教育を考える 2021.5.18

子どもの教育で「しなくてもいいこと」はこんなにあった。いつも笑顔じゃなくていい!

長野真弓
子どもの教育で「しなくてもいいこと」はこんなにあった。いつも笑顔じゃなくていい!

SNSの普及もあり、教育情報があふれる時代になりました。もちろん情報に助けられることもありますが、理想の子育てと自分の子育てを比較して落ち込むことも多いのではないでしょうか。

それぞれはすばらしくても、すべての教育方法を取り入れることがベストとは限りません。逆に、親が頑張りすぎて余裕をなくしてしまうことは、子どもにとって悪影響です。親子で “ゆとり” をもつために、「しないこと」を考えてみませんか。

親のストレスが子どもに悪影響を及ぼす……

親がいっぱいいっぱいの状態になり、ストレスをため込んでしまうのはとても危険です。なぜならば、その親のストレスが、今度は「マルトリートメント(不適切な養育)」というかたちで子どもに悪影響を及ぼすからです。マルトリートメントの意味は、虐待よりももっと広い意味の「子どもの健全な成長・発達を阻む不適切な行為」。たとえば、「大声で叱りつける」「叩く」「気分に任せて態度を変える」行為などが、それにあたります。

子どものこころの発達研究センター発達支援研究室の小児科医・友田明美氏(福井大学教授)によると、マルトリートメントがエスカレートすると、子どもの脳に強いストレスがかかり、脳の損傷を招くこともあるのだそう。その結果、脳機能にも影響が及び、正常な発達が損なわれてしまうとのこと。子どもによっては、キレやすい性格になったり、うつ状態になったりするケースも……。

また、親のストレスが子どもの人間関係にも悪影響を与えると話すのは、日本メンタルアップ支援機構代表理事の大野萌子氏。子どもにマナーを守らせるとき、「親自身のイライラをぶつけるように “表情も音調も冷たく、言い放つ” ような冷たい対応をしていると、いずれ、子どもも他人に対して同じような態度をとるようになる」と警告しています。さらにこのとき、親に口答えできず、我慢を強いられ続けると、自分より弱い人に対して攻撃的になる傾向もあるのだそう。

そんな最悪の状況は避けたいですよね。そのためには、親の精神的な “ゆとり” を確保するのが有効です。次に紹介する「10のしないこと」をぜひ参考にしてみてください。

教育に疲れたときのしないこと1

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子どもの教育に疲れたら「10のしないこと」を考えて

「疲れたな……」「イライラしているな」と感じたら、 “しなくてもいいこと” を考えてみましょう。

合同会社こどもみらい探究社代表で保育士の小竹めぐみ氏と小笠原舞氏、教育学博士であるアグネス・チャン氏など、子育て・教育のプロたちの提言を参考に、「10のしないこと」をピックアップしてみました。

しないこと1:子どもに期待しない

子どもは「親の期待」に敏感です。親が子に期待をすると、子どもは強いプレッシャーを感じます。すると今度は、子どもの意識は「親を満足させること」に向いてしまうのです。たとえば、ママが「今日もゴールを決めてね!」って言っていたから、なんとしてでも頑張らなくてはと考えてしまうわけです。「最後まで走れるといいね」「全力で頑張ろうね」など、 “そのときのその子のベスト” を大切にしてあげましょう。

しないこと2:先回りしない、手助けしすぎない

親は、わが子が勉強や運動などで遅れをとらないように、「教えてあげなきゃ」と先回りしがちです。しかし、東京家政大学子ども学部教授の岩立京子氏によると、それは子どもから学びのチャンスを奪う「悪い先回り」なのだそう。「チャレンジと試行錯誤のあとの達成感が子どもを育む」と信じて、あれやこれやと先回りしたい気持ちをぐっと押さえていきましょう。

しないこと3:子どもの失敗を恐れない

子どもに「失敗させたくない」と考える親御さんは多いはず。しかし、子どもにとって、失敗からの学びはとても貴重です。教育ジャーナリストの中曽根陽子氏は、「失敗は、そのときの能力以上のことに挑戦した結果。つまり、成長のチャンス」だと言っています。「自分でやるの!」と言い張って、お皿をひっくり返した……ということ、よくありますよね。でも、その失敗が未来の挑戦力につながるのですから、お子さまにはどんどん失敗をさせてあげてください。

しないこと4:他人の成功例をまねしない

「これからの教育に王道はないんですよ。他人のものさし、固定概念に縛られていてはダメ」「人間の価値はその子の個性にあります」ーーこれらはアグネス・チャン氏の言葉。「毎日絵本を10冊読んでいたので、国語のテストはいつも100点です」という記事を読んで、「今日からうちも10冊読み聞かせよう!」といった教育は、わが子の個性を見ているとは言えませんよね。もしかしたら、お子さんは絵本よりも図鑑のほうが好きかもしれません。これからの時代は、子どもをしっかりと見て、その子に合った対応をすることが大切です。

