教育を考える/知育 2018.11.2

空間認識能力とは? 子供の空間認識能力を鍛える方法まとめ

編集部
空間認識能力とは? 子供の空間認識能力を鍛える方法まとめ

空間認識能力(spatial perception)とは、三次元空間における物体の位置・形状・方向・大きさ・位置関係などを素早く正確に認識する能力。空間認識力が優れていると、紙に描かれた図形を見て立体物をイメージしたり、地図を見て自分の位置や進むべき方向を正しく理解したりできます。

子どもの空間認識能力は、ブロック遊びや簡単なトレーニングを通して、楽しく鍛えることができますよ。空間認識能力とは何か、空間認識能力を伸ばす方法など、国内外の研究を徹底的に調べたのでまとめてみました。【最終更新日:2020年2月25日】

空間認識能力とは

空間認識能力(空間認知能力)とは、読んで字のごとく、空間を正しく認識できる能力のこと。学術雑誌『研究報告数理モデル化と問題解決』(第33号、2012年)に掲載された論文「ARを用いた空間認識能力向上のための学習方法」によると、空間認識能力は「3次元空間上において、物体の位置や形状・方向・大きさなどの状態や位置関係を素早く正確に認識する能力」だそう。空間認識能力によって、人間は目の前にないものでも脳内でイメージできるのだそうです。

日本でベストセラーになった、アラン・ピーズ、バーバラ・ピーズ著、藤井留美訳『話を聞かない男、地図が読めない女』(主婦の友社、2000年)を覚えていますか? この本のタイトルにも表れているように、女性は男性に比べて地図を正しく理解するのが苦手だといわれています。実際、フランス国立科学研究センターの研究員・Antoine Coutrot氏らが2018年に発表した研究によると、あらゆる国で250万人以上の空間認識能力を調査したところ、男性のほうが女性よりも空間認識能力において優れていたそうです。

なお、空間認識能力は、IQ(Intelligence Quotient、知能指数)と関係があるようです。学術雑誌『図学研究』(第34巻、2000年)に掲載された論文「MCTによって評価される空間認識力と一般知能との関係」において、IQテストと高い相関性があるとされるAPM(漸進行列)テストと、空間認識能力を測るMCT(切断面実形視テスト)の結果を比較したところ、それぞれの得点に「比較的高い相関」が確認できたのだそう。二次元の図を見て三次元の立体物を想像するには、「推論などのより高次の機能」が必要とされるためです。つまり、空間認識能力が高い人は、IQも高いだろうと推測されるわけですね。

空間認識能力は、地図の読解と関係している

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空間認識能力が低いとどうなる?

空間認識能力が低いと、地図が読めないという以外に、どのようなデメリットがあるのでしょう? パーソナルトレーニングジム「レブルス」の代表を務め、『12歳までの最強トレーニング』( 実業之日本社、2018年)などの著書がある谷けいじ氏は、以下のように警鐘を鳴らしています。

子どものうちにこの力がきちんと養われないと、将来スポーツ全般の能力が伸びにくくなります。それだけでなく、たとえば道路を走っている車や自転車と自分の距離がつかめずに事故に遭いやすくなるなど、危険回避能力が育まれにくいという恐れがあります。

(太字は編集部が施した)
(引用元:オトナンサー|顔から転ぶ、靴ひもが結べない…子どもが“運動オンチ”に育つ家庭にありがちなNG習慣とは?

空間を認識する能力が低いということは、自分と自動車との距離がうまくつかめないということ。「車がこちらに向かってきている。よけないとぶつかってしまう」「車はこちらに向かってきているが、まだ遠い。今なら道を渡っても大丈夫だ」という判断を誤ってしまうのですね。空間認識能力が低いことに、メリットはなさそうです。

空間認識能力が低いと、自動車事故に遭いやすいかもしれない。

空間認識能力が高いとどうなる?

