あたまを使う/教育を考える/知育 2018.8.20

もっと地図を楽しもう! 「地図が読める」だけじゃない、子どもが地図に親しむメリット

編集部
もっと地図を楽しもう! 「地図が読める」だけじゃない、子どもが地図に親しむメリット

「うちの子どもには、地図を学ばせるなんてまだ早い」こう思っている、小さいお子さんをお持ちの親御さんも少なくないのではないでしょうか。地図なんて大きくなればそのうち読めるようになるものだ、と気楽に考えている方もいることでしょう。

実は、幼いうちから地図に親しむことには、地図が読めるようになる以上のメリットがあります。今回は、子どもが地図に触れるメリットをお伝えするとともに、地図の効果的な活用法についてご紹介します。

子どもの空間認識能力が低下している

地図が読める人は、知らない土地にいても、周囲の状況から自分のいる位置を確認することができたり、初めての場所にも地図の情報を頼りにしながらたどり着くことができたりしますよね。しかし、現代は車やスマートフォンのナビゲーションが普及し、自分で地図を読む必要がない便利な時代。地図を読むのは苦手だからナビゲーションに頼ってなんとか乗り切っている、という方もいるのではないでしょうか。

専門家も、現代人の地図を読む力が衰えていることに警鐘を鳴らしています。特に幼い子どもの行動力や空間認識力までもが低下していると述べるのは、子どもの空間認識の発達や社会科教育などを研究する玉川大学教授の寺本潔氏。寺本氏によると、子どもはカラフルでイラストがふんだんに描かれた絵地図には興味を示すものの、実社会で使われる街路地図には抵抗を示すことが多いのだそう。

その原因として寺本氏が挙げているのが、現代の子どもたちには近隣における歩行体験が不足しているということ。安全面での心配から、通学路で道草を食うことをしなくなっていますし、近所の習い事に行くだけでも親の送迎が必要なケースも多くあります。特に都市部ではこの傾向は顕著だと言えますよね。このように子どもの歩行体験が減少すると、周囲の景色を読み取る力は充分に発達しません。周囲の景色を読み取り空間を認識することができなければ、当然地図も読めないというわけなのです。

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学校における地図教育

子どもたちの空間認識力の衰えが懸念されてはいますが、学校での地図教育は当然行なわれています。ここで、学校でなされている地図教育について簡単に紹介しましょう。

■小学校1・2年生:生活科

生活科は、身近な場所での具体的な活動を通し、地域の人々や社会・自然などとのかかわりに対する関心を高めながら、生活に必要な習慣や技能を身に付けることをめざす科目です。そのなかで、地図を本格的に活用する前段階として、地図が読めるようになるための基礎的な力を養う教育が行なわれています。

例えば、学校探検や通学路探検、学区内探検などを通じて子どもに簡単な絵地図を描かせることによって、「あっち・こっち・近い・遠い」といった感覚や、学校や自宅などの場所を認識したりする力を養います。

■小学校3年生~:社会科

小学校3年生になると、社会科の授業で本格的な地図の活用が始まります。

社会科は、地域における社会的事象(産業や生活の様子、公共施設の役割など)についての理解を深める科目です。社会科の学習を通じて地図を効果的に活用することによって、身近な地域でも場所によって地形や土地利用の仕方に特色があることに気づいたり、地域の全体像を捉えたりすることができるようになります。方角や具体的な距離感覚も養われます。

例えば、通学路で見る建物や田畑、道路や川などが地図ではどのように表示されているのかを見たり、方角や距離を実際に測って確かめたりする体験を通して、地図が実際の様子を縮めて記号化したものであることについて理解を深めます。また、自分で歩きながら身近な地域について調べた結果をもとに、地図を作成する学習も。まさに、空間認識力を養う学習といえますね。

身近な場所のことを学ぶ生活科からスタートし、子どもの行動範囲や興味対象の広がりに合わせ、学習する範囲も地域→市区町村→都道府県→日本→世界へと広がっていきます。そうした学習において地図は欠かせない存在となっているのです。

「地図が読める」だけじゃない、子どもが地図に親しむメリット2

家庭でできる地図の上手な活用法

ではここからは、家庭で親子で取り組める、地図を使った楽しい学び方についてご紹介します。まだ地図を本格的に習っていない低学年や未就学の子どもでも、親子で楽しい体験をしながら地図に親しみ、行動力や空間認識力を養うことができますよ。

■地図をお絵描きしよう!

