教育を考える 2019.2.20

「まだ」が持つ言葉の力――失敗を恐れない前向きなマインドセットで子どもの人生が変わる

長野真弓
「まだ」が持つ言葉の力――失敗を恐れない前向きなマインドセットで子どもの人生が変わる

ビル・ゲイツのような敏腕実業家や、世界で活躍するトップアスリートたちにとって、成功を収めるために自身のメンタルをいかにいい状況に保つかはとても重要です。

先日「スポーツ界のアカデミー賞」と呼ばれる「ローレウス・スポーツ賞」を受賞した、女子テニス世界ランク1位の大坂なおみ選手も、コーチによるメンタルトレーニングが多大な力になったことは今や有名ですね。

そのメンタルコントロールに非常に大きな役割を果たしているのが「マインドセット」です。チャレンジを恐れず、努力できる人へと成長できるか否かの鍵となる「マインドセット」について知っておきましょう。

育った環境が大きな影響を及ぼす “心の持ち方”

まず、「マインドセット」について見てみます。

「マインドセット」とは、経験や教育、その時代の空気、生まれ持った性質などから形成されるものの見方や考え方を指す言葉です。信念や心構え、価値観、判断基準、あるいは暗黙の了解や無意識の思い込み、陥りやすい思考回路といったものもこれに含まれます。

(引用元:コトバンク|マインドセット

つまりは個々人の “心の持ち方”です。マインドセットは、育った環境が大きな影響を及ぼすため、保護者や先生の接し方もとても大事になってきます。

マインドセット研究の第一人者でアメリカ・スタンフォード大学心理学教授、キャロル・ドゥエック氏によると、人は2種類の「マインドセット」タイプに分けられるのだそう。

■硬直マインドセット(Fixed Mindset)

自分の能力は固定的で変わらないと信じている人。「努力しても人は変われない」と思っているため、自分を誇張することに腐心し、他人の評価をとても気にします。失敗に弱いタイプ。

■しなやかマインドセット(Growth Mindset)

人の資質や知能は努力次第でいくらでも伸ばせると考える人。失敗を恐れずに挑戦を続けられる前向き思考を持つタイプで失敗に強い。

「硬直マインドセット」は自分で枠を作ってその狭い世界で生きていこうとするタイプ、「しなやかマインドセット」は枠を取っ払って、自分の世界をどんどん広げていくことに喜びを感じるタイプと言えるでしょう。

ドゥエック教授は、シカゴのある学校の10歳の子どもたちに、難しい課題を課すことでマインドセットを探る調査を行ないました。その結果、成績が悪かった子どもたちの中には、より点数が下の子を探して自分を納得させる子や「次はカンニングしよう……」と言う子までいたそうです。

その一方で、「むずかしい問題だいすき!」「これやったら頭がよくなるよね!」と驚くほど前向きな反応を見せた子も。その差は何なのでしょうか?

マインドセットで何が変わるのか、また「しなやかマインドセット」を持てるようになるにはどうすればよいのかについて、順に見ていきましょう。

「まだ」が持つ言葉の力2

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マインドセットで人生が変わる――「まだ」が持つ力

人は、赤ちゃんのときは失敗を恐れず成長し続けます。それが、いつしか「硬直マインドセット」が芽生え始めると、挑戦をやめて成長を止めてしまいます。もったいないですね。

そのマインドセットを再び変えてあげることができたら、どんなプラスなことが起こるのでしょうか。

■成績が変わる!

シカゴのとある高校では、卒業に必要な単位を取るのに失敗した生徒たちに、「不合格」ではなく「未合格」と通知するそうです。“まだ合格ではない” とすることで、合格が待っている未来を描かせ、努力するよう促せるのです。“まだ” には、人の可能性を信じる力が潜んでいます。指導する側が、失敗を「結果」ではなく「経過」として捉えて子どもに接すること、それこそが「しなやかマインドセット」への誘導です。それを証明した事例があります。

ドゥエック教授の調査で、アメリカ・ニューヨーク州のハーレムやブロンクスなどの慢性的学力不足の学校に “まだ” づくしの「しなやかマインドセット」教育を施しました。結果は、成績が学区最下位だったその学年は、約1年後に1位になるという驚異的進歩を遂げたのです。「人は変わることができる」ことが証明された出来事でした。

■人間関係が変わる!