スポーツで活躍できる

反対に、空間認識能力が高いとどのようなメリットが生まれるのでしょう? スポーツ科学を専門とする髙野淳司・准教授(一関工業高等専門学校)によると、空間認識能力は、球技をはじめとしたスポーツにおいて非常に重要だそう。空間認識能力を測定するテストにおいて、ラグビーや野球の競技者は、一般人と比べて高いスコアを獲得したのだとか。

2016年のリオデジャネイロ五輪で男子サッカー日本代表チームの監督を務めた手倉森誠氏も、ヘディングがうまくできるのは背が高い人ではなく空間認識能力の高い人だと話しています。空間認識能力が優れたスポーツ選手としては、サッカーのディエゴ・マラドーナ選手、野球の鈴木一朗選手、バスケットボールのマイケル・ジョーダン選手などが挙げられるのだそう。

フィールド上に散らばる多くのプレイヤーの動きを把握しつつも、ボールの速度や軌道を見極め、自分もそれに合わせて行動する――球技には、非常に高度な空間認識能力を要求されることが想像できますね。

自動車を上手に運転できる

空間認識能力は、自動車の運転にも欠かせない能力です。運転中は、自分で自動車を走らせつつ、周囲のほかの車や歩行者・自転車にけして接触しないよう、空間のなかで何がどのように動いているかを正確に把握する必要があります。空間認識能力が高いと、合流や駐車もスムーズに行なえることでしょう。

絵が上手に描ける

空間認識能力は、絵を描く能力と関係しています。「ピリカアートスクール」代表でデッサン講師の松原美那子氏によると、空間認識能力は「絵を描くうえで、とても重要な力」。絵とは、基本的に、三次元の立体物を二次元の紙に落とし込んだもの。描く対象の形状や位置関係を理解していないと、立体物を二次元で表現しきれないのだそうです。反対に、空間認識能力が高ければ、描きたいものを立体物として正しく認識できるため、二次元にうまく落とし込め、立体感のある絵が描けるというわけですね。

職業選択の幅が広がる

空間認識能力の高さが有利に働く仕事もあります。たとえば、一般社団法人・コンピュータ教育振興協会の主催する「3次元CAD利用技術者試験」の1級・準1級では、2次元の図面を見て3Dモデルを作成する問題が出されます。この問題を解くには高い空間認識能力が必要。合格者の進路は、自動車・機械の設計者やオペレーターだそうです。

このように、空間認識能力が高いと、将来の可能性が広がるわけですね。

空間認識能力が高いと、サッカーで活躍しやすくなる。

空間認識能力を鍛えることはできる?

高い空間認識能力を持つことは、人生において大きな得になることがわかりました。スポーツや理系の職業に興味を持っている子どもはもちろんのこと、そうでない子どもにとっても、自動車の運転や地図の読み取りは生きていくのに必要なスキルです。

心理学者のデイビッド・ルビンスキー氏によると、空間認識能力は「人間のなかで眠っている潜在能力のうち、最大の部分かもしれない」とのこと。空間認識能力は、創造力やイノベーションと関連して、主要な役割を果たしているそう。机上の勉強という平面的な世界を飛び越えて、空間を立体的・包括的に捉えるのが「空間認識能力」。親としては、子どもの能力を養い、最高のポテンシャルを引き出してあげたいものですね。

では、空間認識能力は伸ばそうと思って伸ばせるものなのでしょうか? もちろん、可能です。人類学者のグウェン・デワー氏によれば、訓練によって空間認識能力を向上させられるだけでなく、性別による差さえも縮まるか消滅するそう。次項からは、子どもの空間認識能力を鍛えるためのさまざまなアプローチをご提案します。

空間認識能力は訓練で鍛えられる。

空間認識能力を鍛えるおもちゃ

まず、遊んでいるうちに自然と空間認識能力が育つおもちゃを紹介します。

折り紙

空間認識能力を育むおもちゃとしては、折り紙がよく知られています。幼児教育を研究する瀬尾知子・准教授(秋田大学)らによる論文「2、3歳児の折り紙を用いた形構成の過程」(2017年)によると、平面の正方形を折ることでさまざまな立体物を作り出せるため、折り紙遊びには空間認識能力の向上が期待できるのだそう。また、所定の手順に従って折ることがまだできない乳幼児でも、複数枚の折り紙を「パズルのピース」のように組み合わせて楽しめるとのことです。

