夏休みの宿題は終わりましたか?
日記を書かせれば誤字脱字だらけ、テレビを見ながら計算ドリル、ポスター制作では「なにを描けばいいの?」と、考える気すらないわが子……。ついイライラして子どもを怒ってしまう親御さんは少なくないはずです。
子どもたちだけでなく、私たち保護者も毎年頭を悩ませる夏休みの宿題。今回は、「手伝う」「手伝わない」「どこまで手伝うのか」を考えてみました。
約6割の保護者が「子どもの夏休みの宿題を手伝う」
実際に、夏休みの宿題を手伝う親はどれくらいいるのでしょうか。
グループコミュニケーション支援サービス「らくらく連絡網」を運営する(株)イオレが2018年に実施した調査によると、小学生の子どもの夏休みの宿題を手伝う親は58.4%にものぼったそう。さらに、実際には手伝わないまでも、全体の73.6%が子どもと夏休みの宿題の進め方について「相談する」と回答しています。
入学したての1年生であれば、保護者のサポートが必要でしょう。しかし多くの保護者は、その次の年も、そのまた次の年も、ズルズルと一緒に夏休みの宿題に取り組んでいるようなのです。この調査では、入学から3年連続で宿題を手伝うと、4・5年生になっても引き続き手伝ってしまうケースが多いことが明らかになっています。
保護者が子どもの夏休みの宿題を手伝う理由は次のようなもの。
「子どもの苦手な内容があるから」34.8%
「手伝わないと間に合わないかもしれないから」30.6%
「難易度や危険度が高く、子どもだけでは取り組めない部分があるから」28.7%
一方で、「夏休みの宿題を手伝わない」と答えた41.6%の保護者に「手伝わない理由」を尋ねたところ、次のような回答が得られました。
「自分の力で乗り越えてほしいから」54.7%
「子どもの宿題を手伝うと、子どものためにならないから」44.8%
これらのことから、子どもの夏休みの宿題を手伝う目的は「困難の手助け」であり、手伝わない理由は「困難の克服」であることがわかります。お子さんの将来を考えると、どちらがよいかは明白ですね。
宿題を手伝う親が子どもの「考える力」を奪っている
本当は自分の力で最初から最後までやり遂げてほしいのに、つい口や手を出してしまう夏休みの宿題。しかし、親が子どもの宿題を手伝うことは、私たちが思っている以上に深刻な弊害をもたすようです。
臨床心理士の西脇喜恵子さんは、次のように述べています。
夏休みの宿題で困らないようにと、「親が先回りしてすべて手当てしてしまうこと」が、子ども自身が自分で考えたり感じたりする力を弱め、ちょっと先の将来、もっと困ったことにつながっていくかもしれない。そんな発想をちょっと頭の片隅に置いてもらえるといいなと思います。
(引用元:現代ビジネス|「夏休みの宿題を全部やってあげる親」が子どもの思考を止めていた)
西脇さんによると、最近「悩めない若者」が増えているそう。たとえば、「自分の頭で考えろと言われても、何を考えればいいのかわからない」「友だちにいやなことをされたら、どうしたらいいのかわからない」というように、深く考えて自らの力で答えを導き出そうと努力する若者が極端に減っているのです。
「『わからない』と相談に来る学生の多くは、小さいころから親の意のままに生きている印象がある」と西脇さんは指摘します。教育熱心で積極的に情報収集する親のなかには、子どもの習い事や塾、進学先までも決めてしまうケースが少なくないそう。しかしそれでは、子どもは自分の将来について悩むことも迷うこともないまま社会に出ていかなければなりません。
神戸大学と同志社大学の研究チームによる発表では、「自己決定により進路を決定した者は、自らの判断で努力することで目的を達成する可能性が高くなり、また成果に対しても責任と誇りを持ちやすくなることから、達成感や自尊心により幸福感が高まることにつながる」ことがわかっています。
