いま、家庭教育における重要なキーワードのひとつといわれるのが「自己肯定感」。子どもの自己肯定感を伸ばすためにも「褒めて伸ばすことが大切」だという話はよく耳にするでしょう。
でも、みなさんが子どもを褒めているつもりでも、肝心の子どもがそう受け取っていないとしたら? その危険性を指摘するのは、人間関係研究家の稲場真由美さん。
稲場さんは、16年間、延べ12万人の統計データをもとに「性格統計学」という独自の理論を構築しました。それによると、人間は「ロジカル」「ビジョン」「ピース・プランニング」「ピース・フレキシブル」という4つのタイプにわけることができるのだそう(インタビュー第1回参照)。そして、そのタイプによって心に響く褒め言葉もちがうのだそうです。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
人間は、「自分軸か、相手軸か」「計画的か、臨機応変か」というふたつの軸により4つのタイプにわけられる。自分軸とは、「自分のために頑張ることが行動の原動力になる」タイプであり、相手軸は「相手のために頑張ることによろこびを感じる」タイプ。また、計画的とは、「事前に決めた目標やルールを重視して計画的にものごとを進めたい」タイプであり、臨機応変は「その場での直感を重視して行動する」タイプ。「性格統計学」による4つのタイプは次のふたつの質問で判別可能。
【1】話は、
A もとから順を追って聞きたい
B 結論から聞きたい
【2】急な変更は、
A ストレスになる
B ストレスにならない
【1】B、【2】Aを選んだ人は、ロジカル(自分軸かつ計画的)
【1】B、【2】Bを選んだ人は、ビジョン(自分軸かつ臨機応変)
【1】A、【2】Aを選んだ人は、ピース・プランニング(相手軸かつ計画的)
【1】A、【2】Bを選んだ人は、ピース・フレキシブル(相手軸かつ臨機応変)
「ロジカル」は、自分で納得して自分のペースやタイミングでものごとを進めたいタイプのため、急な予定変更などは大きなストレスになる。「ビジョン」は、自分の感性に響いたり可能性を感じたりするものを好み、自分の願望を重視するため、「やりたい!」と感じるかどうかで、ものごとに取り組む集中力に大きなちがいが出る。「ピース」は、行動パターンが計画的か臨機応変かによってさらにふたつのタイプにわかれるが、共通しているのは、和を大事にして人間関係が円滑であることを好むこと。また、ものごとをもとから知りたい傾向があり、「なぜ?」という口癖があることも共通点。
「すごいね!」と褒めても、心に響かない子どももいる
「自己肯定感」というと、簡単にいえば「自分は自分のままで大丈夫だ!」という気持ちですから、自分のなかで完結しそうにも思えるものです。でも、じつは自己肯定感を自分だけで上げることはとても難しいもの。というのも、自己肯定感を上げるには、誰かから認められたり自分のことを必要だと思ってもらえたりするという、他者とのかかわりが不可欠だからです。
そして、子どもにとってもっとも大きな存在となる他者は、もちろん子どものいちばん身近にいる親です。親から認められたい、褒められたいという気持ちは、すべての子どもが持っています。でも、ただ褒めればいいというものではありません。なぜなら、わたしが提唱する「性格統計学」によるタイプによって、脳が「褒められた」「うれしい」と感じる言葉がちがうからです。つまり、子どもの自己肯定感を上げようと考えるのなら、子どものタイプによって褒め方も変えていく必要があるということです。
たとえば、「ロジカル」の子どもの場合はどうでしょうか。ロジカルというタイプは、自分の努力や成果に対して具体的にピンポイントで褒められたいという特徴があります。「すごいね!」と褒めても、ロジカルの子どもにとってはあいまいに感じられて褒められたと感じないのです。
過去にある高校で講演をしたとき、「わたしはお母さんに褒められたことがない」という生徒に出会ったのですが、その子のタイプがロジカルでした。わたしが「あなたのお母さんは『すごいね』といっていませんでしたか?」と尋ねると、「いっているかも」と答える。そこで、「お母さんは、『すごいね』といって褒めているつもりですよ」と返したところ、「わたしには褒められたとは感じられないので、わたしを褒めていません」と答えたのです。
すごくショッキングなことですよね。その子のお母さんは「すごいね!」ということでずっと褒めてきたつもりだったのでしょう。でも、褒め方が子どものタイプに合っていなかったために、まったく褒めていないことと同じ結果になってしまったのです。
「ロジカル」の親が他のタイプの子どもをうまく褒めるには?