折り紙は自由に形を作ってよいとはいえ、何らかの指針が欲しい……という人には、以下の書籍がおすすめ。いずれも、「折って立体作品を作る」という一般的なものとは異なる遊び方を紹介しています。空間認識能力を育むため、ぜひ挑戦してみてください。

パズル

子どもの脳を刺激したり、手先の巧緻性を育んだりするため、小さいうちからジグソーパズルを与えている親御さんもいることでしょう。ジグソーパズルの製作・販売を手がけるシャフト株式会社によると、そもそもジグソーパズルは子どもの教育のために生まれたそう。空間認識能力や記憶力が養える「無限の展開と可能性を秘めた知育玩具」なのだとか。

また、子どもの空間認識能力を研究するジェイミー・ジロー助教授(米バージニア大学)が2015年に発表した論文によると、4~7歳の子ども847人を対象に空間認識能力を調査したところ、パズル・ブロック・ボードゲームで週に6回以上遊ぶ子どもは、ほかの子どもよりも空間認識能力のスコアが高かったのだそう。自転車に乗ったり音の出るおもちゃで遊んだりといったアクティビティは、空間認識能力のスコアと相関がみられなかったことから、パズル・ブロック・ボードゲームで遊ぶ習慣は空間認識能力を高める可能性があるとわかったのです。

パズルには、空間認識能力を向上を含む、非常に豊かな教育効果があるのですね。就学前や小学生の子どもにジグソーパズルを買い与える場合、どのようなパズルを選べばよいのかについては、「『子ども向けパズル』は教育効果バツグン!? 選び方とおすすめパズル教えます」をご参照ください。

ブロック(積み木)

上で挙げた研究では、空間認識能力の高さとブロック遊びに関係があることがわかりました。空間認識能力が高い子どもがブロック遊びを好むのか、ブロック遊びによって空間認識能力が向上するのかは断言できませんが、ブロックを組み合わせて立体造形物を組み立てることは、3Dを意識するのに貢献しそうですよね。

ブロックのおもちゃといっても、さまざまな種類があります。特に、「あの藤井聡太さんも幼少期から遊んでいた! 大人気の知育玩具『キュボロ』で “非認知能力” を育てよう。」でもご紹介した「キュボロ」は、空間認識能力を高めるのにおすすめです。

キュボロとは、スイス製の木製おもちゃ。5cmの立方体を組み合わせて遊ぶのですが、ただの積み木ではありません。キュボロの特徴は、ブロックに溝がほられたり穴が開いたりしていること。これらの溝・穴がつながって「道」となるようにブロックを組み合わせ、その道にビー玉を転がして遊ぶのです。ビー玉がうまく転がるようにブロックを組み合わせるには、頭を使います。外側から見えない部分も考慮しなければなりません。

教育評論家の石川幸夫氏によると、そんなキュボロは子どもの空間認識能力を養ってくれるそう。2020年1月現在、爆発的人気による品薄状態は解消されているようなので、ぜひひとつ購入してみては? 子供の空間認識能力が鍛えられるだけでなく、大人もはまってしまうかもしれません。

空間認識能力を鍛えるゲーム

家庭用ゲーム機やスマートフォンのアプリケーションで遊びながら空間認識能力を鍛えられたら、楽しいうえに教育効果も得られて一石二鳥ですね。空間認識能力を鍛えられるゲームはあるのでしょうか?

