「子どもの絵本をどう選んだらいいのかわからない……」
「自分が気に入った本ばかり読んでいて、親が読んでほしい絵本を手にとってくれない」
「オススメの絵本が知りたい!」
このように、読書に関するお悩みを抱えてはいませんか? 今回は、「本選びのプロ」である書店員さんに、「書店の活用方法」「絵本選びの極意」そして「書店員おすすめの1冊」をお伺いしました。
子どもを本好きにする、書店の活用方法
今回、お話を伺ったのは、丸善 丸広百貨店飯能店にお勤めの福島さん。福島さんは、子どもと書店へ行くときに大切なのは「時間がたっぷりあるときに行くこと」だと言います。
書店へ行くときは、時間に余裕を持って
「基本的なことですが、子どもと書店へ行くときに大切なのは、時間がたっぷりあるときに行くことです。
私たちの書店でも、時折、パパ・ママから『どの本にするの!? 早く決めて!』と急かされて泣き出してしまうお子さんを見かけます。しかし、それはお子さんにとって酷な話です。
膨大な量の本の前で(我が書店では、児童書だけでも3万冊は置いています)突然「どれでも選んでいいよ」と言われると、子どもは喜びながらも『なんでも買ってもらえるなら、なるべく豪華な本がいいかな』『読みたい本はあれなんだけど、ここは、うーん……』などと悩んでしまうもの。そんななかで『早く決めなさい!』と急かされると、放心状態になってしまいます。まずは、お子さんがよく吟味して本を選べるよう、じっくり待ってあげましょう」
特に、絵本は厚さが薄いため、表紙が見えない状態で棚に陳列されると、途端に輝きが損なわれてしまう悲しい側面があるのだそう。本当はなるべく表紙を見てほしいものの、スペースの都合上、どうしても多くの本は棚に入ることになってしまうと福島さんは言います。
親御さんは、極力たくさんの絵本を棚から引き抜いて、お子さんに表紙を見せたり、パラパラとめくってみせたりしてあげるといいですね。
まずは、子どもの興味に付き合う
また、本を選ぶときには、その子が興味を抱いている本を選ぶことが大切だと福島さんは言います。
「本選びに限った話ではありませんが、何をするにも無理強いは絶対にNG。子どもが本を嫌いになってしまう可能性が高まります。子どもの興味の発露を待ちましょう。
以前、3歳になったばかりの男の子のお母様に、『この子、てんとう虫が好きなのですが、てんとう虫の本を何冊か出してくれませんか?』と声をかけられたことがあります。書店員の腕の見せ所! 物語、写真絵本……とありったけのてんとう虫の本を用意しました。
しばらく経った頃、『今度はコアラに興味が移ったようで、コアラの本を……』とお母様。私もとことん付き合います。なんでも、庭でてんとう虫を見つけたことがきっかけでてんとう虫にハマり、上野動物園でコアラを見てからはコアラに夢中になったのだとか。お子さんの興味は生活に密着していて、子どもの知的好奇心の豊かさに感激しました。
またしばらく経った頃、『今度は、カワウソを好きになったので、カワウソの本を……』。お母様の郷里の旭山動物園でカワウソを見てから、カワウソにのめり込んでしまったのだそう。さあ腕まくり! 旭山動物園の飼育係から絵本作家になったあべ弘士さんの『かわうそ3きょうだい』(小峰書店)のシリーズに、アーノルド・ローベルとナサニエル・ベンチリーの『かわうそオスカーのすべりだい』(好学社)などなど……。あらゆる本をご用意しました。
子どもの興味は、このようにどんどん広がっていきます。大切なのは、その好奇心にとことん付き合うこと。そうすることで、読書の幅もみるみる広がっていきます。私たち書店員も、日々勉強しています! ぜひ、気軽に書店員に声をかけてみてくださいね」
子どもの興味はコロコロ変わるもの。子どもを本好きにするためには、「この間○○の本を買ってあげたばかりなのに」などと怒ることなく、子どもの興味にとことん付き合ってあげることが大切なのです。その際には、書店員さんに相談するなど、書店を有効活用したいですね。
絵本はどうやって選ぶべき?
