「子どもに集中力がなくて困っている」「授業参観で、うちの子だけキョロキョロしていた」など、お子さまの集中力が気になっている親御さんは少なくないでしょう。
首都圏トップクラスの難関校合格率を誇る進学塾VAMOS代表・富永雄輔氏も、「いまの子どもたちの集中力は、かつての子どもより低下している」と指摘しています。
では、どうすれば子どもの集中力を高めることができるのか。今回は、集中力と体力の関係性を考えてみましょう。
現代っ子に集中力がないのは運動不足だから!?
どうやら、現代の子どもたちの集中力が低下しているのは事実なようです。子ども発達学が専門の医学博士・春日晃章氏(岐阜大学教授)によると、授業中にボーっとしてしまう子や、勉強に身が入っていない様子の子が、昔と比べて増えているとのこと。
なぜ現代っ子の集中力が落ちてきているのか――春日氏は、集中力と体力の関係性に注目しています。春日氏が行なった調査では、「運動遊びやスポーツ遊びをたくさんして、体力を高めている子ほど集中力が高い」ことがわかりました。机の前にじっと座ってひたすら勉強するよりも、運動遊びをしたほうが集中力が養われるらしいのです。
しかし残念ながら、スポーツ庁が発表した令和元年度の「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」によると、子どもたちの体力は前年度よりも低下しています。特に小学生男子にいたっては平成20年度から続く調査のなかでも過去最低の数値でした。春日氏の言うように、体力と集中力に相関関係があるのであれば、現代の子どもたちの集中力が低下しているのも仕方のないことなのかもしれません。
体力がある子どもは、集中力も高かった!
『子どもを勉強好きにする20の方法』著者であり、塾講師として3,000人以上を指導してきた、教育・受験指導専門家の西村創氏も、中学受験で最後に伸びる子の特徴として「体力があること」を挙げています。勉強だけに専念してきた子は、長丁場の授業に耐えられずぐったりしてしまうのに、スポーツやキッズダンスなどで体を鍛えてきた子たちは、桁違いの集中力を長時間発揮するのだそう。
次に科学的なデータを見てみましょう。ノーベル賞決定機関「カロリンスカ研究所」で研究を重ねた精神科医、アンダース・ハンセン氏の著書『一流の頭脳』によると、以下のことがわかっているようです。
このふたつの研究結果は、「集中力と体力」ではなく「得点と体力」の関係を検証しています。しかしハンセン氏は著書のなかで、記憶力と集中力が向上することによって学習内容の定着率が上がると述べているので、「体力がある子の集中力は高い」と言えるのではないでしょうか。
運動後30分~3時間は「超集中状態」に入りやすい
「体力がある子の集中力は高い」ということは、体力のないうちの子は「集中力がない&テストの点数も悪いまま」ではないか! そう絶望したのは、筆者だけではないはずです。でもご安心ください。『脳を鍛えるには運動しかない!』著者でハーバード大学医学部准教授のジョン・J・レイティ氏は、集中力は運動で高めることが可能だと断言しています。なんと、思考力や集中力は、運動後に飛躍的に高まるらしいのです。
ではなぜ運動後に集中力が高まるのか――それは、運動によって脳内の集中物質であるドーパミンの分泌量が増えるから。
運動を終えた数分後に(ドーパミンの)分泌量が上がり、数時間はその状態が続く。そのため運動後には感覚が研ぎ澄まされ、集中力が高まり、心が穏やかになる。頭のなかがすっきりして、物事に難なく集中できるようになる。
(引用元:アンダース・ハンセン 著, 御舩由美子 訳(2018),『一流の頭脳』, サンマーク出版.) ※( )内の説明は編集部が施した
ちなみに運動後の集中力について、ハンセン氏は「効果は1時間から数時間続いたのち、少しずつ薄れていく」としており、メンタリストDaiGo氏は「運動後の30分~3時間は超集中状態に入りやすい」と話しています。どちらにしても、運動が集中力を高めることは間違いないでしょう。
しかもハンセン氏によると、運動は集中力だけでなく、注意力や記憶力、決断力など、ほぼすべての認知機能を高めるのだそう。子どもだけでなく、われわれ大人も勉強や仕事の前に運動を取り入れなければいけないという気持ちになりますね。
集中力を上げる、3つの運動
最後に集中力を上げるための運動を3つご紹介しましょう。ドーパミンの分泌を促すには、心拍数を上げる有酸素運動が効果的です。最初は苦しいかもしれませんが、運動を定期的に数ヶ月続けることで効果が出てきます。なぜならば、脳は徐々にドーパミンの量を増やしていくからです。頑張って運動を続けることで、集中できる時間もどんどん長くなりますよ。
