親の頭の良し悪しは、子どもに遺伝するのか? 学力に少しでもコンプレックスを持った経験がある親御さんにとって、気になる話題でしょう。
このコラムでは、頭の良さと遺伝との関係に迫ります。子どもは紛れもなく、両親の遺伝子を受け継いだ存在。そのことを踏まえながら、子どもの頭を良くするために親ができることについて、考えていきます。
脳の発達過程と遺伝との関係
頭の良し悪しに直接かかわる器官、脳。脳医学者の瀧靖之氏は、脳の発達過程を踏まえると、親の頭の良し悪しは子どもにはあまり影響を与えないと言います。その理由は、脳の中で学習や考え方に関係する部位は、遺伝の影響を受けにくいところであるため。
人間の脳は以下のように、生まれてから大人になるまでの成長過程において、後ろから前に向かって発達していきます。時期によって発達する部位が異なるほか、遺伝による影響の受けやすさも変わるのだそう。
- まず発達し始めるのが、視覚を担う「後頭葉」と、聴覚を担う「側頭葉」。誕生から数年かけて発達し、成長のかなり早い段階で大人と同じレベルにまで発達する。
- 次に発達を始めるのが、触感を司る感覚野と体の動きを司る運動野を持つ「頭頂葉」。3歳ごろから本格的に発達を開始。
- 最後に発達するのが、思考・感情・理性などを司る「前頭葉」。中でも「前頭前野」という場所は最後に発達することが分かっていて、その発達のピークは思春期~20代頃まで。
このように発達していく脳の各部位のうち、遺伝の影響を大きく受けるのは、誕生してすぐ発達し始める後頭葉と側頭葉です。特に後頭葉は、8~9割遺伝の影響を受けると言われます。視力や聴力は親に似る傾向がある、ということですね。
一方、最後に発達する前頭葉が受ける遺伝の影響は5~6割ほど。後頭葉などに比べ環境の影響を大きく受ける部分になります。
頭の良し悪しは、遺伝とはあまり関係がない
遺伝の影響をそれほど強く受けないこの前頭葉こそが、頭の良し悪しに関係する部分です。
特に最後に発達する前頭前野は、高次認知機能という勉強に直結する様々な能力を司るところ。考える力、判断する力、洞察する力、計画する力、我慢する力……。勉強という行動そのものに必要な力ばかりですよね。
また年齢が上がり試験勉強をするようになると、勉強の計画を立てたり、勉強のために楽しいことを我慢したりしなければなりません。勉強に付随することにも、高次認知機能は関係しています。
このように、勉強に必要な力を司るのが前頭前野であり、前頭前野は5~6割ほどしか遺伝の影響を受けません。そしてその発達のピークは思春期以降。頭の良さは、遺伝とはあまり関係がなく、長い期間をかけて伸ばしていくことができるものなのです。
環境が子どもの頭の良さに与える影響
遺伝が頭の良さに与える影響は5~6割にとどまってはいますが、見方を変えればおよそ半分は遺伝の影響があります。この半分のぶんを無視していいのだろうか、という疑問が湧いてきますよね。
行動遺伝学(※)の第一人者である安藤寿康・慶應義塾大学教授によると、体質・性格・知能・才能・非行などすべての面に、遺伝の影響があります。遺伝は、ほぼすべての心理的・行動的特徴に影響を与えていて、その大きさは30~50%、またそれ以上になるものもあるのだそう。性格(神経質、外向性、協調性など)、そして知能(IQ)は、どちらも遺伝の影響は半分ほどだと言います。
(※)行動遺伝学とは、人間の性格や才能などが、先天的な遺伝と後天的な環境からどの程度影響を受けるのか、膨大なデータから分析する学問。安藤氏は、遺伝子が100%同じ一卵性双生児と、遺伝子が50%同じ二卵性双生児を比較し、遺伝の影響度合いについて調べている。
安藤氏によると、人は確かに遺伝による影響を受けているものの、遺伝的にある素質を持っていたとしても、その素質が発現するかどうかは環境次第なのだそう。遺伝のみによってすべてが決まるわけではないということです。安藤氏は次のように述べています。
「たとえば、同じ遺伝的素養があっても、環境によって、現実のものとして発現する場合としない場合があるんです。問題行動の遺伝的素養は、しつけが厳しすぎたり一貫していない家庭のほうが強く出る傾向があり、しつけが厳しすぎず、一貫している家庭ではあらわれにくい。また、読み聞かせをした子の問題解決力が高くなったり、無理に何かをさせず自由にさせていた子のほうが、知的能力が高くなるという結果も出ています」
(引用元:ナショナル ジオグラフィック|「研究室」に行ってみた。 行動遺伝学・教育心理学 安藤寿康 第4回 ドッキリ企画!双子を内緒で交換したら)
頭の良し悪しに関して、遺伝の影響にとらわれすぎる必要はありません。親がすべきことは、遺伝の影響を心配することではなく、我が子の頭の良さを伸ばすために環境を整えてやることなのです。
