教育を考える 2020.6.24

「自分にイライラ」「ママ、こっち見て!」――癇癪(かんしゃく)を起こす子の心のなか

編集部
「自分にイライラ」「ママ、こっち見て!」――癇癪(かんしゃく)を起こす子の心のなか

聞き分けがなく、気に入らないことがあるとすぐに泣きわめく、暴れる、親が怒れば怒るほど手がつけられなくなり、もうどうしたらいいかわからないーー。どんなに愛情をもって育てていても、子どもがかんしゃくを起こすと、かわいいと思えなくなることもあります。

しかし子どもは、親を困らせるためにかんしゃくを起こしているわけではないのです。今回は、子どもがかんしゃくを起こす原因とその対処法について、くわしく説明していきます。

子どものかんしゃくは大事な成長過程のひとつ

子どものかんしゃくといっても、その状態は子どもによってさまざまです。一般的には2~4歳頃、イヤイヤ期と前後するくらいの年齢において、泣きわめく」「叫ぶ」「手当たり次第に物を投げる」「手足をバタバタさせて暴れるなどの様子が見られます。とはいえ、かんしゃくを起こしやすい気質をもっている子もいれば、普段は穏やかなのにある一定期間だけ激しくかんしゃくを起こす子もいます。

保育士として15年以上にわたり保育業務に携わっている市川由美子先生は、子どものかんしゃくは、大事な成長過程のひとつとし、「ほとんどのお子さんが5歳頃には落ち着いてくるので、親はあまり深く思い悩まずに、対応を工夫しながら見守ることが大事」と述べています。

いま現在お子さまのかんしゃくにお悩みの方や、イヤイヤ期が終わってホッとしているのに、これからもっとひどい時期が訪れるのかと不安を感じている方もいるかもしれません。でも安心してください。子どもがかんしゃくを起こす時期を親子で一緒に工夫しながら乗り越えた先には、大きく飛躍したお子さんの姿が見られるはずです。

子どものかんしゃくを恐れたり、対処法がわからずにイライラして落ち込んでしまったりするのは、かんしゃくについての知識が足りないからとも言えるでしょう。かんしゃくが起こる原因、かんしゃくを起こす子どもの気持ち、そしていくつかの対処法を知れば、必要以上に恐れずにすみます。

癇癪もちの子ども02

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子どもが床に寝転がって大泣きする原因

子どもをスーパーに連れていったところ、「お菓子を買って」とせがまれ、「昨日買ったでしょ。今日はダメだよ」と言ったら、火がついたように泣き出し、床に寝転がってバタバタ暴れるーー。

公園に遊びに行き、「もう帰るよ」と声をかけたところ、「いやだ! まだ遊ぶ!」と言ってきかない。困り果てて無理やり連れて帰ろうとすると、大声で泣き出して力いっぱい叩いてくるーー。

小さい子どもがいる親御さんのほとんどは、このような経験をしたことがあるはず。しかし、一度や二度ならまだしも、頻繁にこのような状況になってしまうと、心身ともに疲弊してしまいますよね。

白梅学園大学で非常勤講師を務める発達心理学が専門の塚崎京子先生は、怒りっぽい子は感受性が強く、敏感に反応するタイプであることが多いと述べています。つまり、ほかの子にとっては取るに足らないことでも、感受性の強い子にとっては強い刺激となり、怒りやイライラにつながってしまうというのです。

また、自信のなさや不安の強さから、自分の思い通りにならないとカッとなって感情をコントロールできなくなるケースもあるそう。「かんしゃくを起こしやすい子」と言っても、そうなってしまう原因は単純なものではないようです。

癇癪もちの子ども03

かんしゃくを起こすのは「親にかまってほしい」から!?

子どもがかんしゃくを起こす原因として第一に考えられるのは、幼さゆえに言語能力が未発達なため、自分の気持ちをうまく伝えられずに泣いたり暴れたりしてしまうということ。

前出の市川先生は、それに加えて身体機能も十分に発達しておらず、やりたいことが思うようにうまくできずにイライラしていることも原因のひとつになっていると言います。つまり、かんしゃくを起こす根本の原因は自分の思い通りにいかないことに対しての怒りやイライラがあるのです。

また、子育て心理学を活用した育児支援を行なう公認心理師の佐藤めぐみさんは、「4歳を過ぎると大脳の発達が進み、脳や心の認知機能が大きく伸び、より複雑な思考ができるようになる」と述べています。それゆえに、子ども自身が急激に変化する自分の内面についていけず、気持ちのコントロールができなくなって、泣きわめいたり暴れたりしてしまうそう。

ほかに考えられるのは、親子のコミュニケーション手段” としてかんしゃくを用いているケースです。小児科医の伊藤明子先生は、「親にかまってほしい」「親の注意を引きたい」という気持ちが、かんしゃくとして表れることもあると言います。たとえば、仕事が忙しいお父さんや、妹(弟)にかかりっきりになっているお母さんなどに対して、自分に注意を向けさせるためにかんしゃくを起こしていることも。

「一般的なイヤイヤ期を過ぎてもかんしゃくを起こすようだと、アタッチメント(=親子の絆)の形成が不十分であることのほか、子どもが日常的にストレスを感じていることを疑ってもいいかもしれない」と説くのは、発達心理学を専門とする京都大学大学院准教授の森口佑介先生です。

