言われたことはきちんとやるのに、自分で考えて行動するのは苦手――。近年、このようなタイプの子が増えてきていると言います。その原因はどこにあるのでしょうか?
今回は、これからの社会で最も重視される「考える力」の伸ばし方について解説していきます。
マニュアル通りにしか動けない日本の若者たち
みなさんはこれまで、お子さんの学習方法や勉強への取り組み方について「本当にこのままでいいのかな?」と疑問を抱いたことはありますか? もしみなさんが、「わが子が将来苦労しないように」とよい成績をとらせることを目標にしているのなら、少し立ち止まってみる必要がありそうです。
精神科医の泉谷閑示先生は、「現代の若者の多くは、マニュアルはパーフェクトに覚えられるのに、マニュアルに書かれていないことはできない。いわゆる『自分で考える力』のない若者が増加している」と警鐘を鳴らしています。
また同様に、「日本の学生は、言われたことをするのはうまいけれど自分で考えるのは苦手」と話すのは、子どもの考える力教育推進委員会代表を務める狩野みきさんです。20年以上にわたって大学などで考える力・伝える力を教えてきた狩野さんは、「長年日本では、子どもたちは “正しい” 答えを受け入れるだけで、それを疑う機会すらほとんど与えられていない」と指摘します。
記憶力や計算力が高ければ、たしかにテストでは高得点をとることは可能です。しかし、社会に出てから本当に役に立つのは、むしろマニュアルでは対処できない問題を解決する能力。そのためにも、「自分で考える力」を身につけることは必須なのです。
「自分で考える力」が育たない要因は、日本の学校教育のあり方や現代の社会の仕組みなどが考えられます。詳しく見ていきましょう。
「考える力」が弱い原因は教育にあり!?
現代の若者の思考力が低下している要因として、泉谷先生は「記憶力やパターン思考に長けた者が高得点を得るような試験制度の存在」を挙げています。
「自分で考える」ことのできるような自然な在り方の人間が、現代の社会において不当に低く評価されてしまったり、従順でないために厄介な人間と見なされて排除されてしまったりする風潮があることは、私たちの社会の大きな問題です。オリジナリティの点でどうしても日本が精彩を欠いてしまうのも、このような風潮によるところが大きいのではないかと思われてならないのです。
(引用元:ダイヤモンド・オンライン|マニュアルがないと何もできないーー「自分で考える」力のない人々)
つまり、これまで長いあいだ私たちは「頭がいい」=「記憶力がいい」「パターン化された思考ができる」ことだと刷り込まれているため、「考える力」の重要性を軽視してきたわけです。
「考える力」が育まれないまま成長すると、どのような大人になるのでしょうか。筑波大学附属小学校前副校長の田中博史先生は、「子どもたちは小さくても『自分で考えたい』生き物である」ことを前提としたうえで、「自分で考える前に先に決められてしまう生活を繰り返していると、自分で決めないですぐにほかの誰かを頼るようになる」と話します。
考えることができないから、アイデアが浮かばず、決断することもできないーー。これでは「その人らしい」人生を歩むことは難しいでしょう。わが子には自分の力で人生を切り開いてほしいと願うのなら、たくさんの習い事をさせるよりも「考える力」が身につく訓練をしてあげるべきです。
子どもが考えることをやめてしまう親のNG行為
子どもの「考える力」を奪ってしまう親のNG行為として、次のような言動には注意しましょう。
■正解を与える
悩んでいるわが子を見ると、つい手を差し伸べたくなるもの。そこですんなりと答えを教えてしまうと、子どもは「わからない」と言えば大人が正解を教えてくれると思うようになり、考えることをやめてしまいます。
■イライラして急かす
なかなか答えにたどり着けない子どもに対して、「まだできないの?」と急かすのはやめましょう。急かされた子どもは焦ってしまい、じっくり考えられなくなります。狩野さんは、「イライラしそうになったら、『いまは、この子の考える力の熟成期間』と思うようにするといい」とアドバイスしています。
■子どもの「どうして?」攻撃から逃げる
知的好奇心が旺盛な子ほど、親に何度も「どうして?」とたずねてきます。きちんと向き合いたくても、頻繁に聞かれるとつい「いま忙しいの!」「あとでね」と適当に流してしまうことも。
