「運がいい」「運が悪い」――。誰もが、良いこと悪いことに直面するたび「運」について考えたときがあるでしょう。漫画原作者として活躍する鍋島雅治さんは、仕事で大勢の漫画家を見てきた経験から「人生の成功に必要なものは才能が1、努力が2、運が7」と感じるようになったと言います。「運の割合が大き過ぎるのでは?」と思われるかもしれませんが、鍋島さんはさらに「運は高められるもの」と説き、その詳細を1冊の本にまとめました。タイトルは、『運は人柄』(角川新書)。「運」と「人柄」、果たしてそこにはどんな関係があるのでしょうか。子育て中の親御さん自身、そして、我が子のために知っておきたい思考です。
構成/岩川悟 取材・文/田澤健一郎
運・不運を招く要因は、ほとんどが人間関係
「運とは人柄」、人柄をよくすれば運も高まる
鍋島さんが「才能が1、努力が2、運が7」「運は高められる」と確信するようになったのは、たくさんの漫画家の成功例・失敗例を見たからだということですが、自身が漫画原作者として生きていけるようになったこと自体も「運がよかったから」と感じているそう。その経験もまた、「運は人柄」という考えに至るうえで大きな影響を与えました。
「漫画の世界というのは、本当の天才が何人もいる世界。わたしも漫画原作者になるための努力はしましたが、同じように努力した人はたくさんいると思うし、文章を書く才能だって天才と呼ばれる人々に比べれば特別あるわけでもなかった。その意味で、自分は本当に運がよかったんです。ただ、ひとつだけ言わせてもらうと、“運を高める努力”は他人よりしたと自負しています。わたしの考える運とは、ずばり人柄のこと。だから人柄を高める努力をした、ということですね」
周囲の人に立場関係なくきちんと丁寧な挨拶をする。一つひとつの仕事に誠実に、真摯に取り組む。こうしたことを継続すれば、必ず運、人柄を高められると鍋島さんは言います。
「運、不運を招いた要因をたどっていくと、ほとんどが人間関係に行き着きます。だから“運を高める”とは“コミュニケーションスキルを高めること”と同義だと実感したわけです。漫画界でも突出した天才漫画家は、少々、性格に難があっても仕事は途切れませんが、そんな人はごくごく一部に限られてきます。それこそ大天才ですよね。でも、実際にきちんと食べていける漫画家の多くは、普通の実力の持ち主なのです。そのなかから、性格のよい方が選ばれている印象です。こうした図式は、漫画界だけでなくどこの世界でも該当することではないでしょうか」
仕事でもプライベートでも、どんな組織でもコミュニティでも、人間が生きていくうえで他者とのコミュニケーションは避けてはとおれません。天才ではない、多くの人間が成功や充実した人生を送るには、幸運を招く人柄が大切になってくる。それこそ、鍋島さんが説く『運は人柄』の意味です。
「人柄とは、一般的に人の人品、つまり品性や人格を意味します。ただ、わたしの『運は人柄』という考えをもとにすると、『愛嬌』が多くを占めているのではないかと考えています。にこやかでかわいらしい様を表す『愛嬌』ですが、そこにもう少し踏み込んで、男性から見ても女性から見ても、あるいは年上から見ても年下から見ても、『可愛げ』があるイメージ。そんな『可愛げのある愛嬌』を持つ人は、人に好かれたり、愛されたりしやすい。どんな人からも愛されやすい人は、あたりまえですが、運が高まる傾向にあると思うのです」
「一日一善」「徳を積む」といった行動で
人から愛される「可愛げ」を身につけよう
確かに「どんな人からも愛されやすい人」は、ピンチになったら手を差し伸べてくれる人や、なにかに取り組んでいるときに協力してくれる人が多そうですよね。それで窮地を脱したりしたり、なにかを成し遂げれば「自分は運がいい!」と思えるような気がします。
「そう、愛される人には運が向いてくるのです。では、そんな『可愛げ』はどうすれば身につけられるのか? 具体的な方法や細かなコツは著者である『運は人柄』にまとめましたが、大前提としては『一日一善』のような行動を通じて『徳を積む』ことに尽きます。簡単に言うならば、相手を問わず人には親切にするということですね。それが、人から愛される可愛げにつながり、いざというときの運のよさにつながっていく」
「一日一善」「徳を積む」「人には親切にする」といった言葉は、むかしからよく言われること。その言葉だけを聞くと、陳腐と言えば陳腐かもしれません。しかし、鍋島さんは「これらの時代において自分の運気を上げるための経験則として必要なのは、むかしの人たちから言い伝えられてきた言葉ではないかと感じるのです」とも語ります。
「もちろん、子どもの世界であっても『運は人柄』という話は十分に通じると思います。子どもだって、多くの時間を学校というコミュニティのなかで過ごしているわけですしね。『可愛げのある愛嬌』がある子どもは、周囲から愛されるだろうし運だって必然的に高まる。そう考えれば、やることは大人と同じです。『一日一善』もそうだし、気持ちよく挨拶をしたり、友だちを笑顔でほめてあげたり。素直に、『いいね』と言ってあげることじゃないですか。それができる、できないでは、大きな差が出てくるはずですから」
とはいえ、日々成長するにつれて、子どもには「恥ずかしい」「かっこ悪い」「目立ちたくない」といった複雑な感情が生まれ、なかなか一歩を踏み出せないことも多いはず。そんなとき、親はどう子に接すればいいのでしょうか。
「意識的に実践できる大人とちがい、子どもの場合は親御さんの声かけや普段の行動が大事になってくるのではないでしょうか。たとえば困っている人を見つけたら、『助けてあげられることがないか、してあげられることがないかを日頃から探してみようね』と小さいころから促したり、実際に親がそう行動しているところを見せたりすることが大切だと思います。そうすることで、人には親切にするということが子どものなかであたりまえになっていく。子どもは親が考えている以上に親を見ているものです。言い換えれば、親御さんの言葉と行動次第で、子どもの運も高まっていくと言えるかもしれませんね」
『運は人柄 誰もが気付いている人生好転のコツ(角川新書)』
鍋島雅治 著
KADOKAWA(2018)
■ 漫画原作者・鍋島雅治さん インタビュー一覧
第1回:運とは人柄で高められるもの~成功のために必要な条件は、「才能が1、努力が2、運が7」~
第2回:道を志したときの「ワクワクした気持ち」を大切に
第3回:愛されている実感があれば子どもはチャレンジできる
第4回:話下手でも興味を持って素直に聞く~「取材力」が子どもの未来を変えていく~
【プロフィール】
鍋島雅治(なべしま・まさはる)
1963年生まれ、長崎県出身。長崎県立佐世保商業高校、中央大学文学部卒業。スタジオシップ勤務後に漫画原作者として活躍。代表作に、『築地魚河岸三代目』(小学館)『東京地検特捜部長・鬼島平八郎』(日本文芸社のち小池書院)、『火災調査官 紅蓮次郎』(日本文芸社)などがある。現在は、原作者として活躍する傍ら、東京工芸大学芸術学部マンガ学科の非常勤講師なども務めている。
【ライタープロフィール】
田澤健一郎(たざわ・けんいちろう)
1975年生まれ、山形県出身。大学卒業後、出版社勤務を経てライターに。スポーツや歴史、建築・住宅などの分野で活動中。