今年のゴールデンウィークは10連休ととても長いものでしたね。遠方にお出かけしたり、野外で遊んだり、子どもたちは思い切りこの10連休を楽しんだことでしょう。
そんな連休が終わり学校が始まりましたが、連休の疲れを引きずっていたり、学校生活に戻るのが辛いと感じているお子さんもいるかもしれません。5月は運動会シーズン。体育の授業や運動会の練習が本格化する学校もあるでしょう。子どもたちには、疲れ知らずで元気に過ごしてもらいたいものですね。
今月の『まなびの保健だより』では、現場の養護教諭や保育士が「少し気になる」「どこかおかしい」と実感している問題を取り上げました。それは、子どもの「体力と睡眠」です。
一見健康そうに見える子どもたちが、転んでも手が出なかったり、朝からぼんやりしていて元気がなかったりすることがあります。病気ではないものの健康とは言えない、まさに「おかしいなあー」という状態です。皆さんのお子さんにも、似たような様子が見られることはありませんか?
こうした子どものちょっとした異変がどこから来ているのか、詳しく解説していきます。毎日の子どもたちの生活の仕方を、ぜひ見直してみましょう。
今の子どもたちは、スポーツはできても体力がない
「転んでも手が出なくて顔のけがが増えた」「すぐに疲れて座り込んでしまう」。このように現場の教師や保育士たちが「近頃子どもたちの体や訴えが変わってきたな」と感じ始めてから、実はずいぶん経ちます。このことは、今日になっても改善されるどころかますます深刻になってきているのです。まずは、「子どもたちの体力」について考えてみましょう。
体力には、行動体力と防衛体力があります。行動体力とは、一般的に「体力」と言われているもの。文部科学省が定める「新体力テスト」の各項目で測られます。
握力・上体起こし・長座体前屈・反復横跳び・20mシャトルラン・50m走・立ち幅跳び・ボール投げ
毎年、文部科学省が体育の日の前に「体力・運動能力調査結果」を発表しています。その平成29年度版を見ると、小学生の各項目の成績の年次推移は、ボール投げや握力などの項目で落ちていますが、上体起こし、反復横跳び、シャトルランなどは上昇しています。この結果から、今の子どもは以前の子どもに比べてすべての項目において体力が落ちているのではなく、体を上手にコントロールする力や身体操作能力が低下していると言えるのです。
これは今の子どもたちが、小さな時から遊びを通して多様な運動をするよりも、サッカーや野球など固定したスポーツしかしていないことに原因がありそうです。実際、野球はすごくうまいけれど逆上がりができない子や、スキップができない子などもいるんですよ。
また、近頃では運動をする子どもとしない子どもの二極化も問題になっています。運動をする子はしっかりするけれど、しない子は全然しない傾向にあるのです。特定のスポーツに励むことが悪いわけではありませんが、子どもは本来なら、木登りや鬼ごっこなどをして友だち同士で遊び込むことが大切です。幼児期や小学生時代は、多様な遊びを通してバランスよく体力を向上させましょう。そうすれば、転んでも手が出ず顔を怪我することも、疲れてすぐに座り込んでしまうこともなくなるはずですよ。
また、もうひとつの「体力」である「防衛体力」についても少し触れておきましょう。防衛体力とは、病気やストレスに対する抵抗力のこと。近年、子どもたちの防衛体力の低下が問題になっています。防衛体力は、しっかり食べたり充分な睡眠をとったりすることによって向上させることができるものです。というわけで、次は「子どもたちの睡眠」へと話を移します。
子どもの就寝時刻は年々遅くなり、睡眠時間は世界一短い
学校で午前中ぼーっとしている子どもや、遅刻して登校する子どもは、今や珍しくありません。その理由は、子どもの就寝時刻が年々遅くなっているからです。
こちらのグラフを見てください。1歳半~5歳の幼児のうち夜10時以降に寝る子どもの割合はどの年齢でも例外なく年々増加しています。
また、『平成28~29年度 児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書(日本学校保健会)』によると、小学生の就寝時刻は1・2年生で9時過ぎ、高学年になると10時を過ぎています。
子どもの就寝時刻が遅くなり睡眠時間が短くなると、以下のような悪影響が懸念されます。
