貧困家庭に生まれながら、独学で東大とハーバード大に合格。現在は、「学びのイノベーター」という肩書で、少子化問題、奨学金問題、子どもの貧困問題などについて評論活動を行う本山勝寛さん。そんな本山さんは、子どもの自己肯定感を高めるために「褒めて伸ばす」ことがいいと進言します。では、具体的にどのように子どもを褒めればいいのでしょうか? 本山さんが掲げる「あいうえおかきくけこ」の褒め方を教えてもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
才能ではなく、結果につながる努力や過程を褒める
子どもを褒めるということに関しては、「褒めて育てるのがいい」「褒めない子育てがいい」「褒めずに認めるのがいい」というふうに、さまざまな意見がありますが、わたし自身は褒めて育てるべきだと考えています。なぜなら、褒めてあげることが子どもの自己肯定感を高めることにつながるからです。
しかし、ただやみくもに褒めればいいというわけではありません。たとえば、「頭がいいね」「運動神経がいいね」というふうに才能を褒めることは避けたほうがいいでしょう。というのも、それでは子ども自身が「自分には才能がある」と自信過剰になり、「頭がいいんだから勉強しなくていい」と考え努力をおこたるからです。
才能そのものではなく、結果につながる努力や過程を褒めてあげるべきです。それも、ただ「頑張ったね」だけではやはり不十分。努力をする過程のなかにも子どもなりに工夫した部分もあるでしょう。そういう具体的な部分をしっかり褒めてあげれば、子どもは「やればできるんだ!」と思い、自己肯定感を高めていけます。
達成経験で得る「やればできるんだ!」というマインドセット
この、「やればできるんだ!」というマインドセットを子どもに持たせてあげることがなにより大切です。逆に、自己肯定感が低く、「どうせできない」「やっても無駄だ」と子どもが思っていたとしたらどうでしょうか? なにかに取り組む前からあきらめてチャレンジすらしないのですから、豊かな人生を歩むのは困難です。
子どもの自己肯定感を高めるには、結果につながる努力や過程を褒めて、小さな達成経験をたくさん積み重ねさせてあげることが大切です。達成する内容は、勉強やスポーツに限りません。お絵描きや縄跳びなどの遊びだっていい。最初は3回しか縄跳びができなかったのに10回跳べるようになった、さらに一生懸命練習したり工夫をしたりするうちに100回跳べるようになった。赤いものを描いてみようとお題を出して、リンゴやイチゴ、サクランボ、トマトやチューリップ、金魚やザリガニ、たくさんの赤いものが描けた。そういう達成経験が子どもの自己肯定感を高めていきます。
実際のところ、縄跳びがいくら上手に跳べても将来の仕事に役立つわけではないですし、絵を描くことも大半の人は将来の職業にはつながりません。でも、できなかったことが努力してできるようになった経験や、自分が手を動かしてなにかをつくり出したという経験によって培われる「やればできるんだ!」というマインドセットは、仕事はもちろん、あらゆる場面で大いに力を発揮します。仕事で大きな壁にぶつかったとき、「どうせできない」と思うのか、「やればできるんだ!」と思うのか。その後の成果に大きなちがいが出ることはいうまでもないでしょう。
子どもが伸びる、褒め方ガイド
最後に、わたしが考える子どもの上手な褒め方についてまとめておきます。拙著『そうゾウくんとえほんづくり』で、「子どもが伸びる、あいうえおかきくけこ」としてまとめています。その内容は、次のようなものです。
いう 「一人称」で、「うれしい」気持ちを伝える
え 「笑顔」で褒める
お 「同じ目の位置」で褒める
かき 「過程」を観察、「気持ち」に共感
くけこ 「具体的」に「結果」も「行動」も褒める
まず、「あ」は、「あたりまえ」を褒める。大人にとってはあたりまえにできることも、子どもにとっては一生懸命に頑張ってはじめてできたということがたくさんあります。大人にとってのあたりまえは子どもにとってはあたりまえではないわけです。そう考えて、親からすれば小さなことに思えることでも褒めてあげてほしい。
次の「いう」が、「一人称」で、「うれしい」気持ちを伝えます。子どもは、大好きなお父さんやお母さんがよろこんでくれることによろこびを感じるものです。ですから、「○○ちゃんの絵、大好き!」「一緒に遊べて楽しかったよ」というふうに、親自身のうれしい気持ちをしっかり伝えてあげてください。
「え」は、「笑顔」で褒めます。子どもは、親の言葉だけではなく表情やしぐさなども観察しています。同じ言葉で褒めるとしても、無表情で褒めるのか、笑顔で褒めるのかでは褒めることの効果が大きくちがってくる。できるだけ、笑顔で褒めるように心がけましょう。
続いて、「お」は、「同じ目の位置」で褒めます。表情のちがいと同様に、子どもの頭のうえからいうのか同じ目線でいうのかでは、同じ言葉でも伝わり方がちがってきます。また、笑顔をしっかり見せる意味もあります。
次の「かき」は、「過程」を観察し、「気持ち」に共感します。先に努力や過程を褒めてあげるべきだと述べましたが、そうするためには子どもが取り組んでいる過程をしっかり観察する必要があります。また、子どもがよろこんでいるときには一緒によろこび、逆に悩んでいるときには「難しいね」と一緒に悩む。そういった共感の積み重ねが、子どもとの絆を深め、褒める効果を高めてくれます。
最後の「くけこ」が、「具体的」に「結果」も「行動」も褒めます。「できたね!」と結果を褒めることも大切ですが、先に触れた過程と同じように、子どもが取り組んだ行動の一つひとつを褒めてあげましょう。しかも、その行動について「こういう工夫をしたんだね、面白い発想だね!」と、なるべく具体的に褒めることが大切です。そうすれば、子どもは「お父さん、お母さんは自分をしっかり見てくれている、認めてくれる」と感じ、「これでいいんだ!」と思って自己肯定感を育むことにもなるのです。
『そうゾウくんとえほんづくり』
本山勝寛 著/KADOKAWA(2019)
■ 学びのイノベーター・本山勝寛さん インタビュー記事一覧
第1回:非認知能力のなかで最重要なのは「○○心」。実は、日本の子どもは学びへの興味が低い!?
第2回:「ただの石でも化石に見える」? 自分で新たに生み出す経験が育むイノベーション能力
第3回:自己肯定感がぐんぐん高まる最高の褒め方。「やればできる」のマインドはこう育てる!
【プロフィール】
本山勝寛(もとやま・かつひろ)
1981年3月13日生まれ、大分県出身。学びのイノベーター。本山ソーシャル・イノベーション塾(MSI塾)塾長。日本財団子どもの貧困対策チームリーダー兼人材開発チームリーダー。高校時代、アルバイトで自活しながら独学で東大に現役合格。東京大学工学部システム創成学科卒業後、ハーバード大学教育大学院国際教育政策専攻修士課程を修了。現在は日本財団にて子どもの貧困対策チームリーダーと人材開発チームリーダーを務め、少子化問題、奨学金問題、子どもの貧困問題などについて評論活動を行う。5児の父で育児休業を4回取得。自身の経験を基にした勉強法、教育論などについての執筆活動にも積極的に取り組む。『最強の暗記術 あらゆる試験・どんなビジネスにも効く「勝利のテクニック」』(大和書房)、『今こそ「奨学金」の本当の話をしよう。 貧困の連鎖を断ち切る「教育とお金」の話』(ポプラ社)、『最強の独学術 自力であらゆる目標を達成する「勝利のバイブル」』(大和書房)、『一生伸び続ける人の学び方』(かんき出版)など著書多数。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。