「絵本の選び方がわからない」という親御さんも多いことでしょう。福島さんは、以下のようなロングセラー作品をひとつは持っておくことを勧めています。
- 『エルマーのぼうけん』ルース・スタイルス・ガネット 作/ルース・クリスマン・ガネット 絵/渡辺 茂男 訳
(福音館書店) - 『ひとまねこざる』H.A.レイ 著/光吉 夏弥 訳(岩波書店)
- 『はらぺこあおむし』エリック・カール 作/もりひさし 訳(偕成社)
- 『ぐりとぐら』中川 李枝子 作/大村 百合子 絵(福音館書店)
- 『だるまちゃん』シリーズ 加古 里子/作(福音館書店)
- 『こぐまちゃん』シリーズ わかやま けん/作(こぐま社)
「ほかにもいろいろありますが、上記のようなロングセラー作品を、ひとつは持っておくのがおすすめです。幼稚園・保育園に行くと必ずと言っていいほどお目にかかる本ですから、お友だちと知っていることを共有する喜びも味わうことができますよ。
ロングセラー作品以外でも、ワクワクするような楽しい物語、ことばあそびの絵本、いつまで見ていても飽きない繊細で緻密な作品(安野光雅さんによる福音館書店『もりのえほん』『旅の絵本』など)、起承転結が明確な昔話絵本なども、子どもに愛されますね」
また、以下のような優れたブックリストを活用することもおすすめだそう。
- 『本へのとびら――岩波少年文庫を語る』宮崎 駿 著(岩波書店)
- 『子どもと本』松岡 享子 著(岩波書店)
- 『そして、ねずみ女房は星を見た』清水 眞砂子 著(テン・ブックス)
しかし、何よりも大切なのは、子どもの興味を尊重することだと福島さんは言います。
「無口な子、おしゃべりな子、素直な子、反発する子……。大人と同じく、子どもの個性も十人十色です。我が子にいろいろな望みをかけるのは親として当然かもしれませんが、子ども自身のペースを尊重することを大切にしましょう。
本は、賢くなるために読むものではありません。特に幼いうちは、自分の読みたいものを純粋な楽しみのために読めばいいのです。主人公に寄り添って冒険をして、ハラハラ・ドキドキしたり、ともに涙を流したり、苦しみを乗り越えたり、喜びに胸を高鳴らせたり……。そういった経験は、実学というところにつながると私は思います」
絵本選びについて悩んでしまう親御さんは多いことと思いますが、福島さんいわく、はじめは、子どもの読みたい本を買ってあげればいいのだそう。
「その際は、親が「読ませたい」と思う本も同時購入し、本棚にさしておくと良いでしょう。必要なときが来れば、本は開かれると私は思っています」
書店員オススメの1冊
子どもが読みたい本を読ませてあげるのが一番だと話す福島さん。そんな福島さんが、ある印象的なエピソードをお話しくださいました。
売り物ではない本を『欲しい!』と手放さない少年がいた
「『あまがえるのかくれんぼ』(世界文化社)は、当初、園向けの直販商品でした。著者のかわしまはるこさんは、我が丸善書店のある街、埼玉県飯能市にお住いの絵本作家です。ご縁があってご本人にお会いしたのがきっかけで、『地元の絵本作家さんにこんな素敵な人がいます』と店頭にコーナーを設け、非売品としてソフトカバーの『あまがえるのかくれんぼ』をご紹介していました」
そんなある日、一人の少年が「この本が欲しい!」とレジに持ってきたのは、非売品の『あまがえるのかくれんぼ』。
「『この本は売り物じゃないのよ』彼のお母様と一緒に説得しようとしましたが、少年は本を離しません。ふと見ると、その子のTシャツにも靴にもかえるの絵。『本当にかえるの絵本が欲しかったのだな』と感じた私は、かわしまさんから自分用にと頂いていた1冊を、彼にプレゼントすることにしました」
その後、彼を皮切りに、子どもたちから、お父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃんまで、何人ものお客様がひっきりなしに「この本が欲しい」と言いに来るようになったのだそう。福島さんは「この本は非売品で……」と断り続けることにやるせなさを感じていたと言います。そこで、出版のために行動を起こすことを決めたのだとか。
「こんなにもたくさんの人に求められる本なのだからと、署名活動をし、ハードカバー化してもらえるようお願いすることにしました。その結果、なんと、たった1ヶ月の間に419人もの署名が集まったんです。署名を世界文化社さんにお送りしたところ、すぐに会議にかけてくださり、この本の出版が決まりました」
署名活動を始めた際、「うまくいくか、いかないかは考えなかった」と福島さんは語ります。こんなにもたくさんの人の心を動かす本を、多くの人の手に届けたい一心だったそう。
「きっかけがどうであれ、本自身の持っていた力だと思っています」
非売品でありながら、多くの人の心を動かし、惹きつけた『あまがえるのかくれんぼ』。ぜひ手にとってみてはいかがでしょうか。
小さなあまがえるのラッタ、チモ、アルノーは今日もかくれんぼをして遊んでいます。すると、ラッタの体の色が変わってしまい……。生物画家のかわしまはるこさんは、約10年間もあまがえるを飼育・観察していらっしゃるそう。繊細で美しく、愛にあふれた絵は、見る者の目を楽しませてくれます。さらに小学館児童出版文化賞受賞作家の舘野鴻さんによる文章はあたたかく、不安を乗りこえ成長していく小さな3匹の心の変化を鮮やかに描き出します。豊かな物語を楽しみながら、カエルの生態についても学べる貴重な一冊です。⠀
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お子さんを本好きにするために大切なのは、無理強いをしないこと、そして、お子さんの興味にとことん付き合うことです。お子さんに「読ませたい」本はそっと本棚にさしておき、お子さんが「読みたい」本は積極的に読ませてあげましょう。