「硬直マインドセット」の人は自己顕示欲が強く、他人の目を気にするため、人に拒絶されると自分を全否定されたように感じ、恨みを抱きがちです。一方「しなやかマインドセット」の人は相手を許す余裕があり、チームワークを大切にし、円満な人間関係を築けます

成績と人間関係が変われば、人生に大きな影響を及ぼし得ます。子供たちが自分の可能性を信じられるようになるために、大人はどんな手助けをしてあげればいいのでしょうか?

「まだ」が持つ言葉の力3

「しなやかマインドセット」になるための3つのポイント

さあ、3つのポイントをみていきましょう!

【ポイント1】過程と努力を褒め、“まだ” の声かけを

テストやスポーツの成績において、重視すべきは結果や能力ではなく、過程と努力です。結果はどうあれ、その点をまず褒めてあげましょう。そして、望んだ結果が出せなかったときは、「今回はまだできなかったけど、次があるね」と声かけを。そして、「次はどうしたらいい結果になるかな?」と考えたり、話し合うことも大切。この繰り返しが、“失敗は成功への通過点” という前向きな「マインドセット」を植えつけることになります。

【ポイント2】「脳の仕組み」を教える

脳の仕組みについて話すことでも、マインドセットを変えられることが証明されています。調査対象の子どもたちに「何か新しいことや困難なことに取り組むと、脳内のニューロンという物質が分泌されて脳が活性化するから、どんどん頭が良くなるんだよ」と教えました。すると、進級して勉強がぐんと難しくなっても、彼らの成績は急激に伸びたそうです。逆に脳の仕組みを教えられなかった子どもたちは、残念ながら成績が伸び悩んだと言う結果に。“失敗で脳は鍛えられる、賢くなれるチャンス”と知ることが学びへの安心感となり、がんばる源になるのでしょうね。

【ポイント3】偉人たちに学ぶ

発明家のトーマス・エジソンは「私は失敗したことがない。ただ1万通りのうまくいかない方法を見つけただけだ」、松下幸之助は「失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければそれは成功になる」と言っています。歴史的人物でもスポーツ選手でも、興味を持った人の本を読むなどして先人に学び、自分のロールモデルを見つけられるといいですね。小さいお子さんの場合は、「こんな人がいたんだよ」「こんな考え方をしていたんだね」と、偉人たちの成功への道のりをかみ砕いて説明してあげましょう。

***
マインドセットは自分で変えることができます。性格だと思って諦めていたことも、マインドセット次第で変えられるかもしれません。しかし、元陸上選手の為末大さんもおっしゃっていますが、“マインドセットを変えること” は “自分の世界観を変えること” で、想像以上にとても大変なのだそう。だからこそ、まだ頭が柔軟な子どもの頃からいいマインドセットを持てるよう、大人の導きが必要なのだと思います。

「失敗は成功のもと」、昔からあるこの言葉の深さを感じますね。

(参考)
学研キッズネット|挑戦するということ/「賢い子ども」の育て方【第3回】
Study Hackerこどもまなび☆ラボ|失敗を成長の糧にするためのポイント。親は我が子の失敗とどう向き合えばよい?
All About|子供が伸びる秘訣は「失敗」への対応にあった
PRESIDENT Online|必ずできる!うまくいく人の「マインドセット心理学」
PRESIDENT Online|大坂なおみの「メンタル」が激変したワケ
コトバンク|マインドセット
TAMESUE|マインドセット(第12回メルマガより)
TED|必ずできる!—未来を信じる「脳の力」—
キャロル・S・ドゥエック著 今西康子訳(2016), 『MINDSETマインドセット「やればできる!」の研究』,草思社.