保育園や幼稚園までの道、小学校への通学路、いつものスーパーまでの道、近所のお友達の家や公園までの道のりなど、普段よく通る道を親子で一緒に歩き、地図を書いてみましょう。色鉛筆やクレヨンを使ってカラフルにしたり、イラストを描いたりすれば、お絵描き気分で地図作成が楽しめます。

普段は車や自転車で移動している場合は、お散歩がてら歩いてみることをお勧めします。今の子どもたちに不足していると言われる歩行体験を取り入れることで、空間認識力が養われるでしょう。

■地図を見て歩いてみよう!

家の近所の簡単な場所に、子どもと一緒に地図を見ながら実際に歩いて行ってみてください。小さいうちほど地図に対する苦手意識は少ないもの。地図の学習が始まってから「地図なんて嫌い!」となってしまわないよう、少しずつ地図に慣れるための機会を作ってあげるのです。

初めての場所に行く前にしておくべきことは、地図を見て行き方を予習しておくこと。地理学が専門の明治大学名誉教授・藤田直晴氏は次のように述べています。

「必要な情報が不足していれば、私でも道に迷います。迷わないためには地図をもとに予習も必要です。どこを基点にどの方向に進むのか、目印は何か。目的地までの周辺情報を、出発前に頭に入れておくことです」

(引用元:東洋経済ONLINE|「地図が読めないの私だ!」道に迷う人の嘆き

道順を予習し、実際に歩き、目的の場所にたどり着くことができれば、子どもは達成感を味わえるはず。地図読みをさらに楽しめるようになるかもしれません。

■場所調べ

まだ地図のことをよく知らなくても、都道府県名に興味を示す子どもはいることでしょう。そんなお子さんには、ぜひ日本地図に触れさせてあげてください。自分や祖父母の住んでいるところ、旅行の行き先、テレビ番組で話題になっている場所、親御さんの出張先などの都道府県がどこにあるのかを、日本地図を使って教えてあげるのです。また、白地図を用意して、行ったことのある都道府県に色を塗るのも楽しいでしょう。「次は○○県に行ってみたいね」などと話題も広がります。

地図を用意するなら、ぜひリビングに地図を貼りましょう。ポイントは、子どもの目線がよく当たる場所に貼ること。地図を棚にしまっておいて、使うたびにいちいちひっぱり出すのではなく、思い立ったらすぐに地図を見られるようにするのです。

『頭がいい子の家のリビングには必ず「辞書」「地図」「図鑑」がある』の著者で中学受験教育を専門に手がける小川大介氏によると、子どもに地図や図鑑などを使って調べる癖を身に付けさせておくと、分からないことがあった時に自分で調べられるような子どもに育つのだそう。調べる能力を養うのにも、地図は効果的なのですね。

***
子どもが地図を使って学ぶことの効果は、地図が読めるようになるということにはとどまりません。ぜひ皆さんのご家庭にも地図を取り入れてみてはいかがでしょうか。

(参考)
帝国書院|地図活用のすすめ
玉川大学|寺本先生:地図力を子どもに育てよう!Vol.1:地図ってやっぱりスゴイ!-子どもの空間認識力をもっと伸ばしたい―
玉川大学|寺本先生:地図力を子どもに育てよう!Vol.4:もっと地図を!―地図学習が促す子どもの空間認識―
東洋経済ONLINE|「地図が読めないの私だ!」道に迷う人の嘆き
静岡県総合教育センター|静岡県の授業づくり指針 5 地図活用のステップ
文部科学省|学習指導要領「生きる力」第2章 各教科 第5節 生活
文部科学省|学習指導要領「生きる力」第2章 各教科 第2節 社会
ベネッセ教育情報サイト|小学生の地理(地図)の学習は、親子で遊びながらが効果大!
絵本ナビ|「中学受験のプロ」が教える、家庭環境作り『頭がいい子の家のリビングには必ず「辞書」「地図」「図鑑」がある』 小川大介さんインタビュー
ダ・ヴィンチニュース|頭がいい子の家のリビングに必ずあるものは? 学習効果をアップさせるリビングの環境