2007年に発表されたトロント大学(カナダ)の研究によると、18~32歳の男女20名に、米エレクトロニック・アーツ社のWindows用ゲームソフト『メダル・オブ・オナー パシフィックアサルト』を10時間プレイさせたあと、視覚処理能力や注意力を測定するテストを実施したところ、ゲームのプレイ前と比べて正解率の平均が61%から74%に向上したそう。『メダル・オブ・オナー』とは、一人称視点のシューティングゲーム(FPS: First Person Shooter)として人気のシリーズです。FPSは、主人公や敵キャラクター、およびマップ全体が画面に俯瞰(ふかん)的に映る三人称視点と異なり、より現実に近い臨場感が特徴。画面に現れる敵や目標物に注意を凝らしながら3D空間を移動し、照準を合わせて敵を撃つ……このような遊びは非常に注意力を要求するため、プレイヤーの空間認識能力を鍛える効果があるようです。

とはいえ、『メダル・オブ・オナー』は戦争を舞台にしたゲーム。空間認識能力を鍛えられるかもしれないとはいえ、子どもに遊ばせたくない親御さんは少なくないでしょう。そこで、子どもにも安心して勧められるのが、おなじみのパズルゲーム『テトリス』。メリッサ・ターレッキ教授(カブリーニ大学)らが2007年に発表した論文によると、学生に毎週1時間『テトリス』をプレイさせつづけると、3カ月後には、図形回転についてのテストの成績が大きく向上したそう。

『テトリス』は、ロシア出身のアレクセイ・パジトノフ氏が考案したもの。日本では「落ち物パズル」の元祖としてよく知られていますね。上からゆっくりと落ちてくるブロックを回転させ、下に積まれているブロックとうまく組み合わせるゲーム。プレイヤーは限られた時間内に図形の形を素早く判断しなくてはならないので、いかにも空間認識能力が鍛えられそうです。スマートフォンや、携帯ゲーム機「Nintendo Switch」で気軽に遊びつつも、空間認識能力の向上が期待できそうですね。

空間認識能力を鍛えるアプリ

スマートフォンで遊べる、空間認識能力を鍛えられそうなアプリをご紹介します。

ウクライナのKyrylo Kuzyk氏が開発した「.projekt」(iOSAndroid)は、お手本どおりの形に立方体を積み上げるゲーム。積み上げたらどんな形になるか、複数の視点から同時にイメージしないといけないため、いかにも空間認識能力が鍛えられそうです。

立体パズルのアプリケーションは多数ありますが、なかでも「.projekt」は圧倒的な魅力を放っています。モノクロながら美しく整えられた画面は、「純粋な瞑想のようなゲームプレイ」といううたい文句のとおり。ユーザーからは「モノクロでレトロっぽいけど新しい感じの雰囲気」などと大好評で、2020年1月現在、Google Playで5点満点中4.7点もの高評価を得ています。

美しい映像と音楽でリラックスして楽しむついでに、空間認識能力が磨かれそうですね。

空間認識能力を鍛える遊び・トレーニング

空間認識能力を鍛えられるおもちゃやゲームを紹介してきましたが、子どもの能力を育てるのに特別な道具を買いそろえる必要はないのです。日常生活でできる空間認識能力の鍛え方をご紹介します。

鬼ごっこ

空間認識能力を高めるには、やはり3次元の空間を自由に動き回るのがいちばん。ただでさえ近年は、安全上の理由などで子どもが外遊びをする機会が減っているので、意識して外で遊ばせるのがよいでしょう。

前述の谷けいじ氏は、空間認識能力を育む代表的な遊びとして鬼ごっこを挙げています。鬼ごっこは、常に自分と鬼の位置を把握しつつ、園庭や公園にある障害物を利用して移動ルートを考えなければいけない遊び。高いところに登れば鬼を回避できる「高鬼」や、鬼が指定した色の物体を探しながら逃げる「色鬼」だと、さらに周囲への注意力が高まります。転んだりぶつかったりして危ないからと鬼ごっこを禁止せず、たくさん遊ばせることが、空間認識能力の成長につながるといえます。

会話の際、大きさや方向を具体的に示す言葉を使う

上でも挙げたデワー氏は、子どもの空間認識能力を高める方法として、空間を意識した声かけを挙げています。たとえば、以下のようなもの。

シーツをベッドの形に合わせるには、どちらの向きがいいかな? 左側の靴ひもは、上を通る? 下を通る? そもそも、どちらが左かな? (スーパーで買った)商品は、ひとつのバッグに収まるかな? このベーグルを横に切ったら、どんな形になる? 切ってもトースターに入るかな?

