役者、舞台や映画の脚本・演出、そして番組MCとマルチな活動をしている坂上さんですが、もうひとつの顔が存在します。それは、2009年に立ち上げた『アヴァンセ』という子役育成のためのプロダクションを運営していること。役者業は既に48年目目を迎えた坂上さん。
その長いキャリアを持っているからこそ教えることができる、目から鱗の子どもの「才」の伸ばし方を、全10回に渡って公開します。第3回目となる今回は、坂上さんがスクールで教える際に考えている「幅」についてのお話です。
子育ての幅を狭めないようにする
子どもたちに芝居を教えていくとき、わたしは、彼らが持つ“幅”を見極めながら指導しています。子ども一人ひとりの成長度合いによっても違いますが、イメージとしては車1台が通れるような狭い幅ではなく、両車線で6台ぐらい通れるような広い幅です。極端な話、この幅のなかであればなにをやってもOK。彼らは、自分なりの色を出していい、自由な演技をしていいんです。
でも、いまの子どもたちはなぜか幅からはみ出そうとはしません。車が6台も通れるのに、6台、いや2台、なかには1台くらいの窮屈な幅で演じようする子どももいます。間違えて怒られるのが怖いのか、安全な守りの演技をしたいのかわかりませんが、攻めの姿勢を感じない子が多いんです。
「はみ出ていいんだよ! はみ出ないと面白い演技ができないよ!」
このように声をかけてみることもあります。たとえ決められた幅をはみ出ても、幅のなかに戻してあげる指導というのはいくらでもできるんです。大きなところから始めて、最終的に幅のなかに収まるように整えていけばいい。ただ、これが逆になると、子どもは狭い幅で演じることに慣れてしまうので、なかなか幅を広げていくことができなくなってしまう。この話、家庭での子育てにもつながっていくことではないでしょうか。
親御さん自ら子育ての幅を狭くしていませんか?
たしかに幅を狭くしたほうが、子育てというのは楽なのかもしれません。狭い幅で育てていく――つまり、「これはやっちゃいけない」「あれもやっちゃいけない」というように育てていけば、手のかからない子どもになる可能性はあるでしょう。でも、それはあくまでも大人にとって都合のいい子どもに育てているだけであって、子どもらしさを削いでいることにならないでしょうか。
言うまでもなく、子育ての幅が広ければ広いほど、子どもは自由に遊べます。わたしが普段実感していることで言えば、子どもたちは幅の広い演技ができるようになるのです。当然ですが、幅が広い演技ができる子どもの可能性は広がります。
ただし、無限大の幅はないわけで、必ずどこかに境界線が存在します。子どもたちがその境界線を大きくはみ出したときには、親や我々の出番。境界線のなかに戻るように促すこともあれば、たとえば、親に対して生意気な態度をとったり、他人を傷つけるような行動をしたときは、容赦なく叱ることだって必要です。
もちろん、この幅をどのぐらいの広さに決めるかは、各家庭によって違って当然のことです。でもこれ、大人だって子どもと同じなんです。狭い幅だけで生きてきてしまった大人は、はみ出す勇気がなかなか持てません。「どこまでいったら世間的にアウトなのか」「これ以上はみ出したら、顰蹙を買うんだな」というのは、一度、大きな幅でやってみて、そこからはみ出した者こそが頭と体で理解できることです。
狭い幅で、「とにかく目立たないように……」「顰蹙を買わないように……」という生き方も否定はしませんが、それでは人生面白くないし、本質が見えてくるとはとても思えません。
世間ではよく、“人の器”という表現を使いますが、幅からはみ出しては失敗して(ときには無茶をして)……を繰り返した人ほど、どこまでが境界線かを知っているぶん、器だって大きくなっていくものです。
そういった人は、たくさんの悩みに答えることができるし、人の心だって感じることができる。きっと、仕事でもプライベートでも信頼があって人望が厚く、あてにされることも多くなるでしょう。生き方や表現の仕方も個性的で興味深い人が多い。子どもたちにはそういう大人になってもらいたいものです。
話を子どもに戻しますが、子育てに“完璧”を求める親御さんほど、この幅が狭いように感じます。傍から見ていて、親も子どももちょっと窮屈そうに感じる。肩の力を抜いて、いままでよりも、ほんのちょっとだけでいいんです。その幅を広げてみてはどうでしょう。子どもに対して、いままでと違った接し方ができるかもしれませんよ。
※写真は2015年撮影のもの(c辰巳千恵)
※当コラムに関するお断り
この連載コラムは、2015年に刊行された坂上忍さんの著書『力を引き出すヒント~「9個のダメ出し、1個の褒め言葉」が効く!~』(東邦出版)を、当サイト向けに加筆修正をしたものです。