いま、家庭教育において「褒めて育てることが大切」だと盛んにいわれます。その一方で、多くの親から「褒めるタイミングがない」という声も聞かれます。じつは、そういう親はロジカルだということが多いのです。
ロジカルと同じ自分軸のタイプでも、自分の感性に従って直感的に行動する「ビジョン」の親の場合、言葉はよくありませんが、ある意味ちょっと適当な感じで子どもをどんどん褒められる。「なにがどれくらいできたか」といったことを気にせず、できたことそのものを「できたね!」「すごいね!」と褒めることができます。
でも、ロジカルの親の場合、自分自身がそういう言葉では褒められたと感じないため、「子どもがテストで何点取れたら褒めてあげよう」というふうに、なんらかの具体的な基準を設定します。しかも、たいていの場合、その基準が高すぎるのです。そのため、子どもはなかなかその基準にまで到達することができません。そうして、「褒めるタイミングがない」ということになるわけです。だとしたら、ロジカルの親の場合は子どもを褒める基準を下げてあげればいいだけのこと。そうすれば、子どもをどんどん褒めることができて、子どもの自己肯定感はしっかり向上していきます。
じつは、性格統計学では、4つのタイプのうちでロジカルの人が多いということがわかっています。ここまでに紹介した話に納得できるという人も多いのではないでしょうか。では、もう少し、ロジカルの人に対してアドバイスをしておきましょう。
ロジカルの人は、「すごいね!」というふうに、大きなリアクションとともに感情を込めて子どもを褒めることが苦手です。でも、ビジョンの子どもは「すごいね!」と褒められることを求めています。そうであるならば、具体的な形容詞をセットにしてみましょう。子どもが部屋の掃除を早くできたなら、「すごく早いね」と褒めるという具合です。そうすれば、具体性を好むロジカルの人でも、子どもを多少オーバーに褒めやすくなるでしょう。
また、「あ」という感嘆詞を使うこともおすすめです。先の例なら、「あ、すごく早いね」というわけです。それだけでも、「すごいね!」と褒められることを求めるビジョンの子どもだけではなく、心を込めて褒められることを好む「ピース」の子どもからも、ずいぶん印象がちがって聞こえるはずです。
子どものタイプによって異なる褒め方のポイント
さて、親のタイプにかかわらず、子どものタイプのちがいによる褒め方のポイントについても解説しておきましょう。子どもが掃除をしてくれたというケースなら、ロジカルの子どもに対してはなるべく具体的に褒めてあげる。「洋服も綺麗にたたんでくれたんだね」「本棚も整理してくれたの?」という具合です。
ビジョンの子どもには、それこそ先の「すごいね!」に加えて、「すごい! ぴっかぴかだね」というふうに擬態語を入れてあげる。なるべくオーバーなリアクションが伴うと、ビジョンの子どもにはさらに響きます。また、誰かのために頑張ることが最大のモチベーションとなるピースの子どもには、なにより「ありがとう」「助かったよ」と感謝を伝えてあげてください。
繰り返しになりますが、子どもを褒めているつもりでも、子どもの心に響いていなければ、まったく褒めていないのと同じこと。子どものタイプに合った適切な褒め言葉をかけて、自己肯定感をしっかり向上させてあげてほしいと思います。
『人間はたったの4タイプ 仕事の悩みは「性格統計学」ですべて解決する!』
稲場真由美 著/セブン&アイ出版(2019)
■ 人間関係研究家・稲場真由美さん インタビュー一覧
第1回:性格統計学の提唱者が語る。「親子は考え方も似る? それはただの思い込みです」
第2回:子どもが言う「なんとなく……」に、親が「どうして?」と聞いてはいけないわけ。
第3回:子どものタイプ別・自己肯定感が本当に伸びる褒め言葉。「すごいね」だけじゃ響かない!?
第4回:「いくら言っても分かってくれない」のは、叱り方がその子に合っていないから。
【プロフィール】
稲場真由美(いなば・まゆみ)
1965年生まれ、富山県出身。一般社団法人日本ライフコミュニケーション協会代表理事。株式会社ジェイ・バン代表取締役。自身が人間関係の悩みに直面したことから、新しいコミュニケーションメソッドを探求し、16年間、延べ12万人の統計データをもとに「性格統計学」を考案・開発する。以来、このメソッドを「ひとりでも多くの人に伝え、すべての人を笑顔にしたい」との思いから、セミナーや講演、カウンセリングを通じて普及活動を行う。2018年には「性格統計学」にもとづくマルチデバイス型ウェブアプリ『伝え方ラボ』を開発し、ビジネスモデル特許の取得に成功(特許6132378号)。現在は、企業や自治体、学校をはじめ、法人・個人を問わず『伝え方ラボ』を活用した研修やコンサルティングを幅広く行い、多くの人のコミュニケーションスキル向上に貢献する活動を続けている。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。