(引用元:Parenting Science|10 tips for improving spatial skills in children and teens

ふだんは「そっち」「こうやって」という指示語で済ませてしまっている会話に、ものの大きさや方向を具体的に示す言葉を取り入れてみましょう。子どもが空間について考えるきっかけとなります。子どもの空間認識能力を鍛えるだけでなく、親が言語能力を高める機会でもありますね。

子どもの空間認識能力を高めるには、「あれ」「それ」などの指示語を使わず、「テーブルの上にある丸い皿を、食器棚のいちばん下にしまって」など具体的な声かけが有効。

空間認識能力と音楽の関係

「空間認識能力を高めるには、音楽を聴いたり楽器を弾いたりすればよいのでは?」と思った人もいるかもしれませんね。おそらく「モーツァルト効果」を思い出したのかもしれません。「モーツァルト効果」とは、心理学者のフランシス・ローシャー氏らが1993年に発表した論文「音楽と空間認識課題の成績」に由来する概念です。

翌1994年の学会では、「モーツァルト効果」の存在を示唆する実験結果が発表されました。被験者は1日目に空間認識課題を解いたあと、以下の3グループに分けられたそうです。

  • 「静寂」グループ:2~5日目に、座った状態で静かに10分間待ったあと、空間認識課題に取り組む。
  • 「モーツァルト」グループ:2~5日目に、モーツァルトのピアノソナタを10分間聴いたあと、空間認識課題に取り組む。
  • 「ミックス」グループ:2~4日目は、それぞれ異なるジャンルの音声を10分間聴いたあと、空間認識課題に取り組む。5日目は、グループの半分は「静寂」と同様に、もう半分は「モーツァルト」と同様にする。

 
空間認識課題の結果を比較したところ、「モーツァルト」グループの成績は、「静寂」グループより向上しました。「モーツァルト」グループだと、2日目に課題の得点が約3ポイント上昇し、3日目にはもう2ポイント上昇。5日目には、1日目と比べて約5ポイント上昇していました。

一方、「静寂」グループの成績は、2日目にはほとんど変わりませんでしたが、3日目には1日目より約3ポイント向上。5日目には、1日目と比べて4ポイントほど上昇していました。

「モーツァルト」グループの成績が2日目から急に向上したのは、モーツァルトの曲を聴いた直接の影響。「静寂」グループの成績が3日目から向上しはじめたのは、「学習曲線」の影響――つまり、何度もテストを繰り返すことでよい成績をとれるようになった、と解釈されたのです。

モーツァルトのピアノソナタが空間認識課題の成績に影響を及ぼしたことは、「モーツァルト効果」と表現されました。ここから、「モーツァルトの音楽は脳に効く」という言説が広まったのです。

しかし、脳科学者の中野信子氏によると、「モーツァルト効果」を否定する論文がその後多数発表されており、「モーツァルト効果」などというものは実在しないというのが学会の定説なのだそう。「モーツァルトを聴くと頭がよくなるはずだ」と思い込んで実験したため、「モーツァルト効果」らしきデータを無意識に拾ってしまったのでは、とのことです。

では、「モーツァルトを聴くと空間認識能力が高まる」「音楽によって空間認識能力を鍛えられる」という説を全くのウソだと断じられるのかというと、そう簡単ではありません。教育心理学者であった故・梅本堯夫氏は、「この問題は案外複雑であり、もっと根本的に考える必要がある」と語っていました。音楽の種類、聴く時間・状況、被験者の年齢・好み・音楽経験など、考慮すべき要素が多すぎるというのです。

