教育を考える 2020.1.23

「いくら言っても分かってくれない」のは、叱り方がその子に合っていないから。

「いくら言っても分かってくれない」のは、叱り方がその子に合っていないから。

ひとりっ子が増え、子どもに甘い家庭も多いといわれるなか、「うちは、必要なときにはしっかり子どもを叱っているぞ!」と思っている人もいることでしょう。でも、「子どもによっては、親の言葉が心に届いていないということもある」と語るのは、人間関係研究家の稲場真由美さん。稲場さんは、16年間、延べ12万人の統計データをもとに「性格統計学」という独自の理論を構築しました。それによると、人間は「ロジカル」「ビジョン」「ピース・プランニング」「ピース・フレキシブル」という4つのタイプにわけることができるのだそう(インタビュー第1回参照)。そして、そのタイプによって子どもの心に届く叱り方も変わってくるといいます。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

「いくら言っても分かってくれない」のは、叱り方がその子に合っていないから2

人間には4つのタイプがある

人間は、「自分軸か、相手軸か」「計画的か、臨機応変か」というふたつの軸により4つのタイプにわけられる。自分軸とは、「自分のために頑張ることが行動の原動力になる」タイプであり、相手軸は「相手のために頑張ることによろこびを感じる」タイプ。また、計画的とは、「事前に決めた目標やルールを重視して計画的にものごとを進めたい」タイプであり、臨機応変は「その場での直感を重視して行動する」タイプ。「性格統計学」による4つのタイプは次のふたつの質問で判別可能。

【1】話は、
A もとから順を追って聞きたい
B 結論から聞きたい

【2】急な変更は、
A ストレスになる
B ストレスにならない

【1】B、【2】Aを選んだ人は、ロジカル(自分軸かつ計画的)
【1】B、【2】Bを選んだ人は、ビジョン(自分軸かつ臨機応変)
【1】A、【2】Aを選んだ人は、ピース・プランニング(相手軸かつ計画的)
【1】A、【2】Bを選んだ人は、ピース・フレキシブル(相手軸かつ臨機応変)

「いくら言っても分かってくれない」のは、叱り方がその子に合っていないから3

ロジカルは、自分で納得して自分のペースやタイミングでものごとを進めたいタイプのため、急な予定変更などは大きなストレスになる。ビジョンは、自分の感性に響いたり可能性を感じたりするものを好み、自分の願望を重視するため、「やりたい!」と感じるかどうかで、ものごとに取り組む集中力に大きなちがいが出る。ピースは、行動パターンが計画的か臨機応変かによってさらにふたつのタイプにわかれるが、共通しているのは、和を大事にして人間関係が円滑であることを好むこと。また、ものごとをもとから知りたい傾向があり、「なぜ?」という口癖があることも共通点。

「ロジカル」の子どもにはルールを決めて具体的に叱る

前回の記事では、親が子どもを褒めているつもりでも子どもがそう受け取っていないコミュニケーション・ギャップが持つ危うさについてお伝えしました(インタビュー第3回参照)。今回は、子どもの叱り方について解説します。

叱るときには、褒めるとき以上に注意が必要です。というのも、叱るという行為の場合、子どもの心に届かないやり方をしてしまうと親子間の衝突を引き起こし、親子関係がこじれてしまうことになりかねないからです。

まず、「ロジカル」の子どもに対してはどんな叱り方が合っているのでしょうか。ロジカルというタイプには、自分の努力や成果に対して具体的にピンポイントで褒められたいという特徴がありますが、叱るときもそれは同様。なにについて叱っているのかを具体的にしっかり伝えることが大切です。

また、ロジカルにはルールを重視する特徴もありますが、そのルールは事前に決めておくことが大前提。親が自分のなかで勝手にルールとしているようなことも、子どもが同意していないのならルールとはいえません。つまり、ロジカルの子どもに対しては、事前に親子できちんとルールを決めておくことも重要です。

ルールを決めるというと、「子どもをルールで縛りつけるなんて……」とあまりいい印象を持たない人もいるかもしれません。けれども、ロジカルの子ども自身がルールを好みますし、自分が決めたルールを守れれば心地良く感じ、逆にルールを破った場合に叱られたとしてもきちんと納得して受け止めてくれるのです。

「いくら言っても分かってくれない」のは、叱り方がその子に合っていないから4

「子育て費用」の総額は22年間でいくらになる? 調査結果をもとに計算してみた。
PR

感性豊かな「ビジョン」の子どもにはネチネチ叱らない

では、「ビジョン」の子どもの場合はどうでしょうか。ビジョンというタイプは、感性が豊かで「察する」力に長けています。そのため、親が怒っていることもしっかり感じ取れますから、ネチネチと叱らないことがなにより大切。短い言葉で端的に叱り、「これからはちゃんとしようね」「今度からこうしたほうがいいよ」と前向きな言葉を併せて伝えてあげてください。

