教育を考える 2020.10.5

なぜ子どもは急に不機嫌になるの? その答えはアドラーの「不適切な行動の5段階」にある

編集部
なぜ子どもは急に不機嫌になるの? その答えはアドラーの「不適切な行動の5段階」にある

ちょっとしたことですぐに機嫌が悪くなり、怒ったりすねたりするお子さんの対応にお悩みではないですか? もしかしたら、親の何気ない言動や対応の仕方が、お子さんの “困った行動” を引き起こしているかもしれません。

今回は、アドラー心理学に基づいた「子どもの問題行動(不適切な行動)について解説していきましょう。

子どもの “困った行動” を解明するアドラー心理学

たとえば次のようなケース、子育てをしていたらよくありますよね。

下の子のお世話で忙しいときにかぎって、上の子が「見て見て!」「聞いて聞いて!」と話しかけてくる。大した内容ではなさそうなので、軽く聞き流していたらプイッとすねてしまったーー。

バタバタしているときに「あれやって」「これやって」と甘えてくるわが子に、「自分でできるでしょ!」「いいかげんにして!」と叱ったら怒って大泣きしてしまったーー。

 
こういった反抗的な態度や行動は、その瞬間の親御さんの言葉に反応しただけだと思っていませんか? しかし多くの場合、「親が叱ったから子どもの機嫌が悪くなった」という単純な話ではなく、叱らなくなったからといってすぐに解決する問題でもないのです。

では、なぜ子どもたちは、ちょっとしたことですねたりいじけたりしてしまうのでしょう。そのヒントは、あの有名なアドラー心理学によって解き明かされています。アドラーによると、子どもの問題行動(不適切な行動)は、徐々に段階を踏んでエスカレートしていくそうです。

アドラー問題行動の5段階02

子どもの知的好奇心を育てる3つのポイント
PR

子どもの問題行動がエスカレートする理由

みなさんが問題だと感じる子どもの困った行動は、アドラー心理学では不適切な行動と表現しています。金沢学院大学人間健康学部スポーツ健康学科の高賢一教授は、「適切な行為をしていても認められない子どもは、なんとか別の方法で注目を集めるような行動を始める。それが、問題行動に代表される不適切な行動である」と説明しています。

たとえば、お手伝いをしたり勉強を頑張ったりしても親があまりほめてくれず、不満を抱いている子がいるとします。おそらく親は、「うちの子は手がかからなくて助かるわ」と、わが子がいい子でいることを “当たり前” だと感じているのでしょう。しかし、しだいに子どもは認められたい」「無視されるくらいなら注意されても叱られてもいいと思うようになり、問題行動=不適切な行動をとるケースも少なくないというのです。

アドラーの不適切な行動5段階

第1段階 称賛の欲求

まわりの人に称賛されるためによい行ないをする段階。ほめられるための行動なので、思うようにほめてもらえないなど気持ちが満たされずにいると、次の<第2段階>へと進む。

第2段階 注目・関心を引く

ほめられなくてもいい、むしろ叱られてもいいから、自分に注目してほしいと強く願うようになる。親の気を引こうと、突然すねてみせたり、いじけてみせたりするのはこの段階。注目を集めることが目的なので、叱っても叱ってもやめない。

第3段階 権力闘争をしかける

反抗的な態度や行動によって、力を見せつけて特権的な地位を得ようとする段階。<第2段階>において親が無視したり、頭ごなしに叱りつけたりすることによって、子どもの不適切な行動はよりエスカレートし、権力を握ろうとしてくる。

第4段階 復讐をする

<第3段階>で権力を手に入れられないとわかると、次は復讐の段階に入る。学生であれば、親への復讐として非行に走ったり不登校になったりするケースも。相手の気を引きたいがための行動が攻撃性を帯びてしまうことで、復讐に発展する。相手から憎まれてでも注目を得ようとするのが特徴的。

第5段階 失望させる

第1段階~第4段階までの行動で相手が適切な援助を行なわないと、無気力になり自分からも逃げようとする。「すべてがダメならもう何もしない」と極端な思考に陥ってしまい、相手から無能だと思われるための証明をする。

このように、子どもの不適切な行動は、第1段階から順番にエスカレートしていきます。段階が上がれば上がるほど修復が困難になるので、「いま子どもはどの段階にいるのか」をしっかりと見極めて対応するように心がけましょう。

アドラー問題行動の5段階03

子どもの困った行動への対処法

アドラーの「不適切な行動の5段階」の仕組みが理解できれば、いままで悩んでいた子どもの問題を解決するヒントが見えてくるのではないでしょうか。

アドラー心理学では、人間の行動の一番の目的は “所属” だと考えます。つまり、いまいる集団に受け入れられたいと願い、その一員であることを求め、そのために行動するのが人間本来の姿であるということ。小さな子どもにとっては、まさに「家族」こそが自分が所属する唯一の集団であり、親から認められることで「自分は家族のなかで、なくてはならない存在だ」と実感できるのです。

「不適切な行動をする子どもへの一番の対処法は、共感すること」。そう話すのは、日本アドラー心理学会/日本個人心理学会正会員の熊野英一さんです。親がしっかり子どもの話を聞いて共感してくれたら、「お父さん・お母さんは、自分のことを本当にわかろうとしてくれているんだ」と子どもは感じ、家庭のなかで居場所が確立していると安心するでしょう。

ただし、ひとつ注意すべきなのは「共感=同意」だと勘違いしないこと。共感と同意はまったくの別物であり、子どもの発言すべてに同意することで親が子どもの言いなりになってしまう恐れがあるのです。

また、不適切な行動をする子どもに対しては、「あなた」が主語になる「ユーメッセージ」を使って話しかけないことを心がけてください。「どうしてあなたはいつも片づけをしないの!」「なぜあなたはお友だちと仲良くできないの?」では、子どもは一方的に責められていると感じてしまいます。

効果的なのは「わたし」が主語になる「アイメッセージ」「お片づけをしてくれると、お母さんは嬉しいな」というように、 “自分は” こう思う“自分は” こうしてくれると嬉しいと伝えることで相手の心を動かします。

子どもの不適切な行動は、「認められたい」という思いが根源になっています。まずはお子さんの気持ちに共感し、行動自体を責めるのではなく「こうしてくれると嬉しいな」とメッセージを伝えることで、エスカレートする前に不適切な行動を止められるでしょう。

***
子どもがすねたり機嫌が悪くなったりするのは、親に叱られた瞬間にスイッチが入るのではなく、その前の段階で「認めてもらえない」「自分に注目してくれない」と不満を感じているからです。日頃から子どもの様子をよく観察することが大事ですね。

(参考)
金沢星稜大学|アドラー心理学を活かした学校教育相談に関する考察
HugKum|どんなときに子どもは困った行動をするの?【アドラー式子育て術「パセージ」に学ぶ対処法】
弁護士法人山崎和代法律事務所|不適切な行動の5段階
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|「○○ファースト」がポイント! アドラー心理学で親子間のコミュニケーションがうまくいく