- 睡眠不足になり肥満につながる。
- 心身の成長が妨げられる。
- 慢性的な時差ボケ状態になり集中力がおちる。
- セロトニンの分泌が減り、イライラが増し、感情のコントロールが困難になる。
- メラトニンの分泌が減少し、性の早熟化を招く。
(神山潤著『子どもの睡眠―眠りは脳と心の栄養』(芽ばえ社)参照)
睡眠不足の弊害について詳しく説明しましょう。
睡眠不足は、心・体・脳の成長を妨げる
「寝る子は育つ」という諺がありますが、人の体の中では眠っている間に「成長ホルモン」が出て、骨や筋肉を成長させたり、傷んだ細胞の修復をしたりします。だから「寝る子は育つ」は本当なのです。成長ホルモンが足りないと肥満にもなりやすくなるので、体の健やかな成長のために睡眠時間の確保は大切です。
また、脳は眠っている間に記憶を整理しながら自らを休ませています。睡眠をしっかりとらないと脳は充分休むことができず、集中力や記憶力が減退し、イライラしたりやる気が出なくなったりしてしまうのです。
睡眠不足は、良い眠りを促すホルモンの分泌を阻害する
良い眠りのためには、暗くなると分泌される「メラトニン」というホルモンが必要です。このホルモンは、眠気をもたらし、しっかり眠るために必要なホルモンですが、暗くならないと分泌しません。夜遅くなってもテレビやスマートフォンなどの明るい画面を見ていてはいけないのです。
また、メラトニンの材料になるセロトニンは、昼間たっぷり活動することによって作られます。良い睡眠に不可欠なメラトニンやセロトニンをたっぷり分泌させるためには、「夜になったら暗くして眠る、朝明るくなったら活動する」という生活が子どもにとってとても大切です。
睡眠不足は、体内時計を乱す
人間は昼行性の動物なので、暗くなったら寝て、明るくなったら起きて活動するリズム(サーカディアンリズム、体内時計)が脳に刻み込まれています。にもかかわらず夜更かし・朝寝坊をしてしまうと、自律神経の働きが乱れ、更年期障害のような症状(頭痛・頭がぼーっとする・体がだるいなど)が出てしまいます。
日本学校保健会が調べた、寝起きの状態に関する子どもたちの自覚症状を見てみましょう。すっきり目覚めた子どもは少なくて、「少し眠かった」「眠くて起きられなかった」と答えている子どもが低学年で6割、高学年だと7割ぐらいいます。
(公益財団法人日本学校保健会(2018),『平成28~29年度 児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書』,p45 図5-5-1を参照して作図。男女別のデータを合わせて平均を出したグラフに変更。数値は一部四捨五入)
夜遅くまで起きていれば、当然朝すっきり目覚めることなどできません。睡眠不足のまま登校するのですから、午前中にぼーっとしてしまうのは言うまでもないこと。実際、午前中に体調が悪くて保健室を訪れる子どもや、「イライラする」「やる気が出ない」と訴えてくる子どもたちは睡眠不足のことが多く、ベッドに寝かせるとお昼ぐらいまでぐっすり眠ってしまったり、教室で机にうつ伏して眠ってしまったりする子もいます。
小学校低学年の子どもには、10時間以上の睡眠時間が必要です。登校時間から逆算して朝6時半に起きるとすると、夜9時前には就寝することが必要です。みなさんのご家庭では、実践できているでしょうか?
夜遅く、カラオケボックスや居酒屋さんで親に連れられた子どもの姿が見られることがありますが、これが良い状態だと言えないのは誰の目から見ても明らかなこと。驚くべきことに、日本の子どもたちは世界一睡眠時間が短いとも言われています。それほど、日本の子どもたちの睡眠に関する問題は深刻なのです。これをお読みの親御さん方は、お子さんの就寝時刻、睡眠時間をぜひ見直してみてください。
「うちの子は疲れやすいのかも」と心配しすぎないで
ここからは、この時期の親御さんのお悩みに“養護教諭の視点から”アドバイスをするコーナーです。最初の質問はこちら。
【親御さんからの質問 1】
うちの子は、運動会の練習があった日は帰宅した時点でもうくたくたです。でも他の子のお母さんに聞くと、そんな日でも放課後たっぷり外遊びしている子が多い様子。うちの子は他の子より疲れやすいようです。「体力のある子」と「疲れやすい子」の違いはどんなところにあるのでしょうか?
