教育を考える 2019.3.9

東京大学名誉教授はこう答える! 子どもに「どうして勉強しないといけないの?」と聞かれたら

編集部
東京大学名誉教授はこう答える! 子どもに「どうして勉強しないといけないの?」と聞かれたら

子どもは時に、大人をハッとさせるような疑問を投げかけてきます。その疑問に正確かつ誠実に答えようとすればするほど、「この答えは本当に子どもに響いているのかな?」「ちゃんと納得できたかな?」と不安になってしまいますよね。

今回は、いつの時代も大人を悩ませる子どもの疑問、どうして勉強しないといけないの?について、とことん考えてみましょう。

「将来のため」はNG

みなさんも子どものころ、親御さんに「どうして勉強しないといけないの?」と聞いたことはありませんか? すると、このような答えが返ってきたのではないでしょうか。

いい大学に入るためだよ
今のうちに勉強しておかないと後で苦労するよ
なりたい職業につくためだよ

確かにその通りですね。大人になってみると、学生時代にしっかりと勉強することの大切さや意味を実感することも多いはずです。でも、はたして、その回答で子どもは本当に納得し、勉強に対するモチベーションが上がるのでしょうか。

ふくしま国語塾主宰のカリスマ教師・福嶋隆史先生は著書の中で次のように述べています。

「「将来のためだから」と言われても、たいていの子どもは何年・何十年も先の自分の “将来像” をイメージすることなどできないので、あまり良い答えとは言えません」

また、教育・子育てアドバイザーの鳥居りんこさんは、勉強に悩む多くの中高生から相談を持ちかけられるそうです。そこで出たひとつの結論を紹介します。

 優秀な子供が勉強する目的を見失った時に、大人が「試験のため」「知名度の高い大学へ行くため」「裕福な生活をするため」と言って丸め込もうとすると、親の期待とは正反対のところに着地するケースは少なくない。
そうした大人の意見は、幸せに至るひとつの“手段”であって、人生の“真の目的”ではないから子供の疑問解消には至らないのだろう。

(引用元:プレジデントオンライン|「なぜ勉強が必要?」子供への模範解答3

ただ漠然と「将来のため」と言い聞かせても、いま現在勉強の意義について疑問を感じている子どもにとっては、納得のいく答えではないようです。ではいったい、どのような回答が望ましいのでしょうか。

子どもに「どうして勉強しないといけないの?」と聞かれたら2

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「勉強する意味」の答えはひとつじゃない

ここからは、教育のプロや各界の著名人が「人生の先輩」として考えた回答を見ていきましょう。

■広い視野で世界を見るため

前出の鳥居さんは、藤沢市の聖園女学院中学・高校の校長、ミカエル・カルマノ神父に「人はなぜ勉強しなければならないのでしょう?」と問いかけたところ、次のような答えが返ってきたそうです。

「勉強は自分の窓を開けるということです。学ぶことで、今まで見ていたものとは違う何かを見ることになります。視界を広げるために学ぶのです

■子どもの「生きる力」を引き出すため

教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏は、勉強とは「生きる力を引き出すこと」だと説きます。

 もともとeducationの語源はラテン語のdocere(引き出す)であるという説があります(アルク語源辞典より)。子どもにインプットするのではなく、アウトプットさせるように仕向けるという意味です。
それが正しいとするならば、「未知なる状況に接しても狼狽することなく、道理を見極めて対処する能力」こそ、どんな状況の中でも「生きる力」であり、それを引き出すことこそがeducationの本来の意味だといえるのではないでしょうか。だとすれば大人がすべきことは、子どもに「生きる力」を授けることではなく、子どもの「生きる力」を引き出すことであるといえるはずです。

(引用元:おおたとしまさ(2013年),『子どもはなぜ勉強しなくちゃいけないの?』,日経BP社.)

■生きるうえで役立つものを選ぶため

将棋棋士の羽生善治さんは、道徳について考える本の中で「どうしてお母さんは、ボクの嫌いな勉強をおしつけてくるんだろう?」という子どもの疑問に対して、「たくさんのことを知ると生きていく上で役に立つから」と答えています。

この世界にはたくさんのものがあります。目に見えるもの、見えないもの、手にふれられるもの、ふれられないもの、その一つひとつを知ってゆくのが勉強で、外で遊ぶのも勉強です。お母さんは世界のたくさんのことを知ってほしいのです。それが大きくなって大人になった時に生きていく上でとても役に立つ事を知っているのです。
たくさん勉強して、たくさん遊んでできるだけたくさんの事を知ってください。そして、大人になったときにいらないものは自分の判断ですべて捨てて、残ったものがあなたが勉強したものです。

(引用元:文 やまざきひろし/絵 きむらよう・にさわだいらはるひと(2018年),『答えのない道徳の問題 どう解く?』,ポプラ社.)