つまり、誰かに決められた進路ではなく、自分の進路を自分で決める『自己決定力』こそが、人生においてより大きな幸福度につながっているのです。また、「自分で決めた」という経験を重ねた結果、「自分はできる」という自信に結びつき、自己肯定感も高まります。
「たかが夏休みの宿題。子どもが困らないように手伝ってあげるのは親心」だと考える親御さんも多いはず。しかし、これらの小さな手助けが積み重なった結果、自分のことを自分で決められない人間へと成長してしまうかもしれないのです。お子さんの将来のためにも、先回りして助けたい気持ちをぐっとこらえて、「自分の力でどこまでできるかな?」と信じて見守ってあげましょう。
立派な作品を作る必要はない
そうは言っても、急に子どもの宿題に無関心になることは難しいですよね。 “夏休みの宿題” と保護者の適切な距離感について、専門家の意見をふまえて考えていきましょう。
西脇さんは、「子どもから『協力してほしい』と言われたら、アイデアを出したり少しだけ手伝ったりすると、家族のコミュニケーションにもなる」と、適度に関わっていくことをすすめています。あくまでも「親がすべて主導する」のではなく、ヒントを探しに図書館へ連れていくなど、「きっかけづくり」程度にとどめましょう。
千葉大学教育学部附属小学校の松尾英明先生は、教師としての立場から、夏休みの宿題との付き合い方についてアドバイスしています。松尾先生によると、夏休みの宿題においてもっとも大切なことは、「最低限必要な課題をすべて提出すること」だそう。
松尾先生は「多くの保護者は、きちんとした作品やすばらしい作品を提出しなければならない、と勘違いしている」と指摘します。しかし重要なのは、ほめられるような作品を仕上げることではありません。夏休みの宿題の狙いの中心は、「望ましい生活習慣の形成」。つまり、ダラダラせずに規則正しく過ごしてもらうために、それなりに負荷のある宿題を出しているというわけです。
松尾先生によると、ズルをして一気に仕上げることができないように、「植物の観察日記」や「毎日のひとこと日記」などが用意されているそう。怠けることができないように、計画的かつ継続的にこつこつ取り組む課題こそが、学校側が生徒にやってほしい「夏休みの宿題」なのです。
それにプラスして、「夏休みならではの活動」をしてほしいという学校側の狙いから、工作や自由研究などが出されます。ですから、「見栄えのするもの」「立派なもの」「高く評価されるもの」を子どもにつくらせたり調べさせたりするのは、親自身の「わが子を評価してほしい」という願望がもたらす思い込みによるものだと言えるでしょう。
大事なのは、子どもが「自分の力でやりきった!」という達成感がもてるようなサポートをしてあげること。松尾先生は、「子ども自身に『ズルしちゃったなぁ』というマイナスの自覚が出る要因は、極力減らすようにして」とアドバイスしています。
遠くの場所や子どもだけでは危険な場所へ連れて行ったり、注意が必要な道具を使ったりするときは、大人の助けも必要です。手を貸してあげるべきところと、子どもの自主性に任せるところをしっかりと見極めることを心がけましょう。
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「今年もまた手伝っちゃった……」と後悔している親御さんも少なくないと思いますが、来年からはお子さんの力を信じて見守ってあげましょう。「お母さん・お父さんから信用されている」という自覚が芽生えた子どもは自己肯定感が高まり、ぐんぐん力を伸ばしていきますよ。
(参考)
リセマム|夏休みの宿題、6割の親が手伝う…その後の自主性に影響
株式会社イオレ|『夏休みの宿題に関するアンケート調査』
現代ビジネス|「夏休みの宿題を全部やってあげる親」が子どもの思考を止めていた
国立大学法人 神戸大学|所得や学歴より「自己決定」が幸福度を上げる 2万人を調査
プレジデント・オンライン|夏休み宿題代行いらず!子どもが先生に褒められる「親の手伝い方」【自由研究・ドリル編】