教育を考える 2019.11.6

高学歴を得やすい「一番っ子」。でも大きな期待をかけすぎないで――

高学歴を得やすい「一番っ子」。でも大きな期待をかけすぎないで――

親にとってはじめての子どもであり、祖父母にとっては初孫である「一番っ子」は、まわりからの「いい子に育ってほしい」という期待を背負って成長します。一番っ子には一般的にどういう特徴があり、親はどのように育ててあげるべきなのでしょうか。「きょうだい型人間学」を専門とする国際基督教大学の磯崎三喜年先生に、一番っ子の子育てについてアドバイスをしてもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

社会的価値観を重視して高学歴を得やすい一番っ子

子どもがいるみなさんなら自覚しているかもしれませんが、はじめての子どもに対して、親は「いい子育てをしよう」と理想に燃え、大きな期待をかけます。下の子たちに対するよりも熱心に家庭教育を行うわけです。もちろん、その親の気持ちは一番っ子の行動特性や性格に大いに影響を与えます。

一番っ子の特徴としては、親や周囲が自分に対してなにを期待しているかということを考えて慎重に行動をすることが挙げられます。ときには、下のきょうだいに対して「こんなことをしちゃいけないよ」というふうに教え諭す親的な役割を果たすこともあります。そういったいわゆる模範的な行動は、親はもちろん、学校の教員からも評価されやすいものです。教員からすれば、一番っ子が多いクラスの担任になれれば楽かもしれませんね(笑)。

そういうふうに、一番っ子は社会的な価値観を受け入れてそれに即した行動を取りますから、もちろん勉強の成績も上がります。一番っ子が大学院まで進学するような高学歴を得る傾向にあることは、国内外を問わずデータにはっきり表れています。

すると、将来も、社会的な評価を受けるような職業に就くことが一番っ子には多いのです。典型的なものとしては宇宙飛行士が挙げられます。半端な学業成績では宇宙飛行士になることはできません。つねにトップクラスの学業成績を挙げたひと握りの人間だけが宇宙飛行士になることができる。たとえば向井千秋さんや若田光一さん、人類ではじめて月面に降り立ったアームストロング船長も一番っ子です。

「一番っ子」に大きな期待をかけすぎないで2

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一番っ子が持つ、あまり好ましくない面とは?

こういうと、一番っ子は親にとって理想的ないい子のようにも思えるかもしれませんが、もちろん、その反面としてあまり好ましく思えない面も持っています。たとえば、下の子が生まれたら、親に対する独占欲から、寝ている弟や妹の枕を蹴り飛ばすような行動をする場合も……。

親からすれば、どうすればいいのかと悩むようなことかもしれませんが、子どもというのはそういうものです。一番っ子であれ間っ子であれ末っ子であれ、どの子どももその子なりにストレスを感じます。あまり過敏に反応したり心配したりせず、その場その場で「こういうことをしちゃ駄目だよ」と教え、たっぷり愛情を注いであげれば、そういった行動も成長するうちに自然となくなるはずです。

また、先に述べたように社会的な価値観を受け入れてそれに即した行動を取るという一番っ子の特徴は、いい換えれば伝統的なものごとの見方や考え方をするということになります。それは、よくいえばオーソドックスともいえますが、悪くいえば型にはまっているとか、融通が利かない、頭が固いということもできるのです。

親の理想を反映して、一番っ子は「自分はこれが正しいと思う」としっかりした考えを持っています。また、きょうだいのなかでつねに自分が優位に立っていることもあって、学校など外の集団のなかでもリーダー的な役割を果たすことが多いものです。その反面、自分の確固たる考えに背くようなことや批判を柔軟に受け入れることができません

その特性がいい方向に出れば、下のきょうだいに対して親的な役割を果たしてリードすることになります。でも、悪い方向に出れば、必要以上にお兄ちゃん風やお姉ちゃん風を吹かし、下のきょうだいから煙たがられるようなことにもなる。これは、社会に出たときを考えれば、自分の考えをまわりに押しつけ、対人関係で周囲と衝突するといった問題が生じやすくなるということです。

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親の期待や理想から外れる行動も鷹揚に受け止める

では、一番っ子に対して親はどのように接するべきなのでしょうか。ひとつは、しっかり褒めてあげるということ。はじめての子育てに前のめりになっている親の期待に対して、一番っ子は一生懸命に応えようと頑張っているわけですから、「きちんとできているね」と、その頑張りを褒めてあげてほしいのです。

一方で、先に述べたような頭の固さといった、あまり好ましくない面が強くなりすぎないようにもしてあげたいものです。一番っ子は、親が意識することなどなくても、きょうだいのなかにおける立ち位置によって親的な特性を取り込み身につけます。そもそもが、センシティブになりがちだということです。

ならば、一番っ子に対して「こうしたほうがいい」「こうすべきだ」というふうに、センシティブな傾向を強めるような言動は避けるべきです。ちょっとくらい親の期待や理想から外れるような行動を取ったとしても、鷹揚に柔軟に対応してあげてください。そうすれば、一番っ子はずっと気楽になれて、伸び伸びと成長してくれるのではないでしょうか。

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きょうだい型人間学: 性格と相性を見ぬく
磯崎三喜年 著/河出書房新社(2014)
きょうだい型人間学: 性格と相性を見ぬく

■ 国際基督教大学教養学部名誉教授・磯崎三喜年先生 インタビュー一覧
第1回:きょうだいの有無や生まれ順、子どもの性格形成にどこまで影響する?
第2回:高学歴を得やすい「一番っ子」。でも大きな期待をかけすぎないで――
第3回:優れたバランス感覚や穏やかさを持っている「間っ子」は手がかからない!?
第4回:何度失敗しても再び立ち上がる「末っ子」。大化けする可能性あり!
第5回:末は研究者か芸術家!? きょうだいがいないことで自信を持つ「ひとりっ子」

【プロフィール】
磯崎三喜年(いそざき・みきとし)
1954年2月1日生まれ、茨城県出身。国際基督教大学教養学部社会心理学名誉教授・博士(心理学)。茨城大学卒業後、広島大学大学院で社会心理学を専攻。広島大学助手、愛知教育大学助教授を経て2001年より現職。社会的状況における人間心理、友情ときょうだい関係など、対人関係に潜む心理機制をさまざまな角度から追求・発表している。主な著書に『現代心理学 人間性と行動の科学』、『マインド・スペース 加速する心理学』、『マインド・ファイル 現代心理学はどこまで心の世界に踏み込めたか』(いずれもナカニシヤ出版)がある。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。