教育を考える 2019.9.2

「極端な話、英語力は必要ない!」我が子を“世界レベル”に育てるために本当に必要なもの

「極端な話、英語力は必要ない!」我が子を“世界レベル”に育てるために本当に必要なもの

島国である日本においても急激なグローバル化が進む現在、できることなら海外で力を発揮できる人間に育てたいと考え、幼いときから英語教室に通わせているという親も多いことでしょう。では、世界で活躍できる人間にはどんな力が必要なのでしょうか。

お話を聞いたのは酒井レオさん。酒井さんはニューヨークで生まれ育ち、アメリカの大手銀行であるバンク・オブ・アメリカに勤めていたときには、歴代最年少で全米営業成績1位となった、それこそエリート中のエリートです。意外なことに、酒井さんによれば、「極端な話、英語力は必要ない」とのことですが、その理由はなぜでしょうか。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)

かつての日本人エリートは本物のエリートだった

いまでこそ、日本には世界で活躍できるエリートが育たないといわれますが、以前は全く違いました。戦後、経済大国・日本の基礎をつくった70代、80代くらいの日本人エリートは本当のエリートだったように思います。彼らは、英語をしゃべることはそれほど得意ではなかったかもしれませんが、読み書きに関してはネイティブの人よりもできるほどでした。

ただ、残念なのがその少し下の50代や60代の世代。年功序列制度もあったうえに、いわば上の世代のおこぼれにあずかって、大した苦労や努力をしなくてもある程度の成果を挙げられました。だからこそ、経済が低迷しはじめても立て直す手立てがわからない……。そのことが、この30年間ほどの日本経済の低迷を招き、日本という国を苦しめてきた原因だとわたしは見ています。

また、その世代による不利益をこうむっているのが30代や40代の世代でしょう。50代、60代に本当の意味でのエリートが少ないがために、きちんと支えてくれ、導いてくれる上司も少ないからです。

我が子を“世界レベル”に育てるために本当に必要なもの2

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日本人は日本人の良さを忘れかけている

いま、エリートといわれる人たちも含め、日本のビジネスパーソンを見ていて思うのは、「日本が大切にしてきたものや日本人の良さを忘れかけているのではないか」ということです。たとえば感謝の気持ち礼儀がそうですよね。それこそ、日本人がずっと大切にしてきたものではありませんか。でも、いまはそれらを軽視している日本人が多いように思うのです。

でも、世界のトップレベルに上り詰める人間に必要なものは、時代によって変わるものではありません。いまもむかしも、世界で活躍する人間は、生まれた国はどこであれ、きちんと感謝の気持ちや礼儀を持ち合わせているものです。それらがあったうえで、実力が問われるのですから。

いま、日本人は「アメリカの個の強さ」だとか「中国のアグレッシブさ」を身につけようとしています。でも、日本の良さをなくしてしまってそれらで補おうとするのは間違いです。どんなに外国文化の長所を身につけても、日本人は日本人なのです。その事実は変えられませんし、変わる必要もない。だとしたら、「ハイブリッド」になるということを考えるべきではないでしょうか。どちらかではなく、日本の良さと他国の良さを結合することが必要なのだと思います。

我が子を“世界レベル”に育てるために本当に必要なもの3

ニューヨーカーの目に映る日本人の長所と短所

先に感謝の気持ちや礼儀を日本人の良さとして挙げました。でも、本来の日本人の良さはそれだけではありません。たとえば、「あうんの呼吸」なんて言葉があるように、なにもいわなくても目で空気を察する力は非常に優れていると思います。ニューヨークで生まれ育ったわたしからすれば、「日本人が宇宙人にいちばん近い」なんて思うほどです。

それだけでなく、たいていのことの基礎能力に関しても日本人は秀でています。ただ、基礎能力が高いがゆえに、基礎に縛られているのでしょう。「ルールにのっとったこと」しかできない側面もあることが残念なところです。それこそ、クリエイティビティーという部分では、世界と比べれば見劣りするように感じます。

さらには、自分なりにものごとをとらえて解釈することも苦手なようです。たとえば、「今日、日経平均株価がいくら下がった」という事実をいくら頭に入れてもなにも生まれません。「なぜ下がったのか?」ということを自分なりに考え、自分の意見を述べるということができないのです。「意見を述べる」という点では、「察する力」に長けている反面、アウトプット能力に劣っている印象です。多くの日本人に、自分が伝えたいことをきちんと伝えられないという特徴が見られます。

我が子を“世界レベル”に育てるために本当に必要なもの4

日本の教育に取り入れるべき海外の価値観

ここで、みなさんにひとつ質問をしましょう。子どもを世界で活躍するような人間に育てたいと思った場合、次のふたつの人物像のうち、どちらの人間になってほしいと思いますか?

