子どもでも大人でも、何かを学ぶときの基本的な法則は変わりません。そのためか、ビジネスシーンでリーダーがスタッフに行なう教育と、子どもの教育はよく似ているといいます。
そこで今回は、子どもの教育について、ビジネスにおけるマネジメント(管理・指導・サポート)の視点から考えてみました。
人が何かを学ぶプロセスとは
グロービス経営大学院教員の鎌田英治氏が著した『自問力のリーダーシップ』(ダイヤモンド社)には、次の「山本五十六大将の格言」が紹介されています。
「やってみせ、言ってきかせて、させてみて、ほめてやらねば人は動かじ」
(引用元:GLOBIS 知見録|リーダーに必要なのは率先垂範と実行の後押し)
山本五十六は、最後まで戦争に反対していたことでも知られる、太平洋戦争中の連合艦隊司令長官。グロービスの鎌田氏はこの格言を、「指導者に必要な「率先垂範」と「コーチング」をわかりやすく示した名言だ」と説きます。
「率先垂範」とは、まずは先に立って物事を行ない、お手本を示すこと。「コーチング」とは、部下が自分で考えて動けるよう、サポートをしつつも、ある程度まかせてしまうことです。
コーチングの専門家である菅原裕子さんは、山本五十六の格言を「まさしく人間が何かを学ぶプロセス」と表現します。菅原さんによれば、子育てと部下のマネジメントには共通点があるのだとか。
「子どもの教育」と「部下への指導」の共通点
もちろん、そうでない子どもも部下もたくさんいますが、今回は自主性のない子どもと部下を取り上げてみたいと思います。
- 意見を持たず、感想をいわず、自分から動かない子ども。
- 意見を述べず、指示待ちをして、自分から動かない部下。
両者に共通しているのは、「自分で考え、行動する」が欠如していることです。
日本サーバント・リーダーシップ協会理事長の真田茂人さんは、部下の意見を傾聴せず、持論を変えない上司の下にいる部下は、自分で考えたり動いたりしない「指示待ち人間」になってしまうと述べます。
しかし、企業が最大の成果を出すためには、社員ひとりひとりが主体性を持ち、仕事に取り組んでいかなければなりません。上司の考えだけで物事を動かしている限り、上司の能力そのものがチームの限界になってしまうからです。
仕事の成果と子どもの成長を、同等に比較することはできませんが、「部下への指導」と「子どもの教育」には、大きな共通点があります。
指導者が部下をサポートしつつ、仕事を任せると、当事者意識を高めた部下が、自ら考え行動するようになり、企業の大きな力となるように――親が子どもを見守りつつも、子どもの考えを尊重すると、子どもは自分で考え行動するようになり、「生きる力」を大きく伸ばしていくからです。
もちろん、親の話す言葉で子どもが言葉を覚えていくように、上司のやることを見ながら部下が仕事を覚えていくように、はじめは、教育する立場にある人が、見習うべき手本を示すことも大切です。
したがって、「子どもの教育」と「部下への指導」の共通点とは、結局のところ、前出の格言が示した「率先垂範」と「コーチング」であるというわけです。
大切なのは「承認」と「フィードバック」
子育てと部下のマネジメントには共通点があると説く菅原裕子さんは、子ども・部下が「うまくできたかどうか」ではなく、「行動を起こした事実を認めてあげること=承認」が大切だといいます。
「100点とってえらい」「契約率が9割でえらい」と結果だけに注目していると、結果が良好なときだけ調子よく、結果が悪かったときには、やる気を失ってしまう可能性があるからです。
結果よりも「行動や努力」に注目し、「あきらめずによく続けたね」「よくチャレンジしたね」と声をかけていれば、行動や努力が大切だとわかり「今回はいまひとつだったけど、次はがんばろう!」と考えられるようになります。つまり承認が意欲を高めるわけです。
子どもでも大人でも、他者から認められたい欲求が必ずあります。承認はそれを満たし、意欲を高め、教育する側と、される側の関係を良好にするそうです。
また、「承認」のあとに「フィードバック」を与えることも大切です。改善点を示したり、ヒントを与えたりして、どうしたら改善できるかなどを自分で考えていけるよう導きます。「しっかりと自分を見てくれている」という安心感につながるそうですよ。
つまり、コーチングの正体とは、「承認とフィードバック」です。ただし、ティーチングとは別物なので注意が必要です。
ティーチングとコーチングは別物
ビジネスコーチの石川尚子さんいわく、ティーチング(teaching)は指導者の知識やノウハウを「教える」ことで、コーチング(coaching)は相手のなかにある意欲や行動を「引き出す」こと。日本では混同されがちなのだとか。
答えを持っているのは、コーチングを行なう親ではなく、コーチングを受ける子どもたち。子育てにコーチングを取り入れる目的は、子どもが自分自身のなかにある答えに気づくことです。それが、考える力を鍛えるわけですね。
石川さんは、ティーチングの言葉かけをコーチングの言葉かけに変えるだけでも、子どもの「自分で考える力」を引き出せると説いています。ティーチングの言葉かけの代表例は
「○○しなさい」
「○○しちゃいけません」
「○○したほうがいい」
いわゆる指示命令と、禁止、親の持論の押しつけです。こうした言葉だけでは、子どもが親に対して不信感を持つほか、自分で決められない大人になってしまう可能性があるそう。
また、『男の子のやる気を伸ばす お母さんの子育てコーチング術』(メイツ出版)の著者・東ちひろさんは、子どもが責められていると感じてしまうので、次のような “なぜ・なんで” 口調はNGだと述べます。
「なぜできないの?」
「なんで片づけないの?」
大切なのは、子どもの考えを尊重することです。「こうしなさい」「なぜ?」ではなく、
「どうしたい?」
「どうしたらいいと思う?」
「何から片づけられる?」
「何をしたらいいと思う?」
と問いかけ、自分で考えるように促しましょう。子どもは、その問いかけに「あなたは、きっとできる」という信頼がこもっていることを、感じとってくれるはずです。
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子どもの教育と部下の教育に共通点があること、コーチングなどについて紹介しました。しっかりと自分で考え、行動できる子どもに成長してくれるといいですね。
(参考)
日経DUAL|子育ても部下育ても原則は同じ「信じて、待つ」 (1/5)
StudyHackerこどもまなび☆ラボ |子どもの答えを引き出す「コーチング」――我が子を本当に信頼していますか?
WAM NET(ワムネット)|第4回: 部下のやる気を高める「承認」「フィードバック」の力
Adecco Group|主体的に動く部下を育てるマネジメント術とは
GLOBIS知見録|リーダーに必要なのは率先垂範と実行の後押し
goo辞書|率先垂範(そっせんすいはん)の意味・使い方
東ちひろ(2017),『男の子のやる気を伸ばす お母さんの子育てコーチング術』, メイツ出版.