梅本氏の論考「音楽と空間認知の発達的関係」(2000年)によると、空間認識能力と音楽との関係を示す実験はいくつもあるのだそう。「音楽系の習い事をすれば、空間認識能力が伸びるよ!」などと単純なことは言えませんが、少なくとも、空間認識能力と音楽は無関係ではなさそうです。

空間認識能力と音楽には一定の関係がある。

空間認識能力を鍛える本

最後に、空間認識能力を鍛えるのにおすすめの本をご紹介します。

メンタルローテーション “回転脳”をつくる』(扶桑社、2019年)は、脳科学者として精力的な情報発信を続ける池谷裕二教授(東京大学)の著書。メンタルローテーション(心的回転)とは、立体物のイメージを頭のなかで回転させることです。空間認識能力が高い人ほど、メンタルローテーションの能力も高い、ということになります。

池谷教授は、メンタルローテーションはIQにも関係していると言及したうえで、メンタルローテーションは「ヒトの成長の駆動力、いわば人生のアクセル」と言い切っています。そのメンタルローテーションを鍛えるために作られたのが『メンタルローテーション “回転脳”をつくる』というわけです。128問も収録されている問題に挑戦することで、楽しく空間認識能力が鍛えられそうですね。電子書籍版もあるので、気軽に試してみてはいかがでしょうか。

***
最近注目を浴びている、空間認識能力。子どもの才能を開花させるには、無視できない要素ですね。机に向かって勉強するだけでは成長させられない空間認識能力を、さまざまな遊びや体験を通じて伸ばしていきましょう!

(参考)
情報学広場:情報処理学会電子図書館|ARを用いた空間認識能力向上のための学習方法
Daily Mail Online|Women ARE as good at reading maps as men … but only in countries with gender equality!
Cell Press|Global Determinants of Navigation Ability
オトナンサー|顔から転ぶ、靴ひもが結べない…子どもが“運動オンチ”に育つ家庭にありがちなNG習慣とは?
日本バレーボール学会|バレーボール選手におけるワーキングメモリと空間認識の関係
一般社団法人コンピュータ教育振興協会|3次元CAD利用技術者試験 概要
乗りものニュース|女性は合流が苦手? 運転技術、なぜ男女で差がつくのか
ゲキサカ|[特別編]手倉森誠監督(U-22日本代表)中篇「さまざまなスポーツから身に付くサッカーに必要な空間認知能力」 by 長谷川望
StudyHackerこどもまなび☆ラボ|「子ども向けパズル」は教育効果バツグン!? 選び方とおすすめパズル教えます
NEWSポストセブン|藤井聡太四段の天才脳を育てた スイス製の立体パズル
Parenting Science|Spatial intelligence: What is it, and how can we enhance it?
Parenting Science|10 tips for improving spatial skills in children and teens
Nature News|How to raise a genius: lessons from a 45-year study of super-smart children
University of Toronto|Playing an Action Video Game Reduces Gender Differences in Spatial Cognition
J-STAGE|MCTによって評価される空間認識力と一般知能との関係
池谷裕二(2019),『メンタルローテーション “回転脳”をつくる』, 扶桑社.
脳科学辞典|心的回転
StudyHacker|頭が良くなる音楽はモーツァルトではなく「ヘヴィメタル」だった!? 脳科学からいえるこれだけの理由
Rauscher, Frances, Gordon Shaw, and Catherine Ky (1993), “Music and Spatial Task Performance,” Nature, Vol. 365, pp. 611.
Rauscher, Frances, Gordon Shaw, Linda Levine, and Catherine Ky (1994), “Music and Spatial Task Performance: A Causal Relationship,” the American Psychological Association 102nd Annual Convention, Los Angeles, CA, USA, Aug.
発達科学研究教育センター|音楽と空間認知の発達的関係
秋田大学学術情報リポジトリ|2、3歳児の折り紙を用いた形構成の過程
.projekt
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