ただ、この「こうしたほうがいいよ」という言葉は、ロジカルの子どもに対してはNGです。というのも、自分でものごとを決めたいロジカルの子どもの場合、「こうしたほうがいいよ」といわれると、選択権が自分に委ねられたと感じるからです。そうして、「こうしたほうがいい=こうしなくてもいい」ととらえ、同じ過ちを繰り返すということにもなりかねません。

それから、「ピース」の子どもに対しては、叱っている理由をはっきりと伝えてあげてください。ピースというタイプは、ものごとをもとのもとから知りたいという傾向があるからです。

ところが、親がロジカルの場合には、親は「駄目でしょ!」とだけ叱って理由を伝えないということがよくあります。ロジカルの親は、「ルールを破ったんだから、『駄目』といえば子どももわかる」と思っているからです。でも、ピースの子どもには、「駄目」だけでは伝わりません。ルールを破ったことを叱るのであれば、「一緒に決めたルールを破ったんだから」と、理由もきちんと伝える必要があるのです。

「いくら言っても分かってくれない」のは、叱り方がその子に合っていないから5

親子のタイプが同じでも注意が必要

ここまでで、みなさんのなかには「親子のタイプが同じなら、コミュニケーション・ギャップは生まれないのか」という疑問を持った人もいるかもしれませんね。残念ながら、たとえ親子のタイプが同じでも気をつけることはあります。

たとえば、ロジカル同士の親子の場合を考えてみましょう。親子はそれぞれが自分の計画やペースを重視します。でも、その計画やペースにギャップがあったとしたら? 小さい子どもはあらゆることにまだ不慣れです。なかにははじめて経験することも多いでしょう。つまり、親と比べれば、なにをするにも子どものペースは遅いのです。

すると、そのペースのちがいに親がイライラするということがよく起こるのです。ロジカルの親は、「7時には夕食を食べさせて、8時にはお風呂に入れて、9時には寝かせたい」なんて考えその計画を遂行しようとしますが、子どもも子どもなりのペースでゆっくり進めようとする。そして、親はつい「早くしなさい!」と叱ってしまうのです。

みなさんのなかにも、「早くしなさい!」とよく口にしていると感じてハッとした人もいるのではないでしょうか。子どもは子どもなりに頑張っているのですから、大人である親の側が子どもを寛容に見守ることを心がけてあげてください。

ここではロジカル同士の親子についての注意点を挙げましたが、もちろんその他のタイプ同士の親子にも注意すべきことはあります。いずれにせよ、親自身と子どものタイプの特徴を知ることで、叱り方も含めた、子どもとのより良い接し方を見つけていけるはずです。

「いくら言っても分かってくれない」のは、叱り方がその子に合っていないから6

人間はたったの4タイプ 仕事の悩みは「性格統計学」ですべて解決する!
稲場真由美 著/セブン&アイ出版(2019)
人間はたったの4タイプ 仕事の悩みは「性格統計学」ですべて解決する!

性格統計学による4タイプ診断サイト

■ 人間関係研究家・稲場真由美さん インタビュー一覧
第1回:性格統計学の提唱者が語る。「親子は考え方も似る? それはただの思い込みです」
第2回:子どもが言う「なんとなく……」に、親が「どうして?」と聞いてはいけないわけ。
第3回:子どものタイプ別・自己肯定感が本当に伸びる褒め言葉。「すごいね」だけじゃ響かない!?
第4回:「いくら言っても分かってくれない」のは、叱り方がその子に合っていないから。

【プロフィール】
稲場真由美(いなば・まゆみ)
1965年生まれ、富山県出身。一般社団法人日本ライフコミュニケーション協会代表理事。株式会社ジェイ・バン代表取締役。自身が人間関係の悩みに直面したことから、新しいコミュニケーションメソッドを探求し、16年間、延べ12万人の統計データをもとに「性格統計学」を考案・開発する。以来、このメソッドを「ひとりでも多くの人に伝え、すべての人を笑顔にしたい」との思いから、セミナーや講演、カウンセリングを通じて普及活動を行う。2018年には「性格統計学」にもとづくマルチデバイス型ウェブアプリ『伝え方ラボ』を開発し、ビジネスモデル特許の取得に成功(特許6132378号)。現在は、企業や自治体、学校をはじめ、法人・個人を問わず『伝え方ラボ』を活用した研修やコンサルティングを幅広く行い、多くの人のコミュニケーションスキル向上に貢献する活動を続けている。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。