遺伝の影響にとらわれない! 子どもの頭を良くする環境の整え方
では、頭の良い子どもを育てるために親ができること、望ましい環境づくりの方法について解説します。
■ 知的刺激により好奇心を育てる
子どもの頭を良くするために、子どもの好奇心が育つようたくさんの知的刺激を与えましょう。例えば、子どもに図鑑を見せ、興味を持ったものがあったら実際にそれを見に親子で出かけてみてはいかがでしょうか。
瀧氏は、好奇心が賢さにつながっていくと言います。なぜなら、好奇心を持っている子どもは、自分で考えることを好む結果、勉強が好きになるから。
子どもの好奇心の対象は、昆虫や電車、塗り絵など、まずは勉強と関係ないことでも構いません。自分が好きになれるものに熱中することの楽しさを経験した子どもは、「もっと知りたい」「なぜこうなるんだろう」「もっとうまくなりたい」という向学心を覚え、実際に自分で調べたり努力したりするようになります。好奇心が知的欲求につながり、それがひいては成長後の高い勉強意欲にもつながっていくのです。そうすれば、自ずと頭の良さがついてくるのは明らかですよね。
「頭の良さ」という言葉から、ただ単に成績を良くすることをイメージするのではなく、子どもの知的欲求を高めてあげることを考えると良いでしょう。
■ 頭の良さにつながる家庭環境づくり
頭の良い子を育てるために適切な家庭環境が築けているか、確認してみましょう。安藤氏は、子ども期は遺伝的な素質が発現し始める時期であると同時に、家庭環境の影響が個人の認知能力や学業成績、非行などの問題行動に色濃く出る時期でもあるとして、次のように述べています。
勉強をする習慣を身につけさせるかさせないか、学業的なことへの関心を重視するのか、それ以外のことへの関心を大切にするのか、同じお金を本や家庭教師に払うかなど、家庭環境や親の関わり方の違いが、子ども期の認知発達にはっきりした違いとなって効果を及ぼすのは確かなようです。
(引用元:日本子ども学会|子ども学カフェ 第2回「遺伝子は『不都合な真実』か?」(2))
安藤氏は、こうした家庭環境の影響による効果は一生続くものではないとしながらも、だからといって親はその意義を無視してはならないと言います。そこで、例えば家庭で以下のようなことに気を配り、頭の良い子どもが育つ環境づくりを意識してみましょう。
リビングに図鑑や辞書、地図、地球儀などを置く
親子が日々を過ごすリビングに、子どもの知的好奇心を高める仕掛けを。興味を持ったこと、気になったことをすぐに調べる癖がつき、子どもの学ぶ意欲が湧きます。
親も日頃から勉強する
語学習得や資格試験に向けた勉強、仕事のための読書など、親が日頃から勉強し、その姿を子どもに見せましょう。親の姿を見て、子どもは「勉強は楽しいもの」「勉強するのは当たり前」と思うようになります。子どもの勉強意欲にもつながるしょう。
本を豊富に用意する
家庭には本をたくさん用意し、子どもがいつでも好きな本を手に取り読むことができる環境を整えましょう。本は買うだけでなく、定期的に図書館から借りてくるのも良いですね。本の読み聞かせのほか、親子で一緒に読書をする時間を持つのも効果的。読書の習慣は、子どもの国語力、そして学力アップにも役立つものです。詳しくは、「国語力アップの鍵はやっぱり読書だった! 将来のために今、本を読むべき理由」で紹介しています。
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子どもが遺伝の影響を受けていることは紛れもない事実。しかし、「自分の頭の悪さは子どもにも遺伝しているはずだ」「自分は○○が苦手だからやはり子どもも苦手みたいだ」と考えるのは、いささか早計です。遺伝にとらわれ過ぎることなく、親としてできる環境づくりを、今日からでも始めてみてはいかがですか。
(参考)
瀧靖之(2016),『16万人の脳画像を見てきた脳医学者が教える 「賢い子」に育てる究極のコツ』,文響社.
瀧靖之著(2017),『16万人の脳画像を見てきた脳医学者が教える「脳を本気」にさせる究極の勉強法』,文響社.
週刊女性PRIME|わが子がデキないのは遺伝? 平凡な両親の子供でも特別な才能を伸ばす方法はあるか
日本子ども学会|子ども学カフェ 第2回「遺伝子は『不都合な真実』か?」(1)
日本子ども学会|子ども学カフェ 第2回「遺伝子は『不都合な真実』か?」(2)
ナショナル ジオグラフィック|「研究室」に行ってみた。 行動遺伝学・教育心理学 安藤寿康 第3回 パーソナリティも遺伝で決まる?
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