学童保育に習い事、毎日の宿題にゲームやスマートフォン……。最近の子どもは、学校以外にもやることが多すぎて、大忙し。子どもらしからぬ「疲れた」という台詞に違和感がないほど、詰め込んでしまっている家庭が多いようです。
もしも思い当たる節があるようでしたら、子どもの成長や教育のためにも、親子で生活を見直してみませんか?
親も「我が子が疲れている」と感じる現代
博報堂こそだて家族研究所の2016年の調査によると、小学生の母親の4人に1人が、自分の子どもが疲れていると実感しているとのこと。そして、母親が考える疲れの理由は、まず「勉強や習い事が多い」ことにあるようです。そのほか、「集団生活のストレス」「睡眠時間が短い」「ゲームやテレビのやりすぎ・見すぎ」なども挙げられています。
また、ベネッセ教育総合研究所の2013年の調査では、「忙しい」と感じている小学生は51.2%。さらに「もっとゆっくり過ごしたい」と感じている小学生は74.2%にも及ぶことがわかりました。子ども自身も毎日に忙しさを感じているのです。
さらには、幼い未就学世代も、共働きや核家族化の影響で親の生活リズムに合わせざるを得ないことから夜型になり、しっかりと深い睡眠を得られず、疲労を蓄積している子が多くなっているとも言われます。
学校の授業が終わるやいなや、学童保育や習い事へ。そして夕方に家に帰れば宿題をこなさなければならない子どもたち。それに加えて、ゲームや漫画も子ども同士のコミュニケーションに欠かせない……となれば、休む間もなく脳はフル稼働。疲れを感じていても無理はありません。
疲れていなくても「疲れた」とぼやく子どもも……
また、前述のように詰め込みすぎていない3~6歳の子どもでも、「疲れた」と口にする子もいるようです。言葉の意味をまだよくわからないまま使うクセがついてしまっている子もいるらしいのです。
「疲れる」という感覚を自分で体験して認識する前から、「何かしたあとは疲れる」という思い込みの枠組みができあがってしまうとしたら怖いですね。きっと、子どもなりにいろいろな感覚をつかめるはずなのに、たとえば、「友達と一緒で楽しかった」「上手にできなくて悔しかった」「最後までできてうれしかった」などの感情を味わう前に、「疲れた」の言葉で終わらせてしまうのはもったいないことです。
(引用元:ベネッセ教育情報サイト|大人が作る「疲れた」が口癖の子どもたち[やる気を引き出すコーチング] )
仕事から帰ったとき、家事を終えたとき、はたまた子どもの習い事の送迎を終えたとき。「疲れた〜」と親が口癖のように言っているのならば、それにならって、子どもも何かを終えたときに「疲れた」と口にするようになってもなんら不思議ではありません。
先ほどの引用にあるように、「疲れた」という言葉は感情や感想を覆い尽くしてしまう残念な言葉です。せっかくの体験をプラスにとらえるためには、まずは「疲れた」という台詞が頻繁に出てこないような生活に立て直すことが鍵になってきます。
余裕のない毎日が生むマイナス面
また、実際に詰め込まれた毎日を送っている子どもは、疲れを溜め込むだけでなく、物事に対して受け身になってしまう可能性があるというリスクも。
「毎日習い事」「土日は習い事の掛け持ちで予定がぎっしり」というような状況になると、子どもたちはただこなすことに精いっぱいになってしまいます。どんな体験も受け身になり、自分の意思で選ぶということができなくなるのです。
(引用元:日経DUAL|もしかして親のエゴ? 子どもの「習い事」落とし穴)
そして、多忙な時間の使い方は、体の疲労だけでなく脳の疲労にもつながります。起きている間じゅう意識的に活動していては、成長に欠かせない自己意識や見当識(年月や時刻、自分がどこにいるかといった基本的な状況把握)、記憶が不完全となってしまうと言うのは、情報教育アドバイザー・ネット依存アドバイザーの遠藤美季氏。
忙しい時間を過ごしているからこそ、ぼんやりする時間が大切なのだそう。これは、学習時間が長くなってくる小学校中学年以降の子どもにこそ大切なこと。
脳が疲労すると集中力や、やる気がなくなり、脳内物質の分泌も悪くなるので、情報伝達機能も低下してしまいます。
つまり、せっかく勉強をしても内容がアタマに残らないのです。集中のピークを落とさないためには適度な休憩が不可欠です。
(引用元:篠原菊紀(2010),『子供が勉強にハマる脳の作り方』, フォレスト出版.)