子どもに「どうして勉強しないといけないの?」と聞かれたら3

■これからの時代に必要な能力を伸ばすため

東京大学名誉教授で教育学者の汐見稔幸先生は「なぜ勉強するのか」という問いに、「好奇心や思考力、表現力を伸ばすため」と答えています。

これからは「教えたことをどのくらい覚えているか」ということを学力の目安とするよりは、「与えられたテーマをどう解決していくか」という思考力や、「考えたことをどう伝えるか」というコミュニケーション力や表現力を学力として考えたほうがよい、としたうえで、豊かな思考力を身につけるには“思考する練習”が必要とのこと。

つまり、テストで良い点数をとるために勉強が必要なのではなく、もっと広い視野で物事を考え、自分の言葉で表現する手段として勉強することが大切なのです。

■“学び方” を知るため

また、筑波大学准教授でメディアアーティストの落合陽一氏は、勉強する理由を「新しいことを考えたり、新しいことを身につける方法を学ぶため」と説きます。

新しいことを学ぶ必要がある時に、「どう学ぶのが自分にとって効率的か」を知っていると非常に有利になります。そのためにどうやってその状態に自分を持っていけるかを考えながら、常に勉強し続けることが大事になってくるのです。

(引用元:落合陽一(2018年),『0才から100才まで学び続けなくてはならない時代を生きる学ぶ人と育てる人のための教科書』,小学館.)

よく「学校の勉強なんて社会に出たらまるで役に立たない」という言葉を耳にします。しかし「学習する訓練」を怠っていたら、社会に出たときに新しいことを学習する方法がわからないのでつまずいてしまうのです。

■たくさん失敗して成長するため

教育評論家の石田勝紀氏は、高校受験を控えたある生徒に「勉強の意味」について聞かれたとき、「自分の成長のため」と答えました。さらにトップ校にいく人と比べて自分ができないという比較ではなく、1ケ月前の自分と比べて成長したのかどうかが重要であり、途中で投げ出さず、諦めない姿勢を貫くことの大切さを伝えたのです。

また、石田氏は「学び=成長は、失敗や間違いから生まれるもの」だとも説きます。「何が学べたか、次はどうすればうまくいくか?」に焦点を当てるようにすれば、子どもの中に「自分はできる」という自信や希望が芽生えます。そのことを目の当たりにしてきた先生ならではの回答ですね。

子どもに「どうして勉強しないといけないの?」と聞かれたら4

大事なのは「ごまかさないこと」

これまでご紹介してきた“教育のプロ”の回答を参考にして、いくつか答えを考えてみました。ぜひ参考にしてみてください。

これから〇〇くんはたくさんの人と出会うよね? その中には、自分とはまったく違う考え方の人もいるかもしれない。そういった人たちとも一緒に遊んだりお話したりするときに、それまで勉強してきたことが役立つんだよ。
知らないことを知るって楽しいことなんだよ。ワクワクして「もっと知りたい」って自然に思えることが本当の勉強なんだ。だから、勉強は「楽しむため」にするんだよ。
頑張って続けてきたことは、いずれ必ず大きな花を咲かせる。スポーツでも習い事でも、「もうやめたい」って諦めそうになっても頑張って続けることが大事。勉強だって同じだよ。
勉強する内容よりも大事なことは、勉強を続けること。続ける力をつけることだよ。途中で投げ出したら何にも残らなくなっちゃうから、目の前の課題をコツコツこなしていけば、いずれ大きな宝物になるよ。

これらはほんの一例です。もしお子さんが納得できなければ、親子で一緒に考えてみましょう。お子さん自身が勉強の意味について深く考え、向き合うことが、答えを導き出す唯一の方法です。

***
大人は子どもの疑問に完璧に答えられなきゃいけない! とプレッシャーを感じていませんか? だからといって、ありきたりな言葉で適当にごまかしても、子どもはすぐに見抜きます。それよりも「お母さんもわからないから一緒に考えてみよう」と提案しましょう。

(参考)
福嶋隆史(2010年),『わが子が驚くほど「勉強好き」になる本』,大和出版.
プレジデントオンライン|「なぜ勉強が必要?」子供への模範解答3
おおたとしまさ(2013年),『子どもはなぜ勉強しなくちゃいけないの?』,日経BP社.
文 やまざきひろし/絵 きむらよう・にさわだいらはるひと(2018年),『答えのない道徳の問題 どう解く?』,ポプラ社.
汐見稔幸(2008年),『汐見先生の素敵な子育て「子どもの学力ほ基本は好奇心です」』,旬報社.
落合陽一(2018年),『0才から100才まで学び続けなくてはならない時代を生きる学ぶ人と育てる人のための教科書』,小学館.
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