みなさんのなかには、子どもを「甘やかす」ことに抵抗を覚える人も多いはず。たしかに、「甘やかしてばかりいると子どもはわがままになる」と誰もが言うように、過度な甘やかしは子どものためにもよくありません。
では、「甘えさせ」はどうでしょう。親にたっぷり甘えた子ほど、成長後によりよい人生を歩むケースが多いことはご存じですか? 今回は、「甘やかしと甘えさせの違い」や「正しい甘えさせ方」について考えていきます。
親にたっぷり甘えた子ほど、しっかり自立する
親に甘えたくない子どもはいません。自分のすべてを受け入れてくれる親だからこそ、子どもは甘え、優しくしてもらいたくなるのです。そして、親に甘えることは、子どもの心の成長に大きな影響を及ぼします。
親にたっぷり甘えることができた子は、自立した人間に育ちます。児童精神科医の故・佐々木正美先生は、「幼少期にたっぷり甘えさせてあげた子どもほど、早く自立して、大きくなっても親に心配をかけない人間に育つ」と述べていました。佐々木先生によると、「子どもというのは、本来自立したいもの」であり、「自立をするために、甘えとわがままを繰り返す」のだそう。
発達心理学・幼児教育の専門家である東京学芸大学の岩立京子先生も、「子どもが十分に甘えられる関係をつくることで、子どもは母親以外の人とも信頼関係を築けるようになる」と述べており、それが自立へとつながるのです。
一方で、ずっと甘えられ続けると、「いつまでも甘えて親離れできなくなるのでは?」という不安もよぎります。しかし、ここで子どもを突き放してしまうと逆効果になってしまうので要注意。
家庭教育の専門家である田宮由美さんによると、「『いつまでも甘えてちゃダメ!』と突き放すと、子どもは『いったんお母さんから離れると、二度と受け入れてもらえない』と感じて、いつまでも自立しようとしなくなる」そう。
子どもの心は、「安心」と「不安」、「依存」と「自立」を行ったり来たりしながら、少しずつ成長します。すぐに結果を求めたり、「もう○歳なんだから」と決めつけたりせずに、子どもが甘えてきたときはしっかり甘えさせてあげましょう。
ちゃんと親に甘えられた子は自己肯定感を手に入れる
カリスマ保育士としてメディアなどでも活躍中のてぃ先生は、子どもの「甘え行動」について、「『基地』の安全を確かめる行動」だとコメントしています。お母さんやお父さんの存在は、子どもにとって「基地」であり、基地が安全だからこそ、外に出たときにいろいろなことにチャレンジできるというわけです。
なにかに失敗したり、つらいことがあって落ち込んだりしたとき、基地で母親や父親にたっぷり甘えることができれば、安心感を得られます。それにより、弱った心が満たされ、元気になってまた挑戦できるようになるのです。
もしそこで、「子どものため」と思って「甘えないの!」と突き放したり、「○◯くんは頑張ってるじゃない。あなたも頑張りなさい」と十分に甘えさせないまま背中を押したりすれば、子どもは「基地は安全ではない」と認識します。すると外に出ていく勇気が出なくなり、基地の安全を確かめるために延々と甘え行動を繰り返すように……。
子どもを信じて励ますことと、甘えたい気持ちを無視して背中を押すことは違います。てぃ先生は、「子どもが甘えてきたときには十分に甘えさせればいい。ただそれだけのことです」と述べています。さらに、普段から「大好きだよ」「いつも応援しているよ」といった言葉をかけてあげていると、子どもの自己肯定感も上がり、親に甘えやすくなります。
必要以上に甘やかすのではなく、子どもが自分から甘えてきたときには否定したり突き放したりせずに、子どもの気持ちに寄り添ってあげることが大切なのですね。
子どもの願いを叶えることが「甘えさせ」
子どもが親に「甘える」ことは、子どもの心の成長によい影響を与えるばかりでなく、子ども自身の将来にプラスに働くことがわかりました。しかし、実際には「“甘えさせる” ことと “甘やかす” ことの線引きが難しい」「本当はたっぷり甘やかしたいけど、どうやったらいいかわからない」とお悩みの方も多いのではないでしょうか。
まず、「甘やかし」と「甘えさせ」の違いについてまとめます。
■甘やかし
- お菓子やおもちゃなど、「モノ」を欲しがるままに与える
- 子どもが自分でできることを、親の都合でやってしまう
- 「心配だから」「できないだろうから」と先回りしてやってしまう
■甘えさせ
- かまってほしがったり、スキンシップを求めてきたりする気持ちを満たす
- いままでできていたことをやってもらいたがるなど、子どもから「やって」と言われたら突き放さずにやってあげる
- 子どもを信じて、助けを求めてきたら一緒に解決策を考える
このように、「甘やかし」は “大人の都合” によって引き起こされることが多い一方で、「甘えさせ」は “子ども発信” であるという違いがあります。子どもが求めてもいないのに甘やかすのは、単なる「甘やかし」です。
●子どもをたっぷり「甘えさせる」には?
