芸術にふれる/アート 2019.11.23

自分なりの絵が描けなくなる!? 「ぬりえ」のメリットとデメリット、教えます。

自分なりの絵が描けなくなる!? 「ぬりえ」のメリットとデメリット、教えます。

色鉛筆やクレヨン、ペンなどを使って、好きなように色を塗っていく「ぬり絵」は、子どもに人気のある遊びのひとつです。ぬり絵にはさまざまなメリットがありますが、じつはデメリットもあります。

今回は、ぬり絵のメリット・デメリットや、実際にぬり絵を行なう際の注意点について紹介していきましょう。

ぬり絵のメリット

保育士として15年以上、福祉施設、託児所、保育園などでの保育業務に携わっている市川由美子氏によると、ぬり絵には以下のようなメリットがあるそうです。

  • 想像力や認知力、自己表現力の発達が促される
  • 指先を使うことによって、腕・手のコントロールや文字を書くことの訓練になる
  • さまざまな色を使うことで色彩感覚が養われる

 
想像力認知力色彩感覚といった脳やメンタル面の成長のみならず、手指のコントロールといったフィジカル面の成長促進も期待できるぬり絵。ぜひ、家庭でも積極的に取り入れたい遊びのひとつですね。

また、自律神経研究の第一人者として知られ、ぬり絵に関する著書を多数持つ順天堂大学の医学部教授・小林弘幸氏によると、ぬり絵は自律神経の乱れを整えたり、イライラや不安を解消したりする効果も期待できるそう。子どもと一緒にぬり絵をすれば、保護者にも健康面やメンタル面におけるメリットがあるといえるでしょう。

「ぬりえ」のメリットとデメリット2

子どもの知的好奇心を育てる3つのポイント
PR

じつはぬり絵にはデメリットも!?

さまざまなメリットがあるぬり絵ですが、じつはデメリットもあるのだそう。

南九州大学の人間発達学部子ども教育学科・美術教育研究室の古賀隆一氏によると、ぬり絵は子ども自身が創造した絵ではなく、大人の作った概念やパターンを形式的に塗りつぶす作業であるとのこと。そのため、ぬり絵ばかりしていると、子どもが自分なりの絵を描けなくなったり、自発的に何かを生み出していこうとする習慣をなくしたりする事態につながる可能性があるそうです。

また、古賀氏はぬり絵に慣れてしまうことで、完成された絵や印刷された絵といった見本がないと絵が描けなくなり、学校の図工の授業などで友だちの絵をまねする子どもになるリスクもあるといいます。

「ぬりえ」のメリットとデメリット3

子どもがぬり絵をする際の注意点

デメリットがあるぬり絵ですが、以下のようないくつかの注意点を守ることで、リスクを抑えることができます。

なぐり書きをさせる

1歳半~2歳半前後は、クレヨンなどで紙をなぐるように点や線を書く「なぐり書き」の時期です。前出の古賀氏いわく、なぐり書きを十分に行なわず、形の整った絵を描くように教えると、子どもが自分の絵を描けなくなる可能性があるそう。まずは、子どもには十分になぐり書きをさせて、描くことの楽しさを実感させましょう。

子どものぬり方を否定しない

子どものぬり絵は、大人にとってはありえないような色使いであったり、枠から大きくはみ出していたりするもの。つい「お空は黄色じゃなくて青でしょう!」「お顔が緑なんて変じゃない?」「はみ出さないようにキレイに塗ってごらん」などと言ってしまうこともあるかもしれません。しかし、これは子どもの創作意欲や思いを否定することになってしまいます。子どもの好きなように塗らせて、親は見守ることに徹しましょう。

汚れても叱らない

子どもがぬり絵に夢中になるあまり、勢い余ってテーブルまでクレヨンなどで塗ってしまったり、洋服を汚してしまったりすることは珍しくありません。しかし、そんなときに「汚さないで!」と叱るのはNG。それをきっかけに、子どもがぬり絵や絵を描くこと自体を嫌いになってしまうことがあるためです。前出の市川氏は、子どもが思いっきる絵を楽しめるよう、大きな模造紙を用意したり、汚れてもいい服を着せたりするなどの工夫をすることをすすめています。水で消せるカラーペン・クレヨンなどもおすすめだそう。夢中になっている子どもの気持ちに水を差さないよう、保護者はできるかぎり工夫してあげることが大切ですね。

***
ノートルダム清心女子大学の人間生活学部児童学科准教授・小田久美子氏は、子どもがぬり絵をすることについて「外からの新しい概念と自分の中に既存する概念との混じり合いから、さらに新しい概念を再生させる、とても創造的な活動になる」と述べています。注意点を守りながら、親子でぬり絵を楽しみましょう。

文/田口 るい

(参考)
ベネッセ教育情報サイト|子どもと楽しくお絵かきをしよう!メリット&注意点をご紹介
南九州大学 人間発達学部 子ども教育学科|子どもの絵のお話 -自由画について-
小田久美子(2000), “幼児の美術教育と塗り絵との接点,” 日本美術教育学会誌「美術教育」, Vol. 281, pp. 8-14.
BuzzFeed|想像力を刺激、名画に描き足す“自由すぎる”ぬり絵「ヨンブンノサン」
All About|心身の発達と深いかかわりをもつ子どもの絵の発達 子どもの絵の発達の道筋を探る