A:英語力がすごく高くて、プレゼン力がすごく低い人材
B:プレゼン力がすごく高くて、英語力がすごく低い人材

日本人には英語ができないことをコンプレックスに思っている人が多いですから、もしかしたら「A」を選ぶ人が多数派かもしれませんね。でも、世界で活躍するのは間違いなく「B」です。

考えてみてください。周囲の誰もが英語圏出身の人たちだったとして、そのなかで秀でた存在になろうと思えば、突出したプレゼン力は大きな武器になります。英語なんて通訳に任せればいいのです。ただ英語が話せるだけの人が注目を集めるわけがありませんよね。

日本人に限らないことかもしれませんが、人はつい自分のコンプレックスにばかり捉われてしまうものです。そうではなくて、子どもを世界で戦える一流の人間に育てたいと思うのなら、そういう人間に本当に必要な力はなにかと考え、ゴール設定をもっと大きくしなければなりません。

そのためにも、ゴール設定が小さくなるような教育は見直すべきでしょう。日本のほとんどすべてのテストは、正解がひとつだけというものです。「1+1=□」と問題が出されれば、「2」以外の正解はありません。正しいレールから外れてはならないという教育です。一方で、海外の多くの国では「1+□=□」といった形式の出題もされます。正解はひとつではない。それだけ、「自由に考える力」を身につけられるわけです。

そう考えると、子どもがお絵描きをするというときに、見本を渡して「この通りに描きなさい」なんてことは間違ってもいってはいけないとわたしは思います。自由に描かせて、それこそ紙からはみ出すようなことがあっても、「クリエイティブだね!」と褒めてあげればいいのです。日本の教育だけではなく、海外の教育にも目を向けて、日本とはちがう価値観を取り入れる――それこそ、「ハイブリッド」の考えが教育にも必要なのではないでしょうか。

我が子を“世界レベル”に育てるために本当に必要なもの5

全米No.1バンカーが教える 世界最新メソッドでお金に強い子どもに育てる方法
酒井レオ 著/アスコム(2019)
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■全米No.1バンカー・酒井レオさん インタビュー一覧
第1回:「極端な話、英語力は必要ない!」我が子を“世界レベル”に育てるために本当に必要なもの
第2回:子どもの教育に「いまはまだ必要ない」は禁句。「いますぐはじめる」のが成功への道!
第3回:「数字にうるさい子ども」は将来明るい! 全米No.1バンカーが教える“コスト意識”の育み方

【プロフィール】
酒井レオ(さかい・れお)
アメリカ・ニューヨーク出身。NPO法人Pursue Your Dream Foundation創業者。Advanced Millennium Consulting Inc.代表取締役。Little Monster Inc.共同経営者。ワシントン大学を卒業後、JPモルガンを経てコマース銀行にてマネージメント・デベロップメント・アソシエーツプログラム(MDA)を取得。管理職に就く。その後、バンク・オブ・アメリカに転職し、2007年に歴代最年少で全米営業成績1位となる。同年、アメリカンドリームをつかむために渡米するすべての人を応援するNPO法人Pursue Your Dream Foundation(PYD)を設立。2010年には日本にグローバルスタンダードを獲得するリーダー人材育成のための教育機関PYD JAPANを設立。2018年、ニューヨークを本拠地とする、最新テクノロジーを切り口に、教育支援、メディア運営、投資事業を通して若者を応援するLittle Monster Inc.の共同経営者として始動。著書に『全米No.1バンカーが教える 最強の気くばり』(サンマーク出版)、『NY式「超一流の営業」の基本』(朝日新聞出版)がある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。