教育を考える 2018.5.9

【Education Now 第6回】ひもを結ばない靴・ケガをしにくい彫刻刀。子どもに「便利」は必要!?

吉本智子
【Education Now 第6回】ひもを結ばない靴・ケガをしにくい彫刻刀。子どもに「便利」は必要!?

海外暮らしの私は、年に1~2回一時帰国をするたびに「日本はますます便利になっていて凄いなぁ」と毎回感心しています。時代とともに私たちの生活はとても豊かになりました。

海外駐在をみても、以前では考えられないほど便利になり、インターネットの普及によって気軽にテレビ電話ができたり、日本のテレビ番組をリアルタイムで視聴できたり、新商品の買い物ができたり……海外暮らしにもかかわらず「ここは日本?」と錯覚するほどです。

では、子どもの教育においてはどうでしょうか? 今回は、便利な時代のもとで行われる教育の一部分に焦点をあててお話していきたいと思います。

子どもに「便利」は必要!?

進化する学校の副教材<ケガをしにくい彫刻刀>

学校では学期のはじめに、子どもたちがどんな副教材を使うのか、教員たちで話し合って教材採択会議というものが行われます。授業で使用する道具や宿題で活用される計算・漢字ドリルなど、私が小学生の頃から使い続けているような懐かしいものもありますが、驚くことに同じ道具でもどんどん機能が進化しています。

例えば、図画工作の時間に使用する彫刻刀は、今では子どもたちがけがをしないように、刃の部分に安全カバーがついています。安全を最優先した結果なのでしょうが、これにより、ケガをしにくくなっています。ですが本来、彫刻刀というものは、誤った使い方をすればケガにつながる刃物ですので、十分注意して扱わなければいけないということも知っていてほしいのです。

「安全カバーがついているからケガをしない」ではなく、「それぐらい彫刻刀は慎重に扱わなければならないものである」と、道具本来の正しい活用の仕方を子どもたちには身につけてほしいと思います

中学生でも靴紐が結べない?

以前小学校6年生の担任をしているとき、進学先の中学校の先生とお話しする機会があったのですが、その先生が「中学校の入学式までに靴紐がきちんと結べるようにしてきてください」と仰っていました。正しくは、靴紐を結ぶのに時間がかかりすぎて玄関が混雑するので手際よく結べるようにしてください、ということでしたが、当時の私は「中学生でも靴紐が結べないのか……」と驚いたことを覚えています。

また、以前インターの子どもたちに縄跳びを教えたときも、縄を跳ぶことよりも、縄の結び方のほうに教える時間を割きました。縄をうまく結ぶためには、結び目の持ち方や指の使い方などちょっとしたコツが必要ですが、日頃から取り組んでいないと難しいのです

幼児期に行う全国国公立幼稚園・子ども園長会が公表した調査でも、「身についていない」とされた生活技能で「ひもを結ぶ」は最多で、保護者・教員ともに約8割にのぼったようです。この結果が示すように、最近ではマジックテープでとめるタイプの靴や、紐を結ばないままにしておく靴など「紐を結ばなくてよい靴」を履く子どもを日本でも海外でも多く目にします。

紐を結ばなくてもよい便利な靴は、紐を結ぶ練習の機会を奪ってしまい、紐が結べないままである状況を生み出してしまうのです

海外の教育事情と日本の教育文化第6回

試行錯誤しながらじっくり考える時間が財産になる

彫刻刀や靴紐以外でも、負担を減らそうとする傾向は、失敗しにくい理科の実験キットや道具が全て揃っている図画工作、家庭科の制作キットなど、日本での一斉指導の様子からも伺うことができます。

便利なことを否定するわけではありませんが、今、それが本当に必要なこと(もの)かどうか見極めることが重要です。便利なことに慣れすぎてしまうと、子どもは物事を考えなくなってしまうのではないかと懸念しています

成功体験を得るだけでなく、どうしたら成功するのか、失敗の原因は何なのか、ではどうするべきなのか、といったことを試行錯誤しながらじっくり考える時間は、学童期の子どもたちにとって大きな財産となるのです

子どもの知的好奇心を育てる3つのポイント
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「無駄」なことだと勝手に決めず、まずは取り組んでみよう!

「自分で考え、表現し、判断」できるようになろう

子どもたちに質問をすると、最近はすぐに「インターネットで検索して回答する」ということがよくあります。語句の意味調べのように考えても答えが出てこないものであればよいのですが、時間を割いて考える価値のある内容のときは、少々残念に思います。簡単に答えを得ることにより、自分で考える機会を失っているからです。

今ではインターネットを見ると模範解答をすぐに得ることができるため、「自分で考えて答えを生み出す」というより、「答えをうまく見つけ出す」ということに子どもは必死になります。「上手に調べる」という点では評価できますか、今後の『2020年教育改革』でも求められる「自分で考え、表現し、判断し、実際の社会で役立てる」ようにするためには、まずは自分の意見や考えをしっかり持つことが大切です

学びに「無駄なこと」なし<漢字の書き順>

私が教えている子たちは、インターではほぼ学習しない日本の漢字学習に苦戦している子が多いです。漢字は、小学生のうちに1,000文字以上も登場するので、つい書き順が疎かになり、「漢字を書くことができれば書き順は必要ないのでは?」と、ときどき子どもから意見が出てきます。漢字の必要性は理解しているものの、書き順についてはそこまでの必要性を感じていないようです。

実はこの書き順、テストにはほとんど出題されませんが、とても意味があることだと私は考えます。なぜなら、たった数画の書き順さえもお手本通り書けない子が、説明書を順番通りに読んで機器を操作したり手順を追って難問を解いたりすることは厳しいのではないかと思うからです。

書き順は、1つ1つを順番通りに読み取るよい練習となります。また、書き順通りに書く子は、それだけ注意深く文字を見て書いているわけですから、とめ・はね・はらいもきちんと書けていることが多く、字形の整った正しい文字を書くことができます。これらのことから、漢字を書き順通りに書くことは、大いに意味があるのです。

子どもたちは様々な場面で「これには何の意味があるの?」と感じることがあるでしょう。しかし、物事に優先順位はあっても、学びに無駄なことはないと私は考えます。忙しい現代は、つい「効率重視」の傾向にありますが、一見無駄なことのように思えることも、一生懸命取り組めば、今後意味をなしてくることもあるのではないでしょうか。

(参考)
産経ニュース|子育てが危ない ひも結べない、箸使えない…園児の「生きる力」生活技能が低下 文科省が「幼稚園教育要領」を改善へ
ベネッセ教育情報サイト|2020年教育改革