子どもは体格にも個人差があるように、体力にも個人差があって当然です。一般的に言えば、よく食べる子、よく眠る子は元気でよく遊びます。食事が細かったり、睡眠が充分とれていなかったりすると疲れやすくなり、外遊びもしなくなります。
食事の食べ方にもかなり個人差がありますが、食べられない子には無理に食べさせるというより、バランスよく食べさせること。そのためには、できるだけ間食を減らして3度の食事をしっかりとらせることが大切です。
あとは、早寝早起き、体を動かすことなどを心がけるといいでしょう。他の子どもたちとあまり比較しないで、疲れたら休ませればいいのです。しっかり眠って、次の日に元気になっていれば問題ありません。
体だけでなく心も休養を。おすすめの週末の過ごし方
【親御さんからの質問 2】
共働き家庭のため、平日は寝るのが遅くなりがちで、子どもは睡眠不足気味。土日たっぷり寝ることで体力は復活するのですが、一週間が始まると、月曜日が終わった時点でさっそく疲れてしまうようです。疲れをとるだけでなく、より疲れにくい体を作るために、子どもには土日どう過ごさせればいいのでしょうか?
基本的には「寝だめ・食いだめ」はできません。土日、たっぷり寝ることで、一見疲れが取れているようには見えますが、寝だめによる生活リズムの崩れはかえって次の1週間に影響してしまいます。最近は、土日になると午前中はベッドの中、食事は1日2食という家庭もあるようですね。大人はそれでもいいですが、成長期の子どもにはNGです。
休日も、家族そろって朝食を食べ、少し体を動かし、昼食や夕食もしっかり食べましょう。その方が、次の週を元気に過ごせます。「休みの日をゆっくり過ごす」とは、「遅くまで寝ている」ことではなく、「いろいろなことに追われないで、家族で散歩したり、一緒に夕ご飯を作って家族でゆっくりお話ししながら食べたりする」こと。そんな生活が望ましいですね。
「1週間に一度は、家族そろって素材から調理したものを一緒に食べる」。こんな休日の過ごし方をお勧めします。疲れを取るためには、体の休養だけではなく楽しく過ごすという心の休養も必要です。
遊び疲れて宿題ができないなら「朝宿」を
【親御さんからの質問 3】
学校から帰ってくると「疲れたー」と言って宿題もしないのに、お友だちから「遊ぼう」と誘われると途端に元気になって外へ出て行ってしまいます。外遊びから帰ってくれば当然クタクタでますます宿題を嫌がるので、つい叱ってしまう毎日です。「疲れたー」と言う子どものマインドをサッと宿題へ向けさせる、効果的な声掛けはないでしょうか?
「疲れたー」と言って帰ってきても、友だちから誘いがあれば元気に出かけていくのが子どもです。当然、遊んだ分体は疲れますが、そんな時は早く夕ご飯を食べてお風呂に入り、すぐに寝させるといいでしょう。宿題ができなかったら朝やればいいのです。そのほうが、人間の生体リズムに合っていて能率は上がります。「朝宿」がおすすめですよ。
子どもの体力アップの3か条
子どもは成長・発達していく途上にあります。子どもに元気にすくすく育ってほしいと思うのなら、家庭の生活リズムは大人ではなく子ども優先にすることが大切です。
子どもの「行動体力」や「防衛体力」を高める秘訣は、なんといっても、「体を動かして遊ぶ」「おなかをすかしてしっかりご飯を食べる」「夜は早く寝て朝は早く起きる」この3つです。お子さんの成長のために、できるだけ大人が子どもの生活に合わせたいですね。
(参考)
スポーツ庁|平成29年度体力・運動調査結果の概要及び報告書について
公益財団法人日本学校保健会(2018),『平成28~29年度 児童生徒の健康状態サーベイランス事業報告書』.
神山潤(2003),『子どもの睡眠―眠りは脳と心の栄養』,芽ばえ社.