教育を考える 2020.7.17

「ひとり遊び」に熱中してこそ、友だちとも遊べるようになるワケ【てぃ先生インタビューpart3】

「ひとり遊び」に熱中してこそ、友だちとも遊べるようになるワケ【てぃ先生インタビューpart3】

「うちの子は、友だちと一緒に上手に遊べているのかな?」。友だちとの関わりのなかで社会性を身につけてほしいと願うばかりに、そんな心配をしている人もいるでしょう。カリスマ保育士として各種のメディアでも活躍するてぃ先生にアドバイスをお願いすると、その答えはちょっと意外なものでした。「子どもにとっては、友だちと遊ぶこと以前の『ひとり遊び』がとても大切」なのだそう。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹

大人と子どもの、「一緒に遊ぶ」に対する認識の違い

「子どもに友だちと上手に遊べるようになってほしい」と考える人に前提としてお伝えしたいことがあります。それは、子どもが自分で友だちと遊んでいると思う感覚と、大人が見て子どもが友だちと遊んでいると思う感覚はまったく違うということです。

たとえば、積み木のコーナーでふたりの子どもがそれぞれ別々に遊んでいたとします。一緒になにかをつくっているわけでもないし、「僕は赤いおうちをつくろう」「じゃ、僕は青いおうちにしよう」というふうに声をかけ合いながら遊んでいるわけでもない。この状況を大人が見ると、子どもが一緒に遊んでいるとは思いませんよね?

でも、その子が家に帰ってきたときに、「今日はなにをして遊んだの?」と聞くと、子どもは「○○君と一緒に積み木で遊んだ」と言います。大人は、なにか直接的な関わりがないと一緒に遊んでいると認識しませんが、子どもはその場にいる別の子の姿を見ながら遊ぶだけでも、一緒に遊んでいると認識するのです。

つまり、大人の勝手な基準を子どもに対して押しつけているだけのこと。このことを前提として知っておかないと、「うちの子は友だちと上手に遊べない」という間違ったレッテルを貼ることになってしまいます。それこそ「もっと友だちと遊んだら?」「ちゃんと友だちと遊べてないんじゃないの?」なんてことを子どもに言ってしまえば、「僕は友だちとちゃんと遊べないんだ……」と、子どもをマイナス思考に陥らせてしまうことにもなるのです。

てぃ先生インタビュー_ひとり遊びの重要性02

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「ひとり遊び」を経験してこそ、友だちと遊べるようになる

そもそも、子どもにとっては友だちと遊ぶことだけが大切なのではありません。特に3歳くらいまでの子どもには、ひとり遊びがとても重要。幼い子どもは本能的にそのことをわかっていて、夢中になってひとりで遊び込もうとします。そうするなかで、集中力を育んでいるのです。

それなのに、「友だちと一緒に遊ぶことが大切だ」と勝手に考える大人が無理やり子どものひとり遊びを中断させてしまえば、子どもは集中力を育むことができなくなるでしょう。そうすると、保育士や親の言うことを聞かずに走り回るような子どもになってしまいかねません。

また、子どもの集中力を育むこと以外にも、ひとり遊びが重要な理由があります。ひとり遊びをしっかりすることで、大人が求めるような「友だちと一緒に上手に遊べる」子どもになれるのです。

ひとり遊びを徹底的に経験した子どもは、「もっと自分の遊びを広げたい」という発想をもつようになります。そして、自分が遊んでいる場にいる別の子の遊び方に目を向けるようになり、「○○君の遊び方、すごくおもしろそう!」と思う。これが、子どもにとって友だちとの関わりにおける最もいい最初のステップです。

友だちの遊び方に魅力を感じた子どもは、まずはそのまねをするでしょう。そこからさらに進んで、「○○君、それどうやってるの?」「一緒にやりたいな」というふうに直接的な関わりをもつようになる。自分ひとりでじっくり遊べるようになることこそが、結果的に友だちと一緒に遊べるようになることにつながるのです。

てぃ先生インタビュー_ひとり遊びの重要性03

家庭で「順番」や「貸し借り」を経験させる

そうして子どもが友だちと遊ぶようになっても、親の心配は尽きません。友だちと一緒に遊ぶようになったらなったで、今度は遊びのなかでのトラブルについて心配します。たとえば、「遊びの順番を守れるのか」「おもちゃの貸し借りがきちんとできるのか」といったことです。

でも、子どもが順番の概念を理解できるのは3歳頃、そしてきちんと順番を守ることを実行できるのは4歳頃からです。子どもの年齢によっては、そもそもできないことを親が求めているだけというケースもあるのです。

また、別の問題として、順番や貸し借りの経験をいきなり「本番」でさせてしまっているというケースもあります。公園で子どもたちが遊んでいるなかで、遊ぶ順番やおもちゃの貸し借りをめぐってトラブルになったとしましょう。そのときに、いくら順番を守らせたりきちんと貸し借りをさせたりしようとしても、経験がなければそうできるはずもありません。

ですから、順番を守ったりおもちゃを貸し借りしたりする経験を家庭で積ませてあげる必要があります。親であるみなさんが「この絵本、パパに貸して」と言って、貸し借りとはどういうものかを子どもに経験させるのです。おもちゃで遊ぶときにも、「ママが最初に取ったから1番、○○君は2番ね」と順番を守ることを経験させましょう。そうすれば、「本番」でもきちんと順番を守り、貸し借りができる子どもになっていくはずです。

てぃ先生プロフィール

保育士てぃ先生のつぶやき日誌 きょう、ほいくえんでね…!!
てぃ先生 著/マガジンハウス(2019)
保育士てぃ先生のつぶやき日誌 きょう、ほいくえんでね…!!

■ カリスマ保育士・てぃ先生 インタビュー記事一覧
子どものイヤイヤを減らすコツは、こっそり○○すること【てぃ先生インタビューpart1】
子どもが甘えん坊すぎて困るなら、親はシンプルにコレをすればいい【てぃ先生インタビューpart2】
「ひとり遊び」に熱中してこそ、友だちとも遊べるようになるワケ【てぃ先生インタビューpart3】
園生活の様子が心配なら、子どもにこんな質問をしてみよう【てぃ先生インタビューpart4】

【プロフィール】
てぃ先生(てぃせんせい)
1987年2月8日生まれ。関東の保育園に勤める男性保育士。ちょっと笑えて、かわいらしい子どもの日常をつぶやいたTwitterが好評を博し、フォロワー数は50万人を超える。著書『ほお…、ここがちきゅうのほいくえんか』(KKベストセラーズ)は15万部、Twitter原作の漫画『てぃ先生』(KADOKAWA)は20万部を超えるヒットを記録。他に、『ハンバーガグー!』(ベストセラーズ)、『せんせい!きいて! 園児がくれた魔法のことば』(リクルートホールディングス)などの著書がある。現在は、保育士の専門性を生かし、子育ての楽しさや子どもへの向き合い方などをメディア等で発信。全国での講演活動は年間50本以上。他園で保育内容へのアドバイスを行う「顧問保育士」の創設と就任など、保育士の活動分野を広げる取り組みにも積極的に参加している。

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。