森口先生によると、突然かんしゃくを起こすなど感情をコントロールできなくなる子どもは、ストレスに弱いという特徴が見られるそう。また、日常的にストレスを受け続けた子どもは、ストレスに対して耐性ができるどころか、逆にストレスに対して敏感になります。すると、ちょっとした嫌な出来事に対しても激しいストレスを感じてしまい、結果的にかんしゃくというかたちで表面化してしまうのです。

このように、かんしゃくは本人の気質によるものや、発達段階における成長の証、親子間のコミュニケーションの問題など、要因となるものは千差万別であるといえるでしょう。

癇癪もちの子ども04

子どものかんしゃくへの対処法

大勢が見ている場所で子どもがかんしゃくを起こすと、いたたまれない気持ちになり「なんとかして静かにさせなければ」「早くこの場から立ち去りたい」と焦ってしまいますよね。しかし、親が焦れば焦るほど、子どもはますますヒートアップして手がつけられなくなってしまうことも……。

子どもがかんしゃくを起こしたときの対処法は、ひとつではありません。お子さんの様子や成長の過程を見ながら、その状況に適した対処法を見つけ出しましょう。いくつか実践例をご紹介するので、ぜひ参考にしてみてくださいね。

■「イライラしたときはどうする?」と事前に聞いておく

いざかんしゃくが起こってしまうと、収めるのは大変です。ですから、まずは事前の対策をしっかりと練って、かんしゃくを起こさせないように先回りして対処しましょう。

おすすめは、子どもの状態が比較的落ちついているとき、親子で「かんしゃくが起こったときにどうするか」を決めておくこと。前出の伊藤明子先生によると、「イライラしたり、怒ったりしたときはどうする?」と聞き、子ども自身にどうしたらいいのかを決めさせるといいそうです。お気に入りのぬいぐるみやタオルに触る、空を見上げて深呼吸するなど、本人が考えた対処法であれば、スムーズに気持ちが切り替わってクールダウンできるでしょう。

■時間や回数など、具体的な数字を伝える

親の声かけひとつで、子どもはかんしゃくを起こさず、落ち着いてその場を切り抜けられます。たとえば公園で、「まだ遊びたい」と駄々をこね始めたとき、「急いでいるからダメ!」「早く帰るよ!」と頭ごなしに言いつけるのはもちろんNGです。また、「じゃあ、ちょっとだけね」と、一見理解を示したような声かけもよくありません。

子どもには、「ちょっと」や「少し」といった曖昧な感覚が伝わらないので、5時になったから急いで帰らないとね。じゃあ、あと3回滑り台滑って帰ろうかと、時間や回数など具体的な数字を出して伝えましょう。

■気分転換をはかって気をそらす!

東京家政大学子ども学部教授の岩立京子先生は、子どものかんしゃくには「気をそらす」というテクニックが有効だと述べています。具体的には、次のような方法が効果的だそう。

スーパーでお菓子を買ってほしいと子どもがかんしゃくを起こす

泣いている子どもをひょいと抱き上げ、駐車場の車に連れて行くなど場所を移動してから、「あれが欲しかったんだよね」と子どもの気持ちに共感してあげる

少し時間が経ち、子どもが疲れて落ちつくタイミングがやってきたら、ジュースをあげるなど気分転換をはかって気をそらす

 

親に怒りなどの感情を受け止めてもらい、調整してもらってきた子どもは、自己の情動を調整できる傾向が強いと岩立先生。こういったプロセスを繰り返すことで、子どもは自分の情動をコントロールする術を身につけられるようになるそうです。

■「大声で叱る」「ご褒美で釣る」のは絶対にNG

激しくかんしゃくを起こす子どもに、ついイライラしてしまうのは当然です。しかし、ここで「もう知らないからね!」と無視をしたり、「いい加減にして!」と大声で叱ったりするのは、結果としてさらに親御さんとお子さんを苦しめることにつながります。

子どものかんしゃくを無視するということは、子どもの本当の気持ちに向き合っていないのと同じです。市川先生は、「わかってほしいのにわかってくれない」「聞いてほしいのに聞いてくれない」という挫折感が子どもの心に広がると、次第に自分の気持ちを人に伝えることを諦めるようになると警鐘を鳴らしています。

また、いくら暴れて騒がしくしていたとしても、ご褒美で釣るようなこともおすすめできません。伊藤先生によると、「○○をあげるからいい子にして」とその場を収めることを繰り返していると、子どもはかんしゃくを起こしたらご褒美がもらえると勘違いしてしまうそう。子どものかんしゃくには、毅然とした態度で向き合うことを心がけましょう。

***
子どものかんしゃくに悩んでいる保護者の方は、「今すぐにでもこの問題を解決したい」と願っているはずです。しかし、「こういう時期なんだ」「いまは身体と心が急激に成長しているんだ」と理解することで、気持ちに少し余裕が生まれるのではないでしょうか。

(参考)
ベネッセ教育情報サイト|切実!子どもの癇癪(かんしゃく)にはどう対応するといいの?
さぽナビ|<子どものココロジー>すぐに怒る子
All About|4歳児の癇癪・反抗期!イヤイヤ期の後も続く「4歳児の壁」とは
ウーマンエキサイト|【医師監修】子どもが癇癪(かんしゃく)を起こすのは育て方のせい?
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