【ジョギング】5分間
10代の子どもたちが12分間ジョギングしたところ、「集中力の高い状態が1時間近く続き、読解力が向上した」との調査結果があります。しかし、運動に慣れていないお子さまの場合、12分のジョギングというのはハードルが高いかもしれません。最初は、5分程度のジョギングから始めてみて、徐々に時間を伸ばしていきましょう。「たった4分の運動を一度するだけでも集中力が改善され、10歳の子どもが気を散らすことなく物事に取り組めた」という報告もありますので、5分間のジョギングで十分に効果はあるはずです。
【縄跳び】4分間
ジョギングに並ぶ有酸素運動といえば「縄跳び」。集中力を高めるポイントは「心拍数を増やすこと」なので、お子さまが得意な跳び方であれば、前跳びでも二重跳びでもどんな跳び方でもかまいません。ですが、苦しいからと息が切れる前にやめてしまうのはNG。体への負荷が大きいほどドーパミンの分泌量が増えるので、お子さんの様子を見ながら、「あと〇回だけ跳んでみよう」などの声かけをしてあげてください。引っかかってしまっても気にせずに、4分間は跳び続けましょう。お父さんお母さんも、ぜひお子さまとご一緒に!
【だるまさんがころんだ】
前出のレイティ氏の理論をもとにした運動プログラム「boks(ボックス)」の「だるまさんがころんだ」は、参加した全員が自然に全力を出せる運動です。遊び方は以下のとおり。
- 「だるまさんがころんだ」と鬼が言っているあいだに、鬼に向かって全力疾走
- 「だるまさんがころんだ」と鬼が言い終わる前に、床に伏せる。鬼が振り向いたときに、床に伏せている状態であればセーフ
- 「だるまさんがころんだ」と鬼が言っているあいだに、さっと起き上がって全力疾走
- 「だるまさんがころんだ」と鬼が言い終わる前に、床に伏せる
- 鬼にタッチできたら勝ち。動いてしまったり、床に伏せられなかったりした場合は、スタート地点から再スタート
- 1~5を繰り返す
このちょっと変わった「だるまさんがころんだ」の運動量はかなりのもの。芝生のある公園や家のなかなどで遊んでみてくださいね。
そしてもうひとつ、重要なことをお伝えします。それは、できれば「朝」に運動をするのが望ましいということ。もちろん、夕方や夜に運動をしても集中力は高まるでしょう。しかし、脳が最もフレッシュなのは朝です。諸説ありますが「朝の1時間は夜の3時間に匹敵する」と言われているのをご存じですか? そのゴールデンタイムに運動をしたら……お子さまの集中力は飛躍的に高まるかもしれませんよ!
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「運動は集中力の改善にすぐれた効き目を発揮する、副作用のまったくない薬だ」とハンセン氏。その言葉を信じて、筆者も土曜日午前中に縄跳びを4分、日曜日の朝に10分のジョギングをしてみました。感想としては、スピードを自分でコントロールできるジョギングよりも、縄跳びのほうがつらかったです。
しかし両日とも、疲れてソファに沈み込むことはありませんでした。集中力が上がったかどうかは不明ですが、頭がすっきりして、たまりにたまった家事がはかどったことは事実です。毎日の運動はなかなか難しいので、週に数回でも5~10分の運動を続けてみようと思います。ハンセン氏も「すぐに集中力が改善されなかったからといって、諦めてはいけない」と言っていますからね。
(参考)
アンダース・ハンセン 著, 御舩由美子 訳(2018),『一流の頭脳』, サンマーク出版.
STUDY HACKER こどもまなび☆ラボ|「ゲームや漫画は禁止!」が、子どもの“集中力の育ち”を阻害する理由
岐阜大学|運動遊びは子どもの集中力を向上させる!
スポーツ庁|令和元年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査結果
All About|中学受験で「最後に伸びる子」と「成績が上がらない子」の違いとは?
プレジデントオンライン|脳細胞が増える運動「3つの条件」
まいにちdoda|メンタリストDaiGoが解き明かす「超集中力」! 没頭状態を作り出せれば人生は劇的に変わる
東洋経済オンライン|子どもの学力と体力の知られざる深い関係
西薗一也 監修, 竜田麻衣 絵(2015),『うんどうの絵本 なわとび』, あかね書房.