あたまを使う/国語 2018.12.12

オリジナルの比喩で、表現力のある作文に激変――“それ” は “ほかの何” に見えるのか?

山口 拓朗
オリジナルの比喩で、表現力のある作文に激変――“それ” は “ほかの何” に見えるのか?

その子にとって、“それ” は何に見えるのか?

子どもの作文の醍醐味といえば、大人には到底思いつかないような、自由な表現力ではないでしょうか。みんながあたり前のように使っている表現で書いても、おもしろい作文にはなりません。みんなが使っていない表現で書いたとき、初めてその子の魅力が伝わります

【例文】

かみの毛がツンツンに立った男の人が歩いていました。

決して悪い文章ではありません。「ツンツン」という具合に、前回(第5回)の記事でお伝えしたオノマトペを使って、表現力豊かに書いています。読む人は、個性的なヘアスタイルの(髪の毛を逆立てた)男性の姿を思い浮かべるでしょう。

一方で、この文章をさらに魅力的にする方法もあります。それが比喩です。「比喩」とは物事を説明するときに、他の何かに置き換えて表現すること。つまり、たとえです。先ほどの例文であれば、ツンツンに立ったかみの毛を“他の何か”にたとえることで、作文の魅力がアップします。

【「たとえ」を使った例】

  1. かみの毛がツンツンに立った男の人が歩いていました。まるで、あたまの上にパイナップルをのせているかのようでした
  2. あたまの上で大ばくはつがおきたみたい、と思うくらい、かみの毛がツンツンに立った男の人が歩いていました。
  3. 男の人が歩いていました。その人のかみの毛は、いきおいのいい「ふん水」のようにツンツンに立っていました
  4. あっ、超サイヤ人だ! かみの毛がツンツンに立った男の人が歩いていたのを見て、わたしはそう思いました。
  1. パイナップル
  2. 大ばくはつ
  3. いきおいのいい「ふん水」
  4. 超サイヤ人

 
あなたの子どもの目には「ツンツンにかみの毛が立った頭」は、“他の何” に見えるでしょうか。どんな比喩表現も間違いではありません。見えたものが、その子にとっての正解です(=個性です)。ましてや、子どもがせっかくたとえたモノを、親や大人が否定・批判してはいけません。子どもたちがやる気をなくしてしまいます。

オリジナルの比喩で、表現力のある作文に激変2

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比喩を使うと表現力が豊かになる

もしも、子どもが比喩(たとえ)らしき表現を書いたことがなければ、子どもに質問する形で、親がさり気なく誘導してあげましょう。

【例文】

かぞくでやき肉の食べほうだいに行った。たくさん食べたパパのおなかは、いつも以上にポッコリふくらんでいた。

仮に、子どもが、このような文章を書いたなら「そのポッコリしたおなかは何に似ていた?」のような質問をしてあげましょう。「ママには『プクっとふくらんだ焼き餅』に見えたなあ」という具合に、親子で一緒に考えてもいいでしょう。子どもは、楽しみながら、いろいろとアイデアを出すはずです。ユニークな比喩表現が口をついたら「それは、おもしろいね。せっかくだから、それも作文に書いてみようよ!」と伝えてあげればいいでしょう。

【「たとえ」を使った例】

  1. たくさん食べたパパのおなかは、いつも以上にポッコリふくらんでいた。ぼくには、それが、やきゅう場のマウンドに見えた
  2. たくさん食べたパパのおなかは、なかから小人が100人くらいでおし上げているのかと思うくらいポッコリふくらんでいた。
  3. たくさん食べたパパのおなかは、まるでサッカーボールをかくしているんじゃないかと思うほどポッコリふくらんでいた。
  4. たくさん食べたパパのポッコリおなかは、ふじ山のようにうつくしかった
  5. たくさん食べたパパのおなかは、まるでデッカイふうせんみたいだ。はりでつついたら、きっとバン!とわれるだろう

オリジナルの比喩で、表現力のある作文に激変3

作文を書くときだけに限りません。普段から目に映ったモノを “他の何か” にたとえるエクササイズをくり返すことで、子どもの作文力はもちろん、観察力発想力もどんどん磨かれていきます。

【比喩なし】ものすごくあつくて、ふくが汗でびしょびしょになりました。
【比喩あり】ものすごくあつくて、まるでプールにとびこんだかのように、ふくが汗でびしょびしょになりました。

【比喩なし】はじめて白い砂はまを見ました。とてもきれいでした。
【比喩あり】はじめて白い砂はまを見ました。おさとうをたくさんまいたかのようで、とてもきれいでした。

【比喩なし】キャンプファイヤーの火がはげしくもえていました。
【比喩あり】キャンプファイヤーの火が、まるで怒ったときのママのかおのように、はげしくもえていました。

比喩表現を用いた文章のほうが、一人ひとりの子どもの感性や性格が伝わってきます。何よりも読んでいて楽しく感じられます。まじめなことをまじめに書く作文もありますが、10歳未満の子どもには、書く楽しさ、表現する楽しさを味わわせることが最優先です。そうでないと作文嫌いになりかねません。

オリジナルの比喩で、表現力のある作文に激変4

自分の気持ちも比喩で表現しよう

なお、比喩は、子ども自身の感情を表現するときにも使えます。たとえば、喜怒哀楽を表現するときに、あえて「うれしい」「おこった」「かなしい」「たのしい」などの表現を封印して書くと、文章のオリジナリティが高まります。

【比喩なし】きょうのばんごはんは、大すきなカレーです。いえにかえるのがとてもたのしみでした。
【比喩あり】きょうのばんごはんは、大すきなカレーです。学校からいえまで、ずっとスキップしてかえりました

【比喩なし】このまえ、かっていたカメが死んでしまいました。かなしかったです。
【比喩あり】このまえ、かっていたカメが死んでしまいました。その日は、おなかがすかず、たべ物もうまくのみこめませんでした。ばんごはんは、大こうぶつのハンバーグだったのに、ふしぎです

【比喩なし】友だちにおもちゃをとられると、その子がおこりだしました。
【比喩あり】友だちにおもちゃをとられると、その子のかおが「赤オニ」にかわりました

ありきたりな表現で書いた文章よりも、比喩を用いて表現した文章のほうが、活き活きと輝いています。子どもには「できるだけ、みんなが使わない表現で書いてみよう!」と伝えてあげましょう。比喩を使って自由にたとえられるようになった子の作文能力は、その先も、ぐんぐん伸びていくでしょう。