しないこと5:子どもをほめない

アドラー心理学では、子どもを「ほめる」のではなく「認める」ことを大切にしています。なぜならば、親が子どもをほめるときは、どこかで「子どもを自分の思い通りにしよう」という下心が入ってしまうから。「こんなに勉強ができてすごいね!(もっと頑張って、もっと勉強ができるようになってほしい)」とほめるのではなく、「頑張ったね! ママも嬉しいよ」と、子どもを認め、共感してあげてください。

しないこと6:生活リズムにこだわりすぎなくていい

小竹氏と小笠原氏は、「夜は9時までに寝ないといけない」「一日三食食べさせなければ」「遅くならないうちにお風呂に入らなきゃ……」と、生活リズムにこだわりすぎなくていいと話しています。親だって毎日同じ時間に寝ることはないですし、一日二食になることもありますよね。ですから、寝る時間がいつもより遅くなってしまっても、お風呂に入れなくても、「今日はこれでOK」と、肩の力を抜く日があってもいいのです。

教育に疲れたときのしないこと2

しないこと7:ルールを守りすぎない

ルールを守るより新しい発見を楽しむべきだと、アグネス・チャン氏は言っています。

ルールを守って、いつも通りの生活しかしたくない子を育ててしまったら、大人になって苦労しますよ。だってものすごいスピードで新しいものが出てくる時代ですから。そのたびにストレスになったら、毎日楽しくないじゃないですか。新しいものを求める子にしましょう。新しいものをつくれる子にしましょう。そのためには、親が新しいものを怖がらないで、刺激的な楽しい環境をつくることです

(引用元:ブックバング 小学館|子どもに「規則正しい生活」は必要ない 息子3人を「スタンフォード大学」に合格させたアグネス・チャンが考える教育法

アグネス・チャン氏は、日本で重要視される「規則正しさ」よりも、刺激的な毎日を送って脳のシナプスを増やすことが重要だと断言。実際に「毎日食事場所を変える」「突然家族旅行を決行する」などを実践して、子どもが退屈しないような工夫をしていたそう。「ルールを絶対に守らない」ということではなく、日常にスパイスを加えるイメージです。

しないこと8:イライラしている自分も子どもも責めない

親も子どももイライラする日がありますよね。特に子どもはそんなイライラをもてあまし気味です。アグネス・チャン氏は、「子どものイライラの原因はホルモン」だと話しています。思春期前後の子どもは、ホルモンバランスが変化するためイライラしがちなのだそう。「イライラは誰のせいでもなく仕方がないこと」と親が丁寧に説明をしてあげることで、子ども自身もイライラを客観視できるのです。ですから、イライラしている子どもにイライラしそうになったら、このコラムの「しないこと8」を思い出してくださいね。

しないこと9:いつも笑顔でなくてもいい

笑顔は誰にとってもうれしいもの。でも、 “笑顔” にとらわれすぎていませんか? 心理学者・大日向雅美氏(恵泉女学園大学学長)は、「子育ては修羅場! いつも笑顔で穏やかでいることは無理」と言いきっています。また、こころぎふ臨床心理センター所長の長谷川博一氏も、「無理をして笑顔をつくる必要はない」と述べています。だから、親はいつも笑顔でなくたっていいのです! 悲しい、つらいことがあれば、我慢せず泣いたっていいのです。

しないこと10:子どもを世界の中心にしない

食事のメニューやお出かけの場所などを決めるとき、子ども中心に考えてしまう親御さんは少なくないはず。しかし家庭のなかで子どもを特別扱いしすぎると、その子は自己愛の強い、自己中心的な人間になってしまうかもしれません。以下は、サイコセラピストのエイミー・モーリン氏が挙げた、「あなたは特別な子よ」というメッセージを送っていないかどうかのチェックリストです。

□子どもをほめちぎり、もち上げることが好きである
□子どもに求められたら、何をしていてもすぐに中断している
□子どもが望むことをするために、たくさんの時間を費やしている
□わが子の能力はどんなことでも平均以上だと思っている

もしひとつでも当てはまるようであれば、お子さまが「私って特別」と感じている可能性があります。エイミー・モーリン氏は、「自分が世界の中心」と子どもが勘違いしないために、「親はひとりの時間をつくる」「夫婦の時間を楽しむ」べきだと話します。親が自分の人生を犠牲にしない生き方をすることは、子どもへの大きなメッセージとなるはずです。

***
「しないこと」でよい効果が得られるなら最高ですよね。一方で、絶対やったほうがよいことがあります。それは、「大好きの声かけ」や「スキンシップ」で親の愛をしっかり伝えること。アグネス・チャン氏は「前に進んでいく力になる自己肯定感を育てるのは、親の絶対的な愛情です。それはこれからの時代、子どもを幸せにしたい親が贈るべき最高のプレゼント」だと言っていますよ。「すること」と「しないこと」、しっかり心に刻みたいですね。

(参考)
小竹めぐみ 著, 小笠原舞 著(2016),『いい親よりも大切なこと』, 新潮社.
中曽根陽子(2016),『成功したいなら「失敗力」を育てなさい』, 早川書房.
ブックバング 小学館|子どもに「規則正しい生活」は必要ない 息子3人を「スタンフォード大学」に合格させたアグネス・チャンが考える教育法
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