あたまを使う/教育を考える/本・絵本/英語 2018.12.13

“歴史好きな子” を育てるには? 読書のお供に「地図と年表」を、調べ学習のきっかけに「映画や本」を。

吉野亜矢子
“歴史好きな子” を育てるには? 読書のお供に「地図と年表」を、調べ学習のきっかけに「映画や本」を。

『天空の城ラピュタ』『借りぐらしのアリエッティ』と続いてきた「アニメから入るイギリス児童小説とイギリス社会」。このテーマでの最終回にあたる今回は『思い出のマーニー』を取り上げたいと思います。

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『思い出のマーニー』と歴史への糸口としての童話

スタジオジブリ製作の映画では『ハウルの動く城』もまた、イギリスの小説が原作ですが、原作を大きく変更する宮崎駿監督に比べ、『借りぐらしのアリエッティ』『思い出のマーニー』を手がけた米林宏昌監督は、舞台を日本に移すことはあっても、話の大筋をあまり変えません

映画を見て興味を抱き、原作へ、という流れが比較的作りやすいと思います。

映画『思い出のマーニー』は12歳の少女、杏奈が療養のために訪れた海辺の街で不思議な体験をするお話です。孤児である杏奈は学校で孤立しており、なんとなく友達の輪に入れないような気がしています。持病の喘息もあり、田舎で療養することになった杏奈は、療養先で「湿っ地屋敷」と呼ばれる古い洋館を目にし、なぜかその屋敷を知っていると感じます。

その屋敷で杏奈は、マーニーという名の金髪の少女と友情を育むのですが、マーニーの周囲は何か不思議な現象が取り巻いています。まだ見ていない読者の方もいるでしょうから、ここから先は詳しくはお話しませんが、『思い出のマーニー』の原作のタイトル When Marnie was There(マーニーがいた頃)が指し示すように、過去が現在と触れ合う物語だ、歴史が鍵になる話である、という程度は言っても良いでしょう。

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昔にタイプスリップ! 「お屋敷の不思議」系物語

『思い出のマーニー』の原作、When Marnie was There は1967年にイギリスで発表されました。実は映画化が決まった段階では本国イギリスでは絶版であり、忘れ去られた名作に近かったのではないかと思います。

イギリス発の名作児童小説には、時々こういう不思議な現象が起こります。本国で忘れられた名作が、日本では翻訳で長く愛される、という現象です。映画化されたおかげで、2014年に英語版も復刊されています。

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さて、『マーニー』は、子供が、古いお屋敷で、会うはずのない存在と出会うという物語です。そういう意味では、前回取り上げた『借りぐらしのアリエッティ』と基本的な構造がよく似ています。

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実はイギリスの20世紀の頭から、第二次大戦後しばらくぐらいまでの児童文学には、子供が(大抵お屋敷で)過去と出会う、というパターンの作品群が数多くあります。『アリエッティ』の原作を書いたメアリー・ノートンも、魔法のベッドに乗って過去に飛ぶお話を書いています。

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そして現在、日本で古典的な児童向け小説としてまだ手に取られているものには、この時期に書かれたものが多いのです。

マーニーの映画や原作が好きなようでしたら、ぜひ、こうした「お屋敷の不思議」系の物語にも足を踏み入れて欲しいと思います。いくつか著名なものをご紹介しましょう。もしかしたら子供の頃に読んだことがある方もいらっしゃるかもしれませんね。

古いお屋敷で、昔の時代の女の子と友達になる『トムは真夜中の庭で』

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親戚の家を訪ねて行った折に、エリザベス一世の時代へタイムトリップする『時の旅人』

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ひいおばあさんのお屋敷で、過去に生きた子供達と触れ合う『グリーン・ノウの子どもたち』

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「過去に出会う物語」で歴史を体験として理解しよう

こうした作品が生まれた背景には、2度の世界大戦を経て国が変わってしまった、というイギリス国内の事情があるのでしょう。

自分の国が変わり果ててしまった時、「新しいイギリス」しか知らない子供たちに、過去を知ってもらいたいという気持ちが、これらの物語の中には流れています。

同時にこうした物語群が、イギリスの子供たちにとって、歴史を身近なものにしてきたのも事実です。学校で座って暗記する歴史ではなく、歴史を生きている人たちの体験として理解するための鍵を、こうした物語は握っています。

歴史とは単に暗記すれば済む年号でも人名でもなく、実際に生きた人々の感情や事情をはらんでいるのだという感覚が、こうした「時を超える」物語には共通しています。

もともとは、イギリスという一つの国の特定の歴史条件から生まれた作品群ですが、期せずして、日本の子供達がイギリス史に興味を持つきっかけになりそうな作品群が生まれた、とも言えるでしょう。

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世界の歴史が楽しく学べる児童書はこれ!

タイムスリップは、子供たちをワクワクする冒険に連れて行きながら、歴史についてゆるやかに手ほどきをするためには、良い物語の仕掛けです。

近年の作品で、意識的に子供たちへの歴史の手ほどきをしようとしているのが、2012年に日本で映画化もされた、メアリー・ポープ・オズボーンの『マジック・ツリーハウス』シリーズでしょう。

アメリカの作者によって書かれたこのシリーズは、子供を世界各国の様々な時代へ連れて行きたい、という意識で書かれているように見えます。

恐竜のいる時代、バイキング時代のイングランド、古代エジプト。『アリエッティ』や『マーニー』の原作は「自分の国の過去」を知りたいという感覚を強く持っていますが、対照的に『マジック・ツリーハウス』で貫かれているのは「世界史のすべてが私たちの過去である」という感覚のようです。

対象は小学校低学年。原書も比較的平易な英語で書かれており、幼いうちに一度日本語で読み、やがて英語を読めるようになったら再び挑戦することが可能なのも魅力です。2018年現在、まだまだ日本語版は新刊が出ている長寿シリーズです。

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映画や本のお供に、地図や年表を。調べ学習のきっかけ作り

イギリスの古典的な作品群は、どれも物語としてとてもよくできています。また、『マジック・ツリーハウス』シリーズは今の子供達に馴染みやすく世界各国の有名な歴史逸話を並べているというメリットもあります。

前者はイギリスの地図や年表を、後者は世界地図をもって読むと楽しいのではないかと思います。映画や本から物語を楽しみ、同時に地図で場所を確認したり、年表で時代を確かめたりする

タイムスリップの物語群から自然に歴史の知識を少しずつ増やしていくのも、きっと楽しいと思うのです。

(参考)
米林宏昌 監督(2015),『思い出のマーニー[DVD]』,ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社.
ジョーン ロビンソン 著, 松野 正子 訳(2003),『思い出のマーニー〈上〉』,岩波書店.
Joan G Robinson, When Marnie was There(HarperCollins Publishers, 2014)
メアリー ノートン 著, 猪熊 葉子 訳(2000),『空とぶベッドと魔法のほうき』,岩波書店.
フィリパ・ピアス 著, 高杉 一郎 訳(2000),『トムは真夜中の庭で』岩波書店.
アリソン アトリー 著, 松野 正子 訳(2000),『時の旅人』,岩波書店.
ルーシー ボストン 著, 亀井 俊介 訳(2008),『グリーン・ノウの子どもたち』評論社.
メアリー オズボーン 著, 食野 雅子 訳(2002),『マジック・ツリーハウス 第1巻恐竜の谷の大冒険』,KADOKAWA メディアファクトリー.