賢い子、できる子になってほしくて習い事や体験を詰め込んで、疲労を重ね「疲れた」で終わってしまっては、全くの本末転倒。やるときはやる、休むときは休む、といったメリハリをつけることができるよう、今一度親子でタイムスケジュールを見直してみるといいかもしれません。
疲れを溜めない毎日にするために
親も子も疲れを溜めないためには、がむしゃらに活動し続けることは避け、メリハリをつけた生活にすることが大切です。なかなか難しいかもしれませんが、疲れを溜めないためにできることをご紹介します。
■習い事は多くても3つまでに絞り込む
余裕さえあれば2つぐらいはやってもよいと言うのは、青山学院大学教育人間科学部教授・樋田大二郎氏。1つに絞ってしまうと、壁にぶつかったときに逃げ道がなくなってしまうからだそう。運動系の習い事でなかなか芽が出なくても、芸術系の習い事で落ち着きを取り戻せるかもしれません。習い事を1つに絞る場合は、漫画を読むことや昆虫採集など、趣味を2つめの拠り所とするとよいといいます。
■とにかく睡眠時間を確保する
小児科医・医学博士の成田奈緒子氏によれば、成長期の脳や心身の発達を考えると、小学生の子どもは夜8時に就寝し、朝6時までに起床するのが理想なのだそう。また、諏訪東京理科大学共通教育センター教授の篠原菊紀先生は、著書『子どもが勉強にハマる脳の作り方』の中で、寝る時間を一定にすることは、体を休めるためだけでなく、脳のため、記憶のため、集中のため、やる気のためにもなると言っています。
■習い事は週末に限定する
上記の睡眠時間の確保にもつながるのが、習い事の時間の見直し。もし、平日夕方~夜に習い事に通うことで就寝時間が遅くなってしまっているのならば、平日の習い事を減らし、週末に限定するのも手です。ただし、週末だからといって詰め込みすぎはNG。送迎の前後に家族で過ごせる時間を設けるなどして、より有意義な週末にできるといいですね。
■スキマ時間はぼーっとする
大人向けの学習やゲームの広告でよく目にする「スキマ時間の有効活用」は、子どもにはあてはめないのが得策。移動中の車内や買い物に付き合ってもらった際のレジ待ちなどのときは、スマートフォンを見せたりせずに、一緒にぼーっとするようにしましょう。
また、家でダラダラする時間も、じつはとても大切。最近の研究では、ぼんやりしているときにも脳は活動していることがわかっています。「デフォルト・モード・ネットワーク」と呼ばれるこの脳の活動は、今までに蓄積した知識を前頭葉にたぐりよせる訓練になり、なおかつインプットされている情報が整理されるそう。このことから、ときに思わぬ「ひらめき」を生み出しているのではとも言われています。
自身を振り返ってみれば、アイデアを思いついたり挑戦する意欲が湧いてきたりするのは、ソファで休憩している時間や湯船に浸かってリラックスしている時間、電車の中で車窓を眺めている時間だったりしませんか? それを思えば、多忙な毎日に子どもの創造性や学習意欲が削られていくのは、なんとなくでも納得がいくはずです。
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教育を考えて子どもにたくさんの習い事や学習をさせるのは、決して悪いことではありません。でも、体が疲れきってしまえば、どんな体験もプラスに働くとは言えません。親も子も疲弊して負のループに陥ることのないよう、休む時間を意識的に取り入れていきたいですね。
文/酒井絢子
(参考)
Study Hackerこどもまなび☆ラボ|多すぎる習い事のデメリット。習い事の上手な選び方と削り方のコツ
Study Hackerこどもまなび☆ラボ|発想力がぐんぐん伸びる! 子どもの脳を休ませる “ぼんやりタイム” が必要な理由
ベネッセ教育情報サイト|大人が作る「疲れた」が口癖の子どもたち[やる気を引き出すコーチング]
ベネッセ教育情報サイト|大学教授に聞く、子どもを疲れさせない「習い事」の選び方
日経DUAL|もしかして親のエゴ? 子どもの「習い事」落とし穴
NIKKEI STYLE DUALプレミアム|共働きの親子は「疲れ」を自覚しづらくなっている
学研キッズネット|ぼーっとしている時間に頭は育つ/AI時代を生き抜くために「失敗力」を育てる6つの栄養素【第13回】
学研キッズネット|『ぼんやり』のススメ
博報堂こそだて家族研究所|こそだて家族の「ママが実感する子どもの疲れとその理由」 レポート
ベネッセ教育総合研究所|第57回「ゆとり」がない子どもたちの放課後-多忙な子どもたちの生活時間を考える-
篠原菊紀(2010),『子供が勉強にハマる脳の作り方』,フォレスト出版.