前出の田中先生は、「必ずしも大人がすべて説明しなければならないわけではない」と述べています。それよりも、「一緒に考えようか」と向き合うことが大事です。また、「そんなこと、お母さんも考えたことなかったよ! すごいね!」とほめてあげることで、子どもは自分の「考える力」に自信をもつようになります。
子どもの「考える力」を伸ばすために親ができること
子どもの「考える力」を伸ばすためには、どのようなことを心がければいいのでしょうか。いくつか提案するのでぜひ参考にしてください。
■「なぜ?」とたずねて論理的思考を探求させる
「なぜそう思ったの?」「どうしてこれを選んだの?」と聞くことで、考えるきっかけが生まれます。教育評論家の石田勝紀さんによると、「人間は『なぜそうなの?』『なぜだと思う?』『どうしてこうなんだろうね?』と問われると考えるようになる」のだそう。
たとえば、「今日着ている服はどこで買ったの?」と聞かれれば「○○にある△△というお店です」と、ただ事実だけを述べればいいので “考える” 必要はありません。しかし、「どうしてこの服を選んだの?」と聞かれると、「どうしてだったかな?」と考え始めるでしょう。
これが “考える” ということです。普段からこのように「なぜ?」「どうして?」と問いかけるようにすると、子どもの考える力はぐんぐん伸びていきます。
■親が手本となって「考える姿」を見せる
前出の狩野みきさんは、「わが子に『考える人』になってほしいのであれば、親が考えるという行為を “当たり前の習慣” として見せてあげるべき」と話します。つまり、親がお手本となって「考える姿」を見せてあげるのです。
狩野さんによると、「考えるという行為はクセのようなもの」であり、「普段から考えるクセをつけておくからこそ、いざという難関にぶつかったときにじっくりと考えて納得のいく答えが出せる」のだそう。
子どもは親の普段の言動を見て、自然と「習慣」を身につけていきます。子どもが考える力を習得するためには、お母さん・お父さんが普段から「なんでかな?」とつぶやき、考えることが習慣化しているのが理想的なのです。
■ドリルを活用して考える力を養う
「自分で考える力」をつけさせたいけど、「考え方」を学ぶのになにかいい方法はないかな? とお悩みなら、『ハーバード・スタンフォード流 子どもの「自分で考える力」を引き出す練習帳』(PHP研究所)がおすすめです。
この本は、小学生対象の「考える力+伝える力」クラスで狩野さんが長年やってきたことを【クイズ+解説】という形で一冊にまとめたもの。質問内容はとってもユニークなものばかりです。
「ある朝、目が覚めたら、お母さんと体が入れかわっちゃった! 何をする?」
「子どもが学校でぜったいにやらないことを5つ、あげてみて」
など、想像力を働かせて自由な発想で思考力を鍛える質問はもちろん、『3びきの子ブタ』を読んで、「オオカミはこのあとどうなった?」「本当にオオカミは悪いのかな?」と、違う視点で物語を読み解く方法も学べます。
小学4年生がひとりでも解くことができるようにとつくられたこの練習帳。楽しみながら読み進めることができるので、読み終わる頃には「自分で考える力」がしっかりと身についているはずです。ふりがなは振ってありますが、まだひとりで読み進めることが難しいようであれば、親子で一緒に考えてみても◎。
『ハーバード・スタンフォード流 子どもの「自分で考える力」を引き出す練習帳』
狩野みき 著/PHP研究所(2020)
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インターネットが発達した便利な世のなかでは、疑問は簡単に解決してしまいます。そのため、深く考えて試行錯誤する習慣がなかなか身につかないのかもしれません。しかし、普段の親子の会話から子どもの「考える力」を鍛えることは十分可能です。みなさんもぜひ試してみてください。
(参考)
ダイヤモンド・オンライン|マニュアルがないと何もできないーー「自分で考える」力のない人々
YouTube|狩野みき 自分で考えよう
マネー現代|わが子の「考える力」を奪う親たち、その意外過ぎる共通点
THINK-AID|「考える子ども」を育てるために、親ができること
東洋経済オンライン|「考える力がない子」を変える3つの問いかけ
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|“考える力”を伸ばす、子どもの「どうして?」と親の「どうして?」
狩野みき(2020),『ハーバード・スタンフォード流 子どもの「自分で考える力」を引き出す練習帳』, PHP研究所.