幼児教室コペル代表の大坪信之さんは、「『安心』を与えることが『甘えさせる』ということ」だと述べています。ですので、「抱っこして〜」と寄ってきたらちゃんと抱き上げて、「ねえ、お母さん(お父さん)聞いて」と話しかけてきたら、別のことをしていても手を止めて、「なあに?」と子どものほうを向いて話を聞いてあげましょう。
しかし、忙しいときに限って子どもは甘えてくるもの。そこで「忙しいからあとでね」「(ほかのことをしながら)はいはい」と適当な対応をしていると、子どもは敏感に気づきます。どんなに忙しくても、1分だけでもしっかりと話を聞いてあげましょう。
「子どもの気持ちを理解し、スキンシップを図るなど心理的な要求を受け入れてあげて」と話すのは、保育士として長年保育業務に携わる市川由美子先生です。たとえば、下の子が生まれてかまってもらえない寂しさから、面倒な要求をしてくるなどわがままが増えるケースもあるでしょう。
そのような行為は、自分のわがままをどこまで受け入れてくれるのか、愛情を確認しているからであり、決して親を困らせようとしているのではありません。市川先生は、「子どもの気持ちを理解し、叱らずに、抱っこしたりひざの上で一緒に遊んだりして、スキンシップをとりながら子どもとの時間をつくってあげて」と述べています。
また、前出の佐々木先生は、甘えさせるのが苦手な親御さんに対して、「食事で子どもの願いを叶えてあげるとよい」とアドバイスしています。たとえば、朝ごはんで食べる卵は目玉焼きがいいかゆで卵がいいか、子どもの要望を聞いてつくってあげるといいそう。
佐々木先生いわく、「毎日の食事というのは、生きていくうえで欠かせない重要な要素。そういう大事な場で、自分の願いが受け入れられることが、子どもの自信につながる」のだそうです。
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幼少期に親やまわりの大人に十分甘えてきた子は、思いやりのある人間に育ちます。反対に、そのような経験が乏しいと、人に要求ばかりする人間になる傾向が強くなります。甘えることによって子どもは親の愛情を実感し、周囲の人にも愛情をもって接することができるようになるのですね。
(参考)
HugKum|【今も心に響く佐々木正美さんの教え】子どもが自立するには「甘え子育て」が必要です
ベネッセ教育情報サイト|自立する子に育てる! 幼児の甘えさせ方【前編】甘えとわがままの違いとは
All About|子供を自立させる甘えと、ダメにする甘やかしの違い
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|子どもが甘えん坊すぎて困るなら、親はシンプルにコレをすればいい【てぃ先生インタビューpart2】
幻冬舎ゴールドオンライン|子どもを「甘えさせること」と「甘やかすこと」の違いとは?
ベネッセ教育情報サイト|甘えてくる子どもの心理とは?思い切り甘えさせてあげよう!