立てた目標数値が現実的(Realistic)かどうかのチェックも大切なポイントです。自分の性格やスケジュールを鑑みて、「大丈夫だ」と思えればOK。なぜ「大丈夫だ」と思ったのかという根拠も書いておくと、後から振り返ったときに役立つことでしょう。

そんなふうにSMARTに検証していくと、わたしの「人脈を増やしたい」という思いは「アートの世界を知るためにアートの人脈を広げる。そのためにまずは、3週間アート関連の人に会えるイベントに参加する。月曜日から金曜日までひとつは参加し、最低4人と名刺交換する。これを3週間続けて15のイベントに出席し60人の使える名刺を集め連絡を取る」。具体的に自分の行動の成否が数値でモニターでき、3週間後に自力でたどり着ける目標への道筋がはっきりとします。これだとできそうな気がしますよね? そして、確実にできます。最初は大変だと思っていたことも、3週間後にはイベントに出かけて人に会うという新しい習慣が苦もなくあなたの一部となっていることでしょう。そしてこの3週間が重なれば、きっと大きなことに到達しているはずです。

SMARTゴールを使えば自分を厳しく律し高めながらも、あるがままの自分を受け入れ愛し、一層自分を高めるよう努力するという民主型の親の特性が得られるだけではなく、親自身も子どもと一緒に自分の目標を叶えていく人生を実践することになります。そんな人生は幸福に溢れていますし、必ず子どもの人生に良い影響を及ぼすでしょう。親の幸福度は子に遺伝すると言いますからね。ベストな親であるために、SMART ゴールをぜひ試してみてください。

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いい親になろうと努力するのは大切なことですが、その方向性が間違っていると効果は半減してしまいます。「SMARTゴール」を使って自分自身と向き合い、本当に子どものためになる子育てができているのかを、定期的に見直してみてはいかがでしょうか。

世界最強の子育てツール SMARTゴール 「全米最優秀女子高生」と母親が実践した目標達成の方法
世界最強の子育てツール SMARTゴール 「全米最優秀女子高生」と母親が実践した目標達成の方法
ボーク重子 著/祥伝社(2018)

■ ボーク重子さん インタビュー一覧
第1回:叱らなくても、子どもの「自主性」はどんどん育っていく
第2回:グローバル社会を生き抜く「プレゼン力」は自信から生まれる
第3回:子どもの才能はその子の「パッション」に隠されている
第4回:誰でもベストな親になれる「SMARTゴール」とは?

【プロフィール】
ボーク重子(ぼーく・しげこ)
ライフコーチ、アートコンサルティング。福島県出身。30歳の誕生日1週間前に「わたしの一番したいことをしよう」と渡英し、ロンドンにある美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学。現代美術史の修士号を取得後、留学中にフランス語の勉強に訪れた南仏の語学学校でのちに夫となるアメリカ人と出会い1998年に渡米、出産。「我が子には、自分で人生を切り開き、どんなときも自分らしく強く生きてほしい」との願いを胸に、全米一研究機関の集中するワシントンDCで、最高の子育て法を模索。科学的データ、最新の教育法、心理学セミナー、大学での研究や名門大学の教育に対する考え方を詳細にリサーチし、アメリカのエリート教育にたどりつく。最高の子育てには親自身の自分育てが必要だという研究データをもとに、目標達成メソッド「SMARTゴール」を子育てに応用、娘・スカイさんは「全米最優秀女子高生 The Distinguished Young Women of America」に選ばれた。同時に、子育てのための自分育てで自身のキャリアも着実に積み上げ、2004年、念願のアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年アートを通じての社会貢献を評価されワシントニアン誌によってオバマ大統領(当時上院議員)やワシントンポスト紙副社長らとともに「ワシントンの美しい25人」に選ばれた。2009年、ギャラリー業務に加えアートコンサルティング業を開始。現在はアート業界でのキャリアに加え、ライフコーチとして全米並びに日本各地で、子育て、キャリア構築、ワークライフバランスについて講演会やワークショップを展開している。

【ライタープロフィール】
大住 奈保子(おおすみ・なほこ)
編集者・ライター。金融・経済系を中心に、Webサイト・書籍・パンフレットなどのコンテンツ制作を手がける株式会社Tokyo Editの代表を務める。プライベートでは、お菓子づくりと着物散策、猫が好きな30代。
これまでの経歴は、http://www.lancers.jp/magazine/29298から。
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