教育を考える 2018.4.25

【Education Now 第5回】海外にいる子は時計を読めない? 「時間」や「数」と子どもの距離を近づける学びの相乗効果とは

吉本智子
【Education Now 第5回】海外にいる子は時計を読めない? 「時間」や「数」と子どもの距離を近づける学びの相乗効果とは

海外で生活していると、文化の違いは勿論のこと、教育における考え方や子どもたちの様子など、興味深いことが多いです。

今回は海外の文化・教育の違いから得た「学びの相乗効果」についてお話したいと想います。

海外にいる子は時計を読めない? 「時間」と距離の近い日本人

海外で生活していて驚いたことのひとつは、時計を読めない子が多いことです。日本の教員時代を振り返ってみると、小学校1年生の頃から子どもたちは「時間」というものを意識させられており、「長い針が〇になったら教室に帰ってくるんだよ」「給食は〇分まで」といったことを、私もよく言っていたような気がします。

また、放課後の様子をみても、日本の子は「3時のおやつ」「5時になったらおうちに帰る」「8時には寝る」など、普段から時間を意識した生活をしています。時間を意識した生活は、私たち日本人の考え方においても「時間を守らない=負のイメージ」であることが影響しているでしょう時間を意識することで「時計」を見る頻度が増え、時間との距離が近くなっています

このように、日本では日頃から「時間」を意識した生活を送っていますが、海外ではどうなっているのでしょうか? インターでの学習の様子をみていると、時計の学習は一応行っているようですが、時刻を読む必要性が日本の子ほど少ないのです。「学校に時計はある」というだけで、日本ほど時間を意識していないようです。

また学校以外でも、水道や電気などのメンテナンス作業員や配達は、時間通りに到着しないことの方が多いです。公共交通機関についても、日本は1分でも遅れないよう必死であることに対し、海外では遅延することが頻繁にあり、遅延してもその連絡さえない……ということはよくあります。そういったことからも、「時間を守ること」の感覚が日本とは異なります。

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時計は暗記せずに “生活しながら身につける”

現在の日本の学習指導要領では、1年生から算数で時計を学習しますが、実際のところ学習する前から時計を読める子が多いです。とはいえ、実は「時計を読む」ということはけっこう難しいのです。

子どもたちの中では、10進法(10でひとまとまり)がようやく定着してきたころに、急に60進法(60でひとまとまり)が登場し、60で1区切りになることに混乱してしまうようです

そこで私がおすすめする時計の学習方法は、時計を暗記するのではなく生活の中でどんどん使っていくことです時刻を読むだけでなく、実際に腕時計を持たせて時間を意識させたり、時間を計って感覚をつかませたりすることで、時計が身近な存在になり定着していくでしょう

目・耳・口を使って数字に触れていこう!

日付においても「今日は何日?」とインターに通う生徒に聞くと、日本語での日付の言い方が難しいのか、日にちを知らないのか、日付を言えない子が意外と多いことにも驚きました。

日本の学校では、黒板の右横辺りに常に「日付と曜日、日直さん」と書いてあったり、クラスによっては「今日は○月△日~」というセリフを毎日口にしたりします。そうすることで、日付が身近なものになり、慣れてくると読みづらい8日や20日といった読み方も自然と覚えるからです

また日本語は、数字ひとつとっても、1日、2日、3日、4日と、数え方によって読み方が異なるので、覚えるのに混乱するようです。そこでこちらも、「読み方を暗記する」のではなく、生活の中で積極的に使っていきましょう。例えば、日付を尋ねること以外にも、おふろに入るときなど子どもと一緒に1~10を数えてみてください「いち、に、さん~」のときもあれば、「ひとつ、ふたつ、みっつ~」といった数え方をするなど、変化をつけると語彙の幅も広がります

海外の教育事情と日本の教育文化第5回2

日常生活から生まれる学びの相乗効果を大切に

子どもたちとの会話の中で「この言葉を知らないの?」ということが多々あります。やはり、日常生活で登場しないものは必然的に覚える必要がないのです。また、それとは逆に「こんなことよく覚えているね~」ということもあります。特に、楽しかったことや印象に残っていることなどは、子どもたちの中でも記憶に残っているようです。

これは、「エピソード記憶」といって、体験したことを覚えている記憶のことで、特に覚えようという意識がなくても、自然に覚えている記憶のことです。エピソード記憶に対して存在するのが「意味記憶」であり、テスト勉強の暗記のように、覚えようとして知識を吸収することです。エピソード記憶の方が忘れにくいとされているので、そういった体験が増えるとよいですね。

これはある日のレッスン後に起こったことですが、生徒たちと掃除の話をしていると、「ちりとり」の名前と存在を誰も知らない。ということがありました。このとき「あぁ、海外の学校では、普段自分たちで清掃をすることがないんだよなぁ」ということを思い出しました。

日本では学校生活の中に、掃除の時間が位置付けられていて、掃除の仕方はもちろんのこと、掃除に使う用具(雑巾、ほうき、ちりとり、たわし、バケツ、モップ、黒板消し、掃除機、はたき)も自然と頭に入ります。掃除をすることで、場所に応じた掃除の仕方に加え、知らないうちに掃除用具の名前や使い方、片付け方なども習得しているのですこれを学びの相乗効果と私は呼んでいます

掃除のことを例に挙げましたが、それ以外にも「旅行に行く、実験をする、何かを作る、お手伝いをする」など、実体験を伴うことは、子どもにもたらす様々なプラスの側面があります。

子どもに何かを尋ねて答えられなかったときに、「こんなことも知らないの?」と嘆き悲しむよりも、「学びのチャンス!」と思って「これは〇〇といって、△△のときにこうやって使うんだよ」と、1つのコミュニケーションとして子どもと会話をしたり、実生活の中に取り入れたりしてみてください。そういったことが、エピソード記憶として子どもの中に残り、語彙や知識が増えるきっかけとなるでしょう

(参考)
MAG2NEWS|日本人は遅刻に厳しすぎ?世界の時間に対する感覚
文部科学省|小学校学習指導要領 算数科
ベネッセ教育情報サイト|エピソード記憶で効果的な学習を!!